金さえあれば強くなるかもしれないけど実力がないと置物確定な件
その後の買い物はスピーディに行われ、僕の買い物はいち早く終わった。
魔法を軽減する実用性抜群の赤きマント(8万bl)。
軽いながら魔法がかかっていて見た目以上に頑丈な通気性のいい鎧(14万bl)。
イケメンなら持っておきたい長剣(40万bl)と、剣先から楕円形の結界を放出して盾に出来る魔法のナイフ(24万bl)。
ちなみに、長剣は戦闘中になると微細振動で切れ味もバツグンらしい。
そのカッコよさ……やはり良いモノだ。
ちなみにこれだけ買っても、靴を含めて87万blで収まった。僕の買い物が一番安かったのだ。
一点物で140万という途轍もない買い物をした鍋子は、その後も良いモノを見つけていった。
一定速度以上で突くと雷撃が奔る魔法の槍、その名も【雷撃の槍】(24万bl)。そのまんまのネーミングで僕は困惑している。
体全体に微弱な結界を放つ紫色の【マジックスカーフ】(9万bl)。
受けた衝撃を跳ね返す【衝反パンツ】(10万bl)。赤色で、鍋子の白い体毛の上から履くので中々目立つ。V字のパンツは、どちらかと言えば水着に誓い。
ちなみに今まで装備していたものは、後で燃やすのだそうだ。誰かに浸かってほしくないという。まあ、それそうだな。
「私はこれだけでいいよ。もう十分買ったからね!」
一歩進み、空気を踏み固めて跳躍後の一回転。人が見ているが、鍋子は僕に笑いかけた。
「役立たずになんかならないからさ、これからも一緒にいよーね!」
スフレちゃんの好意表明とは、また違った趣が鍋子にはある。なんというか、スフレちゃんの好き好きアピールは少しばかりのけぞってしまうが、鍋子のは頭を撫でてやりたくなる衝動がある。勿論、僕は本能に忠実になって鍋子の頭を撫でた。
「――! ……えへへ」
まんざらでもなくテレ顔を見せる鍋子を更に撫でていると、スフレちゃんが鍋子に恨めしそうな視線を向けていた。
「これは、なんだこれ……かっけえ!!」
アイリは黒紐のせいでまるで痴女のような姿をしているが、意に介さず商品の物色をしていた。その中で見つけたのは、角だった。
白くごつごつしているが、どこか神秘性の感じられる角。
「ユニコーンか何かの角かな?」
「ご名答です!」
商人は驚いたが、見ただけで値段がわかる【鑑定】スキル保持者の僕を舐めてもらっては困る。ただの角なら、【90万bl】という大金にはならない。
「装備すると何かありそうだね」
「その通りです。感覚が鋭くなります。試しに付けてみますか?」
アイリは嬉々として角を装着した。額から生やしたような角。今のアイリはオークというよりも、聖獣のような神秘性が……。
「体つきのせいで皆無だな」
「ひでっぇえな旦那!?」
おや、ぼそりと呟いた小さい声のはずなのに、アイリにはばっちり聞こえたようだ。
「……なんだこれ、聞こえる、聞こえるぞ!? うぉおお、すっげえええ! ……」
アイリの角は、それ自体が魔力を有していた。額から送られる魔力の流れで、本当に感覚の鋭敏さが跳ね上がっている。
肉弾戦における瞬発力や勘の冴えなどに上方修正を加えるであろうこの品はアイリにふさわしいかもしれない。
「てめえ、アタイの体がいやらしいだとぉあ!?」
「ひぃいいいい、何故分かったのぉおおおおお!?」
だが、何か言ってしまった通行人に絡むのはやめてほしい。そんな恰好をしているからだよアイリ。
「これ、いくら?」
値段は知っているが、あえて聞く。
「はい、125万blです!」
「……少しだけでいいんだ、120万にしてくれないかな?」
「え? えっと……そうですねー。じゃあ、124万」
「123万」
「……むぅ、中々やり手ですかねお客様。では123万で手を打ちましょう」
何故90万にしないとか思った人は、商人の懐事情を知らないな?
僕が提示していた90万というのは、原価90万という意味だ。仕入れ価格と同額で売るとか、そんな商人どこにいるっていうんだい。
第一、125万でも相応に安いと思う。僕は皆の装備品の値段も逐一見たけど、ぼったくり価格の品は1つとしてなかった。
それでも僕らの懐事情もあるから、相手も多少は値引きしてくれる。多少は。
このシーソーゲームは難しく、傾くことがあったとしても、傾きすぎは信頼を損ねる。
……僕の店はどうだったかって? 全部の品に2割色付けて販売してたよ。
「アイリ、喧嘩はご法度だぞ。その角はいま購入したから、早くいくぞ」
「マジでか!? ありがとう旦那! いやーこの角気に入っちまったよ!」
ぼこぼこにする一歩手前でアイリは相手を放してやった。相手は恐れおののきながら去っていった。
「そういや旦那。アタイまだ武器見つけていなかったわ」
「それが第一目標だったもんね」
鉄の金棒でも十分強いアイリだけど、あれは応用力にかける。近接戦闘以外の戦いが出来れば……。
「ねぇねぇ。可愛い斧があったよ!」
「え?」
鍋子がぴょんぴょんと跳ねながら指さした先には、なるほど、ピンク色で小型の斧があった。
「……なんじゃこれ。玩具かな?」
「結構な魔力を感じますわよ」
「ようこそ、斧専門店へ!」
今までの商人と風貌は大体一緒だけど、威勢の良さが段違いだ。
「斧専門店ってことは、斧しか売っていないのか」
目を凝らして可愛い斧を見てみると、値段は……30万!? こんな玩具みたいな斧が!?
