表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
二年生開始編
166/518

・反省会

今回長いです。

・反省会

 

 かくして俺たちは無事死人を出すこと無く、アガタも生きて、ストーカー女は警察に引き渡し、結果だけ見れば、上出来と言って差し支えない形で、一日の幕を閉じた。

 

 夜も遅いし、後日お話を聞くということで、家に帰して頂いた我々は、疲れからか特に口も利かず、帰路へと着いた。


 アガタだけは顔面にスプレーを食らっていたので、病院へ直行することになった。

 

 失明とか視力低下にならなければいいが、そこは心配しても、俺にはどうしようもない。


 俺は俺でアガタに死ぬほど蹴られた脇腹を、ほとぼりが冷めるまで、普通に治療しなくてはならない。

 

 今の俺は我が家の自室の、ベッドの上である。もう今日は晩飯とか、そういうことは一切やらんぞ。


 ちなみにブラシャツパンイチ。

 

「……なんていうか、結果的に大活躍したけど、感情面では余計なことばっかり、してた気がする」


「でも何とかなって良かったじゃない」

 

 人型に戻ったミトラスが、氷枕を渡してくる。俺はそれを受け取ると、患部に当てた。

 

「反省点も多かったし」

 

 妖刀の出番は無かったどころか、あわやという場面が最後に待っていたし、冷静になると俺の持ち物だけいらんかったな。


 あの中華鍋の盾と先輩の持って来た色々が、一番役に立った。


「ていうかオカルト部の絵じゃ、刺されるはずだったのに、刃物さえ持ってなかったじゃねえか」


「もしかしたら予知夢は、歴史が変わる前の光景だったのかも、知れないね」


 言われて見れば。この銃社会を踏まえれば、予知夢の絵が銃になっていなければ、おかしい。


「もしくは敢えて違う内容を教えたかだね」

「何のために」


「さあ、単純に好奇心からとか。教えなければ死ぬ、教えたら助かった、じゃあもし間違った情報を教えた場合は、とか」

 

 オカルト部の部長から恨みを買った覚えはないが、それはそれで、無いとは言えないのが困る。


 でもなあ、うーむ。


「もしかしてあの場面に刃物が無かったから、俺は刀を持って行ったんだろうか」


「それをあの子が使って、女の人と、何かの拍子に男の人も殺したかもって」


「そういう見えない力が、働きかけていたのかも知れない、なんてことも有り得るんじゃないか」


 いつぞや南が言ってた、歴史の修正力とやらがあるのだとしたら。それが元々あった死に方、殺され方を取らせようとしたのだとしたら。


「考えすぎかな」


「運命に操られていたかもしれない、か。一歩間違えば酷い現実逃避とか、責任転嫁だよ」


 うむ、考えすぎというより考え無さ過ぎだなこれ。

 気の触れた無責任な発言にしか聞こえん。


 所詮夢なんだ。ブレとか揺らぎとか、そういう不確かな部分だってあると、自分に言い聞かせておこう。


「この話は止めて、反省に戻ろう。道具の件だけど、現代戦は現代の道具を使うのが、一番良いんだな」


「戦いって基本的にいつも現代戦だよ」

 

 ミトラスが正論をぶつけてくる。


 銃に風船にスプレーに、火と飛び道具を山ほど使ったが、接近戦はアガタの不意打ちだけだ。

 

「そう考えると盾って凄いよな、材質と形状が変化しても、掲げて防ぐことは何も変化がないぜ」


「それも他の防具が、多様な攻撃を防げてこそだよ」

 

 現代だと鍛え抜かれた屈強な男に、鈍器で殴られたり刺されたりする機会が減ったので、聖なる全身甲冑と兜は、ガスマスクと耐爆スーツに、馬は用途別に細分化された車両に変わった。

 

「こんなことを言うもんじゃないけどさ、正直出番があって良かったよ」


「どういうこと」


「あの場で盾が無かったら、体力派の俺はすることがなくて、魔法を使うしかなかった」

 

 グローブを被せて、プラスチックの取っ手を、接着剤でくっつけただけの鍋が、妖精さんのお呪いのおかげとは言え、大した防御力だ。


 前から受けたのもあるけど、よく壊れなかったものである。

 

