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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
学祭奔走編
265/518

・五人

・五人


 

 本日は晴天。米神高等学校は学園祭二日目。今日は一般解放で色んな人がやってくる。俺のクラスの出し物は人形劇である。高校二年生にもなって。

 

 内容はペナントレース最下位のチームが、途中から全勝して逆転日本一を果たすという、少年漫画的な、それもギャグ路線な内容なのだ。


 俺は人形制作をやって、当日自由になれる権利を手に入れていたので、あの糞に着色したような閉鎖空間にいなくても、良いのである。


「おはようございまーす」

「あらサチコおはよう」

「午前中に顔を合わせるとイベントって感じするね」

 

 教室を後にして部室に来れば、そこには既に先輩と南の姿。部活に入っている以上、生徒は自分の部活の準備にも、顔を出さないといけないのである。


「おはようございますサチコ先輩」

「おはようございます」

 

 そして栄とアガタ。


「お、すげえ。有史以来初めて全員揃ってる」

「これは惑星直列あるね」

「雪が降るかも知れないわ」

 

 などと軽口を叩き合う。この場にいっぱしの部活動の如く、五人もの女子が勢揃いしているのだ。五人は集団行動の最少単位だ。


 日常系アニメでも戦隊ヒーローでも、最近では五人いないと始められない。


「先輩の髪の毛、本当に短くなっちゃったんですね」

「事故みたいなもんだよ。その内戻るから安心しろ」

「これで黒髪の長髪は私だけになってしまいました」

 

 栄とアガタが珍しいものを見るかのように、俺の頭を見つめる。こいつらがこっちの部活に顔を出すのも久しぶりのような、そうでもないような。


「でもな、まさか五人もこの部に部員がいるなんて」


「折角だから写真撮っておこうか。私たちってたぶんこの先、揃わないと思うし」

 

 そう言って先輩は自分の鞄から、小さな玩具っぽいカメラを取りだした。水色とオレンジの二色。どこで買うんだこんなの。


「悲しいこと言わないでいっちゃん。分かるから余計に悲しいわ」


「でもこういうのって、何かいいですよね。ちょっと憧れるっていうか、リア充って感じしませんか」

 

 アガタが俗っぽいことを言う。分からなくもないが感動が薄れるような気がするから、そういう言い方は止そうな。


「よし、じゃあちゃっちゃと撮ってしまおう。私真ん中だから、適宜並んで頂戴」

 

 先輩が勝手に決めるが、誰も文句は言わなかった。先輩はこの中で一番背が低いので、真ん中において置くくらいが、丁度いいだろうと判断したのだ。


 誰がってたぶん皆が。


 思えば、南と先輩は来年いないから、俺にとっても最後の年なんだな。


「じゃあ高さと距離はこの辺で、はい並んでー」

 

 先輩は慣れた手つきで、タイマーをセットすると、急いで、しかしその辺の展示物や、荷物に躓かないように注意しつつ、戻ってきた。

 

 カメラから見て正面に先輩こと北斎。

 俺がこの世界に戻って来て、初めて話した生徒だ。


 背が低くおかっぱ頭で分厚い眼鏡、並外れた知能と行動力。欲望に正直だが勢力的で、この人に何度助けられたり、問題を起こされたりしたか分からん。

 

 ただの我がまま放題かといえばそんなこともなく、これで結構頼もしい所もある。調子に乗りすぎるのが玉に瑕だけど、下手な人間よりも、遥かに気持ちのいい人だった。


「じゃあ私は右いくわね」

 

 南はカメラから見て右、先輩の左へと移動する。

 亜麻色のゆるふわ系ガール。

 未来から来た凄腕工作員。


 かと思いきや蓋を開ければ、大分がっかりするような世間知らず、だったのも何時のことだったか。

 

 わざわざ未来でスキャンダルを起こしてまで帰って来て、うちで過ごすようになってから、すっかり先輩と同じ色に染まった。


 見た目に反して熱血で、世渡り上手なところを自分からふいにすることも、少なくない。良くも悪くも育ちが良くて、むかつく所はあるが、悪い奴じゃないってことも、もう知ってる。


「じゃあ俺は左だな」

 

 俺か。思えば異世界にいたときは平和に暮らして、身長も160台で、ぶったるんだ体をしていられたんだよな。それがこの世界に戻ったのが、運の尽き。

 

 身長も伸びて体も強靭になって、そんな義理とか付き合いがあったかって疑問なんだけど、一応セカイ系の主人公の真似事をして。


 ミトラスが一緒にいてくれるのは嬉しいけど、彼といるだけの暮らしなら、今の俺は無かっただろう。


「バランスで私は斎の隣ですね」

「顔も普通だからね」

「うるせえよ!」

 

 栄が先輩の茶々入れに噛み付く。中肉中背の一般的ボブカット。今時探してもこんな普通は出て来ない。


 特徴がないのが特徴の栄。外ですれ違っても気付かないけど、ここなら彼女だって分かると言うと、怒られそうだ。

 

