7話 転校生
一難去ってまた一難。
何とも辛い言葉だろうか。
まるで、私が今置かれている変動する環境を表しているに近い言葉だろう。
もし私の場合なら、一難去らずに今ニ難、いや遭難。
どこで間違えしまっただろうか?と、北春 小雪は自問自答に明け暮れた。
ましてやそれは『必然』か?
的場井 功の事件が解決した翌日。
因みに、的場井は『セプター局舎本部』の『監獄牢』にて裁判の日を待つという事だが、未成年であり死傷者も出ていない事から死刑という事は無いだろうとのこと。
しかし後々の判決後、懲役が終了しても一生『セプター局』の管理下で生活する事になるため気の毒だろうが、仕方がないと菊田 雛は話していた。
そして、私は2年3組のクラスの輪の中心に居た。
輪の中心とは物理的な方の中心であり、私が逃げ出さないように囲う様にクラスメイトで壁を作り、昨日の出来事について質問攻めに遭っていた。
そう、的場井功の事件ではなく、稲葉 双熾との校門での待ち合わせのあの一件。
「あの男は誰なんだ⁉︎」
クラスメイトの佐藤 太一が1番大きい声で北春を問い詰める。
「やっぱ彼氏かな?」
「えー、『セプター局』で彼氏〜〜。」
「度胸あるねー、羨ま〜ww。」
「結構イケメン!どこで捕まえたんだろ?」
「どの位までいったのかな?」
クラスの至る所で北春の特に彼氏の噂話が飛び交う。
何故これ程までに皆、興味津々なのだろうかとも思ったが、あそこまで目立っていると致し方なかった。
「えーーっと、………。」
何も出てこない。
完全に思考停止し、現実逃避した北春の脳内で算出された答えは沈黙である。
『セプター隊』での仕事仲間ですなんて言ったところで信じて貰えるはずもない。
そんな北春に救済の女神が遅れて手を差し伸べた。
「朝のホームルームを始めるぞ!席に着け!
」
2年3組の担任、武田 英雄だった。
朝から大きな声を出し生徒に勧告する事が、北春にとっては今日に限りとても有難かった。
生徒達は思い思いに席に座り朝のホームルームが始まった。
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「起立っ‼︎気をつけ‼︎ありがとうございました‼︎」
朝のホームルームが終わり北春はまた問いただされるのかと、溜息を吐くとどうやら終わらなかった様だ。
「もう一度着席するように、今からこのクラスの転校生を紹介する。」
武田の大きな声が耳に届いているはずなのに北春は耳を疑った。
何だか、嫌な予感がした。
もしも、稲葉ならば、何をするか分かったものではない。
「えー?この時期に。」
「何でだろ?もしかして、訳ありww。」
クラスでも動揺が広がり、ザワザワと盛り上がる。
「静かにするように。」
武田が生徒達を粛清する。
「それでは入りなさい。」
武田の言葉を合図に教室のスライド式の扉が勢いよく開かれた。
北春は教室に入ってきた人物を見て、予想がど的中してしまい、頭を抱えて俯いた。
しかし、クラス内を北春と対称的に歓声が上がり沸き立っていた。
悠々とした足並で教室に入って来たのは、他校の制服ではなく『桜丘高等学校』の制服を身に纏った稲葉 双熾だった。
武田に案内され教壇に上り、黒板の左半分に稲葉 双熾と名前をチョークで書き記した。
「稲葉 双熾と言います。
1学期の終わりからですが、これから宜しくお願いします。」
稲葉は畏まらずに簡素な自己紹介をした。
しかし、この程度の自己紹介で納得する筈のクラスメイト達でなく、当然のように稲葉に質問の嵐が吹き荒れた。
「何で急に転校して来たんですか?」
「小雪とど〜ゆ〜関係?」
「稲葉って、『セプター局』なの?」
終わりの無い様な質問の嵐を稲葉は一掃した。
「質問に答えたいのはやまやまだけど、もう1人待たせてるから、その後にしてね。」
稲葉の台詞にクラスメイトは静まり返った。
理解出来ずにいた。
もう1人?
