新たなる居場所
部屋に何を置くかをお悩みの方。イケメンの僕が思うに、それは自分らしさを隠さない部屋になるもの。君がド変態ならばド変態グッズを置けばいい。スポーツ馬鹿なら漫画やアニメみたいにダンベルや鉄の縄跳びでも飾ればいい。要するに一目見て君の部屋だとわかる部屋であれば問題はない。もっとも、折角彼女が出来て部屋に案内したら、ドン引き後に疎遠になるなんてこともあるかもしれないけど、僕は一切責任は取らない。ちなみに僕は、いつでも女の子が来ても大丈夫なようにしている部屋だった。……結局来なかったから、面白みは皆無だったけどね。
サモンハウスの使い方!
1:まずはサモンハウスと仲良くなるところから始めよう。面倒くさがると、いざという時逃げるらしいからここが大事。
2:パスワードを作り、家な中に荷物を置こう! パスワードを言わないと家に入れないぞ!
3:快適に過ごすためにアップグレードしよう! いわば課金要素だ! アップグレードは町にいるサモンハウス専門業者(魔法使い)に頼めばいいみたいだぞ!
馬鹿にもわかる馬鹿みたいにざっくりとした説明だけど、魔法陣の展開だとか面倒なこと言っても『あーはいはいそーですねー』位の感想しか沸かないだろうし、これで十分だね。
「リョータ、部屋割りはどうするの?」
「風呂と台所、トイレに倉庫以外に使えるのは、二部屋らしいからなあ」
それだけでも結構助かる。今しがた、1と2の作業工程を終えて家を召喚したが、なかなかどうしていいものだ。
一見、丸太づくりのロッジにしか見えない家だが、丸太には防壁効果があり、サモンハウス(馬)の強さで変質するのだという。しかも部外者には何かしらの手段で攻撃するのだとか。セキュリティは完璧であるとのこと。
「【イケメン・うさ耳・大食い・スフレちゃん】」
パスワードは各々の特徴を一言にまとめたものとなった。スフレちゃんはスフレちゃんだから変えようがなかった。
「旦那、入るたびにこれ言うのきっついぜ」
「リョータ、なんで私うさ耳なの?! 鍋子じゃないの?」
「愛称を言われるのは歓迎ですわ。でも淫獣と脳筋に私の愛称を言われると怖気が走りますの!」
3人とも不満らしい。そりゃあそうだね。パスワードをめぐっては、読者アンケートでも取ってみるか。採用されたらメンバー総出で叫ぶって感じで。(そんな企画はありません)
「早速入ってみよう」
家の中に入れば、まずは玄関が出迎えてくれる。そのまま真っすぐ突き当りまで進んでみると、台所兼リビングだ。……といっても、くつろぐための家具などは一切ついていないので、今はただの調理場でしかない。
「キッチンは……うわ、魔法陣がある」
電気コンロみたいなノリで、魔法陣が描かれていた。どうやらここで火をつけることが出来るみたいで、水道も同じように魔法陣と直結している。
「うへえ、何が何だかさっぱりだ。旦那、この水どうやって引っ張ってくるんだ?」
戸惑うアイリの疑問にスフレちゃんが得意げに答える。
「お馬さん自体が魔法生物。つまり、馬の体から一方的に魔力を引っ張れるということですわ。火の魔法を起こせるのなら、水だって流せますわ」
「へえ。……じゃあさ、疑問なんだけど」
商人から渡された地図を片手にアイリが進んだ先は、リビングのすぐ傍にあるトイレだ。アイリでも苦も無く入れる大きさで、清潔そうな便座とトイレットペーパーがある。
「用を足して水を流してさ。アタイらの○○○はどこから排出されるんだい?」
「知りませんわよ汚らしい!?」
「あ、知りと尻をかけたのスーちゃん?」
「ぶっ殺しますわよ淫獣!?」
地図にあった説明書によれば、流された水やその他は超高圧縮されて燃焼、肥料として馬が排泄するのだそうだ。それを伝えると、アイリは怪訝そうな顔をする。
「旦那、つまりそれってアタイらのウ○○を代理出産してもらうってことか?」
「隠せええええええ豚ああああああああ!!!」
「な、なんだかそれって悪い気がするよ……お馬さんに」
ううむ、僕はそういうのあまり気にしないけども。やっぱり女の子は気になるみたいだね。当たり前か。システムだからと言って納得するようなことでもなさそうだしね。
