1話 出会い
蝉の鳴く声が永遠に聞こえてもおかしくないと感じてしまう程に、今日は暑かった。
当然ながら、おもむろに窓の外を眺めながら公民の授業を聞き流しボーッとしてしまう事も仕方がないと私は思う。
期末テストが終わり7月の上旬頃。夏休みまであと数週間といったところ。
私は北春 小雪。17歳。髪は茶色のミディアム。
背は少し小さいけど、顔は可愛い方だと思ってる。
「おい!北春!北春小雪‼︎儂の授業を聞いておるのか。」
東京都『桜丘高等学校』。2年3組。私達の担任にして、公民担当の堅物教師。
本名は確か武田 英雄。
あだ名は『風林火山』。
名前に武田であることから武田信玄を思わせるとともに、授業中は教卓の椅子に座り込み教科書を読み上げるだけで、寝ている生徒がいればすぐに怒鳴り散らすだけで動こうともしない。
そして、私は今その状況下にあるのだった。
「北春、立って教科書の108ページを読み上げろ。」
一通り説教をし終えた武田は教科書を読むようにと指示する。
「はい・・・。」
北春は叱られてしまったショックから落ち込んで元気を失う。
そして、静かに立ち上がり指定された教科書『楽しい公民 2016』のページを読みあげる。
「現在私達の住む日本では、1999年に手に入った能力と科学とが両立する時代になっています。
1人に1つ1種類の能力はどんな能力が手に入るかもその人次第です。
ですが、ほとんどの人類が『皆無石』と機械を使って作られたブレスレット『皆無錠』を付けることによって無作為な能力による事故を防いるため、自身の能力を完全に認識していない場合が多いです。
『皆無錠』は万が一のため、任意での解鍵が可能です。
ですが、『皆無錠』の解鍵は『皆無錠』のGPSから確認されており、理由のない解鍵に至っては『特殊能力法』によって、罰せられる可能性があります。
『特殊能力法』では『皆無錠』の着用も義務化されており、交換の際以外では取り外しはできません。
『皆無錠』の着用は20歳で能力の発現が確認されていなくても着用しなければなりません。
また、20歳以下の者には半年に一度の『能力検査』によって、能力発現を確認出来るようになっています。
『能力検査』によって、能力が確認出来た場合には20歳未満であっても『皆無錠』の着用が義務化され、『特殊能力法』の対象となります。
そんな日本の能力に至る『皆無錠』、『特殊能力法』、『能力検査』等は『セプター局』の管轄で成り立っています。
また、能力による事件が発生した場合には『セプター局』と警察庁の協力の元に対応しています。」
キーン、コーン、カーン、コーン。
学校の鐘が私の朗読に終止符を打つかのように鳴り響いた。
そんないつもの鐘の音が私には、いつも以上を嬉しかった。
「それじゃあ、この辺にしておくかのう。
北春が呼んだ所は重要だからテストにも出すぞ〜!復習しておくよーに。
以上、解散。」
武田は授業を終わらせ座り込んでいた椅子から立ち上がった。
ようやく公民の授業が終わり北春は倒れ込むように机に突っ伏した。
「次の授業は体育館で『能力検査』があるから放課が終わる前に移動しておくよーに。」
武田は最後にそう言い残し、教室を出て行った。
「本当に大変だったな〜、北春。」
机に顔を付けている私に対して、1人の男子生徒が声をかけて来た。
名前は佐藤(佐藤) 太一。お調子者だ。
「今日なんて『風林火山』、なんと6回も怒っ、噴火したんだぜ。」
自慢げに話してくる佐藤に私は苦笑いするしかなかった。
なぜかと言えば、
「佐藤太一‼︎」
「ひっ。」
武田先生は佐藤の後ろに佇んでいたのだった。
「後で職員室に来い‼︎」
武田の怒号が飛ぶ。
そして、噴火の回数が6回から7回に増えた。
------------------------------------------------------------
放課後。
体育館で『能力検査』が行われていた。
体育館には全校生徒の6割程しか集まってなかった。
能力発現は16〜18歳が最も多いと言われ、私のクラスも半分近くの生徒がすでに皆無錠を付けている。
「北春小雪さん。手前のコードが付いた『皆無錠』を手首に取り付けて下さい。」
『セプター局員』に案内される。
「何か能力が使えている事を想像して下さい。」
『セプター局員』はとても曖昧な事を要望してきた。
私は拳を握り締めて踏ん張ってみた。
結果、何も起こらなかった。
手前では、『セプター局員』がパソコンを操作して、画面を見つめている。
「もう取り外して大丈夫ですよ。」
そう指示され、私は『皆無錠』を外す。
「今回の『能力検査』では、能力の発現は確認出来ませんでした。ですので、次回の『能力検査』にも参加して下さい。」
『セプター局員』はまるで用意されていた様に、半年ごとに聞かされる同じ台詞を言う。
「はい。」
私も淡白に返事をする。
