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星々の消えゆく世界  作者: 山吹 残夏
13/22

12話 病院側

東京都『桜丘総合病院』。


『院長室』にて。


「素晴らしい‼︎‼︎


この記事を見たまえ!


よく書けているではないか。


特にこの「院長の志高い姿勢と病院の環境が奇跡とも呼べる歴史の1ページを刻む事になったのかもしれません。」って、私は鼻高々だよ。」


『院長室』のデスクの豪勢な椅子に踏ん反り、パットを操作しながら、自身が運営する病院の記事を見て、大喜びしているのは、当病院の『院長』である榊原さかきばら しのぶ当人だ。


「当然ですよ、榊原『院長』。


あれだけの大金を握らせたのですから、どの記事も同じような内容ばかりで目劣りしてしまいそうです。」


榊原のデスクを挟んで対するのは、キチッとした服装に背筋の伸びた、出来る男をかもし出しているのは榊原の秘書をしている狩矢かりや なおだった。


「何を言うんだね。


それでも私を褒め称える秘書かね?」


「榊原『院長』のスケジュールの管理を致している秘書です。」


「別に問題ないだろう、嘘を書いているわけではないのだから。」


榊原は自慢げにドヤ顔で太々しく、そう公言した。


「誠に申し上げにくいのですが、その件でお話がございまして…。」


狩矢がそこまで言った瞬間に榊原は驚愕し、突如デスクを叩いて立ち上がった。


「ま、まさか!記者に大金を握らせた事をリークした奴がいるのか?


それは、ヤバい!ヤバすぎる。


そいつは誰だ⁉︎誰なんだ〜〜⁉︎」


榊原は見事に狩矢の話を最後まで聞かず、どストライクの勘違いを始めた。


榊原『院長』の感情の豹変具合には全くもってついて行けず、狩矢は呆れかえっても物も言えなかった。


しかし、榊原コレを放置することは、雑音以外の何物でもないため、渋々訂正を入れる事にした。


「榊原『院長』、御言葉ですが落ち着いて下さい。」


「落ち着いて、落ち着いてなど…。」


榊原が言葉を発しようとする前に狩矢が遮った。


「その件では御座いませんので、どうぞご安心下さい。」


狩矢のその言葉を聞いた途端、榊原はまるで感情が無くなったと感じてもおかしくないくらい、気が抜けていた。


「なんだ、そうか。」


そして、ひょろひょろと膝の関節が外れたかの勢いでガクッと曲がり、先程まで優雅に踏ん反っていた椅子に崩れ落ちた。


「それで?その件とは、どの件だ?」


榊原は力の無い喋り方で狩矢に先程の件を聞き直した。


「それでは、改めまして詳しく初めから話させていただきます。」


そして、狩矢は事の次第を話し始めた。


くだんは本日から3日前の、丁度7月の終わりでした。


当病院の306号室に入院されている、谷上せがみ まどか、10歳、女性、にての出来事です。


彼女の病名は『皆無石蓄積症かいむせきちくせきしょう』。」


別名『逆金属アレルギー』。


この病名は未だ科学的な治療法が確立されてかく、原因も未だ謎のままである為、対策を練る事さえ出来ていない。


『皆無石蓄積症』は名前通り、体内に『皆無石』が蓄積され続ける病である。


しかし、普通の人にも当然、体内に『皆無石』は存在している。


人類は全て『皆無錠かいむじょう』を取り付けて生活をしている為、『皆無石』が体内に溶け込んで、金属アレルギーが発症してしまうケースもある。


しかし、『皆無石蓄積症』は更に酷い。


『皆無石蓄積症』は体内におけるパーセント濃度が下がる事なく上がり続けてしまう。


体外に排出される事は勿論なく、分解させも行われずに溶け込んでしまう。


その為、フェーズ1は金属アレルギー同様に、自身が『皆無石蓄積症』だという自覚も症状もない。


しかし、症状が進行するに連れて、無意識の内に『皆無石』の成分を求めるようになる。


挙句には触るだけでは飽き足らず、直接口から摂取させもしようする患者さえいた。


『皆無石蓄積症』は一種の麻薬に近いと言われている。


その為、強引に『皆無石』を遠ざけると禁断症状とも呼べる『非接触皮膚炎ひせっしょくひふえん』の症状が現れる。


『皆無石』の成分を摂取出来ていないと、アレルギー反応が起きているように皮膚が炎症をおこしてしまう。


これこそが『逆金属アレルギー』の所以ゆえんと言える。


そして、フェーズ2は症状が更に進行すると『非接触皮膚炎』の症状が現れる事なく急性の心肺停止に陥る事例が多発していた。


その為、『皆無石』の成分を摂取させ続ける事で急性の心肺停止に陥った報告は激減したが、結局『皆無石蓄積症』の進行を推進しているようなものなで悪循環からは抜け出すことはできない。


