金こそこの世の常という奴は現実主義か薄情者。僕はただのイケメン
前回のあらすじ:鍋子発情。僕の貞操は守られる。
鍋子は顔を真赤にして、耳と両手で顔を隠していた。
無理もない。暴走したのもマウントしたのも、
全ては自分の意志なのだから。
「しかし、腕枕は恋人にされたら必殺だが、
僕みたいなイケメンが使えば、最早昇天だな」
「穴があったら入りたいよぉ……」
それでも僕から離れようとはしない。
全く、可愛いやつめ。
そうこれだよ。
出来れば現実でやりたかったこの、
イチャイチャ!!!
全て遠き理想郷と思っていたこの出来事も、
現実だ……。今これこそが、現実なんだ。
「ところで鍋子。……なべこー?」
「ふぁい!! 何、なにかなリョータ!」
顔は赤面。体毛はピンク。
まずい、発情しそうだ。話題をそらさねば。
「僕がとりあえず欲しいのは、
相応しい服装。及び武器。
あとは設立資金だ」
「……防具と武器はわかるけど、
設立? 設立ってなに?」
「あんなダッサイ刻印嫌だから、
自分で組合作るんだよ。
いわゆる冒険者の集いだな」
僕が思うに、一攫千金のダンジョンに潜るのには、
それなりの危険が伴う行為だ。
僕が戦闘面でイケメンだとしても、それは変わらないだろう。
だから安定収入を選ぶ。
そんなの現実社会と一緒だ。
異世界らしくダンジョンに潜るのは、
王道と言っていい。ソッチの方がカッコいいからな。
「冒険者集団でダンジョンに潜る。
装備などをゲットする。
どうだ、バッチシだろう?」
僕の完璧な計画を、鍋子は良しとしなかった。
「リョータ、その……ダンジョンのこと、
良く知らないでしょ?」
「え? どういうことだ?」
「ダンジョンはね、すっごく怖いところなんだよ?」
マークシアにおけるダンジョンは、
いわゆる地球で言うところの鉱脈か温泉、油田の発掘に近い。
最初に見つけたものはそのダンジョンの所有者となり、
入場料などを決めることが出来る。
そしてダンジョンは気まぐれで、
入るたびに形を変える。
魔物の出現傾向以外は、
罠の配置すらもランダムだ。
地図に記述しても、
階段を降りて上がれば、また変わっている。
宝はダンジョンが生み出す、魔力による産物だ。
本来魔物や罠にあてられるはずの魔力が変質し、
宝箱になるのだという。
ほぼ無限に湧きだす魔力の根源もわからず、
ただ利益のために独占する輩も多い。
しかし、欲をかいた者はいつしか、
ダンジョンに食われてしまうのだという。
「ダンジョンが用意するお宝って、
大体危ないところにあるの。
取ろうと欲張って下層に行くと、
戻れなくなるんだって」
「まるで生き物みたいだな」
だが、お宝は魅力的だ。
どうにかして手に入れたい。
出来れば成金に思われない白金の装備!
高貴さや強さを表すレッド!
ううん、迷うな……。
「鍋子は潜ったことはあるのか?
というかこの近くにダンジョンはあるのか?」
「あるけど……結構ぼったくる奴等が管理しているから、
入れなかったわ」
「じゃあそこに行くぞ。
お宝で装備を整える」
「……え!? あの、リョータ!?
危険だってば!」
「残念ながら待てない。
……あ、その前に済ませておかなきゃならないことがあった」
直ぐ様ゲートを展開、昨日の集落へ鍋子とワープ。
検問を出てから、即座に鍋子の家にワープ。
「忽然といなくなったら怪しまれるだろうからな。
これなら問題ない」
「『野宿したんかお前ら』と笑われたけどね」
鍋子を担いで走る僕。
道案内通りに進むと、なるほど。
大きくポッカリと空いた穴があり、
如何にも「ダンジョンです」と主張してくる。
その傍らには豚顔の魔物が……うげえ、
視界に入れたくない……。
「お゛、客か!?
