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悪い奴をひっとらえて行うことと言えばこれしかないだろうね。


例えば、村おこしや町おこしをするためには、名物や名産、名所などの物的な物事が必要だ。会社を伸し上げるには、業績や有能な部下が必要だ。


ではギルドが伸し上がっていくには何が必要なのかというと、先に上げたいずれもだ。ダンジョンから持ってきたお宝が凄ければ、所属するギルド員が強いか有名であれば、解決率が高ければ、「あそこは良いギルドだ」となる。


そうして入団希望する団員数が多ければ、雪だるま式に更なる躍進を遂げていく。




ハンティングスティーラー,スフレちゃん,デートとかの騒動に僕たちは巻き込まれてきた(ここに書いてないだけでもっとたくさんあった気がする)。

今回、僕たちが巻き込まれるのは、この『躍進』に、だ。



隕石が堕ちたというルーツのあるアルメーシャの街に、新たに出来たダンジョン。この近くだけでも3ヶ所はダンジョンがあったというのに、さらに一ヶ所出来てしまった。しかも、クレーターの奥に。

その奥にあるお宝が何かは定かではないけど、多分凄いお宝があるのだと思う。そのお宝を求めて、ギルド同士の争奪戦が始まるのだ。ギルドの数は片手じゃ足りないくらい存在するこの街で、それは一つの戦争を意味している。




「おっす旦那―!! まあだここにいたのかあ? あんしゃつしゃはまだこねーのかー?」


宿に帰って僕の部屋に帰ってきたアイリ。ムッと蒸気した汗と酒の臭いが僕の部屋になだれ込んできた。彼女は気絶したままベッドの上に縛り付けられた暗殺者を見て、『おお』と感嘆の声を上げた。


「手際良いな旦那! アタイなんかそこまで暗殺者に丁重な扱いできねえぜ」


手に持っていた瓶酒をまだ飲んでいる。なんつう蟒蛇うわばみだ。ああ、祭りの女の子と言えば、浴衣姿にはだけるうなじとか、色気もたっぷりなシチュエーション満載で楽しみだというのに。アイリの場合は素材がとてもいいのにおっさん臭い。胸はすごくでかくて、身長も相当あって、顔立ちも愛らしいのに、イマイチ色気がないのはやはり酒が原因だろうな。



「まあ、暗殺者って 失敗=死 だからねえ。生かすのは可愛いからだよ」


あと鍋子の一言だね。あれなかったらどうしてたんだろうか。


「でもさっきさあ、祭りで聞いた話だとこいつ、結構有名な暗殺者らしくてね。旦那だいじょーぶかなーとか思ってたんだよね。いやマジで。でもお酒も捨てがたいし、まあ旦那なら大丈夫だろうって、ほら、信頼って奴だよ信頼」


随分と酒臭い信頼もあったもんだよこんちくしょう。




結局僕は祭りに参加しなかった。ごった返すLEVEL規格外だったためだ。元々この街に住んでいる人、道行く冒険者や行商も交えての無法地帯に等しい乱痴気騒ぎ。帰ってきた鍋子はへとへとで、人波に流されたのだという。一方スフレちゃんは器用に回ったようで、僕に対するお土産(お菓子など)も欠かさなかった。感謝のハグをしたら思い切りしっぽを振っていた。



「で、どうしますリョータ様。私の愛しいリョータ様を手にかけようとしたこの『ゴミ』は」


翌日、縛りを強化されて猿轡までかまされている暗殺者に、スフレちゃんはマジでゴミを見るような眼を向けた。


「とりあえずギルドには出したくないな。尋問して情報を吐かせよう」

「何で? はやくギルドとかに言えば解決じゃないの?」


抱き心地がいいからとアイリに抱きかかえられている鍋子は疑問を浮かべるが、スフレちゃんが答える前にアイリが答えた。


「暗殺依頼者が誰かわからねえんだよなあ鍋子ちゃん。旦那ほどの腕利きともなれば、ギルドから警戒されるのも当然だろうし」



そう。ギルドに所属せずに冒険者として活躍するのは、そういうリスクもある。冒険者なんて、いつ死んでもおかしくない職業だ。罠や魔物や、死因は様々で、死んだという事実くらいしか残らない。だから、誰かに殺されたってこともわからない。ダンジョンっていう、死体処理場も存在するんだからね。日本にもブラック企業とかがあるように、良心的なギルドばかりではないから、目障りならば始末するという方針の輩だっているだろう。