 だけど先輩をライバル視して、努力をしてきただけあって、そんじょそこらの生徒より余程デキがいい。


 生活力もあって、なんだかんだで姉想いの妹さんである。そんな綺麗な気持ちだけではないだろうけど、それでもこの姉を、気にしてやれるんだから、大したものだ。


「じゃあ私はここですね」

「おう、丁度いい丁度いい」


「サチコの顔と短くなった髪が、上手い具合にファンさんを引き立てるわね」


「南、あとで髪の毛ちょーだい、全部でいいから」

「嫌に決まってるでしょ、もっと禿げなさい」

 

 このアマ。止そう。今はアガタが大事だ。サラサラの艶やかな黒い長髪、色白で切れ長の眼、いかにもな中華系美少女がやってきたと、最初こそ俺たちは喜び沸き立ったものだ。


 しかしまさかキレると夜叉系女子に変貌するとは。

 

 最近は睡眠も摂っているし、猫(ミトラス)を触らせていることもあってか、かなり大人しくなった。元より感受性に恵まれているのだ。環境を整えて本人を認めつつ愛他心を育ててやれば、アガタはちゃんとした美少女なのである。


「じゃあ行くよータイマー起動!」

 

 先輩がスマホを取り出すと、テレビのリモコンよろしく、液晶画面をポチポチと押した。すると部室反対側の机に置かれたカメラから、ピピって音がする。


 ハイテクー。

 そして電子音によるカウントダウンが始まる。

 5、4、3、2、1。カシィッ!


 わざとらしいシャッター音がしたけど、フラッシュが瞬くようなことはなく。


「念のためもう一回ね」

 

 繰り返しの手順。何故か全員が、自分の顔の調子を確かめ始める。お前らなんなのその妙な本気は。


 自然体でレンズに納まる気はないのか。


「サチコ先輩、私変な顔してませんよね」

「安心しろこの部活の女子は全員俺より顔がいい」

「そんなこと何の慰めにもならないわよ」

 

 南お前後で髪の毛全部ちょーだい。

 毛根まででいいから。


「お、いい感じにいつもの笑顔になってきたね、それではもう一度、ゴー!」

 

 これがいつもの笑顔で写真に残るのか。

 釈然としない。


 というかそう言われると、残したくなくなるので、伏せておいて欲しかった。

 

 先輩は列を離れてカメラを回収した。皆でぞろぞろとその後を追う。


「撮れてる撮れてる。あとで現像して皆に送るよ」

「うん、綺麗に撮れてるじゃない」

「撮れてますよね」

「うん撮れてる」

 

 やめろオウムになるんじゃない。


「さ、これで思い残すことはないな。それじゃあ今日の日程を説明するよ」


「順序とか言い方がおかしい気もするけど、どうぞ」


「今日することは昨日と同じ。人が来たら部室を案内する。何の活動をしているか聞かれたら答える。当番は交代性だから、自分の時間が来たらちゃんと詰めておくこと」

 

 部室というよりも、まるで交番勤務みたいなことを言い出すが、それも愛同研の持ち味ということにしておこう。


「それと今回の留意事項なんだけど、昨日あったようにOBが学校に来るらしい」


「そのOBが山菜採りで、収穫したキノコを持ってくるという事前情報がありました」


 先輩の言葉を南が付けたし、それを聞いた後輩二人の表情が強張る。


「なのでOBかあまり見かけないキノコを見たら俺に一報すること、以上」


「先輩方って時々息ぴったりですよね」

 

 アガタがトリオ芸人を見るような目をして、失礼なことを言ってくる。狙ってやっている訳ではない。


「いいかアガタ、否応無く修羅場に放り込まれてそれを乗り越える経験を共有するとな、好むと好まざるとに関わらずこうなるんだ。友だちは選べと教えられるのは、そこしか選択の余地がないからなんだ」


「好きでやってる訳じゃなかったんですね」


 当然だ。嫌でもないけど。


「悲しいけど習性みたいなものが、いつの間にか身に付いてたのよね」


「これが共同体で生活するってことだぞ栄」

 

 ああ、後輩たちの胡乱なものを見るような眼差しが痛い。

 

「まあそんな話はどうだっていいんだ。今日は折角の学園祭なんだから、極力楽しく、ついでに安全に過ごしてね。これが部長から通達です。いいかな」

 

『はい』

 

「よろしい、では解散!」

 

 先輩が軽く手を叩き俺たちは部室を出た。そのとき丁度、文化祭二日目の開催を知らせるチャイムが鳴り響き、各教室から生徒たちが一斉に吐き出される。

 

「それで、どうするのサチコ、一緒に回る」

「たまにはいいかもな」


「おっけ。それじゃ連盟してくれてる部に、顔出しに行こう」

 

 まるで傘下の会社を除きにくるグループ企業の会長みたいなことを言い出す先輩。


 ああ、これが最初で最後の、俺たちの学園祭って、ことになるのか。止そう。わざわざそんな大仰にするようなことでもあるまい。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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