・頭脳派ではない由縁
・頭脳派ではない由縁
翌日。朝一で給食センターに運び込まれた、小学生用の給食を、食べることになった我々は高校生。
美味くもないそれは米と味噌汁の量『だけは』増量されており、栄養バランスを欠いている。
昨夜の食事に比べればまだマシだが、もう皆して元気が無い。被災地で元気だと不謹慎だから、無理矢理落ち込ませようという、目論見が見えるようだ。
なんだ、俺たちは気違いか何かか。瀉血して黙らせようってのか。ここはべドラムか何かか。
いかに俺たちが、擦れっ枯らしの現代人とはいえ、そこまで大金を持ってきている訳ではない。そうそう何度も出前は頼めないのだ。
こんなことばかり世代を跨いで繰り返すから、子どもを欲しがらない男女や、学校に行かせなくてもいいという家庭が増えるんだ。
俺を巻き込まない限りにおいては、どんどんやって欲しいが、俺を巻き込まないで欲しい。
食後は昼まで小学生たちとの、交流を深めるためのレクリエーション。代表生徒同士が原稿を読んで中学生の授業をする。
そして次にやるのは地元の町内会がやる、お祭りの設営だ。
明日俺たちが帰るのと入れ替わりに、ご町内の皆様がやってきて、ささやかなお祭りをするそうだ。高齢化と人手不足で設営がしんどいのだろう。
止めればいいだろ。
これらのことが終わり、昼に『炊き出し体験』と銘打たれた、これまた貧相な食事と休みを間に挟んで、ようやく俺たちは学校を出た。
校舎から少し歩いた停留所に、来ていたバスに乗り込んで、目的地へと到着したのは午後二時。ここから五時までの三時間を、杉田の捜索に充てなくてはならない。
「ええ、ではしおりにあるように、午後からはバスに乗り移動します。そこからは班毎に分かれて自由行動としますので、避難所の見学に行き、現地の方々からお話を聞いたり、街中の様子を見たりしてください。決して遠くへ行き過ぎないように、時間を厳守して、集合時間に遅れないよう行動をしてください」
自由行動とは言っているが、この後の宿題の感想文を書かされることは明白であり、そのためのネタ集めをしてこいということだ。
ちなみに班といえば、俺の所の組み分けは、俺の他に四名の計五名。しかし口も利いたことのない無関係な四名を、俺の探索に付き合わせることはできない。邪魔。
集団行動ができないと取られかねないが、ここは日本だ。他人を害する以外では、それが役に立つ場面は無い。
元より俺の内申は、下がっても困るものではない。内申で留年はしないからだ。
ことこういう場面で自分を助けるのは、やはり個人の力である。出席日数とテストの点数が足りていないと留年や退学になってしまうが、友だちがいなくても内申が低くてもそうはならない。
いじめだって彼らを上回る暴力で一人ずつ追い出していけば、最後に残ったのは俺だ。
学校における集団、組織は人に危害を加えて追い出すためにしか使われない。攻撃は最大の防御を体現するが、防御で身を守らないといけない場合には、滅法弱いのだ。
目には目、歯には歯と対立を可視化されることを、極端に嫌がる。こういう環境に慣れ親しんでいる一般の人間は、今回のような、人助けの役には立たない。
矢面に立たない人間が、誰かを助けに行くことはできない。そもそも何かに付けて、役に立つ人間性というものを、持ってないのだが。
まあそんな訳で、俺は邪魔なクラスメートとは特に話もせず、別行動をする。
バスを降りた場所は、県の中央から一歩踏み込んだT市の、市役所敷地内にある駐車場。ぞろぞろと降り立った我々、米神高等学校生徒一同は、担任から再度の注意喚起の後、野に放たれた。
「いいかー、あまり遠くに行って迷わないように! 役所の方々も市境に待機して、お前たちが何処かへ行かないよう見ててくれるが、くれぐれも興味本位で、避難区域内まで行かないように!」
などど担任が声を張り上げるものの、役所には人がほとんどいないので、あまり意味が無い。こういうのは部外者にも、それとなく周知する狙いがあるのだ。
そしていざ外に出て見れば、別の県に来たという、実感の湧かない町並みが広がっていた。
それはそうだろう。この辺は被害出てないし、建物だって同じ国内の、同じ時代のものだし。
ただ上手く言えないが、道路を見ていると『奥側』へ行く人も来る人もない。
その手前だけは日常的なんだ。動きが画面の手前側にしかない映像とでも言おうか。
「サチコさん」
後ろからの声に振り向くと、そこにはオカルト部の部長と東条がいた。
「いよいよですね」
「お前んとこ人多いな」