「暗殺者が誰か……聞き出して教えてくれるかどうかが問題だね」


応えてくれなかった場合はどうしようか考えると、スフレちゃんが挙手した。


「尋問・拷問……やりたいですわ」


キラキラした瞳のスフレちゃんは可愛くて恐ろしく、頼もしい。助かる。






「……ん……」


ようやく気絶から起き上がった暗殺者を待っていたのは、猿轡と縄による拘束だった。僕を睨みつける目が鋭い。


「やあ、おはよう。寝心地はどうだったかな?」


良いわけがあるかと騒ぎたくても、縄が邪魔で身動きが取れていないようだ。


「暴れないでよ。どうせ勝てないんだから」


僕の言葉に耳など貸さない。舌噛んで自害するかもと思って猿轡を付けていたけど、この意気なら大丈夫かなと外してあげた。


「ぷはぁ! こ、この……なぜ生かした、早く殺せ! 殺さないなら舌をかみ切る!」

「構わないよ」



と言ったら本当に舌をかみ切ってしまった。


大量の出血が口からあふれて赤い気泡があぶくのように出てきたけど、僕は慌てない。



「鍋子、口を開かせて」


喉の奥にまで落ちた舌を抜かなきゃ窒息死してしまう局面。そうでなくても傷口から出血が凄まじい。

まあ、舌をもとの位置まで引っ張って、止血して神経を直せば元通りだ。

回復魔法は心得ているし、スフレちゃんの魔法で生み出したミミズのように細く長い触手が気道確保も行っている。


「いいかい。君は、自殺する自由もないんだ。諦めて知っていることを吐いてくれれば、これ以上は何もしない」


我ながら悪い顔をしてみるけど、……悪役のイケメンか。様になっているね。悪くない。


「わ、私は何も話さない!」

「本当に警告しているんだよ僕は。話さないともっと酷いことになるかもなんだけど……」

「くどい!!」


取り付く島もない。仕方がない。こういうことに関してはスフレちゃんに頼もう。……え? 僕も拷問とか出来るだろうって? あの時は怒りがあったから勢いで出来ただけだよ。



「では、わたくしが聞きますわよ。最後通告ですわ。話してくれる気は、ないのですわね?」

「ない! どんな辱めを受けても話さない!!」

「……あらそうですの」


この上ない喜悦を隠しきれないスフレちゃんの100%シャイニング笑顔。

スフレちゃんはドロドロねばねばした青い物質を、暗殺者の口に置いた。











突然だけど、ここでスフレちゃんから読者にお知らせがあるみたいだ。

『ここから先の拷問は色々酷いので、気分を害しちゃうかもしれない人は次回予告まで読み飛ばすことを推奨』ということらしい。

……いやな予感しかしない。




















「では、話さなくて結構ですわ。もう散々チャンスはあげましたもの」


青い物質は変容し、暗殺者の口を覆ってへばりついた。もがいているけど無駄らしく、更に暗殺者は目をカッと見開いてスフレちゃんにくぐもった声をあげた。


「んん、んんんーーー!!?」

「あら。話さなくても結構ですわよ? 二度も同じことを言われなきゃわからないお馬鹿さん」


スフレちゃんは魔力を青い物質に送り込んでいる。発光した瞬間、物質に何らかの指示を与えているみたいだ。


「ん、んぃぃいい゛い゛!!」


暗殺者の頬っぺたが膨らんだりしている。いやいやと首を振って、鼻水が流れ始めた。


「ねえスフレちゃん、なにやっているのこれ?」


「うふふ。あれはわたくしの作った悪戯兼拷問アイテム、『陸のブルームーン』ですわ。あれは私の魔力で変幻自在に生まれ変わるものでしてね。

 今お口の中をたっぷり虐めていますの。具体的に言えば、無数のディープキスで口内を苛め抜いているのと同じことをしていますのよ」


ああなるほど。青ざめているけど興奮して赤くなっている顔つきで納得いった。身動きも取れないこの状況。とはいえ、三下がやりそうな体に聞く方法では、舌を挿し込んだ瞬間かみちぎられる恐れがある。ブルームーンはそういうのとは無縁なのか、徹底的な攻めで攻勢を維持していた。想像だと、イソギンチャクみたいなやつを口に入れられているってことなのかな……それは嫌だな。



