・無いなりのやり方 前編
長くなったので分けました。
・無いなりのやり方 前編
運動部の見学を終えて三時半。次にオカルト部へ向かったが、例の如く誰もいなかった。よってそのままバイク部へ進路変更。
脱法バイクを造ると息巻いていた前部長と異なり、現在の部長は几帳面そうなオールバックである。
几帳面そうということから分かるように、それっぽく見えるだけである。その証拠に彼らは部室で、動物の毛皮や骨を加工していた。
「何やってんの」
「ええ、猟友会から格安で仕入れたこれらで、安全帽や服が作れないかなと」
要約すると地元の猟友会が卸している、ロードキルされた動物の骨と毛皮で、ライダースーツとヘルメットが出来ないかと、工作していたらしい。
モデルになった部員は何故か裸の上に、マジもんのレザーを羽織り、獣の頭骨らしきものを兜として被っている。お前はどこの原住民だ。
パンツを履け。誇らしげな顔をするな!
そんないい塩梅の馬鹿共めらに、事情を話して見学を申込み、彼らと一緒に毛皮の加工というグロい内容の教育用DVDを、鑑賞して迎えた四時半。
栄が胸の下辺りを押さえていたのに対し、アガタは常に口を半開きにして笑っていたのが印象的だった。
最後に駐輪場へ出て、花壇の世話をしていた園芸部に挨拶し、今育てている紫陽花と金木犀の、色と香りを堪能した。
ここを最後に回したおかげで、部活案内は綺麗に終わりを迎えることができた。
上手くいった部分もあればそうでない部分もある。特に毒にも薬にもならないこともあれば、陰ながら俺が割を食った場面もあった。
「これで一通り巡った訳だな」
もう五時を回っているけど、七月を控えているだけあって、曇り空にも関わらず、外はあまり暗くなっていない。
「この後はどうするんですか」
栄は流石に疲れの見えた様子で尋ねてきた。
半日歩いて濃い面子に会えば無理もない。
「一旦部室に戻ってプリントを渡す。箇条書きでいいから、今日あったことと感想を書いて、後日提出してくれ」
「『料理部のご飯を食べた。おいしかった』とかでもいいんですか」
アガタが片手を挙げて質問をしてくる。非情に嫌そうな顔をしている。お前はもうちょっと表情を抑えることを覚えような。
「いいよ」
「ええ……」
なんで聞いてきたお前が戸惑うんだよ。
「他に質問はないか。ないなら部室に戻って解散するけど」
「そうですね、流石にちょっと疲れて」
「サチコくん!」
栄の声を遮って響いたのは、中々凛々しい太い声。振り向けばそこには角刈りに、丸い眼鏡をかけた中肉中背プラス1の男子。誰だ。
がっしりした体つきの熊とゴリラを足したような、特定の好みに直撃しそうな夏服の男。はて誰だ。
「お知り合いですか」
「たぶん」
「たぶんて」
栄に問いに首を傾げれば、アガタが半目で批難の声を上げる。
男子がこっちに駆け寄ってくる。やや精悍な顔立ちをしている。なんだろう、こいつだけ時代が違う気がする。
「お久し振りです。東条です」
「東条、ああ、えっ!? お前もうちょっと坊ちゃんだったじゃん! 育ったなあ」
言われて思い出したのは、元愛同研連盟部にして、現在独立を果たした旧軍事三会統合体こと、軍事部の部長、俺と同じ二年生、東条だった。
去年より体格がだいぶ良くなっている。貫禄が付いている。俺への呼び方が友だちというより、部下へのソレ。
「あ、こちら軍事部の部長で東条」
「どうも、北の妹の栄です」
「アガタです」
アガタが自分をアガタと言ったのは、男を警戒して俺を味方にしたかったんだろうな。
そんなこと今はどうでもいい。面倒な奴に会った。
確かに最初は寄る予定だったけどさあ。
「いやあ、普段あまり話さないけど、それにしたってデカくなりすぎだろ」
「鍛えてますからね、新入生の案内ですか」
「あ、ああうん、落ち着いて来たしね」
まずい。最後の最後でケチがついてしまう。ここに来て興味のない軍事の話なんかされて、微妙な空気で終わりたくない。なんとか、なんとかしなくては。
「そうですか。もしよろしければ、うちにも寄っていかれませんか」
「俺はともかく二人は興味ないんじゃないかな」
『……』
見れば二人とも目を逸らして黙っている。こいつらちょっとでも不安なことがあると、すーぐ逃げに走りよってからに。
人を盾にしないよう再教育の必要があるようだな。
こいつらのためを思って軍事部を避けるか。それともこいつらのためを思って軍事部へ連行するか。
「よし寄って行こう」
『え!?』
「そうですか、いや良かった! では付いて来てください!」
非常に眩い笑みを浮かべた軍事部部長に連れられ、俺たちは再度校内へ。
二階の空き教室の一つへ行くと、そこには生徒の姿が一つもない。明かりを点けても空白が目立つばかりである。
「あれ、他の部員は」
「もう帰りましたね、研究発表と※野戦試合の合同訓練以外では、各自自由にしていいと決めましたんで」
※サバイバルゲームのこと。軍事部は呼称ではなく本当に『部』なので活動のためにサバゲーの大会出場と成績を残すことを、目標として掲げている。
「あまり荷物はないんだな」
「研究資料は膨大になりますからね、今は電子端末が主流ですよ」
ハキハキスラスラと答える軍事部部長。軍オタというと何百年も前の戦争の話を、ありがたがってやいのやいの言う、臭い連中を想像しがちだが、こいつらはそんなこともない。
時代に合わせたやり方を取り込んでいるみたいだ。
「どうぞ、着席なさってください」
「どーも」
促されるままに座席の一つに座る。次いでアガタ、栄が座ると軍事部部長は鷹揚に頷いた。
「では今から米神高等学校軍事部説明会を始めます」
そう言って、彼は俺たちを見回した。
心なしか、彼は嬉しそうだった。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




