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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
学祭奔走編
263/518

・レベルアップは実戦に限る

新章開始です。

今回長めです。

・レベルアップは実戦に限る



 十一月。早いもので来月には、十二月で一年も終わりだ。たぶん来月も似たようなことを、言っているに違いない。我が家にシーズンそんな関係ないけど。


 俺も制服は冬服に着替えて、セーターを着用するようになった。タイツは穿かない。


 何故って温かい代わりに、尿意や便意の類を催した際に、脱ぐのに手間取るからだ。


 これは経験のある人間なら分かるんだが、薄着だと確かにお腹は下すしトイレも近くなる。


 しかし直ぐ脱げることのは大きなアドバンテージであり、緊急を要する状況に陥るとタイツはデッドウェイト、即ち足手まといとなるのである。


 現実問題として、いざという時が近付いたら、自動的に下の穴に栓を詰められるような安全装置は、未だこの世に存在しない。


 であるならば、トイレに行くペースは落ちるが脱ぎ難いのがいいか、トイレの頻度は増すものの引っかからずに脱げるのがいいか。


 これは個人の好き好きだけど、俺はスピード型じゃないからこそ、身軽であることを重視している。


 どうでもいいな。どうして俺は自分が頑なにタイツを穿かないことを、モノローグで、しかもこんな説明口調で、自分に言い訳しているんだろう。


「サチコ、寒いならタイツ穿いたら」

「ヤダ」


「え、でも」

「レベルアップしようぜ」


 いいんだ俺は。俺はいいんだ。よし。じゃあ夜も遅いし、さっさとレベルを上げよう。テレビのリモコンを操作して、テレビの画面切り替えてっと。


「肉体か、俺の肉体ってあとどのくらい強くなれば、魔物と素で戦えるようになるんだろう」


「え、戦いたいの」


「いや、全然。でも今年は何かと揉め事ばかりの一年だったからさ、お金と同じくらい、力も蓄えておいたほうがいいかなあって。本当は嫌なんだよ。でもこう何回も色々あるとさ」


 元の運勢が良くないんだろうな。毎月何がしかの面倒事が発生しているし、荒事に至っては隔月ペースで起こっている。


 先輩の妹こと栄の心配をしていた六、七月が今年度では一番平和。今年にすると三月が一番平和だった。


「君も中々人生に、折り合いを付けられるようになってきたね」


「誰のせいだと思ってるんだよ」


 ミトラスは無言で俺の目を見つめた。


「さ、じゃあ肉体のタブだな」

「あ、逃げた!」


『耐震設計』:転倒時等における全身への振動による負荷を軽減するよう肉体に変化が起きます。衝撃に弱くなるので『耐衝撃構造』と併せて取得することが望ましいです。


『耐衝撃構造』:体表がやや柔軟になり衝撃の浸透拡散を軽減するよう肉体に変化が起きます。振動に弱くなるので『耐震設計』と併せて取得することが望ましいです。


 両方取得。成長点は合計3,000点。


「どういう変化なんだろうかこれは」


「体全体の弾力が増して、軟骨の部分も揺れに強くなるような変質を、したんじゃないかな」


「片方伸ばして片方落ちる。両方取るとプラマイゼロかな」


「2足して1減る場合なら両方に2を足して1ずつ減る訳だから、結果として1ずつ増えるって感じじゃない。それがどの程度の効果を齎すかは、分からないけど」


 特化させたほうが強いというのは生物あるあるで、世界中にはどうしてそんな生態系してるのっていう、動植物がいっぱいいる。


 言い換えれば特化すると、自分もそうなっていくということである。俺はサボテンやウミウシは嫌いじゃないけど、自分がなりたいとは思わない。


「しかしこのパネルって前は無かったような」


「実戦で君が痛い目に遭ったことで、体が必要を感じて閃いたんだろうね」


 閃いたんならどうすればいいのか頭に浮かべろよ。ていうか即座に適用されろよ。こんな控えめにしかも有料でやるなよ。自分のことだぞ。


「となると今回の件で、新しく出現したパネルが他にもありそうだな」


「忘れないうちに取っておくのがいいと思うよ」


 そうだな。夏のときみたいに、今一つお得かどうか分からないものも、あるかも知れないが。


 損してる訳じゃないからいいけど。

 で、魔法のタブ。


『得意魔法』:自分が習得している魔法系技能の中から術を指定して強化することができます。三つまで。この指定は指定し直すことができます。


「どうやって」

「たぶんこの画面からじゃないかな」


 言い換えれば、ここ以外じゃできないってことは、ほぼずっとそのままってことだな。とりあえず取得。


 かかる費用は3,000点。毎日飲んでる白いサプリの効果様様だ。俺と血となり肉となってくれてありがとう犠牲者たち。


 割と真面目な話、今日までのドーピングがあったから先日の結果があった訳で、それを踏まえると、俺としては最早このレベルアップを、否定することはできない。するつもりもないが。