「ん、ん、んぐぅ、ふーっ、ふーっ!!」


鼻息が荒い。尋常ではない暴れよう。まだ一分と経っていないのにこれは凄い効果だ。迷いなく舌をかみ切ったくらい、この子は精神的に強いのだろうけど、それでも怒涛の気持ちいいには抗いがたいらしい。


「うふふ。どうやらこれ以上はあんまり効果はないみたいですわね」


またも指令を送ったスフレちゃん。しばらくして暗殺者が更にのたうち回った。アイリがそれを抑え込み、尋常ではない叫び声が鼻から聞こえる様子を見る。


「うわぁ、すっげえ顔しているな。女の子がしちゃいけねえ顔だわぁ。何してんだ?」


「今、ブルームーンを内部で切り取って、食道と胃の中に落とし込みましたの。で、くすぐりの刑を実行中ですわ」


実にキラキラした瞳で説明するスフレちゃんに、鍋子は恐怖を覚えて僕の後ろに隠れた。耳も手で折りたたんでいる。


「えっげつねえ……拷問になるとマジ怖え……」


以前、豚にされたことのあるアイリは若干震えていた。僕も顔を豚にされたことあるけど、震えはしなかった。まあ、目の前の光景に圧倒されているからそれも仕方ないよね。



「ね、ねえ……た、助けを求めているよ?」


鍋子が指さすのは暗殺者の目。涙が流れて充血し、眉をハの字にした暗殺者の、哀れな目。それは救いを求めている目であることは、説明不要だろう。


「まあ大変」



スフレちゃんは魔力を送って、攻めの手を止めた。なるほど、ここまでで拷問は終了か。凄まじいものだっが、一件落着だ。



「助けてほしいですか?」


そう聞くと暗殺者は真っ赤な顔で激しく首を縦に振った。このままでは気が狂うと言いたそうだ。


「どうでした拷問の感想は?」




……口を塞いでいるブルームーンは取られていない。意思表示をするためには、首を振るしか今のところ残されていない暗殺者は、困惑の瞳をスフレちゃんに向けた。


「あら、答えがないのを見るとまだまだ足りないようですわねぇ」



えっぐ!!?


これ、頷いたら『良かったのですか! それは良いですわ、うんとサービスいたしましょう!』で、首を横に振ったら『まあ気持ちよくない、おっかしいですわねえ』とかいって、どっちに転んでも拷問続行の流れだわ……。それを理解してしまった暗殺者の、助けを求める瞳、鼻から抜ける必死の叫び。



「では、もう一度」


「んんんんんん゛ン!!!???」



体の中を駆けまわり、くすぐり、舐り、それに抵抗できない今、暗殺者は何を思うのだろうか。人一人の、ましてやイケメンの命を奪おうとしたんだ。とんでもない罪なのはわかる。けど、実際拷問を目にするとそんな気分も萎えてくる。


「さあリョータ様、お食事に参りましょう。朝ごはん食べてから続行ですわ」


ルンルンと外に出たスフレちゃん。放っておいても良いのかと思ったけど、大丈夫だと彼女は言った。なんでも、部屋の中にわなを仕掛けたから、誰かが救出に来たとしても芋づる式に拷問にかけるとのこと。やばい、スフレちゃんが久しぶりに怖い。