「軍事部の二年生です。助力を頼みました」
見れば彼の後ろには三名の男女がいる。全員が制服の上から灰色のベストを身に付け、全身には何がしかの装備があった。彼らは私語一つなく、姿勢を正して立っている。
「四人一小隊。一番早く調べ終わりそうだな」
「はい、ご期待ください」
東条が自信に満ちた笑みを浮かべる。
うむ、若大将って感じだ。
こいつ年寄りから人気そうだな。
「それで振り分けはどうするの」
「地図上を見てこのまま東に真っ直ぐが俺、北側が東条の班。行ける範囲が狭いから、最初に捜索が済むはずだ。当たれば御の字、駄目でも直ぐこっちに合流できる」
そう言うと東条は頷いて地図を確認すると、背後の部員たちもまた、しおりを手に持って頷く。
「私は南側ってことでいいのね」
「そうなる。一人で大変だろうが近場だし、他の生徒たちも、そこに集まるだろう。身内の人込みの中なら滅多なことには、ならないと思う」
しかし山越えをしなくても良いとはいえ、目と鼻の先過ぎてちょっと不安だ。
近付き過ぎじゃないだろうか。どの道自分たちから寄っていかなくちゃいけないとはいえ、ぐっと押し込まれると怖い。
要は俺たちの行き先は、地図上でT市の右端の上中下だ。行きたくねえなあ。恐らく避難区域ギリギリの所にいるか、最悪の場合ちょっと食い込んでいるかも知れない。
そうなると役所の方々が見張っていて、入れない可能性もあるな。
そのときはまた考えないといかん。
「もう一度確認するが、俺たちの最初の目標は杉田という名前の人物を探し出すことだ。先ずそれを達成することを念頭に置いとこう。それと、ちゃんと武器や防具は持ったな。有事の際には直ぐに逃げるんだぞ」
軍事部はいわずもがな。俺は自分の刀を示した。
蓮乗寺は、まあ聞かなくてもいいか。全員の持ち物を列挙するとこんなふうになる。
軍事部:制服の上にコンクリート色のベスト、拳銃型エアガンと癇癪玉(共通)、発煙筒とライター、救急キットと金槌、そして携帯電話。
俺:刀とパワーアシストピッチリスーツ(ださい冬服の下に着込んでいる)。せめて上はジャージに着替えておけば良かった。寝巻きとして着ていたジャージを律儀に着替えてしまったが、別にジャージのままでも良かったのだ。
蓮乗寺:てぶら。たぶんこいつが一番強いんだろうなあ。
「あ、そうだサチコさんこれ」
「なんだこれ、スマホ」
「爺やの奴。ロックかかってるけど電話には出られるから」
ほほう。これがスマホ。ピンク色だな。ピンク色の天狗の爺さんのスマホ!
「なるほど、電話に出るだけなら俺でも使えるな」
「言ってて悲しく鳴りませんか」
うるせえよ馬鹿。悲しいに決まってるだろ。
「番号は……だから、皆サチコさんに連絡するときはこれにかけてね」
「待てよ、俺は電話に出られるけど、ロック解除しないと俺のほうから皆に電話をかけられないんじゃないか」
割とまともなことを、言ったつもりだったのだが、何故か蓮乗寺は小首を傾げ、こちらを見上げてきた。このチンピラみたいな仕草が、大っ嫌いなんで止めて欲しい。
「私たちが空振りで、あなたに電話をするのは、いいわよね」
「おう」
「私たちが当たりで、あなたに電話をするのもいいわよね」
「おう」
「あなたのほうが当たりだと分かった場合、あなたから電話がないと、私たちは困るわよね」
「おう」
「でも現実的に考えて、一番調べるのに時間が掛かるのはあなたの方面よね」
「そう、だな」
「あなたのほうが当たりだって分かったときは、私たちから電話して、合流してると思うの」
「そう、かな」
そう言われるとそんな気がしてくる。
「だからあなたは電話に出られるだけでいいのよ」
「そうか」
なるほどちゃんと理に適ってる。俺だけ不公平を感じた気がしたが気のせいだったか。緊張して神経質になっているのかも知れない。
「さ、それじゃあもう出ましょう。いつまでもここで話してはいられないわ」
「未だに眉唾ですが、やるだけやってみます」
「よし、行くか」
俺たちは気持ちを固めると役所を出て歩き出した。待ってろよ転生者予備軍。今回もきっと面倒臭い奴が相手なんだろうけど、今回はこっちも数が多いんだ。
俺一人で四苦八苦するようなことはあるまい。そう考えれば、内心の不安は幾らか和らいでいく。
数が増えると気が大きくなる、その理由が今なら何となく分かる。
でも、数の力って相手のほうが多いと、その時点でだいぶ無力化されちゃうんだよな。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




