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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
肝試し編2
217/518

・地下へ

今回長めです。

・地下へ


 ※このお話は海さん視点でお送りします。


 海です。地下へと続く梯子から、北さんの悲鳴が聞こえて、私たちは顔を見合わせました。


 荷物を一箇所に集め、その中から使えそうな物を取り出し、突入する準備を整えます。


「明かりは二本ずつあればいいかしら」


「この時のために持って来たんでしょうし、どんどん使っちゃいましょ」


 北さんの鞄やリュックには、どうやってこれだけの物を詰め込んだのかという程色々な物が入っていて、それこそ今すぐ映画のように、ゾンビに襲われても何とかなりそうなくらいでした。


「マグネシウムのリボンとマッチと、ダクトテープは持っていくべきかしら」


「持てる限りは持って行こう」


 他にもロープ、接着剤、軍手、消毒薬、包帯、コンドーム、風邪薬、うがい薬、ボイスレコーダー、マイクに蝋燭、あと。


「この組み立て式っぽい板と輪っかは何かしら」


 私たちは悠長にそれを組み立てました。急がなくてはいけません、が無駄足だった場合次は私たちです。


 北さんの身に何かあった以上、最優先すべきは彼女の救助ではなく、私たちの安全の確保なのです。


 板は内側が鏡張りで並べると筒状になり、輪っかは◎のように二重になっているものが二つ、外と中の輪は無数の小さなバネで繋がっています。


 中心は何か差し込める穴になっています。


(がん)(どう)だな。強盗提灯ともいう。小型化してあるし、こっちの使い捨てのLEDと合わせて使うんだろう」


 そう言ってサチコさんが見せてくれたのは、大きさに似合わずキツイ銀色の光を放つ、小っちゃな明かりでした。


 ミニチュアのハンバーガーみたいな形をしたそれは底のスイッチを押すと、それぞれの色に光り始めて、さっきの板で作った筒に、すっぽり収まりました。


 これが二組ほどあります。


「手持ちのライトがあるのにこれ意味あるのかしら」


「松明代わりだろう。それだって手持ちのライトを、テープで壁に貼ればいいが、できることなら手放したくないしな」


 サチコさんの説明に私と南さんは頷きました。この人って他人の変な所とばっかり通じ合ってるのよね。


 私とはどうなんだろう。


 仮にそういうのが有ったら、それってたぶん私の変な所って意味なのよね、知りたいような知りたくないような。


「念のため武器が必要だな。南、銃は」


「あるけど、実包の数が心許無いの。合計で二十発もないし、散弾なんか五発しかないわ」


 十二発がゴム弾だそうです。

 単発の銃弾が三発。

 幽霊相手でなければ充分おっかないです。


「そうか。じゃあ俺の武器を渡しておこう。接近戦用で悪いが」


「どうせ石でしょ」

「まあ素手よりはいいけど」


 サチコさんは一度離れると、昼間自分が座っていた受付まで、歩いて行きました。


 足元を何やらごそごそしてから、彼女はそれを持ってきました。ここだけ見ると、とても一般人には見えません。


「ほら石斧だ」

「え、なんて」


「石斧」

「いつの」


「こんなこともあろうかと」


 どうやら年代物ではなさそうです。良かった。

 良かった?

 え、こんなの持ち歩いてたの。やだこわい。


「あんたこんなの持って電車乗ってたの」


「安心しろ。その辺で拾った棒切れに持ち歩いてる石を俺の髪の毛で結わえただけだ。今そこで」


「即席じゃないの!」


 ごそごそしてたのは髪の毛を抜いたり縛ったりしてたからみたいです。だから何なんでしょう。


 一つも恐怖を払拭できていません。雷が近くて建物が揺れますが、あたかも天がツッコミを入れているかのようです。DIYにも限度がありますがこれは下限のほうです。


「さ、海さんはこれを持って」

「え、いや、刀じゃないの」

「海さん剣道やってましたっけ」

「いいえ」


「じゃあ危ないから駄目ですね」

「一応聞くけど私には無いの」


「お前には銃があるだろ。この中でそれが使えるのはお前だけだし、手も塞がるしな」


 普通に言い返されて沈黙する南さん。


「そろそろ行くか」

「なんか納得行かないわ」


 こうして更に準備に時間を費やした後、私たちの持ち物配分が決まり、北さんの元へ向かったのでした。


 で。

 

「いっちゃん大丈夫!?」

「全然大丈夫だぜみなみーん!」


 結果的に北さんとみーちゃんは無事でした。ただ、幾らなんでも一人はしんどかったのか、北さんの顔色は優れず汗まみれで、タオルを渡した際に、触れた体はとても冷たくなっていました。


