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戦力補充は大事



シンシアとエルジェにまつわる伝説は、語るも憚れる惨劇。もしくは悪夢のことを指す。当時、人間が獣人を標的とせず、人間同士で争っていた時代。青の魔力を有する勢力と、赤の魔力を有する勢力との戦争で、北の大陸が荒廃の一途を辿っていた。


国民の総数が激減し、最盛期の1割にも満たなくなるほど疲弊しきった両陣営は、魔力で動く人形を作り、戦力に加えて戦争をさせることになった。

魔装兵器1型は、簡単な火炎術、もしくは水流術。2型は出力を上げた型番と、互いに新型を出すごとに戦場は苛烈さを極めていく。5型になったころには、両陣営とも扱う魔力量も出力も大幅に上がってしまい、北の大地が本当に死んでしまうと危惧されるほどにまで、魔力による爪痕が大気を、季節を破壊し尽くしていた。

そして、両陣営は協定を結び、それぞれの最後の型番で魔装兵器は禁止とする条例を出した。かくして、両陣営ともに総仕上げとも言える最終魔装兵器の完成を為した時、そこには女神と見まごうほど美しい、破壊神が二対並んだ。



それが、シンシアとエルジェ。



シンフォニーブルーの髪が、歩むほどに揺れ動くさまは、獣人たちもはっと息をのむほどの美しさだったという。

……その戦場が、北の大地に影響のない、南の大地でさえなければ、伝説にもならなかった大災害で済むはずだった。


最後の1体と指定されたため、互いに高を超える超火力。超出力。そして内臓魔力は5型の数十倍という、まさに神を殺すために作ったのかと疑われるほどの化け物。

目撃後も生存していた獣人の中には、これが初めての人間本体と勘違いした者もいたという。つなぎ目もなく、人形らしい要素といえば、人間以上に精緻な見目でしかなかった。


たった2体の大激戦が5日続き、爆心地は今もまだ草木の生える気配がない。巻き込まれた山々は遠目から見てもわかるほど抉り抜かれていて、魔力が染み入りすぎた場所には高難易度のダンジョンが生まれもした。エルジェも、シンシアも、その所在は誰も知らないまま、数百年が過ぎて行った。






……数万、数十万、いや、もっと死んだかもしれない、降ってわいた悪夢の5日間をもたらした伝説が、新たなるダンジョンの最奥にあると発表される。


どんなお宝かワクワクしていたギルド員やフリーランスの冒険者たちは、驚愕をあらわにしていた。

……事情を知らぬ1人を除いては。








「なるほど。そういう伝説なんだね」


昼飯時。アルメーシャの街は相変わらず賑やかだけど、前日に比べて活気が少ない。まあ、新たなダンジョンのお宝発表の後、何千人もの冒険者たちがダンジョンに向かったみたいだし。おかげで楽々席も取れて、優雅にお昼ご飯にありつけるわけだけども。


「人間の行った初めての大災害ですから、中には人間を見ただけで発狂する人も、殺しにかかる人もいますの。……むしろ、これまでそういう人に出会わなかったことの方が不思議ですわ」

「まあ、あの集落には感謝しなくちゃだね」


運ばれる料理はどれも前菜というか酒のつまみがほとんど。昼間から酒を呑んでも飲まれないのはアイリの長所である。


「うめぇ、昨日の屋台よりも安いのにうめぇ!」

「屋台は祭り時に食べるとどれも美味しいものだよ」

「ちげぇねえ!」


サラダを食べる鍋子も、土壌が良いためかどれも新鮮で美味しいと喜んでいる。


「ねえスフレちゃん。こんなこと聞くのもなんだけどさ。……僕とその悪夢とが戦ったらどうなる?」

「おすすめは致しませんわ。ご主人様は確かに、どんな状況でも生き抜く手腕をお持ちでしょう。……ですが、命は1つ。無茶な勝負を挑んでもメリットがない以上は」


いやいや、そういうんじゃないんだ。


「違うんだスフレちゃん。例えばだよ。僕だってそんな化け物と戦うなんて想像したくない」

「たとえならば……可能性は0ではないと思います」


……話を聞く限り、既に2体とも生き残っているとして、魔力はすっからかんだろう。魔装兵器という以上、魔力なしには動けないはずだ。


「ふぅん」


それでも0ではない……ということは、ほんの少しでも魔力を与えればアウトの可能性が大。猫のイケメンが発表した内容を想定すれば、お宝は剥き出しなんだけどゴーレムが守っていると……。


「普通のゴーレムならアイリの出番だね。打撃系統の攻撃が上手いこと通りそうだし」

「材質にもよるぜ。というかアタイよりも、犬ころの方が有利だろう。魔法系統が効くんだぜ」


ゴーレムも魔力で動いているし、そうだろうね。


「まあ。いつまでも鉄のこん棒だけでここまでくる貴女には無理でしょうね」


笑顔で嫌味を言うスフレちゃんに笑顔で親指を下に向けるアイリ。


「でも旦那。アタイもそろそろ新しい武器新調しなくちゃならねえんだ。ほらここ、磨いてんのに欠けてる部分があってな」


重さ80kg以上ある金棒を片手で持ち上げて、問題の個所を指さすアイリ。なるほど、言う通り欠けている。


「困ったね。でも購入するよりはやっぱり」

「ダンジョンだよな!」


アイリが目を輝かせて詰め寄った。この金棒も、ダンジョンで得た鉄製武具を溶かして作ったものだった。


「リョータ様。アルメーシャの街近郊にあるダンジョンは、全部で4つ。最近できた10階層と、昔からある7階層、4階層、2階層のダンジョンですわ」


無論行くなら、最下層が深い方のダンジョンだ。深いほど危険と宝が良くなる。


「じゃあ、7階層のところに行こう」

「えー? 旦那、最近の場所にはいかねえのか?」


「アイリの好みに合う品を作れるかどうかわからないからね。既にあるダンジョンなら、どういう傾向のお宝があるかは皆知っているだろうし」


以前滞在していた集落付近のダンジョンも、鉄製武具がメインだった。今回もそういう傾向があるのだと思う。




拘束した状態の暗殺者は、夢にうなされているようで、じたばたとしている。それを隠して運び、近くの場所に預けていたサモンハウスに放り込んで放置。……なんかこれって拉致とかの類じゃないかな? 良いのかな?