そして、体内の『皆無石』のパーセント濃度が上昇するに連れて、体が徐々に弱り始める。


最後のフェーズ3は『皆無石蓄積症』で弱り続け、最早自分の意思では動く事さえ出来なくなる。


そして、合併症や心肺停止に陥り命を落としてしまう。


この病での致死率は100%であり、発症を避ける方法はない。


能力の発動を抑制できるのは『皆無石』しかないからである。


発症が確認されれば、『皆無錠』は取り外されるものの、毎日管理させた生活を過ごし、少しずつ近づく確かな死に対して、自ら死を選ぶ者も少なくはない。


それ程までに恐ろしく、何の希望もない病が『皆無石蓄積症』である。


「彼女の『皆無石蓄積症』はフェース2まで、進行していました。」


狩矢の淡々とした説明を榊原は飽きたように


「そんなことは知っている。


それで、お前が言いたい事は何なんだ?」


と、極論を求めた。


「はい、私が申し上げたいのは、谷上 円の『皆無石蓄積症』の自然治癒のことです。」


『皆無石蓄積症』はいわば、不治の病である。


今までに自然治癒などという事例は一切なかったのだ。


だからこそ、彼女の『皆無石蓄積症』の自然治癒という朗報が一斉を風靡ふうびしているのである。


しかし、今までに自然治癒とは言わずとも、完治するという事例は一件だけ確認されている。


それは菊田きくた ひなの能力『治癒ちゆ』に施された事による偉業だった。


現代は手術が不可能な難病であっても、医療的能力に長けている能力者がいれば、完治が可能な世の中なのだ。


しかし、いつの時代でも不治の病は存在し、今で言う『皆無石蓄積症』がそれに該当する。


『皆無石』が原因となる病はいくら医療的能力に長けていたとしても、『皆無石』が能力を無効してしまう為、一切手を出せない。


しかし、菊田 雛の能力『治癒』は『皆無石』の効果がない唯一の医療的能力者である。


そして、見事『皆無石蓄積症』の完治に成功したのだ。


しかし、その後彼女が『皆無石蓄積症』と奮闘する事はなかったのだ。


事実、1回の『治癒』の能力を行使して、『皆無石蓄積症』を完治させるのに、膨大な精神エネルギーと体力を消費させており、連続して能力を行使する事が難しいと言われていた。


だが、病院側すればそんな事は関係者なかったのだ。


連続が無理だとしても、『皆無石蓄積症』の完治が可能だという事実が大いなる病院側のポテンシャルになり得るからだ。


だから、当時は病院同士での菊田の取り合いが激しさを極めていた。


しかし、菊田は何処の病院にも就かなかった。


挙げ句の果てには、『セプター局』に就いたのである。


その結果、病院同士のいざこざは沈静化し、何処の病院側でさえ、菊田に手を出す事が不可能に陥った。


理由を挙げるならば2つある。


1つ、菊田は『セプター局』にて、『実務長』、『セプターインヴァリデイト隊隊長』、『皆無石装備研究製作室室長』、『皆無石実験室室長』、『セプター局舎本部監獄長』と、5つもの長を兼任する手腕を発揮し、外部からの影響を抑えられるほどの権力を手に入れた事がある。