「なるほど、栄から連絡が」


「この先発見したもの次第によっては、見て見ぬふりをしたほうが良さそうね」


 再び合流を済ませると、北さんから横穴、通風孔内の様子と、妹さんから受け取った犯罪や、陰謀の臭いのする新情報を共有してしまいました。


 こういうことを聞いてしまうと、政治屋にしろテロリストにしろ、国を脅かすという点では、根っこは似たようなものだなと、思ってしまいますね。


「何も今すぐ犯罪の尻尾を掴める訳じゃないし、掴むつもりもないよ」


 北さんはそう言いながら足元の、地下へと通じる蓋に手をかけました。


 相当固いのか、サチコさんに手伝ってもらってやっとのことで、開きました。


「サチコお願い。海さんロープを」

「あ、はい、これね」

「じゃ、行ってくる」


 サチコさんはロープを持って下へと降りました。初めは下半身をゆっくりと、そして足が着かないと見るとそのまま合図をし、私たち三人はしっかりとロープを握ります。


 彼女の残った上半身が、通風孔の床から、少しずつ消えて行きます。


 サチコさんの姿が消えた直後に、ロープが重くなりましたが、それもまた直ぐ消えました。どうやら無事地下一階へと、降り立つことに成功したみたいです。


「どうサチコ」


「真っ暗だ。明かりが先まで届かない。先に龕灯を寄越してくれ」


 私たちは言われるがままに、先ほどの照明器具を下ろすと、サチコさんはそれらを受け取って、手際よく組み立てて設置します。


 真っ暗な地下の一画に、何時以来になるのか分からない光が灯ります。


 そして残りの荷物を先に渡してから、北さん、私、南さんの順で降ります。


「いよいよって感じね」

「先ずは光源を置いていこう」


 南さんと北さんの声が反響します。籠っていた地下の空気は、埃アレルギーの人がいたら、一時間で喉が大変なことになりそうな重さと汚さです。


「ここが侵入と帰還のポイントである以上、先ずここに一つとしてだな」


「もう一つは何処に置くの」


「ここが通路の真ん中みたいだから、取り敢えず端を探してみよう」


「そこで一番遠い所にもう一つ置くのね」


 端と端が光っていれば、それだけでもかなりの目印です。廊下の先と後には必ず電灯付けますし。


「途中にもできれば目印くらい欲しいね」

「そうすると予備のライトを使うしかないけど」

「絶対嫌よ」


 三人は喋りながら進みます。犯罪者が潜んでいるなら音を立ててはいけませんが、幽霊が出るなら音を絶やしてはいけません。


「あ、それならこれはどうかな」

「お、海さん何かあるのかい」


 私は自分の荷物から、手帳や携帯電話を飾るための蛍光シールを取り出しました。


 普段から持っているちょっとしたもので、星や月のマークが幾つも付いています。


「そこまで明るくならないけど、どうかな」

「ありがとう、早速使わせてもらうよ!」


 北さんが屈託のない笑顔で、受け取ってくれます。ここだけ見ると悪い子ではないんですけど。


「それで、ここからどう動くべきかしら」


「決まってるよ。先ずは動いて通路内の地図を書く。それから部屋の中へ踏み込むんだ」


「了解」


 そこからの私たちの動きは手早いものでした。


 北さんが画用紙とペンを握り、通路の端へ辿り着いては引き返し、また別の通路を歩いては、同じことを繰り返しました。


 かつて真っ白だった傷んだ壁、床材の剥がれた冷たいコンクリートの地面、どこから来るのか、時折肌に触れる冷たい風など。


 恐怖を煽る要素は多々あったのですが、むしろ時間を掛けるのは危ないという意識が、私たちの作業を迅速なものにしていました。


「想像以上に広いな」


「上の旅館みたいに、細々とした部屋割りしてないせいかしら」


「全体的に空間を大きく使ってるね」


 この地下だけ病院のような印象を受けます。まるでここだけ切り取って付け加えたような、上や周りの景色に対して、いきなりの変わりようです。


 調べた結果、地下は文字に例えると『而』を引っくり返したような形です。一番上の横線が、私たちが出てきた通風孔に繋がる通路。


 右側がすぐに行き止まりなのですが、変に塗り込めたみたいに、急な壁になっています。誰の目にもその先があることを窺わせる、あからさまな壁が。


 そして左端へ行くと、ナースステーション、というか詰所のような部屋がありました。


 中央の入り口めいた線を越えると、また四つに分かれた通路が広がっています。


 案の定、通路の左右には部屋があったのですが、まだ入っていません。それぞれの部屋の壁に蛍光シールを貼っただけです。


 もう一つの龕灯? という奴は四つ又の中央に設置ということに。


 そして部屋を検める前に、準備をだいたい終えた私たちは、小休止を挟むことにしました。


「ねえサチコさん」

「なんすか海さん」


 地下にあったトイレは、幸か不幸か水が流れていたので、皆で順番に使っています。私は順番待ちをしている間に、サチコさんに昼間の玄関で見たこと伝えました。


「南さんたちの話だと、ここから出たいっていう幽霊がいるのは分かるんだけど、どうもそれだけじゃないような感じがして、とても気になって」


「ここに入ろうとする幽霊がいるってことですか」


 サチコさんの言葉に私は頷いた。歴史が変わる前も後もここでは人を閉じ込めていた。


 でもそれなら、ここに入ろうとしていたあの『手』は何だったんだろう。


「何か、見落としがあるんじゃないかって思って」

「ふうむ」


 そう伝えると、サチコさんは何やら腕を組んで考え込んでしまいました。自分でも言ってておかしいなとは思うんだけど。


『ここから出してくれ』っていうのと。

『ここにいさせてくれ』っていうのと。


 そんな二つがあるような、なんだかそんな、気がするの。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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