クラスメイトの全員が思ったがどういう事か分からなかった。
まさか、1クラスに2人の転校生が1度に来るとは思いも寄らなかった。
教室の開きっぱなしの扉から1人の少女が登場した。
その少女は、青髪、青色の瞳で可愛らしい雰囲気の女の子だった。
少女は凛とキレのある仕草で無駄が無く扉を閉じ、教壇に上がって黒板の右半分に名前を書いた。
「おはようございます。
私の名前は星河 蒼維と言います。
双熾と同じく転校して来ました。
これから宜しくお願いします。」
星河は丁寧にお辞儀をした。
2人目の転校生、星河 蒼維の自己紹介を終えたが、稲葉の時とは違い質問の嵐が吹き荒れる事は無いかと思われた。
しかし、星河が最後に一言と北春を指差した。
「小雪、双熾はゼーッたいに渡しません‼︎
私が双熾のパートナーなんです‼︎」
教室全体に響き渡る声で宣言し、隣で立っていた稲葉の腕にしがみ付いた。
クラスメイト全員が見ている教壇の上で。
「あははは。」
強張った声で稲葉は苦笑いをしながら頭をかいた。
「お手柔らかにお願いします。」
いつも冷静な稲葉の表情が崩れ、冷汗をかいていた。
それでも尚、稲葉の腕から星河は離れる事がなかった。
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長い長い朝のホームルームから始まり、1日の授業が既に終わっていた。
北春は稲葉に呼び出され、稲葉、北春、星河の3人で教室で話があるとのことだった。
教室内は3人だけがまるで取り残された様な孤独感を物語っていた。
7月である為日暮れは遅いものの、生徒が居なくなった学校はとても暗く寂しさがぬぐえなかった。
「ごめんね、呼び出しちゃって。」
稲葉は気楽に切り出した。
「謝る所はソコじゃないと思います。」
北春はふて腐れながら指摘する。
実際、北春は尋常じゃなく疲れていた。
どうやら生徒達は噂好きらしく、朝のホームルームが終わってからは、更に北春の元に来る人が増した。
そして、次の日には稲葉が転校して来て、三角関係にまでなっていると来たものだから、皆んなが私に対する追及もまた激しかった。
「まぁ〜、計画通りではあるけど想像以上かな?」
あははと、稲葉も力が抜けた様に呟いた。
稲葉も、そして星河も北春と同様に皆んなに囲まれて転校初日から悲惨な目に遭っていたのは知っているが、こればっかりは自業自得と言わざる終えない。
しかし、稲葉の意味ありげな台詞に事の真相を確かめずにはいられなかった。
「どういう事ですか?」
北春は稲葉に質問する。
「最初からその理由を話す為に集まったんだよ。
だけど、あそこまで過激にしろとは言ってないぞ、星河。」
算段があった様に星河に問うが、
「え?そうだったかな?」
鼻歌混じりに嬉しそうに星河は返答した。
「まぁー過ぎたことは仕方ないか、本題に入るぞ。」
「そうそう、仕方な〜い、仕方な〜い。」
罪悪感など微塵もなく、星河は楽しんでいる様に見えた。
朝の初見の星河と違い、今の星河はとてもリラックスしていて、これが普段の星河なんだろうなと北春は思った。
「北春を巻き込んで三角関係などと騒がせたのは、星河を隠す為なんだ。」
「どういう事ですか?隠すも何も逆に噂の真っ只中ですよ!」
「そうだな。しかし、その噂は生徒達の恋の噂だ。」
「そ、そうですけど、……。」
北春も稲葉の真意が見えず、言葉が詰まってしまう。
「星河を隠すと言うのは、『セプター局』からを意味している。」
「せ、『セプター局』ですか?」
「『セプター局』には未だ星河 蒼維の存在をひた隠しにしている。
もちろん、能力についてもバレていないはずだ。」
「何でそんな事しないといけないんですか?」
「そんなユッキーの疑問は私が解決しよう〜。」
突如、星河が介入して来た。
「ユ、ユッキー?」
初めてユッキーといきなり呼ばれた為、北春は困惑してしまう。
「それじゃあまず、私の能力は『未来予知』から。
『未来予知』は名前通りなんだけど、明確に起こる出来事が見えたり、曖昧なキーワードだけの時もあって、私自身が能力の制御は行えない。
しかし、私と関わった人物で未来を見たいと思った人は比較的に予知しやすいかな?
当然、何も思わなくても突然に予知してしまう事もあるけどね。
そして、私の能力は不確実に思ってしまうかも知れないけれど、『未来予知』は今現在458回の予知で外れた事は無い、今のところ100%の当たる能力なんだよ。」
「すごいですね!」
星河の説明を聞き、本心で北春は単純に驚いた。
「だけど、いい事ばっかじゃ無いけどね。
昔は『未来予知』で苦労したんだ、今は落ち着いたけど。」
星河は能力で苦しめられた過去があった様だがこれ以上は話そうとしなかった。
「そして、私の『未来予知』は『セプター隊』と同じように『皆無石』の効果を受けない能力者なんだよね〜。
だけど、『セプター局』にバレると『セプター局』の管轄下で『セプター隊』とかで行動が制限されてしまうから、独自に動いているって訳。」
「それって、大丈夫なんですか?」
北春は単に心配になってしまう。
「大丈夫、大丈夫、私には政治家達との太いふっといパイプがあるから。
大体の想像はつくかも知れないけど、『未来予知』で政治家の運命左右させるんだよ。
すごいでしょ?