パン。肉、野菜。更には牛乳も飲み干して健康なはずなのに、何を食べたのかの記憶が定かではない。気になって仕方がなかった。あの拷問からもう30分経過している。






「どうなっていますかね?」


部屋の中からは、むっとする臭いがした。……ベッドの上で痙攣している。どうやら失禁してしまったようだ。まあ当然だろう、あれじゃあ。


「ブルームーン、戻って」


スフレちゃんが暗殺者の口からブルームーンを取り外し、息も絶え絶えな暗殺者に言葉をかける。当然、シャイニング笑顔で。



「ご機嫌はいかがですか?」

「ひぃい!!?? た、助けて、助けてください!! もういや、あ、あんんあ、ああ、あんな、な、も、気持ち悪い、い、のに……!!」



スフレちゃんを見てパニックを引き起こしているみたいだ。とはいえ、ここまでくれば情報を聞き出すのも容易だろう。


「助けてくださいですって? 誠意が伝わりませんわ。土下座の一つでもして欲しいものですわね」


「や、やる、やるからこの拘束を解いて、解いてください!」


スフレちゃんは縄を解く。そのまま逃げだすかとも思ったど、この数十分でスフレちゃんに対してとんでもないトラウマを植え付けられてしまった様子だ。ふらふらとした足取りながらも、スフレちゃんに対して床に額をこすりつけての土下座を行う。


「こんな大それた暗殺とかしてしまってすみませんでしたあああああああ!!」

「あらぁ? 『生まれてしまってごめんなさい』は?」


「う、生まれてしまってごめんなさいいいいい!!」

「……あなた今、躊躇しましたわね?」


びくりと暗殺者が震えあがった。今、スフレちゃんのご機嫌を損ねればどうなるのかを骨身どころかもっと深い場所で体験していた暗殺者は、骨ごと震えあがって復唱した。


「ああ、ああああ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「謝意を示す言葉の語録が狭くて貧困ですわねえ」


僕にはもうすっごくMだから読者の方々も忘れていただろうけども、スフレちゃんの本性はこっち(S)が正解だよ。


「まあいいですわ。それでは」




ブルームーンがしまわれた。それを見て心底暗殺者は安心した。ここで抵抗とか脱走とかを考えなくなったあたり、流石である。




「次、いきましょうか」




……え? 次?



「す、すっふれちゃん? すっふれちゃあん!? もういい、もういいでしょう、拷問は大成功だよ!」

「い、いや、いやいや、いやああああああああああああああああああ!!!!」


必死に制止しようとする僕と、PTSDで精神崩壊寸前の暗殺者の叫び。が、スフレちゃんは気が済んでいないようだ。


「は、話しますぅう! 話しますから、どうか、どうかもう拷問だけは」

「『スフレ様』」


スフレちゃんが暗殺者に一言だけ、笑っているけど目が笑っていない顔を向けた。


「スフレ様、もう、もう拷問だけは勘弁を、ご勘弁を!!! 私の知る全ての情報をお伝えしますからだから―――」


スフレちゃんは暗殺者の顎に手を当てて、顔を突き出した。あと少しで鼻先がぶつかりそうなほどの距離だ。


「話さなくて結構ですわよ? と、先ほど言いましたわ。それが全てですの」


「あ、……ぅあ……」



逃れられない。逃れようにも、腰が完全に抜けてしまって立てないのだろう。自分の人生が終わってしまったことを宣告され、暗殺者はへたれこみ、失禁後、気絶した。



「あら、気絶してしまいましたの? しょうがないですわね」


スフレちゃんは暗殺者を抱えて(この力はやはり獣人だと思い知らされる)、ベッドに担ぎ込み、ブルームーンを体に着けて、何か魔法をかけた。


「続きは夢の中で行いますわ。今、眠りの世界で様々な羞恥プレイをしていますので、起きたころには拷問完了です」



どうですかリョータ様! 褒めてください! とばかりに僕に熱い視線を送るスフレちゃん。よくやったと撫でてあげた。そうしなければ満足せず、更なる拷問が始まるかもしれなかったからだ。それだけは、なんとしても避けねばなるまい。これ以上はマジで廃人になりかねない。



今度からスフレちゃんに頼む前に、自分でどうにかしておこう。僕はそう心に誓ったのだった。


次回予告:廃人寸前にまで追い込み情報を聞き出すことが100%可能になった、さスち可(さすがスフレちゃん可愛い)! 陰謀と金が揺れ動くダンジョンに突入する! 果たして彼らの運命は!! 次回『鮮やかな弓の冴え』。ところで暗殺者の名前、まだ決まっていない!

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