RPGのだいご味といえばこれだろうね
店を開いて5日が経った。
僕らが売り上げた値段は総計1000万bl。
売れすぎ? ご都合主義? 失敬な。ダンジョンの中で朝から晩まで狩り続けて6日過ごした僕らだぞ? フロアボス以外にも宝箱を入手することは結構あるし、それが数万blの価値を秘めていることだってある。
「で、どうするよ旦那。この金の山、何に使う?」
サモンハウス内に蓄えられた資金。この街にきて10日で手に入れた金の山。心が躍るけど、パーッと使おうという気にはならない。
「……アイリ、金棒がそろそろ限界だって言ってたよな?」
「んあ? ああ、そうだな。ジャストサイズだけど、何というか威力が物足りなくなった感は否めねえ」
「だったら装備だね!」
鍋子が挙手&提案した。装備……そうだ、RPGの基本だな!
「強い敵が出てきたことだし、ここらで装備の新調をするか」
僕もそろそろ剣が欲しいと思っていたところだ。ナイフも良いけど、最近威力に不満が出てきた。それにマントなんかはもう先がぼろくなっている。
「そうですわね。在庫ももうありませんし、店仕舞いしましょう」
かくして、僕らの店は8桁の売り上げを叩き出し、店仕舞いをすることになった。まあ、また在庫が出来たら気軽に店を開けるし問題はないだろう。この貸店舗のオーナーがいる場所に赴き、僕らは事情を説明した。
「ありがとう君たち!」
開口一番、オーナーのおじさんは僕に握手をしてきた。脂ぎっていて身の毛がよだったけど、「僕は紳士的かつイケメン」と心の中で数十回唱え続けて平静を保った。
「君たちが短期間でこれだけ売り上げてくれたおかげで、あの店舗の人気がうなぎのぼりだよ!」
どうやら貸店舗には色々と要素があり、どれだけの期間でどれほどの売り上げをあげられるかというのが最大の指針になっているそうだ。まあ当然だろうね。過去の売り上げが芳しくない貸店舗なんて誰も求めないだろうし。
あそこは人通りはよかったけど、過去の商人たちは上手い事売り上げを伸ばせなかったみたいだった。
人気ある貸店舗は月金を高めても人が押し寄せるが、そうでないなら月金を安くするしかない。
【月金安い=何か事情のある店】というレッテルを張られたら、貸店舗を畳むこともありえただろう。
なるほど、僕がイケメンでみんなが可愛いから、まとめてメシアになったわけだ。いつの世もイケメンは世界を回せるんだね。
「ああ、5日で1000万……確かに凄まじい実績、素晴らしくて涙が出る、ありがとう、ありがとう!」
手が汗ばんでいるぞキモイキモイキモイなんで男の手はこんなにキモイんだよもう嫌だ離れろ離れろ……!!
と言うわけで僕らはオーナーに話をつけて、装備品新調のために露天商へと繰り出した。様々な物が売っている上に活気もあるから、いるだけでも楽しいこの空間。母さんと行った近所のお祭りを思い出す。
「うっそ、売り切れ!? マジかよ……マジかよー……」
目を付けていた酒がなくなっていたことにショックを隠せないアイリを僕とスフレちゃんはスルーした。鍋子だけが慰めて、泣き出したアイリに力強く抱きしめられて骨の何本かを折っていた。あ、回復はしといたから大丈夫。
「先ずは武器ですわね」
「皆何を買うかはイメージついているの?」
「あー。アタイはやっぱり重量装備だな。けど魔法にも対抗できるものが欲しい」
1000万blという大金。確か鍋子が以前持っていた中古の槍の価格が1000blほど。良い装備であればその数十倍以上はするだろう。ましてや単なる鉄製とかではなく、ランダム付与された魔法効果も満載の武具ともなれば値段も跳ね上がる。僕らの店で鉄製商品を並べたとしても、きっと100万も売り上げることは出来なかっただろう。
「予算は潤沢だけど、一応200万以内で想定してくれるとありがたい」
「わかった」「そんだけありゃあ大丈夫だな」「わたくしはそんなにかかりませんわよ」
露天商でごった返しているが、道幅は広いので窮屈だとは感じない。アイリのようなでかさの獣人がたまに横切るとびっくりするけども。
「お。昆布だ。旦那、昆布売っているぞ!」
「昆布?」
何だか日本を思い出すフレーズがアイリから飛び出した。お店には確かに、黒くて長い何かが陳列されていた。薄くひらひらだ。すると店の商人が声を上げる。
「昆布じゃねえよ嬢ちゃん。これは【黒紐】って装備品だぜ。女性専用で、体に巻き付けるんだ」
「えー……防御力なさそうなんだけど」
「代わりに身体能力が上がるから、体の筋肉も硬くなって防御力アップするんだぜ」
胡散臭いな。でも嘘ついているようにも見えない。試着させてみよう。
「ヘイまいど! 貸店舗内に試着室あるから、ゆっくり着替えてくれ!」
後で知ったけど、貸店舗そのものに魔法がかかっていて、盗難防止とか集計機能とか色々あるらしい。
「……すげえよ旦那!」
「うわぁ!?」「痴女ですわ! 痴女がいまグベ!」
試着室から飛び出したアイリの姿は……スフレちゃんが頻りに痴女と言ってアイリに絞められたけど、確かに痴女だろと思った。
まるで水着だ。しかも相当際どい。今まで鎧に身を包んでいたが、その中にある肢体が目に猛毒で、男なら釘付けになる。
先ず胸!! なんだあれ、でかいのは知っていたけど、紐みたいな衣類一枚でしか隠されていないのはどうかと思う!! 揺れているし!