「別に使ってもいいと思うんだけど。そうだサチコ、ちょっとマッサージしてあげる」


 ミトラスはそう言うと、横になった俺をうつ伏せに転がして、按摩をし始めた。


 背中を撫でた後に、強張っている部分を、揉んだり摘まんで持ち上げたり、肘や指でぐりぐりと押し込んでいく。

 

「おあぁ~、ありがとおぉうー」

「もう少しその下っ品な声抑えてくれない」

「ごめんなさい」

 

 我ながら木の洞に風が吹き抜ける様な、はしたない音を出してしまった。


 こる場所のメジャーな部位に、腰とか肩とかよく言われるけど、俺の場合は尻がよくこる。腿の付け根の少し上の辺り、ココをぐりぐりされると非常に効く。

 

「普通さあ、こういうのってもうちょっと、色っぽい声が出て、僕も乗り気になるとこじゃないの」


「そんなこと言われたって俺だぞ」

「…………」

 

 ミトラスは複雑そうな顔をしながら按摩を続けた。無言で仰向けに引っくり返される。とはいえ表側は、そんなにする箇所ないんだけどな。


「よいしょっと」

 

 俺は自分の胸を自分で持ち上げた。ミトラスがその下の辺りを触る。巨乳になると肩と言わず、その周辺が全体的にこる。


 気持ちがいいことはいいが、性感とは程遠く、貧乳のほうが、感度がどうこうという話があるのは、この重量と面積から来る、疲労等が無いせいだろう。

 

 昔は乳に一喜一憂していたミトラスも、今ではそんなにである。反応が良くないから飽きたんだろうな、でも演技するのもな。

 

「しかしまさか銃が飛び出す思わなかったな」

「うん、僕もびっくりした」

 

 歴史改変の実感が湧く生活を、これまであまりしていなかったが、今回で嫌というほど思い知らされた。


 世の中の人間が普通に銃火器で武装しているのだ。本や洋楽が減ってるとか、そんな次元の話ではない。

 

「俺の知ってる日本と、ちゃんと違ってたんだな」

「銃社会になってたんだねえ」

 

 安全だったのは学生だったからだな。まさか学校の持ち物検査が、意味を持つ日が来るとは。


 今の所うちの学校では、乱射事件が起きてないが、運が良かったんだな。

 

「曲がりなりにも戦争に勝ったことになってるのに、何で治安が悪くなってるんだろう」


「戦勝国って基本的には、侵略した国ってことだし、非道や無礼は罷り通るようになるよ、それを正当化できなかったら、戦争するなんて夢のまた夢だからね」

 

 事情や理由がどう言った所で所詮暴力だからな。

 

「真っ当な理由のある暴力ではなく、暴力事態が真っ当な何かになっていく、ということなんだな」


「人間が野生に屁理屈を添えることはあっても、理性で動くことは稀だよ」

 

 辛辣だなあ。とはいえ『欲しい、寄越せ、殺す』が俺らの原理だから、こればっかりは言い訳のしようがない。

 

「こういうことがあんまり続くようなら、身の振り方を考えないと不味いよなー」


「お互い低姿勢でいないと、今度はいつ引き金が引かれるか、分からないものね」

 

 一通りマッサージを終えると、俺の上に寝転ぶミトラス。俺が同じことをやろうとすると嫌がる。


 そもそもこやつの場合は、身体能力が違い過ぎて、疲労で肩こり等が起きることは、そこまでないのだ。心労は普通にあるらしいけど。

 

「後にも先にもこんなことは、今回だけにしておきたいよ」


「そうだね、僕も流石にハラハラしたよ」


「まさかご近所に、こんな恐ろしいものが潜んでいるとは、夢にも思わなかったぜ」

 

 小人閑居して不善を為すとは言うが、この場合誰がどう悪かったのだろう。


 先ず男女関係がだらしなかった、サイアス山本が原因である。

 

 次にそんな男に引っかかった、ストーカー女だが、それだけなら被害者だ。


 だが知らぬ間に別れていた、で済んでいたはずが、異常な執着と攻撃性で以て、数々の犯行に及んだ。

 