「いいよ、アタイは外でするから」
「わ、わたくしは……トイレは、使うものですし!」
「私は森暮らしの時なんて普通に外だったからいいよ」
どうしよう。一刻も早くトイレから離れたい……。女の子のそういう話はあまり聞きたくない。イケメンに限らずそういうものだろうよ……。
どうにか落ち着いた僕たちは風呂場へ。宿屋にあったのと同じくらいの規模だ。2、3人は入れる大きさで、湯で満たすには20分程度かかる。
「ここは普通なんだなー」
そう、とにかく普通に見慣れている浴槽なので、僕たちはすぐさま外に出た。次は、玄関とリビングを結ぶ廊下の途中にある2つの扉。両方とも10畳程度の広さで、まだ何もない空間だ。
「片方は寝室で片方は……どうする? それとも僕と君たちで部屋分ける?」
男女一緒の部屋とか女の子はどうなのか、一応聞いてみる。まあ、答えは全員「構わない」というのはわかっていたのだけれど。
「いいじゃん旦那。一緒に寝ようぜー! それより、空いた部屋を酒蔵に改造しねーか? いつでも酒が飲めるって最高だと思わねえ?」
男女混合に無頓着すぎるのがアイリのいいところだと思う。でももう少し恥じらいとか遠慮とかも持ってほしい。
「リョータ1人で寝るって寂しいでしょそんなの。今まで宿屋でも一緒だったし、ね?」
【私が寂しいし簡単に夜這い決行できそうにないから一緒に寝よう?】
鍋子の主張は心配しているように聞こえるだろうけど、僕は【】の中の内容で聞こえる。
「リョータ様の体温を感じられない場所で寝るのなんて嫌ですわそんなの!」
熱烈に隠す気のないラブコールでときめきそうだよスフレちゃん。
というわけで、寝室は全員同室。空き部屋については今後何があるかわからないから保留となった。
それから僕たちはこのサモンハウスを、有効に、それはもう有効に使わせてもらった。
購入後しばらくは、サモンハウスを引き連れて、いつものダンジョン内を回り、手に入れた金塊などを逐次倉庫内に補充していく。
疲れたら休む。買い込んだ食料を食べる。眠いならば寝る。風呂にも入れるし、階層掃除し終えてからのダンジョン内ならば安全なので、調子に乗って数日間はダンジョンに籠りきりだった。やがて倉庫内に金塊や武器などが溢れてきたので、集落に行って売り払うか物々交換で、家具などを購入していった。
机、椅子、布団、箪笥、服、武器の手入れに必要な物や、風呂場に便利な品々、アップグレードで保冷所も作り、馬の強さも上がっていく。まさに家だ。居心地の良さを手に入れた。……母さんも、父さんと家建てたときはこんな感じだったのだろうか?
「う、うるさいですわ……いつにもまして……」
4つの布団を並べて寝る僕らだけど、久しぶりの人里に興奮したアイリは酒を普段以上に飲んだ。瓶が3本ほど空になっている。で、当然眠るときのいびきが、うるさい。
「リョータ、どうしたの? 何だか神妙な顔しているけど?」
「ん、なんでもないよ。お休み鍋子」
鍋子は素直にそのまま眠り、スフレちゃんはアイリのいびきに業を煮やして呪文を唱えた。アイリの周囲に音が緩和される結界を張ったのだ。
今までは宿屋とかに泊まっていたから、まだ旅行気分だった。異世界にきているこの事実も単なる旅行程度の考えだったのかもしれない。今、ここが僕の住む場所だと考えると、ほんの少しだけ前の世界を思い出す。
まあ、そんな感傷よりも、明日も元気に生きることが今の目標だ。この異世界が、僕の新たなる生きる場所なんだから。黙っていてもご飯は出ないし、学校とかはないから、自分で学ばなきゃ馬鹿になってしまう。もっとイケメンとして頑張らなきゃなあと思いながら、僕は眠りについたのだった。
次回予告! サモンハウスを購入し、足と居住を確保した一行が目指した街には、新たなるダンジョンが生まれたことへのお祝いが行われていた! そのダンジョンの最下層に眠るお宝とは? それを売れば1財産とも言われるたった一つの宝をめぐる、冒険者たちの死闘が幕を開ける。次回「古き鼓動」。プロットは常に脳みその中!




