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星々の消えゆく世界  作者: 山吹 残夏
20/22

18話 真実の要因

進むべき道が分からなくなる時がある。


それは唐突に突然込み上げては消えていく気の迷い。


今のままで良いのかと内心では思っているからかもしれない。


しかし、あれ程までに決意を固め、これからの人生を投げ打ってまで成し遂げると誓ったにも関わらず、心の歪みが生じてしまっている。


本当に私は弱い。


私達人間は弱いからこそ、自身の行動を正当化し考える事を止め、そして何も分からなくなる。


しかし、私は違う。


歪みが生じれば修正し、弱いのだからこそより努力を重ねる事を惜しまない。


「そして、努力を重ねている自分自身を私は嘲笑う。」


だが、何をしたら良いのか、人生の半ば道に迷うよりは余程簡単な悩みなのかもしれない。


進むべき道は必ず目の前に存在している。


ただ、このまま己が道を進むべきなのか、180°方向転換するべきなのか、この道は正か、誤か、善か、悪か。


分からない分からないまま。


それは例え、彼や『主人あるじ』様に聞いても答えなど分かる筈もない……。


「だからこそ、彼を救ってみせる。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



愛知県、名古屋市『流星教りゅうせいきょう』名古屋支部。


ゆっくりと慎重に真実を確かめるかの如く、瞼を持ち上げる。


すると、瞳に射し込む光の隙間が広がり、強くその真実を思い知らされる。


女性は教会の壇場の上で両膝を付き両手を握り涙を流していた。


教会内部に太陽の神々しい光が差し込み薄暗い教会を信者達を照らし出す。


その逆光になる立ち位置で彼の方を見ると、まるで後光で目が眩しく完全に御姿を見失ってしまいそうであった。


「気分はどうです?」


彼の方が私にお声がけをして下さった。


彼の方は30代半ばの男性で神父のような服に身を包み私を見降ろす状態で微笑みを向けて下さっている。


それは『流星教』の教祖にして神のお導きを我等にお示しぐださる校倉あぜくら 八道やどう様である。


そして私に現に神の力を目の当たりにした。


「ありがとうございますっ!」


「いえいえ、感謝の言葉など神の前では無用なのですよ。


我々は至って当然の配偶を受けたに過ぎません。


皆が必然に秘める力のその一片を私は見せただけです。


しかし、この世界は神より授かりし純粋な力を忌み嫌い、『皆無石かいむせき』という悪魔の石で封じ込めようとしています。


歪みきった世の中で力を使えば、蚊帳の外に弾き出され一生除け者として惨めな扱いに晒され続けてしまいます。


そんな世界はあんまりではないですか。


皆もそう思うでしょう?」


「オオォォォッ!!」


女性が居る教壇の一段下で私と同様のポーズをとる信者達が校倉様に共感する声が響き渡り教会を震わせる。


声の振動が地震が発生したと思わせる程の勢いで崇拝の強さを窺わせる。


「ならばこそ!この世界に蔓延る元凶である悪魔の石を討ち滅ぼさねばなりません。


そして、我々が崇拝せし存在である方は神の力の、そして悪魔の石の第一人者である月野つきの とおる様を探し出さねばならないのです!


その第一歩として、我等が少しずつ世界を変えて行けば良いのです。


さすれば、いずれ月野様は御姿をお見せくださる時が訪れるでしょう。


それ故、進み続けるのです。


我々がこの世界を改変し得るその時に向かって!!」


私は感嘆した。


身体の力が抜け落ちる事を実感出来た。


このお方に付いて行きたいと心の底から思い、彼の方のお言葉に浸りながらゆっくりと噛み締めた。


「さぁ、これで貴女も我等の強い仲間であり同じ志しを持つ同士です。


共に手を取り合いより良い世界の探求に力を貸して下さいますか?」


「勿体無いお言葉です……。」


「皆で祝いましょう!ここに新たな同士の誕生に!!」


「オオォォォッ!!」


再び信者達が声を上げ教会が振動する。


「それでは来たる祝いの宴に向けて皆も準備を重ねましょう。」


校倉は教壇から降り裏方の部屋に姿を消していった。


私はその御姿が見えなくなるまで無意識の内に目で追いかけていた。


そして、御姿が見えなくなっても尚、放心状態のまま教壇上に佇んでいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



