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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
帰ったら歴史が改変されてたけど関係なかった編
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・帰還……?

新シリーズ開始です。

・帰還……?


 俺の名前は臼居祥子。自分で言うのもアレだけど、異世界帰りの女子高生。三年向こう側にいたからこの春高校一年生だけど既に十八歳。


 余談だけど中学卒業後に高校への入学が決定している状態で、入学式前に異世界に行った俺は本当に女子高生で良かったのだろうか。事務処理的にはもう高校生だからそう名乗って良かったはずだけど今いち不安だ。


 そんな俺だけど色々あって元の世界、つまり現代(二十一世紀)の日本に帰って来た訳だ。帰還したその日の晩は彼氏と合体し通しだったけど、そんなこと今はどうでもいい。


 異世界側でもネットは繋がったけどテレビはほとんど見なかったから、久しぶりにリビングにあるもののスイッチを入れてみたところ、おかしな点が目に付いた。


 今日の天気、日本列島が映り、各地の空模様や気温が映し出される場面にそれはあった。画面の外れ、那覇市の部分。それが途中でスライドして、別の地域が映し出された。


 ――満州。


「なんて?」


 思わず口から疑問がこぼれ出る。おかしいな。彼が帰る時間軸を間違えたのかな。第二次大戦中とかちょっと洒落にならないんだけど。よく見ると北海道の部分もスライドしてより北方の島々の天気も映し出された。


 これはどういうことだろう。いきなり、でもないけど元の世界と違う点が見つかってしまった。こういうときはどうすればいいだろうか。


 とりあえず分かりそうな奴に聞くしかないか。リビングから自室へと戻ると、ベッドには未だ安らかな寝息を立てる、一糸纏わぬ天使のようなショタの姿。まだちょっと部屋が生臭いな。


「おーいミトラス、お前もう朝だぞ。そろそろ起きろって」

「う、ん……あ、おはようサチコ。早いね」


「馬鹿、俺は今日から仕事だよ。それよりも大変なことになったんだ」


『大変なこと?』と彼は寝ぼけ眼を擦りながら呟いた。彼こそが俺を異世界に召喚し、そして再びこの世界に送り返した張本人、その名もミトラス。


 異世界での魔王の息子で、とある街の区長を務めた魔物である。ネコ耳にファンタジックな緑髪。金目の少年。


「じつはな――」

「歴史が改変されている」


 どうにもそうらしい。それが何時のことなのかは分からないけど。これはいったいどういうことなのか。


 そもそも俺は異世界で三年過ごしたけど、元の世界に戻るときは召喚された当時の時間に戻せるという話だったのだ。そして現に今日の日付は三年前の四月だ。


「俺が異世界に行ってる間この世界ってどうなってたんだ」


「どうって、サチコ一人がいなくなっても世の中は進むよ。それだけ。君は君がいなくなった直後の時間に帰って来ただけだから、歴史改変とはたぶん関係ないよ」


 戻った初日は夕飯の買い出しの後に外出してなかったし、ネットも見てなかったな。となると、いったい何時から歴史は変わっていたのか。


「寝てる間じゃないの」

「そういえばお前に召喚されたときも寝てたな」


 あの時には既に歴史が改変されていたのかも知れない。何がどう変わったのかはこれから調べるとして。歴史が変わったのに、俺やうちはその煽りを受けてないんだな。


 異世界に行く前の俺ならがっかりしてたところだけど、今は逆にほっとしてる。


 中学卒業までの糞みたいな人生が覆ればと、当時の俺なら思ったろうが、今の俺にはミトラスもいるし、異世界側に友達もいる。人生をやり直すために彼らとの関係を投げ打つつもりはない。


「それで、これからどうするの」

「どうもしない。学校行って、説明受けて、バイト先探して、三年過ごして卒業する」


「ええ、事件の解明とかしないの?」

「俺たちと関係があるか分からないだろ」


 身の回りで異変が起きていることに気が付いたからといって、それに首を突っ込む理由はない。下手なことをして、壮大に何事も無かったなんていう、女神が転生してきそうな展開はまっぴらだ。