ビキニ水着の要領だから、筋肉がバキバキのふとももとかも全部見えるし、二の腕の筋肉とか、腹筋とかも全部見えてしまう……!
「これさ、力がもりもり上がるんだぜ!! 体全体も何だか硬くなってよお! パワーアーマーも凄かったが、これの方が身軽で硬くて強い! 見ろよこの筋肉を! 触ってみろってば!」
腹筋に僕の手は誘われた。……硬い! 確かに、並みの鎧並みに硬い。パワーアーマーよりは劣るけど、素早さの観点から見れば攻撃を回避しやすくなっている=防御力アップだし、問題点は露出度以外何もない。
「あとアイリ、鎧着てたから油断してたんだろうけど、腋毛は剃ろうね」
「いっけね!?」
「どうかな、買ってくれるかな? お値段は本来60万blだけど、今なら20万blにまけとくよ」
「……誰も買わないからその価格なんだろう?」
「お客さん、真実は時に人を傷つけるんだぜ?」
ちなみに、この上に鎧を着るのはダメみたいだ。身体能力大幅バフは、外気に触れていないとだめらしい。羞恥心のある人にしてみれば致命的欠陥だけど、アイリは特に気にしないようだ。気にして欲しかったけどさ!
「どうしましょうリョータ様……これからわたくしたち、痴女と歩くのですよ?」
「大丈夫。別に大丈夫だ」
だって、日本的に女戦士ってこれであってそうだし。露出度がなぜか高いっていうのはセオリーだし。大丈夫。目に猛毒だけど大丈夫。
「旦那、お金! これ買うからさ!」
「……鍋子はどう思う?」
「スゴイイショウダー」
顔を真っ赤にしている鍋子だが、彼女も大概な服装だったなそういえば。
次の店は靴屋だった。当然、ファッション性に優れた靴だけではなく、機能性に優れたものばかりだ。中でも魔法効果持ちの靴は、色々と面白い。
蹴った瞬間真空刃が出てくる靴もある。面白い。実に面白い。
「脛あてもあるぜ」
「魔法を反射する【退魔の鎧の一部】です」
「黒紐とは被らないからいけるな! 旦那、これも買う!」
「お買い上げありがとうございます、30万blです」
日本円で言う120万円程度。軽自動車の買えるほどの脛あて。アイリの不安要素は魔法と、状態異常だから、これは良い買い物だと思う。
「私はこれですわ」
「それは魔法効果はありませんが、頑丈なつくりになっています」
「おいくらですの?」
「3000blです」
日本円で言う12,000円。結構いい値段の靴だと思えば、現実的な値段である。
「スフレちゃん、それでいいのかい?」
「私は表立った戦闘は致しませんから、デザイン重視で良いんですの」
僕は探してみたけど、無難な物でいくことにした。水虫にならない通気性のいい冒険者の靴。お値段は1万bl。金具なんかもついていて、それでこの値段らしい。履き心地は抜群だから気に入っている。
「鍋子は? ……鍋子?」
鍋子は、値段が……140万の靴を目に止めていた。
「お目が高いですねお客様。そちらは月天の靴。秘められた魔力によって空気を踏み固めて移動が出来る、大変貴重な品です」
「空気を踏み固めるってことは、空を跳べるのか!?」
「御明察。空をも克服できる貴重な品ですので、本来でしたら500万はくだらないのですが……」
商人は言ってはいけないかどうか逡巡し、意を決して僕に伝えた。
「この靴、上手く扱えない場合には空中から落下してしまうのです。調子に乗って高高度まで登ってしまい、そのまま落ちてしまっての事故死が多発する代物なのです」
「あー……」
「ちょっと履いてもいいかな?」
「どうぞ」
鍋子が履くと、靴のサイズが変化した。どんな足にも合うように設計されているのは魔法関連靴の鉄板だ。アイリの大きな足にも、先ほどの脛あてはピタリとはまったし。
「よっと……」
そこに階段があるかのように鍋子が空中を踏んだ。片足で、何もない場所に立った。
「踏み固めるという意思がない場合には発動いたしません。実生活で履いていても、問題はないでしょう」
「凄い、何だかいつもと景色が違うよリョータ!」
踏み固めた空気の固定。左右共に1つずつらしい。おっかなびっくり使っていた鍋子だが、次第に慣れてくると天井付近を悠々と歩きだした。
そういえば、ダンジョンでも空を跳ぶ敵相手にこれが有効そうだ。
「どうだ鍋子、気に入ったか?」
「ばっちりだよ!!」
「よし、買った」
140万 + 30万 + 1万 + 3000 = 171万3000bl。
店員さんは、キリが悪いからと、170万にまけてくれた。ここで売れなかったらさらに値段を下げるつもりだったと感謝までされた。
僕らは新たな靴を履いて、次の買い物に向かう。
僕たちの買い物は、まだ始まったばかりだ!!
次回予告 空を自由に跳べるようになった鍋子は、月面を目指す旅に出た! そこにはかつて愚かな翼人を焼いた太陽が立ちふさがる! 頑張れ鍋子、負けるな鍋子! そして 守って!月天の靴! 次回イケメン購買意欲『痴女の新武器』 鎧の下にはロマンが溢れる!




