・新年度レベルアップ
今回長めです。
・新年度レベルアップ
引き続きレベルアップ作業である。とはいえ肉体と知能を弄るのも怖いから、出来ることと言えば魔法と特技の成長に限られるんだけど。
「あ、魔法が成長してる!」
「本当だ、いつの間にやら雷のパネルが取得されている。そして闇属性が四レベルになっている」
三レベルが俺の上限だったはず。これが先祖返りの効果なのだろうか。しかしその割に他の魔法には、特に影響が無さそうなんだけど。
「巨人になったからパワーアップしたんだろうか」
「魔力が底上げされてるとは思うけど、レベルが上がるのとは違うと思うよ。苦手だった炎と光が超能力抜きでも、レベル三まで行けるようになったくらいじゃないかな」
魔法は例によって精神力、つまり気の持ち様に左右されるものではある。
だがそれならばいったい、何が俺の闇魔法系の上限を解放し、雷の魔法を次のレベルに押し上げたのか。
「先月の一連のことで、君が人間的に成長したってことじゃないかな」
「先月のって、あー、俺ん家の」
確かに気持ちが荒れに荒れたけど、それがこれに繋がってくるのか。
「そうそう。怒りと憎しみを爆発させたこと。深い失望を感じつつ、自分の責任と向き合ったこと。愛情を捨てきれず、勇気を振り絞ったこと。大きな心の動きが、君の精神の枠を押し広げたんだよ」
負の精神的な爆発は、心が広がったというよりも、抉れたというほうが、当てはまるような気がする。
まあ曲がりなりにも人生経験だから、何かの足しにはなったってことなんだろうな。
「これで残すレベル三は土、水、火、光か。お、光以外に必要な成長点が、軒並み下がっている」
「図書館で呼んだ諸々の神話では、巨人は光と闇と雷以外は存在しているみたいだから、これは巨人化の恩恵だろうね。体が魔法を得意にしてるんだ。僕の世界でもそうだったし」
群魔で会ったことはないが巨人の魔物もいるのか。そりゃいるよな。むしろ何でいないと思ったのか。
「光の巨人とサンダージャイアントは、フィクションだったという訳だな」
「火も土と水に比べれば多いけどね、君の苦手がそのまま残ってるんじゃないかな」
さらっと流された。いいけどね。
「必要な成長点が軽減されるのはこれで二度目だな。とりあえず土と水取るか」
「え、光か炎で奇跡か呪術出さないの」
「俺は先に下位スペルを全部取る主義なんだよ」
成長点が一つ3,000必要だったのに、今はその半分で済む。
ステータスの横線の伸び具合が、余裕で以前の倍以上あるのに、消費は半減しかしていないと思うのは、流石に贅沢か。
「という訳で」
『土属性レベル3』を取得しました。
『水属性レベル3』を取得しました。
「そういやこれって何レベルまであるの」
「通信簿と同じで5まであります」
聞かなきゃよかった。
「一般的には魔法を使える人は、自分の得意な属性だけが三レベルに到達し、そこからは装備で魔力を増幅したり、同じ属性の妖精さんや、精霊と契約したりすることで四、五と上がっていきます」
「ウィルトはどうなんだ」
俺は自分を異世界からこっちに送り返してくれた、ミトラスの師匠のことを思い出した。
銀髪碧眼にして三白眼のハの字眉という、ぱっと見で困り顔をしている、美少年である。
「あの人は素で最低でも五レベルあって、そこに今言った要素を加えると、たぶん二十倍くらいにはなるんじゃないかな」
「倍々式に強くなるのか」
流石にボスキャラだ。そういや四天王自身は、戦時中に負けたことないんだよな。
ああまた余計なこと考えた。あいつらと比べると、俺の成長とか有って無いようなもんだし、やる気が失せる。いや、元々やる気はないけども。
「特技もなあ、今外見維持との調整中だしな」
「身体的な特技だと体が強化されて、タイマーに余計な時間が加算されそうだよね」
「こんなことならジャンプ力と登攀関連を先に取っておくんだったか」
ジャンプ力を取ると、最終的に僻地の黒人青年並の跳躍力を得る。登攀は何故か木登りと壁登りと岩登りと登攀とボルダリングに分かれている。
違いが分からないが違うから分立してるんだろう。
投擲は投げ物全般に及ぶのに何故だ。ちなみに外見維持にがっつり成長点を使ったが、まだ後8,000点ほど残ってる。
「こうして見ると特技の大半が体を使うな」
「知能系も目に見えないけど、頭っていう体を使ってるしね」
どんな特技も五感を使わずにはいられないので、ここは大人しくしておいたほうがいい気がする。
特技に関しては、いつも大人しくしてる気がするけど、きっと気のせいだろう。
少なくとも登攀とかのほうが『特技:必殺技』みたいなのよりはいいと思う。
特別な技だけどさあ、その特別な技と得意技が並列というか、両立しているから、日本語では非常に面倒臭い絡まり方をしてる。
「なんかこう、今手を出しても大丈夫な特技ってないのか」
「いつもは取りたがらないのにどうしたの」
「取れないと言われると取りたくなるんだよ」
「捻くれてるなー」
そりゃ捻くれもするよ。正月の昼を迎えてほとんどまっ裸で、炬燵もなしに過ごしてるんだ。暇以上の虚無感に襲われてる俺の身にもなってくれ。
「何気に知能が成長しても、知識は勉強しないと増えないんだよな。勝手に湧いてくれたらよかったのに」
「賢さが上がると勉強時間が短縮できるよ」
「結局そこに行き着くんだよな。それだけ勉強と練習しましたっていう。だからレベルアップなんだろうけど、レベルが上がるかあ」
経済的とか社会的って、レベルは上がらないなあ。体ばっかり丈夫にしてる。でもまあ最終的に、健康が一番だ。
恨みがあっても体が弱いと行動に移せないし。個人的に背は低く、体力が多いってのが理想だな。現実はこの通り大きくなってしまったが。
背が低く、体力がある。
……蟻か?