「仮にだ、俺が寝てる間に歴史が変わっていたとして、それを正した結果俺が召喚されなかった、なんてところまで時間の巻き戻しでも起こって見ろ。お前との今日までの思い出が全部無くなっちゃうんだぞ。そんなの絶対ヤダぞ」


「僕もだよ。まあ大丈夫だとは思うけどね。でもサチコ、こういうことにやけに詳しいね。経験あるの?」


 単に出まかせ言ってるだけです。先人たちの豊富な空想のおかげで現状の危機をある程度推測できるんだから、フィクションって侮れないよな。


「単なる妄想だけど、嫌な予感って当たるもんだろ。だから俺は関わらないって決めとくの」


「なるほどね」


 そうこうしてるうちに時間はそろそろ八時だ。まずいな朝飯用意できなかった。


「いいから、先ずは君の学校に行ってみたらいいんじゃないかな。僕は大丈夫だからさ」


「ごめん、帰ったら何か作るよ」


 着替えはもう済ませてあるから、あとは学校にいくだけ。空っぽの鞄を持って、学校指定の靴を履いて出発だ。


 外には三年ぶりに再会する俺の自転車。昨日も乗ったけど。乗り方を思い出すまで手間取ったが、それ以上に鍵の在り処を思い出すのに苦労した。ともあれスタンドと鍵を外してサドルに跨ってと。


 昨夜の残りが股から溢れてパンツを汚したので、その辺をもう一度綺麗にしてから出発した。



 そこそこ空気は生暖かく、そして汚い。麗らかな天気は晴れ模様。年々減少し続ける雀と、ここ数年は個体数が横ばいである鴉のことを思い出しながら、自転車のペダルを漕ぐ。


 都内では店から捨てられたり、逃げ出したりしたインコとかクワガタとかカメとかが見られたが、この世界ではどうなっているのだろう。


 俺は中学までは都内の学校に通っていたけど、祖母の家に引き取られてからは、この春から神奈川県内の学校に通うことになる。せめてもっと治安の良い所に隠居できなかったのか婆ちゃん。


「しかし何をどう調べてものか」


 祖母が亡くなってからかける相手もいなくなり、携帯電話を解約したのが地味に痛いな。こういうときに簡単な調べ物ができない。


 周りを見ると、道行く人々の顔が少しだけ明るい。死んだ人間みたいな目をしながら、葬式に行くときに着る服で忙しなく殺気立って徘徊していない。ていうか顔面偏差値が五くらい上がってる。


 そんなことは別にいい。せめて地理だけでも分からないものか。人里の中に世界地図なんか、おいそれとは見つからない。道路標識や信号、コンビニは変わってないみたいだが。


 コンビニ、そうだコンビニだ。新聞を読めば何か分かることがあるかも……。


 なかった。時事のニュースなんか興味がない上に、社会問題なんか気にしたこともないから、前の世界とどう違うのかが分からない。


 強いて言えば、新聞そのものが少ないってことくらいか。似たり寄ったりな内容ばかりで、娯楽でもないのにこんなに種類があって、到底許されないよと思っていた銘柄が三つ。うち一つは地方新聞である。


 うーむ。手がかりなし。ついでに便所で生理用品の交換を済ませて出る。ゴミ箱には先客の分が残っていたけど気にしない。さて、どうするか。とここまで考えて、あることに思い至る。


 学校で世界史と日本史の教科書貰って、それを見りゃ早いじゃないか。何もあくせくと情報収集なんかしなくたって良いのだ。


 日常に流されていれば余程のことが無い限り、必要最低限のことさえしてれば、暮らしていけるのだ。そうと決まれば方針転換だ。


「でもその前に」


 先に高校生でも勤められる地元の求人を探しておこう。祖母の残してくれたお金だって、たぶん生活費で消えるだろうし、家の相続は親がして、それを売り払われたら俺はもう浮浪者だ。ミトラスだって養わないといけないし。


 そんな訳で、俺はアルバイト先を探しつつ高校へと急ぐことにした。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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