校倉は部屋に入った途端、力なしにソファに沈み込んだ。


大きく両腕を横に広げ張り詰めた雰囲気を解放した。


「はぁーーぁ。」


日々の疲れと鬱憤を癒すように溜め込んだ膿を流すように長々と溜息を漏らした。


この瞬間だけは何もかもを忘れ去り、気怠げに只々物のように成り果てる。


すると、部屋の隅から粘っこく纏わり付くような生暖かい男性の声が聞こえた。


「校倉様ぁ、お疲れさんですぅ!」


そこにはニタニタとして立ち姿勢の悪い宮林みやばやし じょうの姿があった。


既に居た部下から仕事上でのやり取りを欠かす訳にはいかない為、リラックスモードだった気分を強引に引き戻し、普段通りに接する。


「お前か、それで準備は進んでいるんだろうな?


流星祭りゅうせいさい』までに間に合わなければ被害を受けるのは私なんだぞ。」


「勿論順調ですよぉ。」


宮林こいつは緊張感がなく緩い性格でありながら、頭に血が上り易く扱い難い欠点がある。


典型的な起伏の激しい性格と言える。


しかし、一応命令には忠実故、その辺は大目に見て私の側に置いている。


「『ビッグエッグ』の時のような失態は今度こそ許されないからな、尽力しろよ。」


「善処しますよぉ〜。」


そうして校倉と宮林の短い会話を終えた。


そして、宮林は音を立てずにひっそりとねっとりとした動きで校倉の居る部屋を後にした。


校倉は完全に宮林が退出することを確認し、今度こそとリラックスモードに入った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