「あ、これなんか良いんじゃないかな」
「え、どれどれ!」
なんだか今考えないほうがいいことが頭を過った気がするから急いで切り替えようそうしよう!
何かなー探せばあるもんだなー。
『速読術』と『珠算』
「一応知能系だけど脳がどうこうなりそうなイメージは湧かんな」
「いや、僕としては今になって、この項目が出るようになったことのほうが、気がかりなんだけど」
そういえば珠算はできるけど、特技ってほどでもなかったな。
計算に必要な暗記の部分を、そのまま特技の『暗記』で補ってゴリ押ししてただけだし、速読は読書が味気なくなるから、避けてたんだよな。
「この際だし取っちゃいなよ」
「そうだな。ラノベ読むより教科書読む時間のが多いし観念するかあ」
慣れて来るとゲームのストーリーにも、興味が無くなってしまい、初見なのに文章を飛ばすようになってしまうからな。
これで読むのが怠いということも減るだろう。
「珠算つっても頭の中で計算するくらいでしか、効果出ないけどな」
「でも速読の恩恵は大きいですよ。約款みたいな吐き気のする長文に、すんなり目を通せるようになるのは大きいです」
仕事のときの気分になって丁寧語になるなよ。しかしどちらも必要成長点が1,500。リーズナブルな特技ではある。今度は美文字でも取ろうかな。
「じゃあ取得っと」
『珠算』:思考内でも専用計算器具を用いたイメージにより四則演算を簡易化、高速化します。
『速読術』:文章を読む際に認識できる視野を広げることで、より広範かつ高速の読書を可能にします。
味気ないことこの上無いが、読み込み時間は少ないほどいい。読み込みが足りないと言われてもいい。
いつまで同じことをやっているのかと言われることのほうが腹が立つ人種です俺は。
「これですることは終わったな。こんな状態で後数日待たないといけないのかあ、嫌だなあ」
「ん、あれ」
「なんだどうしたミトラス。あ、もしかして」
巨大化したときに体毛が再生したのかと思って節々を確認する。良かった、まだ生えて来てないようだ。このサイズで無駄毛の処理とかしたくない。
そしてそんな俺の不安を余所に、ミトラスは目を閉じると瞼を指で軽く押さえた。
目を開けて再び画面を見る。同じようにそっちを見れば、相も変わらずタイマーが。あれ。
「カウント減ってねえか」
「そうか、君の頭が少しだけ良くなったから、調整にかかる時間が減ったのかも知れない!」
突然俺の顔を見てそんなことを言いだすミトラス。端的に俺の頭が悪いということで些かお恥ずかしい。
「そんな旨い話あるか」
「思い出して欲しいんだけど、このテレビはあくまでも君をレベルアップさせる装置でしかないんだ。この機械が君の体を改造するんじゃなくて、君がこの機械で成長をしているに過ぎないんだよ」
そういえば去年そんなことを言われたような。
この魔改造されたテレビは、俺がこういうレベルの上がり方をしたいという、選択ができるものであり、ただ俺が命じてポイントを支払えば、色んなものを無視して強化するような物ではないとか。
「テレビは君の成長を視覚化して、選択できるようにしただけなんだ。君の体の変化は、君の体を使って、君自身が起こしているんだよ」
前も言ったり思ったりしたけど、やっぱりすごいな人体。何でも有りだな。元が神様とか怪物だったんだから無理もないけど。
「つまり調整に時間を食ってたのも、それまでの俺のおつむでは、その辺の辻褄合わせを考えるのが、苦しかったということか」
「そういうこと! 賢いぞサチウス!」
やけにテンションが高くなったミトラスが、調子に乗って頭を撫でまわしてくる。いいぞもっとしろ。
「で、残り時間が約十七時間。明日の朝にはなんとかなる、のかなあ」
「しかしたったこれだけで三日分の短縮になるとは」
「我ながら数字に弱い脳みそだったんだな」
だが何にせよ助かった。今日一日我慢すれば、昨日のサイズに戻れるはずだ。
巨大化からの縮小とか、まるでボスキャラである。いや、もうそれくらいの身体にはなってるんだった。
「一時はどうなることかと思ったよ」
「ごめん、心配かけたな」
安心したのか、ミトラスが胡坐の上に腰かける。前よりも更に身長差が開いた形だ。
「僕も反省した。安易な成長や強化なんて、促すものじゃないね」
「今度からお前が何かしたら、筋肉を付けるってのも有りかな」
「ごめんサチウス本当に勘弁して」
シーツの端を掴んでミトラスが懇願する。そんなに筋肉が嫌なのか。
「善処はするけど、出来ればそういう俺にもやらしい目を向けられる男になって欲しい、かも」
「う、僕も追々善処、い、致します」
心底嫌そうな顔をする、彼の緑髪を撫でる。
うーむ、返す返すもまさかこんな事態になるとは。やはり肉体の強化は、慎重にやらないといけないな。
文章をちょっと直しました。
手元にメモがあって何で二メートルなんて書いたし。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




