お金が無いなら彼女の手料理を食べに行くとか行って好感度を上げるという一挙両得
「ここが組合か」
鍋子をおんぶしたまま、組合の前に立つ僕。
そこは珍しく、木製で作られた建物だ。
頑丈さはないものの、
周囲の建造物に比べて見栄えがいい。
ここだけ文明のレベルが違う。
「そうよ。『依頼斡旋解決連合』通称『組合』」
「今の名称のどこに組合の要素があった?」
組合の中に入れば、多くのならず者や身奇麗な奴がいた。
人型率が高い。
「へえ。案外静かなもんだな。
もっと喧しいところだと思ってたよ」
「リョータの中で組合はどういうイメージなのかな?」
とりあえず観察する僕。
内装は綺麗だ。掲示されている案件も、
日雇いだったり長期に渡る護衛だったり、
様々用意されている。
仕事待ちの奴等は大人しく待っているし、
事務的な場所だ。もっと賑やかなところだと思っていたのだが……。
「鍋子。組合に入るにはどうしたらいいんだ?」
「試験と、肩に紋章を刻むことが必要になるわ」
「……紋章?」
待っている奴の肩を見ていく。
確かに、右肩か左肩のどちらかに、
ダサい形の紋章が彫り込まれていた。
「あれには魔力が込められていて、
依頼達成、依頼放棄などの情報が読み取れるようになっているの。
他の集落に行っても容易に活動できるし、
組合内での身分証にもなるわ」
「なるほど理解した。僕は組合に入らない」
「……え?!」
驚く鍋子だが、構わず僕は踵を返して集落を練り歩くことにする。
「な、何で?」
「鍋子。イケメンは顔だけじゃない。行動だけでもない。
心技体合わさって初めてイケメンなんだ。
その内もっとも大事なのは何か、わかるか?」
「えっと……心?」
「体だよ。もっとも大事なのは。
心がイケメンでも、初対面の時に触れるのは顔。
つまりは体だ。
体を大事に出来ない奴は、ファースト・コンタクトで失敗する。
心がゲスとかでも、顔がオッケーならば、
とりあえずモテるんだ。……続く可能性は低いけどね」
しかしそうなると今晩は野宿確定だ。
一刻も早くお金がほしい。
そういうスキルはあるみたいだが、頼りたくはない。
何故なら女の子が男を選ぶ時のポイントの中に、
経済力というのが存在するからだ。
稼ぎに関しては安易なスキルに頼りたくない。
「ねえリョータ? お金を作ればいいの?」
「そうだ。……身売りとかするのか?」
「体毛を売れば少しはお金になるって聞いたことがあるの」
「却下だ馬鹿。さっきあれだけ熱入れて説教したのにまた繰り返すか?」
引くかと思ったが、鍋子は食い下がった。
「だってだって! 少しでも役に立ちたくて……」
「前回も思ったが、鍋子、お前急にしおらしくなったね。
どうした? なんか悪いものでも食べたのか?」
「草しか食べてないわよ!?
……自分よりも強くて離れられない雄なんだから、
その……ね?」
「(離れられない呪いはないって話してあるんだが……)まあ、
そのへんは今度ゆっくり話すとして……」
空を見上げれば、もうそろそろ夕焼けだ。
この世界にも夕方とかの概念はあるようだ。
周りも夕飯の用意で忙しいのか、
慌ただしい。
「このままじゃあ夕ご飯何もないよ?
私は平気だけど。リョータはもう限界でしょう?」
「確かに。イケメンを保つためにも食事は必須だ。
……そういえば鍋子。お前は家とかなかったの?
ここまで連れてきた僕が言うのも何だけどさ」
「家というか隠れ家的なものならあるけど。
食糧も少しだけ備蓄しているし」
「よしそれだ」
僕の選択肢に新たなものが加わった。
そうだ。ゲームにおいて重要な魔法を1つ、
スキルスクロールから選んで……。
「鍋子。隠れ家は何処にある? 覚えているか?
それをイメージしてくれ」
「イメージ? ……ええっと……」
スキルポイント7500もかかる高額スキルだが、
致し方ない。今後も重要になりそうなスキルだからね。
「リョータ。イメージ出来たよ」
人目につかない場所まで行き、
魔法を唱えた。
【ゲート】
僕のイメージした場所に瞬間移動する魔法だ。
今回はおんぶしている鍋子のイメージする場所を移動先に設定。
瞬間移動ってすごく便利ではあるが、
レベル1なので色々難点がある。
まず時間。瞬間移動すると、目標地点にいくまでに60分ほどかかる。
その60分の間、僕と、移動する対象は何も出来ない空間に放り出される。
移動距離も、最低でも500m以上離れていて、
最高で300kmの距離までしか転移できない。
また、イメージが不安定だと事故をおこす。
異空間に放り出されて数十年後の未来に現れるとか、
もしくは全く違う場所に移動したり、
深海で圧死、空の果てから落下。
そういうことも起こりうる。
スキルレベルが最大になれば、タイムラグもなくなり、
移動距離制限も開放されるものの、
必要スキルポイントが20万を超える。
僕と鍋子が目覚めた時、
そこは先程までの賑やかな場所ではなく、
掘っ立て小屋のような家のある静かな場所だった。
木々と草むらで覆い隠されていて、
見つけにくくなっている。
どうやら60分の経過する間は、
気絶しているらしいな。
「私の家。え、えええええ!?
