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僕の知らない場所での物語だって当然存在する。

※深刻なイケメン不足でも泣かないでほしい。


ダンジョン。古くは、魔物棲みつく禁断の大地という意味合いを持っていた。しかし今やダンジョンは放置していると増減する、狩場としていた。


潜り込む多くがダンジョンの挑戦者として、名声を得るか、命運を失うか、二者択一の世界に身を投じる。そのスリルと、得ることの喜びこそが、原動力となってダンジョンは攻略され……また生まれるのだ。

英雄というものを生み出す場所か。英雄という餌を生んで多くの命を得る場所か。

それは誰にもわからない。





「部隊長。この先に下への階段があります」


パッと見れば身軽な、しかし刻まれた魔法文字で強化された装備の数々を身に着けた白銀色の騎士団が、ダンジョンに挑んでいた。部隊長と呼ばれた青年も、臨戦態勢を念頭に階層ごとの特徴をまとめ上げている。


「まだ最下層ではないだと? ……もう9階だぞ」

「恐らく次で最後と思われます」


青年は部下の発言に、「そうだといいのだが」とため息を漏らした。記された紙はクルクルと巻かれて、彼の手の中に納まった。

青年の顔は、左右対称の細長い髭が3本づつ、茶色と白の混ざり合った模様の体毛をしていて、目は丸く鋭い。猫の獣人である。


「状況は?」

「9階踏破現在、軽度の負傷者10名。重度の負傷者3名は既にゲートで脱出済み」


「我以外全員負傷者か……」


青年が憂いの青い瞳を瞼にとじる。決断の時だ。進むか、退くか。彼らの目的は、ダンジョンの制覇ではなく、ダンジョンの調査だ。最終階層に辿り着き、退却し報告すること。

報告内容はダンジョン内に潜む魔物の傾向、強さ、環境と様々だ。何が何でも生きて帰らねばならない。死亡者が出るのは部隊長として失格である。


「わかった。今から我だけ、この下の階層に向かう。お前たちはこの報告書を持ち帰り、報告をせよ」

「部隊長はどうされるのですか!?」


二カッと、青年は笑った。剥かれた牙が可愛らしさと頼もしさを示すべく輝く。


「案ずるな。少し様子を見てから帰る。我とてゲートは使えるからな」



部下たちは心配そうな面持ちであったが、宥めすかされて渋々脱出をした。総勢11人のメンバーは今、たった1人になった。


「さて」


踏み入れるは未踏の地。頼れるものは己のみで、何を相手取るのかもわからない。


「岩造りの敵の多いこと。最後も岩で終わるのだろうな」


彼は白銀の装備に、広いつば付きの青い帽子を被っている。白い羽飾りが特徴的で、持つ手には魔法の杖が握られていた。先端に魔力を溜めたり増幅させたりするための水晶石が仕込まれた、ごく普通の金属製杖。

それを両手で握るのではなく、半身で構えながら片手で握る様は、何かの武道に通じた姿だ。


「む」



未踏の大地を踏むこと幾十数回。青年はこれまで得た数々の経験を思い起こした。ここが最下層だと、彼の直感と経験が告げている。同時に、湧き上がる危機感と逃走心。ぶわりと汗が噴き出るが、目の前のものに釘付けになった彼には、そんなものは些細なことだ。


「……夢を見ているのか、我は……」


岩だ。黒く巨大な岩の塊。しかし決して鈍重ではない。自然に、ゆっくりとした足取りで、滑らかな動きをしていた。身の丈が3倍以上ある巨大生物が、迫りくる純粋な恐怖。……それ以上の恐怖を、彼はその目に写している。


「ああ、あああああ……!!」


わななき、牙ががちがちと震える。





『イゥ』




岩を人間として見立てるのであれば、それは口から吐き出された。圧縮された純粋なる魔力の光線。青年は落ち着きを取り戻して、魔法で軌道を逸らした。着弾した光線が炸裂し、小さな岩の雨を打ち上げ、落とす。



「うぐぐ、なんという魔力……!」


岩の塊から放たれた光線を防ごうとした場合、構えた右腕と半身を瞬時に失っていたであろう。ギリギリの場所で判断を間違えなかったことに、彼は安堵した。


「……よもや、あれが宝だというのか……」



青年の言う宝。ダンジョンの各階層にある宝とは違う、『オリジナル』。最初の最初、ダンジョンを制した者だけが手に入れることの出来る特別製の宝。

その質はダンジョンの難易度に比例し、死をも覚悟するダンジョンには当然、それらを賭してでも得たい宝が眠るという。


「あれが……あの悪魔が……!!!」


体から脱出せんと暴れまわる心臓を、荒げる息と手で押さえつける青年。


岩の塊。その外見はただの人間体ではない。腹から何かが這い出ている。それは腕も体もプラプラと力なく揺れ動き、見るも鮮やかなシンフォニーブルーの長髪が垂れている。彼が目に付けたのは、腕に刻まれた印。



 6-3011



部隊長は階段を駆け上がった。ダンジョンの主も含めた住人は、階層を跨いで追うことはない。


部隊長はゲートを使った。冷や汗が凄まじい。



「やはり、あの噂は真実だったか……かの遺産は再び、戦乱を招くというのか」


もしも、ダンジョンの宝を目撃した場合は公表すること。そういう契約印が彼には掛けられている。事実をありのまま公表しなければならない。たとえそれが、大きな波乱を巻き起こす、忌まわしき過去の遺産であろうとも。






宝の名は、『魔装兵器6型 3011番』。



かつて人間が栄えていた時代に生まれ落ちた魔装兵器シリーズ最後にして、改良を重ねられてきたシリーズ最高傑作。


赤の魔装エルジェの対を為す、青の魔装シンシア。




隕石の堕ちた大地に眠る宝。

それは数世紀を経て蘇る悪夢であり、得た者の栄華を約束するものであった。


次回予告:シンシア。それは人類の産み落とした悪夢。エルジェとの最終決戦時に焼失したとされる、伝説の少女体。身目は麗しく可憐で美しい。しかし、秘められた力は何人たりとも侵せない深淵。躍進を求める者たちは、躍動のない遺産を求めて立ち向かう。たとえ、多くを失い、嘆くときが来ようとも。

次回『呪われた人形』英傑は生まれ、憧れを死に誘う。

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