4話 刹那の時
存外に怒らせてしまうことはあるかもしれない。
特に、怒るキッカケが何なのか分からない状態では尚のこと。
更に、相手がほぼ初対面の場合で怒ったフリだったなどと言った場合は本当にタチが悪くてしょうがない。
そして、それは突如として勃発した。
「ねぇねぇ、北春ちゃん。私って、何歳に見える?」
『セプター局舎本部』の廊下を歩く北春 小雪と菊田 雛は、『副局長室』から『会議室』まで時間が掛かるとの事で菊田が北春に質問を問い掛けてきた。
「年齢ですか?ん〜、そうですね〜。」
北春は返答に迷ってしまった。
最初に菊田と出会った時は30代、その半ば位にも見えてもおかしく無いと思った。
そして彼女自身、偉い役職からかとても凛として見え実際の年齢が分かりづらい節があった。
「30歳くらい……ですか?」
とても不安気に返答した北春だったが、その不安は見事見事にクリティカルで的中した。
「北春ちゃん。」
菊田の声が一回り低くなる。
「何でお世辞を使ってくれないのかな?
私はそんなに多く歳取ってないもん‼︎
まだ、20代だもん‼︎
だから、もう誕生日は2度といらない‼︎」
菊田は急に子供っぽく声を張り上げ、突然歩いていた近くの扉を勢いよく開き真っ暗な部屋の中に入って行ってしまった。
やってしまった。
菊田『実務長』を怒らせてしまった。
しかし、ここから1つの真実が明らかとなる。
30歳と言われとても怒り出し、20代だと言う。
何故、歳では無く代なのだろうか?
また、お世辞を使えと強要してきた。
そして、2度と誕生日を迎えたくない。
結果、堂々と20代だと言えないが、30歳では無い。
しかし、30歳に近いからお世辞でも20歳、いや20代だと言われたい年齢。
20代だと言い張っていたい年齢。
誕生日を迎えてしまうと30歳になってしまう年齢。
29歳つまりアラサー。
around thirty。
結果的に、菊田は自分から話を振っておきながら、痛いところを突かれ、傷を抉られて、拗ねて籠っているという訳だ。
しかしながら、北春は『会議室』までの道のりを知らない。
そのため、菊田が機嫌を直すかは別として、『会議室』で待っている『セプター隊』のため、出てきてもらうまで待ってなければならない。
北春は近くの長椅子に腰を下ろし、じっと待つ事にした。
「『実務長』は少し子供っぽいところがあるからあまり怒らないで貰いたいな、小雪さん。
でも、遊んでいるだけだから大丈夫だと思うよ。」
急に真横から掛けられた声に北春は驚き跳ね上がる。
「えぇ⁉︎誰ですか?
いきなりどこから現れたんですか?何で私の名前を知ってるんですか⁉︎」
自分の横には黒髪に赤い眼をした稲葉 双熾に近い印象の少年が隣に座っていた。
おかしい。
座った時は確かに居なかった。
が、その瞬間に現れた。
まるで見えていなかったように。
「待って待って、落ち着いて、順番に答えるから。」
少年は両手で待機のジェスチャーをした。
「まず、僕の名前は五十嵐 刹那。
どこから現れたかは、ん〜、普通に来たよ。
あと、僕はただ小雪さんと話したかっただけだよ。」
五十嵐はそうさり気なく答えた。
「あのぅ、名前以外答えになっていませんが…‥。」
驚きが冷め、冷静さを取り戻した北春。
そんな北春の顔をまじまじと見つめた五十嵐は、
「うん、そうだね。答えになってない。
でも、そんなどうでもいい会話をする為に来たんだよ。」
五十嵐は本気な顔でそう答えた。
「ハァー、私には、五十嵐さんがどういう人か分かりません。」
北春は溜息混じりに五十嵐の印象を率直に応えた。
「うん、正解!
長く親しんだ人間でさえ分からないのに、初対面の他人がどんな奴かなんて分からないよ。
それに僕や双熾は特に繕ってるからね。」
すると、気軽に話した五十嵐は長椅子から立ち上がった。
「それじゃあ、またお話しようね小雪さん!あと、僕は15歳だから敬語使わなくて良いよ。」
その瞬間、五十嵐はまるで見えなくなったように消えた。
「あれ?あれれ?」
北春は再び驚き、長椅子に座った状態で首を左右に振り、五十嵐の姿を探そうとする。
が、次の瞬間後ろから
「ワッ‼︎‼︎」
後ろから菊田に声を掛けられた。
そして、北春は長椅子から再び跳ね上がった。
「え?菊田さんどうしてここに?
入って行った扉はさっきからずっと見ていたんですが、」
北春は自分の疑問を問い掛ける。
「エッヘン!聞いてくれると思っていたよ。
実は裏で他の廊下と繋がっていて、グルッと北春ちゃんの後ろに回って来たんだよ。」
菊田は自慢げに誇らしく答えた。
五十嵐が言っていた事は正しかったらしく菊田は、遊んでいただけらしい。
「もー、不思議な人と話してられる位長かったですよ。」
少々怒り気味に遊ばれていた事を諭す。
「あれ?そんなに長かった?
30秒も掛かってないと思うんだけど。」
菊田は北春の言う事に不思議そうに首を傾げた。
「まぁ、そんな事より早く行こう‼︎
『会議室』はすぐそこだよ。」
北春は菊田に手を引かれ少し歩いた所で、『会議室』のプーレートが貼られた部屋の扉が見えてきた。
そして、菊田は北春を差し置いて勢いよく扉を開いた。