 その次に二人の関係を知ってはいたが、どうすることも出来ずに、見過ごしていた会社もよろしくない。

 

 そしてそのままアガタの家に、問題の人物が接触してしまった。憂さが溜まったアガタが、校舎の壁に落書きをするようになってしまった。


 これも良くないな。

 

 最後にアガタと接触した俺が話を聞いて、あのマンションに乗り込んでしまい、色々あってこうなった。

 

 俺の悪かった所は、アガタを刺激しないやり取りができなかったことだ。そのせいでアガタが、猛然と動き出してしまい、拉致され、危うく人を殺しかねない所だった。

 

 アガタのおかげで山本の連絡先が分かって、ビラを貼って回ったことで、女に発見されず逆に見つけられたと、結果オーライなとこもあったが、順を追うと甚だ危うかった。

 

「これさ、俺たちが頑張ってなかったら、色々とヤバかったんじゃないか」


「今更」


「俺だってもう少し褒められても良いんじゃないか」

「それも今更」

 

 溜息と共に寝返りを打つと、ミトラスが反対方向に半回転して、コアラのようにしがみついてくる。器用な真似をするんじゃない。

 

「……なんか……すっごい疲れたな」

「お疲れ様」


「ミトラスも本当にありがとうな、助かった以外には言いようが無いよ」

 

 マンションの被害者女性たちの件や、アガタのご機嫌取りなど、ミトラスは今回大活躍だった。直接手を出してもらうのが、一番早かったんだろうけど。

 

「どういたしまして。僕としても君の成長が見られて感慨深いよ」

 

 脇の下辺りに、頭をごしごしと擦り付けられ、くすぐったい。ファンタジックな緑髪と猫耳が非常にくすぐったい。

 

「成長してるかな」

「してるよ、初めてあったときから比べれば格段に」

「そうかな」

 

「そうさ。先ずこの一年が無かったら、体力的にも不可能だったよ。フェンスに登ったりビラを貼ったり、盾で銃弾を受けたり」


 それは分かる。間違いなく疲れて、根が上がってただろう。


 壁をよじ登るのも難しく、今日よりもずっと、どん臭いことになっていたに違いない。

 

「それに北さんと南さんの二人だって、手伝ってくれたでしょ」


「いや、それは俺の努力とは違うだろ」

 

「違わないよ。いざという時に助けてくれる友だちがいるなら、それはお互いの努力あってのことだもの。二人が離れていかない日々を、送ったこと自体が君の頑張りなの」


 友だち作りを頑張りましたってことか。

 それこそくすぐったいな。

 

「そうかな」

「そういうことにしておきなよ」

 

 ミトラスの笑う声がする。片腕を伸ばしてなんとか頭を撫でると、彼も頑張って上体を傾けた。


 ああ、確かに今日という今日は、自分でも頑張ったと言って、いいと思う。

 

「そうするか」

 

 そういうことにしておこう。

 

「ところでサチウス」

「ん」

「今日はこのまま寝ちゃう。それとも何か食べる?」

 

 たぶん今日最後の予定を聞かれて、俺はミトラスを見た。彼と目が合う。特に何も無く、俺を所有しようとは思ってないみたい。


 何気ない視線だった。


「そうだな、よっと」

「わ!」

 

 うつ伏せになってから勢い良く体を起こすと、また半回転し、俺の背中に寝そべろうとしたミトラスが、ベッドの下に放り出された。


 ふっふっふばかめ。油断大敵だぜ。

 

「腹は減ってるし、レトルトで何か食うか」

「もう、言うだけでいいじゃない、構わないけど」

 

 彼は少しむくれていたけど、直ぐに機嫌を直して、部屋を出ていった。


 ずっと気を遣ってくれてたみたいだ。本当に、一時はどうなることかと思ったけど、何とかなって本当に良かった。

 

 本音を言うともう寝たいけど、頑張って彼と一緒に夕飯を食べよう。


「サチコー」

「はーいー」


 俺は返事をして、簡単な着替えを済ませると、ミトラスの待つ台所へと向った。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