因みに、『日本2大財閥』の『荒川財閥』と『御影財閥』は知ってるよね?」
「はい、一応は、……。」
北春の曖昧な知識で返答する。
「財閥は未だ解散されずに残った大富豪なんだけど、理由はまず『御影財閥』は『皆無石』事業と関わりが強く、特に『セプター局』がその筆頭格だね。
実際に御曹司の御影 涼が在籍しているのも象徴としてだ。
次に『荒川財閥』は政府の中枢と関わりが強く、その他にも警察組織、病院関係、教育関係、等がある。
だから、私は政治家のコネでクラスまで指定して転校して来たから『セプター局』にはバレる事は無い。
因みに双熾は『セプター局』のコネだよね?」
「こ、コネって……、まぁ間違ってはいないが、……。」
稲葉は苦笑するように肯定した。
そして、説明役が星河から稲葉へと戻る。
「実質問題、『荒川財閥』の御曹司、荒川 光流と『御影財閥』の御曹司、御影 涼の関係者諸々は敵対心が強く仲が非常に良く無い。
だから、2人は大変だろうけど、財閥間の関係も薄いから大丈夫と思ったけど、徹底的に隠す為に小雪も巻き込んでひと騒動起こしたって訳。」
北春は話の意図は納得したが、稲葉の意図は全く以って納得がいかなかった。
「あの私が巻き込まれた一端を渋々理解する事は出来ましたが、そもそも2人は何で転校までして来たんですか?
稲葉に至っては会おう思えば『セプター局舎本部』で何とかなると思うのですが。」
北春は稲葉の転校を知って始めに思った事を質問した。
「小雪の能力はまだ曖昧でいつ発現しているか、どんな所で影響を及ぼしてしまっているか分からないだろう?
だから、日々の生活を身近で見守る為に転校したんだよ。」
稲葉はもっともらしく答えたが、そこまでする必要があるのかと北春は思ってしまう。
確かに、先日の津々浦『副局長』の話で能力の危険性を聞いたが、やはり自分の置かれている状況は現実離れしている。
「私は、双熾の付き添いだよ。」
星河はさらりと恥も無く答えた。
「そう、ですか。」
北春は全然納得がいかないといった表情を見せる。
「それから、ユッキーに1つ話しておきたい事があるんだけど。」
と、星河が突如切り出したが、
「もう遅いから、小雪は先に『セプター局舎本部』に帰っていてくれ。
もちろん、星河の事は内緒でな。」
稲葉に星河と呼ばれ不服そうな表情を星河はしていたが、切り出そうとした話をしないで終わった。
北春には稲葉が星河の話を遮った様に思えてならなかったが、帰宅を促されてしまったため、ひとまずは帰る事になった。
北春は何だかやり残した気分ではあったが、静かに教室から退出した。
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稲葉と星河は教室の窓から、北春が学校の外に出て帰路に着き見えなくなるまで見守った。
そして、密談に入った。
「双熾、私達が転校まだした理由があんな苦し紛れの戯言みたいな理由があるで大丈夫なの?」
「心配ないよ、小雪は結構信じやすい方だからね、能力の時もそうだった。」
「よく知ってるんだねぇ〜〜。」
星河はさらに不服そうな表情になり、少し稲葉を睨み付ける。
しかし、稲葉は北春が見えなくなっても、窓の外を眺めていて、星河の視線に気づくことはなかった。
「それよりも、あの事をユッキーに言わなくて良かったの?
私達のそもそもの目的を。」
「俺は、今は未だ早いと思う。」
「そんな事は分からないよ。
それに私の『未来予知』は100%‼︎
だから、ユッキーが『必然』の可能性が高いんだよ。」
「確かに、分からない事だらけだが、小雪には負担を掛けさせたくない。
その為に転校までして来たんだろう。」
「その通りだけど……。」
星河は稲葉に押され口を噤んだ。
「だから、今は小雪を見守っていこう。
いずれ起こる未来に備えて。」
「分かったよ。
私は双熾の為に『セプター局』にバレないにしている。
だから、双熾に従う。
私は双熾を信じているから‼︎」
そこで、密談は終了した。