2つ、1番大きな要因として、2大財閥間の溝が存在する事がある。


日本2大財閥の『荒川財閥』と『御影財閥』。


『荒川財閥』は政府の中枢と関わりが強く、その他、警察組織、病院関係、教育関係と『流星りゅうせい』が起こる前の機関の多くが『荒川財閥』を中心として動いている。


それに引き換え、『御影財閥』は『流星』が起こったあとの機関が多いものの権力としては決して弱くない。


『流星』によって発生した経済効果は計り知れなく、未だ未知の存在に包まれている。


その最先端を走る『御影財閥』は、『荒川財閥』に並ぶまでのし上がったのだ。


当然、生じる反発は避けられないものだった。


それ程までに深く遠い溝に阻まれた病院側は菊田を諦めるという至極真っ当で当然な結論に至った。


このことから『皆無石蓄積症』が自然治癒する、治ることは、医学的にも能力的にもあり得ない事であった。


すると、狩矢は突如、話を一転させた。


「話は変わりますが、榊原院長は数日前に発生した『ビッグエッグ』の強奪事件をご存知でおられますか?」


「知らん‼︎」


榊原は一言で一掃した。


「そんな小さいニュースは我が病院の偉業に比べれば小さ過ぎて、気にも止まらないぞ。」


「左様ですか。」


狩矢はあからさまに溜息を吐き、呆れたと言わんばかりに頭に手をあて、首を横に振った。


「それでは話します、いえ、話させていただきます。


その事件の首謀者は谷上せがみ 氷弥ひょうや


この男は谷上 円は実の兄にあたります。


その犯人を拘束したのは『セプター隊』の稲葉いなば 双熾そうしとされています。」


「あの忌まわしき『セプター局』が‼︎


しかし、その兄も実に滑稽だな。


どうせ、『ビッグエッグ』で『皆無石蓄積症』の治療費でも稼ごうとしたのだろうが、自然治癒してしまうのだからな。」


榊原はカッカッカ〜と悪代官の様な形相で笑っていた。


「それでは、話を戻します。


谷上 円の『皆無石蓄積症』の自然治癒が発覚した祭、彼女は担当の看護師に友達が遊びに来たと話していた事が報告されました。」


「そんなもの、夢でも見ていたか、ただの嘘だろうが。


気にするに足らんぞ。」


と、榊原は否定する。


「はい、私も初めはそう思い気にもしていませんでした。


それに、3階廊下の病室のドアが見渡せる防犯カメラにも谷上 円の病室、306号室に出入りする者は担当の看護師以外、存在し得なかったです。


ですか、他の監視カメラを見た瞬間、私は衝撃を受けた気がしました。」


「おい、狩矢。


もったいぶらないで、早く話せ。」


「非常階段の監視カメラに稲葉 双熾の姿が映っていました。」


狩矢が話した途端、2人しか居ない院長室が静まり返った。


「だから、なんだと言うんだ?」


榊原は狩矢が気付いた重要性を一切理解していなかった。


「非常階段の監視カメラに映っていた稲葉 双熾は3階の監視カメラの死角で姿を消しています。


しかし、3階の廊下の監視カメラには非常階段のドアが開くどころか、稲葉 双熾の姿さえ映っていませんでした。


しかし、その後他の患者がその非常階段を通り、3階の非常階段のドアを開けて出て来たのです。


その患者がいなければ、監視カメラの死角に隠れているだけ、という可能性が残されます。


ですが!その患者が通ったことにより、稲葉 双熾は忽然と姿を消したことになります!」


狩矢は柄にもなく熱くなり、息が荒くなってしまう。


「ここからは憶測になりますが、この谷上兄弟に稲葉 双熾という男が関わっているとしか考えられません。


それに、もしかしたら『皆無石蓄積症』の治癒にさえ、関わっているかもしれませんし、菊田 雛についても何か関係している可能性さえ出てくる。


更には、これを利用して菊田 雛を病院側に引っ張り出せるかも知れませんよ!」


狩矢の最後の一言で榊原の表情が変わった。


「そ、それは本当か⁉︎


これで『皆無石蓄積症』の治療手段が手に入れば、『医師会』の会長の座も夢ではない‼︎


あは、アハは、アハッ、アハハハハハ‼︎」


榊原は勢いよく立ち上がり、天を仰ぐ様に手を広げ、目を見開いて高笑いを続けた。


「榊原『院長』、北春『会長』へのご報告はどうなさいますか?」


すると、急に榊原は冷静に戻り、


「この事は内密に行え。


当然、北春『会長』には知らせるな。


だって、その席には俺が座ることになるだろうからな〜〜!」


そして、その後榊原の高笑いは続いた。



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同日、『医師会本部』、『会長室』。


会長の名は北春きたはる ゆう


北春きたはる 小雪こゆきの実の父親にあたる人物である。


『医師会』は『荒川財閥』における病院関係を統率する組織、そのトップである『会長』の席に座るのが北春 優になる。


すると、ドアに勢いよく、慌てた様子の伺えるノックが3回鳴った。


「入れ。」


対象に優は落ち着いた声で入室の許可を出した。


ドアからは慌てた様子の部下が急ぎ足で優の元に駆け寄り、


「申し訳ありません‼︎


『セプター局局長』を見失いました‼︎


今もなお、全力で捜索していますが、未だ足取りさせ掴めておりません。」


と、勢いよく頭を深々と下げ、謝罪した。


しかし、優はまるで全て見通していたかの様な表情をしていた。


「そうか、 それでは引き続き捜索を続行してくれ、以上だ。」


優はあくまでも落ち着いていた。


部下は短く返事をして、すぐさま『会長室』から退室した。


その後、優は短い溜息を吐いた。


「やはり、何かを掴んでいたのか。


急がねばならぬな、手遅れになる前に。」


優は自身への戒めの如く、そう呟いた。











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