何でここに、リョータ?! 何したのアナタ!?」
「瞬間移動だよ。難点ありありだけどね」
とりあえず寝床は確保できた。
山菜などを得ることが出来れば、
食うには困らないはず。
「おじゃまするぞ鍋子」
「え、ええ? あ、待って、汚いから家の中!」
とか言いながら、家の中は綺麗だった。
汚いというのはどういうことなのか。
汚部屋とか見たらどういう反応するのか鍋子は。
「一応僕も入れるサイズの家なんだね?
無駄にデカイし」
鍋子の家だからサイズも小さいだろうとたかをくくっていたけど、
案外デカイ。僕が普通に入れるし、中も広い。
「外敵がここを見つけても、
『大きな生き物の住処』と錯覚させれば、
何もせずに帰ると思ったの」
「なるほど。広いし、ベッドもデカイ」
「リョータはそのベッド使って。
私は床で寝るから」
そうはいかない。
女の子に雑魚寝させるくらいなら僕が寝る。
……ん、待てよ?
「鍋子。一緒に寝るぞ」
「……え゛?!」
長い耳が真っ直ぐに立つ。
体毛が淡いピンク色に染まる。
鍋子のこういう正直なところは素直に好感が持てる。
「イケメンである僕だけど、
女の子と寝たことはないんだよね。
いざというときリードできなきゃカッコ悪いし」
「で、でで、でもダメよ!? ダメ!
そんなのだって、私」
「何事も練習だよ練習」
「ダメだってばリョータ!?
練習でもダメ! だってそんなことしたら私……私!!」
ダメと言いながら体毛はピンクだ。
怒ってはいないようだな。
鍋子との出会いはアレだったけど、
惚れられた以上は無碍にしない。
女の子の期待に応えるのも僕の勤めだ。
簡単な夕食を済ませた僕と鍋子は、
歯磨きの後、ベッドに行く。
「……2人だと少し狭いか」
やってみたかった、腕枕!!!!
イケメンのたくましい腕を枕にしたら、
女の子は誰でも惚れるという、伝説の技。
僕がそれを使う機会など無いかもしれないと思っていたが、
これは……良いものだ。
鍋子はさっきから耳を丸めて真っ赤にしている。
「鍋子。腕枕は初めてか?」
「……」
「そうか初めてか。初々しくていいことじゃないか」
「……」
正直僕は今、すっげえドキドキしている。
余裕が無いから喋っている。
鍋子は兎、獣人間だ。
でも言語は通じるし、
顔立ちも体つきも小さい女の子と相違ない。
(体毛がもふもふしているけど)
人間じゃないという暗示は意味などなく、
僕の心臓は破裂寸前にまで高まっている。
良かった。事前演習はやはり大事だ。
「や……やっぱりダメ……駄目だよリョータ」
フラフラと起き上がってベッドから離れようとする鍋子だが、
僕はその手を握った。
「悪い、もう少し僕にこの、腕枕の幸せをくれ。
わがままなことだから嫌気が差していると思うけどさ」
「……だって、私……」
「頼むよ鍋子」
「………ぁ゛ー!!!」
鍋子が吠えて、
跳躍。僕の腕に……じゃなくて、仰向けの僕の腹にダイブした。
「なんなのリョータ! 腕枕って何!?
こんなに死にそうになったの初めてなんだよ私!?
恥ずかしくて嬉しくて死にそうになったの初めてなんだよ私!!!
鍋子って何度呼ぶの!!? 本名じゃないから最初不満だったけど、
ニックネームって愛情みたいなもんじゃないかもおおおお馬鹿ああああああ!!!」
えらく興奮した様子の鍋子が、マウントポジションのまま僕にまくし立てる。
体が発光寸前のピンク色だ。目は明らかに充血しきっている。
「お、落ち着け鍋子!! 僕が悪かった!」
「こ、子供って、一緒に寝てたら勝手に出来るんだってママが言ってたわ!
その意味理解したわ、こんな、こんなに愛情ぶっこまれたら、
私もう駄目に決まっているじゃない! 繁殖したくなっちゃうじゃない!」
不味い……兎の性欲は尋常じゃないとか言うの、
今思い出した……。
「私を助けて、その上あんなカッコいいこと言われてさ、
山の中一人頑張って生きていた私に、
私にどれだけ衝撃だったかわからないでしょうリョータ!
産みたい、リョータの赤ちゃん産みたい!!」
「てい」
急所突き。鍋子は気絶した。
朝まで起きないようにするべきだなこれは。
「しかし参った……僕の軽率な行動が、
鍋子をモンスターにしてしまった……」
今後鍋子を引き連れて旅をするにあたり、
過度に刺激するのは控えたほうがいいな。僕はそう思ったのであった。
次回予告:清楚なウサギだと思ったら鍋子と言う名前。ポンコツ兎娘かと思ったら淫獣に昇格(降格)。鍋子のキャラ……どうか安定してくれ! 大丈夫、この作品は本番行為なしの健全なR-15小説! R-18以外の雑誌でやれることしかいたしません! 次回イケメン百鬼夜行『会社設立!』成り上がりと権謀術数な政治小説にクラスチェンジするか!?