・番外編2 気にはしている
・番外編2 気にはしている
※時系列的には今昔祥子1の日の学校に当たる。
※このお話は南視点でお送りします。
「はい落とし穴入りまーす」
「はーい眩暈入りマース」
「はいまた落とし穴入りまーす」
「はーいまた眩暈入りマース」
「はい寝ましたー」
「爆弾入りマース」
二人で笛とハンマー担いでぺったんぺったんしてたら猿が死んだ。
この時代の大人気シリーズとなったゲームの、最終作だ。度重なる続編で不満要素という状態異常値を蓄積していった結果、一つ前が爆死して打ち切りが決定した。
シリーズものが終わるときは、必ずと言っていいほど末節を汚し、完結というよりは終了という、ブランド潰しのような展開を迎えるものである。
積み重ねた余計な要素を全て取り払い、武器ごとのモーションを優れていた頃に戻し、モンスターの行動や隙を調整した結果、日本のゲーム会社にしては珍しく、有終の美を飾ることとなった。
「はい捕獲。いやあサクサク進むねえ」
この時代で出来た友人が、上機嫌で言う。
部活をサボって携帯ゲームに耽るという、しょうもないことでも、相手が楽しんでいれば、それなりに楽しいものだ。
「全要素に確定クエがあるのがいいよね。報酬のランダム性が、一つも面白さに繋がらなかったから、いい改善だと思うよ。他の国に売るときは実装してた要素が、シリーズ打ち切りになってから、日本にも来るんだから、ひっでえ話だなあ」
机の横に吊り下げた水筒から、お茶を飲みつつ彼女、北斎はそう言った。
「でもここにサチコもいればなあ。もっと早かったんだけど」
「そうねえ、三人で同じ武器とか楽しそうよね」
サチコというのは、前職では保護対象だった、この時代の二人目の友人だ。
彼女の家に遊びに行った際、ゲーム機がかなりあることが判明している。自身で購入した訳ではないらしいが。
「あの子大丈夫かしら」
「何が」
「ほら、この前お母さんが会いに来たって、言ってたじゃない」
ああ、と生返事をしながら斎が、ゲーム機のスイッチを切る。私もそれに倣ってゲームを止める。
真面目な話をするのかと思ったら、彼女は鞄から、別のゲーム機を取り出した。
爆撃にも耐える携帯ゲーム機の、元祖とも言える代物だ。
未来ではファンがリバイバルブームの折に、防御力を限界まで強化した本機を、作成したことで新聞を賑わせたこともあった。
大したもので両足に履けば、地雷原も歩けるようなものだったと、記憶している。
「それ二人プレイできない奴よね」
「だって、みなみん真面目な話したいみたいだから、そしたら集中力途切れちゃうでしょ」
だから私は話に専念して大丈夫だと、斎は言った。そこは自分も止めて、話し合うべきではないか。気遣いのピントがどうにもズレている。
「サチコなら大丈夫でしょ」
画面から顔を上げずに斎が言う。眼鏡に反射する画面はよく分からないが、小さなキャラクターが敵味方に分かれ、シャトルランを行うゲームのようだ。端に到達した順に攻撃に移るらしい。
「どうして。母親に復縁を迫られて、悩んでるみたいだったじゃない」
「あれは終わった問題を蒸し返されて、困ってるって顔だよ。私が心配なのは、むしろ母親が今更になって現れたことで、留め置いてもらった評価を、ガリガリ下げるんじゃないかってことで」
斎の言い分は分からないでもない。
サチコが済んだことにした、家庭の問題を再度持ち出せば、当事者同士だからこそ、悪感情が再燃しかねない。
例えば美化していた思い出を、矯正されても良いことは、一つも無いように。
「気をつけてれば分かると思うけど、サチコは相手への評価によって、扱いや呼び方が随分変わってくる。一番良いのが名前呼びで、悪いのが物のような扱いだよ」
サチコの人間の評価基準はかなり厳しい。
減点方式で加点は無い。仲良くなると減点の機会が減るというだけだ。絶対に浮き上がらない。
仮に蜘蛛になった彼女の命を助けてから、地獄に落ちたとしても、彼女は糸を垂らしてはくれないだろう。
「下がると名前があの人になって、最後にはアレとかコレになる。うちの部でもサチコの名前を笑って謝らなかった奴は、ソレになった」
子どもでも守れるような規準だが、守り続けないと人間扱いされなくなる。
斎は続けた。
「そしてサチコは評価の下がりきった人間に対して、冷たいし凶暴だ。私はね、ぽっと出の母親が、自分の首を絞めていやしないか、そこが不安なんだ」
「相手が失敗する分には別にいいじゃない」
「手を下すのはサチコだよみなみん」
「そうね、ごめんなさい」
つい、と視線がゲーム機の画面から、こちらへと向けられる。そこには僅かに、批難の色が込められている。私は自分の失言に対して、咄嗟に謝罪した。
「あの子の教室を見たことはあるかい」
「いいえ、そんなことして、不良に目を付けられたらどうするのよ」
「酷いものだよ。あのクラスだけ、家庭内暴力が吹き荒れたのかって感じ」
サチコっていじめに抵抗してるらしいけど、もしかしてあの歳で、未だに腕力で抵抗してるのかしら。
「サチコは敵対した相手なら、手を上げることに躊躇がない。その母親っていうのが、殴られないように祈るばかりだよ。あの子は感情豊かって訳じゃないし、態度も平坦だけど、喜怒哀楽はしっかりあるからね」
何も考えていないように見えて、斎は部員たちを見ているし、考えてもいるようだ。
少しだけ安心するし、感心する。しかしながら私は、そこまで同じにはなれない。
「そうだとしても、こういうとき手を拱いているのって、もどかしいじゃない」
「サチコが私たちを名前で呼んでいるうちは、いざって時はきっと頼ってくるよ。言い換えれば、あの子の助けになりたいのなら、それまで自分を人間にしておくことだね」
そう言うと彼女はゲームへと戻った。頼られるときに、頼れる人でいろとは、随分と難しいことを言う。斎はそれを分かっているのだろうか。きっと分かっているんだろう。
自分から首を突っ込んだ世界ではあるけれど、親しい人間がトラブルと身近というのは、こんなに落ち着かないものなのか。
今では自分のほうが年上だというのに、中々目上の人間というものには、至れないでいる。
疲れ傷つくと人は老いると言うが、私が斎やサチコにあまり共感できない理由が、自分の充実した人生と若々しさなのが、少しだけ恨めしかった。
「今みなみんナルシーなこと考えたでしょ」
「え、な、なんで」
「なんかすっげえ浸ってる顔してた」
慌てて手鏡を取り出して自分の顔を覗き込む。
なんだ皆より綺麗ないつもの私じゃない。焦った。思わせぶりなこと言わないで欲しいな。
とにかくまあ、大丈夫じゃなくなるまでは、大丈夫って思っておくことにしよう。
でも本当に、頼みの一つくらい、有ってもいいと思うんだけど。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