「お、空白のパネルが出て、それを選ぶと、お、今俺が覚えてる魔法単品から術系統までが出るな。この中から更に選ぶんだな。どれどれ」


『闇魔法レベル4』:術のレベルが5に上昇します。


「え!?」


 ミトラスが驚愕の声を上げる。選択した項目に対して現れた説明なんだけど、確か魔法のレベル5って、ボス格が到達するくらいのやつ。


 他の系統も、同じようにレベルがあがるな。そんなポンと上がっていいものなのか。


「レベル5ってどんなことができるの」


「僕とサチウスくらい力の差が無ければ、だいたいの相手に通じる魔法が使えるようになる」


 そいつは凄い。凄いが欲しいかと言われると微妙。元々魔法、というか不思議パワー自体を、日常でそこまで使ってないし。


『ヒール』:より深い傷を癒すことができます。


 簡潔。術そのものは効力が増すんだな。これは悩ましい。とりあえず手持ちの系統やら魔法やらを調べてみよう。


 ――その結果。


「よし、では今日から得意魔法ということになった、魔法を三つ発表する」


「わー!」


 合いの手を入れてくれるミトラス。ありがとう。


「では先ず一つ目だが、これは急々慮律令にした」


『急々如律令』:得意魔法として登録すると触媒としてのお札が不要になります。


「これだろう。発動の度に、一々お札を用意しないと使えず、しかも使い捨て。呪文もソワカより長いと、強いはずだけど使い勝手が悪い。しかしお札要らずとなれば取り回しは大分良くなるはず」


「確かにね、サチウスそんなに字上手じゃないし」


「この時代で毛筆のほうが上手い奴は少数派だぞ。で、次がこれ」


『ソワカ』:術を強化した際に強化された術の魔力消費が『元の術+ソワカ分』となります。


「これって凄いの」


「お前みたいなのには分からないだろうけどな、魔法は沢山使うと、息切れ起こすんだよ。現に俺はこの前起こした。そしてこの説明から察するに、以前はこうじゃなかったらしい」


 例えるなら全体回復魔法があったとして、その二倍魔力を消費するのが、全体完全回復魔法の魔力消費の最安値だったとしよう。


 これまでのソワカは使うと、元の魔法と合わせて二倍ほどの消費ではないけど、それに近い値を消費するというものだったみたいだ。


 より具体的にいうと『本来の80~90%くらいで使える』だったのが『ベースとなる魔法+ソワカ』になるのである。


 これは次のステップの消費が少ないほど、得られる恩恵が少なく、逆に次の段階の消費がスゲーほどヤバクなるのである。


 ゲーム的な説明をするならMP消費10の魔法の次が20なら、ソワカの消費が11以上だった場合、合計21でもう赤字になり、メリットは何も無い。


 いや、次の魔法が使えないレベルなら、それでも意味はあるが、使えるなら素直に、上位の魔法を使ったほうがいい。


 しかしこれが消費18でその次が62とかいう戯けたものだったとしたら?


 足して最低29、二回使える。それも本来なら消費62の魔法を覚えないレベル帯で。これは安心感が凄く凄い。


「戦うときは基本的に、何がしかのブーストをかけるもんだからな。消費が少なければ少ないだけいい」


 悲しいかな魔法の特技が充実しても俺のMPは体力ほどではない。数値で表すと心が狭いとか貧しいのが分かるのである。


 或いはかしこさが、いやこれ以上は止そう。


「それで最後がこれ。カルス」


『カルス』:食用になります。また術の強化を受け付けるようになります。


「実はこいつって強化できなかったんだな」


「でも強化するとどうなるんだろう。あのカサブタみたいな葉っぱが生い茂るのかな」


 治療の速度が上がったりとか、そんくらいじゃないかな。それにしても気になる。


「食べられるってことは、取り置きができるってことなのか」


「え、食べるの」

「だって食べられるってあるぜ」


 俺はミトラスが奥歯を噛んで、抗議の視線を送ってくるのを初めて見た。そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか。毒になる訳じゃないんだし。


「知能いこ」

「あ、うん」


 露骨に機嫌を損ねている。


 そりゃ『草の魔法がパワーアップしたから、その草食えますよ』って言われて、食おうかって言い出す奴は中々いないだろうしな。


 しかし気になる。


『彼我戦力差把握』:自分と相手の力の差がある程度まで分かるようになります。


 取得。お代金は3,000点也。


「別に何も変わらんな」

「それだけ力の差があるってことでしょ」


「ある程度を超えるとそうなるんだな。良かったような良くないような」


 力の差かあ。


 一応このテレビの画面を切り替えても、先輩や南のステだけは何となく分かる。しかしそれがどのくらいなのか、実感が分かるのか。


 俺より優れてる奴とそうでない奴が分かるのって、なんか期待しちゃう。


「で、最後に特技だけど」

「うん、新しくは出てるのはこれだな」


『受け身』:体が地面から離れている状態、高所からの落下時、転倒時、衝突による吹き飛びなどに対して体が防御の姿勢を取るようになります。


「これまでも何度か痛い目に遭ったが、思い切り無防備な状態でやられたのは、この前が初めてだったな。流石に体がこれはいかんと思ったんだろうな」


「自動で取得じゃないのが釈然としないね」


 やっぱりお前もそう思う? 危険に対して『これはどうだろう』っていう提案なんだよな。


 聞かないでいいから実行しろよって思うよな。


 そしてフリーは貯蓄で12,000に復帰。

 何処かでばーっと吐き出したい。


「こんなもんか」

「勢力絶倫は取らないの」

「来月な」


 ミトラスは小声で「うん」と言って黙った。沈黙が場を支配する。何だか俺もちょっと恥ずかしくなってくる。中々羞恥心って消えないものだ。


 今年こそは平和で幸せなクリスマスを過ごす。

 過ごしたい。


「さ、もう寝ようか」

「そうだな。今月も予定入ってるしな」


 予定、そう、今月も問題が起きることは、分かっているのだ。


 以前見たオカルト部部長のスケッチブックには確かにそのことが描かれていた。


 ああ〜考えたくねえなぁ〜!

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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