名古屋支部の信者で埋め尽くされたホールの後ろの壁際に1人の少女がいた。


その少女は他の信者達と違い聖職者のような装いを身に纏わず、至って普段着の姿のまま壁にもたれ掛かっていた。


信者の中で普段通りの姿である少女は一際目立っていたが、声を掛ける者は居らず各々が神への信仰や崇拝に囚われ気付く気配さえない。


少女は灰色の髪に透き通った瞳で丁度17歳くらいだった。


少女は必死に全力で神に祈りを捧げ奉る信者を見下すように声にならないくらい小さい声で嘲笑った。


下らない能力至上主義者供が垂れる方便や聖職者のような外見かわは全て戯言でしかないのだから。


「すまないワネ、遅くなっちゃっテ。


乖離かいりちゃん、怒ってない?」


少女、狭間はざま 乖離かいりの横の壁に並んでもたれるようにそそくさと干からびた声で声を掛けてきた。


その人物は自身をナナシと名乗る焦げ茶色の薄汚れてボロボロのローブを身に纏う高齢の男性。


しかし、ナナシは何故か気持ち悪いくらいのオネエ口調の老人である為、そんな勢いで来られると私としても不快感が拭いきれない。


「怒ってないですよ、ナナシさん。


私は信者達こいつらの滑稽な醜態を見ているだけで飽きませんから。」


「ウフフ、そうなのネ。


私も機会があったらこんな感じのを真似してみようカシラ?」


ナナシはオネエのように上品に口元に手を当てて隠しながら微笑んだ。


「ナナシさん、少し良いですか?」


「何かしら?何でも言って頂戴♡」


狭間はナナシの口調に対する嫌悪感を最大限抑え殺しながら、


「その口調……もう少しどうにかなりませんか?」


と、極力控え目に尋ねた。


どんな返答が返されても対応が出来るようにする為に。


しかし、その返答は狭間の予想とはかけ離れたものだった。


「口調っテ、何の事カシラ?」


「何でもないですから、気になさらず……。」


ナナシの予想外の応えに少し面食らった狭間は一切の抵抗を見せる事なく速やかに撤退した。


「それで、今日はどのような要件ですか?」


にもかくにも狭間は至極当然な質問をした。


狭間は依然、急に呼び出された理由を知らぬままである。


「呼び出しちゃっテなんだけどネ、特に要件なんて無いのヨ。


ただ、皺くちゃで萎れた爺との話し合いに付き合って貰いたいだけナノ。


ごめんなさいネ。」


ナナシはウフと微笑んだ。


だが、女子高生くらい少女と70代くらいのオネエ口調の男性が一緒にいたら少し怪しい気もするが、現在2人がいる場所自体が怪しさ満点なのでそもそも気にならない。


そして、ナナシは更に続けた。


「それじゃあ、どうして待ち合わせを名古屋支部ここを選んだのカシラ?」


「唐突ですね。」


狭間は端的に淡白な相槌を打った。


最初、この話を持ちかけられた時に狭間は断る口実として名古屋にいるから無理だと断ろうとした。


正直、2人だけで会うなど根本的に生理的に受け付けない。


門前払いで相応の処遇である。


しかし、ナナシは了承したのだ。


狭間は嫌々だったものの、仕事上の付き合いとしては捨て置く訳にもいかず、苦渋の決断とも呼べる。


17歳で仕事上の人付き合いを学ぶ羽目になった狭間としては一歩大人に成長出来ただろう。


あとは、社交辞令的な返し、仕事上のコミュニケーション、嫌悪を悟らせない、この3つに気を付ければまず大丈夫な筈だ。


「当たり前ヨ、私がお話したいだけとはいえ東京からここまで来るのに大変だったノヨ〜。」


ナナシは自身の疲れを表現しようとしているのか不明だが、身体をクネクネと動かし喋る声が少し震えていた。


「おや?ナナシさんは存じていませんでしたか。


『セプター局』が『流星教』の解体作戦を着々と進行させてるんですよ。


そして、8月31日『流星祭』の当日は『セプター局』総出で大々的に解体作戦を執り行うそうです。


しかも、その日は『セプター隊』からいなばんが名古屋支部に派遣されてくるんですよ。


私は楽しみ過ぎて寝不足になりそうです。」


狭間はナナシと待ち合わせて以来、不機嫌でいたのに初めて少し浮き足立って楽しそうな笑顔をなっていた。


「いなばん?いなばんって、あの稲葉いなば 双熾そうしの事カシラ?」


「そうですよ、でもナナシさんよくご存知でしたね。」


「もしかして、乖離ちゃんも彼にゆかりがあるのカシラ?


私はあるわヨ、少し前に彼と闘った事があるのヨォォ!」


「羨ましいですね、私は一度もないんです。」


すると、ナナシは染みや皺のひしめく頬を両手で覆い、興奮しながら少し息を荒げた。


「聞いて頂戴ヨ!私〜彼にコテンパンにされたノヨー、酷くない?


冷徹で容赦無い感ジ?


そのお陰で今の私があるのだけどネ、ウフフ。


だから、とっても感謝してるノヨ。」


ナナシは惚れた男の恋相談をするように照れ隠しながらも堂々と語った。


もしも、ここに第三者の目があったとしたならば、その目には確実に混沌カオスが映り込んでいた事は間違いない。


すると、ナナシは急に何かに思い至ったのかキョトンとして、少しの空白の時間を作った後に、


「でも、どうして乖離ちゃんは彼が名古屋支部に来るが分かるのカシラ?」


「当然ですよ、いなばんが名古屋支部ここに来るように根回しをしたのは私ですから。


その為に東京から愛知に校倉あいつを移したんですよ。


東京の『流星教』本部はどうせ警戒が強いし、潜伏先の確率大だろうから『魔女まじょ』が出しゃ張ってくるでしょ?


だから、『セプター隊』に怪しまれないように細工して、校倉といなばんをぶつけようって、話。


正〜直、校倉は噛ませ犬だから、どうなってもどーでも良いんだけど、興味無いし……。」


「乖離ちゃんも随分と彼への想い入れが強いようネ。


まあ、私としては結果よりも経緯いきさつに興味を期待を抱いてるから、頑張って頂戴♡」


ナナシは見苦しさ満点のエールを狭間に贈った。


すると、ナナシはしっかりとした足取りで名古屋支部を後にした。


狭間は初めてトイレかと思ったが、どうやら完全に帰って行ったらしい。


嫌で嫌で仕方がなかったのだから早く終わることに越した事はない。


あと、私に出来る事は盛大に『流星教』に潰してまで行う作戦が失敗した時のプランBの下準備くらい。


「いなばん、早くこっちにおいで。


必ず救ってみせるから……。」



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