「リョータ様の命を奪おうとしたのですから良いのです。正当防衛です」


マジックワード『正当防衛』。なんだか全てが許される気になるね。





まあ、結論から言うと、7階層のダンジョンは苦戦した。これまで単調な攻撃しかしてこない敵ばかりだったから考えたことはなかった。僕らのパーティメンバー構成は中々上手く出来ていそうだという確信は、実はそうでもなかったのだと、思い知らされた。



「アイリ、そっちの敵を頼む! 僕はこいつを!」


ダンジョン内は岩肌に自生した光るコケが目立つ、視界のいいダンジョンだ。僕らにも、敵の方にもメリットがある。足場はゴツゴツしていて、油断しているとすっ転んでしまいそうだ。羽のない僕ら相手に敵は羽の付いた魔物を中心とした射手集団。きっちりと魔法耐性や物理耐性に優れた魔物も地上にいて、攻撃を届かせるのがしんどい。


「とぉりゃあああ!!」


鍋子の槍の冴えと跳躍力がここにきて生きると思ったけど、滞空時間が短いので、空を飛ぶ奴は倒せても1匹だけ。盾役を搔い潜ってわらわらとやってくる射手を相手にするには、魔法を使うしかないわけで。


「ぜぇ……ぜぇ……」


スフレちゃんがフル回転。追尾性のある魔法で空の射手を倒していくけど、魔力の消耗が著しい。ここは5階で、フロアボスの影も見えない。



『ギキぃ』



射手はあばらも見えるほど、全体的にやせ細っていて目が大きな醜塊。構える弓矢も粗悪で、命中率が悪い。それでも数撃てば当たるわけで、攻撃と盾役として前衛にいるアイリはそれらの内何本かを受けてしまう。


「ちぃ、眠ぃ……気持ち悪ぃ……」


眠気と吐き気を与えられて辛そうだ。毒でも塗り込まれているのだろう。自ら両頬を叩いて奮い起こしているみたいだけど、これ以上の無理は危ない。



「うぁあああ!?」


鍋子は先ほどまで攻撃を一撃も受けていない。回避力が凄まじいからだ。その鍋子が跳躍後の着地による膠着、そこを地上の盾役に狙われた。単なる突進だが、華奢で身も軽い鍋子にしてみれば痛烈な打撃で、数メートル吹き飛ばされてからよろよろと立ち上がっている。




鍋子は耐久力がない。アイリは攻撃の負担を受けやすい。スフレちゃんは消耗が大きい。




誰かが倒れてしまえば、押し寄せる水を跳ね返せずに決壊する堤防のように、僕らは瞬く間に全滅するであろう。




「まあ、残った1人が僕でなかったなら……だけどね!!」



盾役を倒していき、射手の注目を集めさせ、しかし身に纏う衝撃減衰結界で矢は失速して落ちる。粗悪品で威力もないこの程度の矢であれば、僕の肌にさえ届かない。加えて僕の装備品は、物理攻撃も魔法攻撃も可能にする帯魔式。臆することなく切り付けて行けば……。


「僕たちの、勝利だ!」



フロアボスも、硬いだけで仲間を出してくる奴だったから楽勝だった。そう。イケメンならこの程度のピンチは当然、切り抜けられる!

……って偉そうに言うけども。



「う、おぉえええええ!!」


目につかないところでアイリは吐いているし、


「っひゅうぅう……」


頑張りすぎて生気が抜け落ちたようにへたり込むスフレちゃん、


「い、った……」


全身打ち付けられてへばっている鍋子。



そうとも。女の子をしっかり守れなかったその一点だけで、イケメンからはまだまだ遠い。無論、彼女たちも頑張っているし、僕に守ってもらおうなんて露ほども思っていないだろうけど。それでも助けずには、イケメンの名が廃る。



「皆お疲れ」


鍋子には回復を、スフレちゃんにはお姫様抱っこを、アイリにはタオルをあげる。今僕に出来ることなんて、それくらいしかない。……しかし、ここはいいダンジョンだ。足りないことなどが見えてきた。僕がいない場合、このメンバーに足りないことは、回復と射手だな。


射手に関しては鍋子に持たせている『鬼殺しの完弓』というアイテムを、扱える者がいれば万事解決なんだけども。……ん? 『そんなアイテムいつ手に入れたんだ』って? 第22部を見てくれればいいよ。



回復役も探さなければならないからなあ……どうしようか。

まあ、皆がサモンハウスに戻ったし、次回考えるかな。


『次回予告:旋風! 疾走! ついに現れる新キャラ無双! わたくしがこの作品の主人公だ! 次回:スーパーオールマイティー美少女爆誕! こうご期待ですわ!!』

イケメン「……あれ!? 次回予告が潰されている!! 誰だこんな小癪な真似をしたのは!!」

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