「その驚いた顔、値打ちが分かったみたいだね。しかし、大抵の人は斧じゃあなく、剣。圧倒的に皆剣を選ぶ。何故か!?」
「何故だよ!?」
アイリが食いついた。スフレちゃんはついていけないと、周辺の商品を物色しに行った。僕もこのノリは正直苦手だ。
「斧は、一撃のロマンがある。鎧だって破壊できる重量がある、だが、剣みたいに器用に立ちまわれねえ。斧はあくまで斧であり、それ以上には成りえない。だが、だからこそ、オンリーワンの強さというものが存在するのさ!」
「わかるぜ! 重くて強いは大正義だよな! アタイも今まで金棒使ってたしさ!」
なんだか変な方向に話が進んでいるぞ。
「だからさっぱり売れねえんだ! 斧マニアがたまに来るけど、高いって言いやがる! その斧だって、30万って言ったら目を飛び出しやがった!」
「この斧さ、軽いな、10kgしかねえし。手斧だろ、値段はいくらだよ?」
「原価30万で、売値は44万だ!」
「たっけえ!? 何で高いんだよこれ!?」
なんで原価も伝えているんだよこの商人は!?
「そいつぁ優れものだぞ! 投擲の斧だが、何と当たったあと帰ってくるんだ! 手元に、勝手に! 試しに投げてみろ」
えいやと、アイリは地面に投げつけた。地面に刺さらずガランガランと可愛くない音を出した後、発光してアイリの手元に帰ってきた。
「投擲用斧は2000くらいが相場だが、何本も持つのは重いし効率が悪い。だがその【妖精の斧】は、一本ずつしか投げられないがほぼ無限に投げつけることが出来る!」
「すげえ! 遠距離武器欲しかったんだよアタイ! ほ、他には何かあるか!?」
遠距離戦も出来るようになった。これは強い。アイリは次の戦闘で、鬼神のような強さになると思う。
「他……そうだな。お嬢ちゃん、どれくらいの重さなら余裕で持てる?」
「え? うーん、80かそこそこかな? もう少し重くても良いぞ」
「ダメだ、80で収めておきな。それ以上は持っているだけで負担になるし、十全に使えねえだろう。だったらこの品だ!」
エメラルドの斧だ。柄の長さは鍋子の伸長くらいで、柄を中心に両側に刃が出ている。見た目にも重量的にも迫力満点の品だ。意匠が魔法言語で示されていて、何かしら魔法効果があることがわかる。
「魔刃チョッパー……この斧の名前は、魔刃チョッパーだ!」
「強そうだ……」
さっきからアイリのテンションなんなんだよ……。
「これは魔法を効率よく伝道して反射させる業ものだ!」
「いくらだ!?」
「原価100万を140万で売っていたが、お嬢ちゃんになら128万で売ろう!」
「買ったぁ!」
「まいどありぃ!」
疲れる……時間にして2分もないはずなのに、僕は滅茶苦茶疲れた……。
128万と、42万で、170万bl。超高額の買い物だが、アイリが納得しているから文句はない。
「終わりましたの?」
「今終わったよ」
「おつかれさまですわ」
心中察してくれるスフレちゃんは本当に癒しと思う。
僕 87万bl
鍋子 187万bl
アイリ 313万bl
スフレちゃん 100万bl
スフレちゃんはいつの間にかフリル付きの可愛らしい法衣と、魔力を注ぐと追尾して乱打する鞭を購入していた。ちゃっかりしているなあ!
まだお金に余裕はあるけど、僕らはサモンハウスを引き連れてダンジョンに潜りに行った。早速装備の性能を見てみたかったからだ。
「しばらくこもるのは御免だ」
という主張を尊重し、僕らは日帰りで潜った。
結果を先に言うなら、比類なき強さを得たと言って差し支えない。
鍋子は空中殺法を会得し、空中ダッシュや天誅突き(地上に向けて加速して脳天突き)、空飛ぶ敵なんかは高速突きからの雷撃発射で諸共感電して堕ちる。
強靭な脚力からくる爆発的加速を、地面以外でも発動できるので、目で追いきれない場合は即首が飛ぶほどの危険性を持っていた。
突きや払いで電光が走り、暗いダンジョンを明るく照らし出す。その明かりに目がくらんだ相手は、即刻餌食になっていた。
地上ではアイリが無双している。魔法攻撃に対して斧を羽子板のように振るい跳ね返している。寄れば問答無用でたたっ斬るし、魔法による防御力向上に対しても、魔法ごと叩き斬るというありさま。目に毒な体を惜しげもなく揺らしたりくねらせたりしている間に、どれだけの敵が死んでいったことか。
鋭敏になった感覚と、軒並み上昇している身体能力が相乗効果を与えていて、もはやオークではなくオーガ……いや、トロールとかよりも強いかもしれない。なんにせよ、今のアイリに近距離戦闘は僕ですら挑めない位には強い。
相手もそれを察して遠巻きに弓などを使おうとしたが、当たらないうえに妖精の斧による猛撃でバタバタと倒れていく。
「平和ですわね」「うん」
僕とスフレちゃんは何もしなかった。する必要がなかった。お金を惜しみなくかけた甲斐はあった。これならここのダンジョンは既に敵ではない。
……なら、そろそろ行くか。隕石の落ちたダンジョンへ。
次回予告! アルメーシャの街といえば隕石のはずなのに未だ誰もクリアできないそのダンジョン。強くなったリョータたちは、ついにおれつえーを成すことが出来るのか!? というかこの長編に入って未だスキルスクロール使っていないのだけど存在は覚えていますか!? 次回【隕石とお騒がせ姫】痴女と化した野獣なアイリはどこへ行く!




