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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
進路相談編
198/518

・無いなりのやり方 前編

長くなったので分けました。

・無いなりのやり方 前編



 運動部の見学を終えて三時半。次にオカルト部へ向かったが、例の如く誰もいなかった。よってそのままバイク部へ進路変更。


 脱法バイクを造ると息巻いていた前部長と異なり、現在の部長は几帳面そうなオールバックである。


 几帳面そうということから分かるように、それっぽく見えるだけである。その証拠に彼らは部室で、動物の毛皮や骨を加工していた。


「何やってんの」


「ええ、猟友会から格安で仕入れたこれらで、安全帽や服が作れないかなと」


 要約すると地元の猟友会が卸している、ロードキルされた動物の骨と毛皮で、ライダースーツとヘルメットが出来ないかと、工作していたらしい。


 モデルになった部員は何故か裸の上に、マジもんのレザーを羽織り、獣の頭骨らしきものを兜として被っている。お前はどこの原住民だ。


 パンツを履け。誇らしげな顔をするな!


 そんないい塩梅の馬鹿共めらに、事情を話して見学を申込み、彼らと一緒に毛皮の加工というグロい内容の教育用DVDを、鑑賞して迎えた四時半。


 栄が胸の下辺りを押さえていたのに対し、アガタは常に口を半開きにして笑っていたのが印象的だった。


 最後に駐輪場へ出て、花壇の世話をしていた園芸部に挨拶し、今育てている紫陽花と金木犀の、色と香りを堪能した。


 ここを最後に回したおかげで、部活案内は綺麗に終わりを迎えることができた。


 上手くいった部分もあればそうでない部分もある。特に毒にも薬にもならないこともあれば、陰ながら俺が割を食った場面もあった。 


「これで一通り巡った訳だな」


 もう五時を回っているけど、七月を控えているだけあって、曇り空にも関わらず、外はあまり暗くなっていない。


「この後はどうするんですか」


 栄は流石に疲れの見えた様子で尋ねてきた。

 半日歩いて濃い面子に会えば無理もない。


「一旦部室に戻ってプリントを渡す。箇条書きでいいから、今日あったことと感想を書いて、後日提出してくれ」


「『料理部のご飯を食べた。おいしかった』とかでもいいんですか」


 アガタが片手を挙げて質問をしてくる。非情に嫌そうな顔をしている。お前はもうちょっと表情を抑えることを覚えような。


「いいよ」

「ええ……」


 なんで聞いてきたお前が戸惑うんだよ。


「他に質問はないか。ないなら部室に戻って解散するけど」


「そうですね、流石にちょっと疲れて」

「サチコくん!」


 栄の声を遮って響いたのは、中々凛々しい太い声。振り向けばそこには角刈りに、丸い眼鏡をかけた中肉中背プラス1の男子。誰だ。


 がっしりした体つきの熊とゴリラを足したような、特定の好みに直撃しそうな夏服の男。はて誰だ。


「お知り合いですか」

「たぶん」

「たぶんて」


 栄に問いに首を傾げれば、アガタが半目で批難の声を上げる。


 男子がこっちに駆け寄ってくる。やや精悍な顔立ちをしている。なんだろう、こいつだけ時代が違う気がする。


「お久し振りです。東条です」


「東条、ああ、えっ!? お前もうちょっと坊ちゃんだったじゃん! 育ったなあ」


 言われて思い出したのは、元愛同研連盟部にして、現在独立を果たした旧軍事三会統合体こと、軍事部の部長、俺と同じ二年生、東条だった。


 去年より体格がだいぶ良くなっている。貫禄が付いている。俺への呼び方が友だちというより、部下へのソレ。


「あ、こちら軍事部の部長で東条」

「どうも、北の妹の栄です」

「アガタです」


 アガタが自分をアガタと言ったのは、男を警戒して俺を味方にしたかったんだろうな。


 そんなこと今はどうでもいい。面倒な奴に会った。

 確かに最初は寄る予定だったけどさあ。


「いやあ、普段あまり話さないけど、それにしたってデカくなりすぎだろ」


「鍛えてますからね、新入生の案内ですか」

「あ、ああうん、落ち着いて来たしね」


 まずい。最後の最後でケチがついてしまう。ここに来て興味のない軍事の話なんかされて、微妙な空気で終わりたくない。なんとか、なんとかしなくては。


「そうですか。もしよろしければ、うちにも寄っていかれませんか」


「俺はともかく二人は興味ないんじゃないかな」

『……』


 見れば二人とも目を逸らして黙っている。こいつらちょっとでも不安なことがあると、すーぐ逃げに走りよってからに。


 人を盾にしないよう再教育の必要があるようだな。


 こいつらのためを思って軍事部を避けるか。それともこいつらのためを思って軍事部へ連行するか。


「よし寄って行こう」

『え!?』


「そうですか、いや良かった! では付いて来てください!」


 非常に眩い笑みを浮かべた軍事部部長に連れられ、俺たちは再度校内へ。


 二階の空き教室の一つへ行くと、そこには生徒の姿が一つもない。明かりを点けても空白が目立つばかりである。


「あれ、他の部員は」


「もう帰りましたね、研究発表と※野戦試合の合同訓練以外では、各自自由にしていいと決めましたんで」


 ※サバイバルゲームのこと。軍事部は呼称ではなく本当に『部』なので活動のためにサバゲーの大会出場と成績を残すことを、目標として掲げている。


「あまり荷物はないんだな」


「研究資料は膨大になりますからね、今は電子端末が主流ですよ」


 ハキハキスラスラと答える軍事部部長。軍オタというと何百年も前の戦争の話を、ありがたがってやいのやいの言う、臭い連中を想像しがちだが、こいつらはそんなこともない。


 時代に合わせたやり方を取り込んでいるみたいだ。


「どうぞ、着席なさってください」

「どーも」


 促されるままに座席の一つに座る。次いでアガタ、栄が座ると軍事部部長は鷹揚に頷いた。


「では今から米神高等学校軍事部説明会を始めます」


 そう言って、彼は俺たちを見回した。

 心なしか、彼は嬉しそうだった。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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