私も詳しくは知らないが『皆無石』は能力の防止をしている際に人間では感じない程だが、温度が上昇するらしい。
だから、『セプター局員』のパソコンにはサーモグラフィーで『皆無錠』に温度上昇がないか確認していたのでは無いだろうかと推察する。
そんな考えを巡らせていると、学校全体の『能力検査』が終了した。
教室に戻ると『能力検査』に参加していない生徒もいる為、各自解散と黒板に大きく書かれていた。
一方の佐藤は職員室で絞られている頃だろと容易に想像が付いた。
------------------------------------------------------------
「小雪ちゃん、またね〜。」
「また明日〜。」
仲の良い女子生徒に別れを告げて、北春は帰路に付いた。
近くから5時を知らせるメロディーが流れてくる。
「はぁー。」
1人になった為か、不意に溜息が出て立ち止まってしまう。
今回の『能力検査』でも結果が出なかった。
能力の発現で人生が変わりました!という話はよく耳にする。
親も私の能力発現が確認されていない為、たまにそう言った事を漏らす。
だが、実際は能力が発動しているのに、確認出来ないほど微小な能力も存在する。
いや、その方が多い。
けれど、無いものは無いんだ!と割り切り止まっていた足を前に出し歩き始める。
夕方になっても、まだ暑く足取りも重くなってしまう。
すると、前方の道路を銀髪の青年が横断していた。
だが、その道路には猛スピードでトラックが迫ろうとしていた。
「あっ、危な…。」
私が青年に声を掛ける前にトラックに青年が接触し、大きく吹き飛ばされる。
トラックはノーブレーキで青年を吹き飛ばした後に盛大に進路をゆがませ、付近の電信柱に勢いよく激突し、停止した。
私は急いで吹き飛ばされた青年の元に駆け付ける。
そして、青年が吹き飛ばされた道路を見下ろした。
とても、とても無惨な光景が広がっていた。
道路には、広範囲に血液が飛び散り、大きな血溜まりが数箇所にできていた。
そして、中央に青年の亡骸であろう者が横たわっていた………。
ふっと、した瞬間に私は帰路に付いていたことに気付く。
「え?私なんでここに居るの?」
さっきまで青年が事故に合った道路にいた筈なのに、と思考を巡らせていると5時を知らせるメロディーが流れてくる。
「あれ?時間が経ってない。」
ただ単に驚いた。まるで先程起こったことが頭の中に流れて来たイメージの様だった。
でも、今はそんな事どうでも良かった。
現実どうかなんて分からない。
ただ、私の目の前で起こる悲劇を阻止したかった。
「今から走れば間に合う。」
1人呟き走り出した。
少しすると、道路を横断しようとする銀髪の青年を見つけた。
急いで走り寄って、青年の腕を強く掴む。
「危ないですよ‼︎」
ハァハァと息が上がってしまい、上手く喋れなくなる。
「いきなりどうしたんだい?」
青年は何が起こっているのか把握できず、北春に対して首を傾げている。
その直後、道路を猛スピードでトラックが駆け抜けていった。
「あのトラックに轢かれそうなってたんです。だから、危なかったんです。」
ようやく、喋れる程度まで復活した北春が青年に今までの言動の趣旨を説明しようとしたが。
「大丈夫ですよ。」
青年はそう言った。
「僕は死なないですから。」
え?と、頭の中が真っ白になってしまう北春。
そんな事を言われてしまったら、私の努力は全て無駄になってしまう。
「あっ!やっと見つけた。
晃、どこにいたの?探したんだよ。」
遠くから金髪ロングの6歳くらいの女の子が声を掛け、駆け寄ってくる。
そして、もう1人。
黒髪で私より背の高く年齢も同じくらいの少年もいた。
「俺たちが不条を探してる間に女子高生をナンパとはやり手だね〜〜。」
黒髪の少年に煽られて、不条 晃と呼ばれていた青年は頬を赤らめて
「そそそ、そんな訳ないだろう!」
と少し声を震わせながら叫んだ。
私は、慌てて不条の腕を離した。
「冗談はさて置き、彼女は?」
黒髪の少年は冷静に切り返して、北春に問い掛けた。
「え、えっと、私はその、イメージが、危なくて、掴んで、………。」
全く以て完膚無きまでに話の趣旨を伝えることが出来なかった。
まして言うなら、文章どころか単語すらろくに出て来なかった。
「ぷっ、っはははああぁ。」
黒髪の少年が腹に手を当てて大きく笑い出した。
私は急に恥ずかしくなり頬を赤く染め上げた。
しかし、同時に怒りも込み上げてきて、私が頑張っているのに笑い出すとは何事か‼︎と問い詰めてやろうと思った。
「な、何が可笑しいんですか⁉︎」
私はかなり強気に言ったつもりだった。
笑い過ぎたせいか、涙を手で擦り笑いを抑えた。
すると、黒髪の少年は
「可笑しくなんか無いよ。むしろ、可愛いよ。」
少年のその一言によって、北春はぶり返したように再び頬を赤く染め上げ黙ってしまった。
それが、稲葉 双熾と北春 小雪の最初の出会いだった。