久しぶりの客だぁ。
1回潜るのには1000bl払え。
この価格は破格だど!」
「……1000blというと、何が出来るんだ鍋子?」
鍋子は自分の槍をズイと差し出す。
「行商人から500blでこの槍が買えた。
市販されている槍は2000blだって言ってた」
まあ中古品ならそうなるな。
つまりは鍋子の槍が2本買える程度の値段か……。
「なあ、そこの不細工」
「あ゛ぁん!? このモテ顔捕まえて不細工だあぁ!?」
「黙って聞け不細工」
「喧嘩売ってんのかぁああんんくらああ!!?」
やれやれ……イケメンでもないのにイケメンだと言う奴等ほど、
見苦しい物はない。
「今、僕たちは無一文だ。
何もない、空手だ。持っているのも紙切れ一枚だけ」
「冷やかしかよぉ!? 帰れ、しっし!」
「まあ待て。そこで相談がある。
タダで潜らせろとは言わない。
僕と連れの二人分……その倍額の4000bl分の稼ぎを、お前にやるよ。
後払いってやつだ」
「それを守るっていう保証はどこにある!?」
「ないね。まあ、別にいいんだよ?
たまたま近場だったからここに来ただけなんだからさ。
別のダンジョンでも構わない。
……どうする? どうせ失敗しても僕らが野垂れ死ぬだけだ。
デメリットなんて何もない。そうだろう?」
豚顔はしばらく考えると、
渋々承諾した。
「オラは鑑定スキルを持っているど。
ちょろまかしはきかねえからなあ!」
「感謝するよ。任せろ、イケメンは嘘をつかない」
僕は早速ダンジョンへと潜る。
鍋子は周囲を警戒しながら続いた。
ダンジョンは地下一階。
階段を降りた僕達を待っていたのは、
土の色がする壁が続いていて、灯りなしには進めないほど暗いダンジョン。
地面も土。壁に触ると感触は……ただの壁だな。
「煉瓦製かな? まあ、頑丈なダンジョンだな。
……さて」
【ライト】
【マッピング】
【鑑定】
2つのスキルを習得。
まだまだポイントは残っている。
僕についていた呪いスキル【薔薇の誘い】だけど、
よく考えれば純粋なホモと、
女性に付いていればこの上なく強力なスキルだったな。
何せ男が寄ってくるんだから。
そう考えると高額で売れるのも納得だ。
「鍋子。その耳で周囲の音を拾えるか?」
「や、やってるわ」
体毛が若干青いな。
女の子をリラックスさせるのもイケメンの義務だが、
今はそんな余裕はない。
「さて、地下1階と2階の行き来をするぞ」
鍋子の話では、ダンジョンは内部で上がったり下がったりしても変化があるらしい。
ならば深くはない地点で行き来できれば、
問題なく宝物を回収できる。
……問題なのは宝物の単価と出現率だ。
多分、魅力的なお宝が取れるダンジョンならば客も多いだろうが、
ここは辺境。そして僕の交渉にあっさり乗ったのを見るに、
客は少ない。どころかいない。
いわゆる外れダンジョンの可能性があるってことだ。
「待ってリョータ! いる……あっち!」
「いるって、誰が?」
大体の察しはついていたが、
薄暗い空間から現れたのは赤い瞳の……。
『しぎゃぁああ!』
大きなネズミだった。
大きさは30cm程度だ。
……雑魚だな。
「鍋子、頼めるかい?」
「オッケー!」
槍術は我流ながらも、
食べられないために相当の訓練を積んできたのだろう。
鍋子は俊敏な動きでネズミとの距離を詰めると、
槍の有効射程距離を見据えたうえで一突き。
ネズミの胴を貫いた一撃は致命傷だったのか、
痙攣を起こしてネズミは死んだ。
……と同時に、黒い霧になって霧散する。
「……なんだこれ?」
「さぁ? 私にもさっぱり……」
どうやらお金は落とさないようだ。
魔物を倒して金稼ぎは出来そうにない。
「倒すメリットはなさそうだな。
先に進むぞ、鍋子」
ダンジョンはまだ始まったばかりだ。
さっさと終わらせて、日の当たる場所に帰りたいと僕は思うのであった。
次回予告:成り行きでダンジョンに潜った2人を待っていたのは、大量のネズミ。そして大量のお宝だった……が。「けやきの棒」「麻の盾」「鉄下駄」ろくな宝が出てこない! こうなれば更に地下に潜るしか無い! 決断の時だ、イケメンらしく行け! 次回イケメン探索クラブ『ロクデナシトレジャー』君は、落涙する(嘘)。