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素敵な物々交換



セミロングの茶髪、赤い花の髪飾り、小柄な背と似つかわしくない大きな胸。

幼い顔立ちに浮かべる笑みは柔らかく、桃色の唇は人を惹きつけてやまない。

有体に言ってしまえば美少女。美少女の群れに置いたとしても目立つ美少女オブ美少女。

口調も柔らかく、他者を立てるため、世渡り上手でもある。


ただ、性格が少々どころじゃないほど歪んでいて、他人の苦悶に悦を見るという悪趣味。


僕が最初に出会った時も、醜い顔にされた。

で、その報復をしたところ、元々の性格に加えて、ドの付くMになってしまった。

今では僕に対して絶対服従だし、虐めてくれと事あるごとに迫ってくる始末だ。




「それ、いくらですの?」


デートの真っ最中だというのに、スフレちゃんは真剣な顔で露店に赴いていた。

魔法関連のレアなものがないか探しているのだ。


「ざっと50万だね」

「50万ですの……」


首飾りや小物類が並ぶ、集落にやってきた露天商。スフレちゃんはさっきまで、可愛くて実用性のある品を探していたのだが、ふと見てしまった品に釘付けになり、交渉をしている。


「なんでこれが50万?」


青く光る水を内包した金属製のカプセル。意匠は華美ではないが品があり、高そうという気持ちにさせる。……触れば価値が分かるスキルを持っているけど、大切な品なのか触らせてもらえない。


「ご主人さ……リョータ様。これは魔法使いの憧れにして禁忌の品ですの」

「禁忌?」


そんな物凄い品って非売品にならないのだろうか?


「サファイヤ。別名、青の魔力と呼ばれる、人間の生み出した圧縮魔力の元ですの」

「人間の作った魔力か。圧縮ってことは、やっぱり強いんだね」


スフレちゃんは興奮した面持ちで語り始めた。


「まだ人間が隆盛を誇っていた時代に、人間同士の戦いの際、ただの魔力ではなく、思い切り効果力の魔力を求めましたの。そのとき生み出されたが、サファイヤとルビー。青の魔力と赤の魔力ですわ」


「青は水。赤は炎って感じ?」


「いいえ。どちらも性質は一緒ですわ。ただ、魔導兵器を扱う際、自国の色の魔力でないと発動しないようにセキュリティロックされていましたの」



どうやら本当に高度な文明力を持っていたらしいな、ここの人間って。

何となく使う魔力をそうやって使うとは。


「じゃあ、その魔力があれば、魔導兵器を動かしたり出来るんだね」

「今では魔導兵器なんてさび付いていて使えませんわ。服用して、一時的に大魔法使いになれますの」


スフレちゃんの熱心な専門用語と感想の織り交ぜられた語りを咀嚼してみると、なるほど、確かに凄いものだ。

一時的とはいえ、魔法は全体的に何段階も強化されるし、滅多なことでは尽きないほどの自然魔力吸収体質に変化し、発動までのタイムラグすらもなくなる。

服用を何度も行えば、体質が変化していき、魔力人間になれるらしい。


なにかしらピンチに陥ったとき、緊急手段として使えそうだな。


「ですが、デメリットがありますの。魔力が全くない者がこれを服用すれば、体の拒絶反応と魔力の吸収反応で激痛を伴いますわ。最悪死にます」


つまり、毒殺にも使えるのか。まあでも、スフレちゃんは単純に魔力がほしいみたいだ。


「あ」



僕はいま、いいことを思いついた。そうだ、今こそ物々交換の時だ。


「店主さん、サモンハウスとかない?」


「あるけど、500万で2部屋、トイレと風呂付き、オプションは色々の馬型だね」


馬型?


「馬型って……何? なんというかこう、宝玉的なものに家があるとかじゃないの?」

「それは旧式だね。最近は魔法式の生物にハウスを組み込むっていう趣向が主流だよ。寝てる間に移動も出来るし、便利なものだぜ」


なるほど。だが今、目の前に転がったチャンス。無駄には出来ない。馬型とかどういう物かは見てみないとわからないけど、それがあれば旅ができる。



スキル【ポケット】を習得した。一個だけどんなものでも収納できるスキルで、レベルアップごとに許容スペースが増大する(でも個数は一個まで)。

宿にある価値の高い金塊を持ちより、異空間に収納。店主の元にダッシュで戻って、その金塊を見せた。


「これは驚いた! ふうむ、価値は……910万!!?」

「物々交換できるものがなかったんだよこの集落には。でも、今の話を聞いて、諸々をこれで払おうと思ってね。どうかな?」


「いやあ素晴らしい金塊だ! これなら交換させてもらうよ!」


ハンティングスティーラーの金塊は、本来はもっと高く売りつけることが出来る品だ。単純な価値は数百万だが、アイリが「少し重い」というくらい、質量の巨大な金塊だ。魔法使いにも錬金術方面で価値があるだろうし、高く売れるだろう。しかし、そういうのは相場を知っていたり、マーケットのことを知らなければ、安く買いたたかれるのがおちだ。


重い、移動できない、狙われると、三拍子そろった厄介極まる宝物。それをようやく手放せる。欲しかったサモンハウスと、スフレちゃんのプレゼントも添えて。


それならば多少の損は手数料だ。問題はない。



「ところで、金塊を持っていたら狙われませんかね?」

「気にしてくれるのかい? 私は一人じゃない。今は物陰から3人、休憩中の数名含めて、私は商売にだけ専念できるんだ。野盗なんか恐れないよ」


あんたいいやつだなと、背中をたたかれた。

店主は、家のオプションについて詳しい話がしたいと提案してきたので、スフレちゃんを伴ってカフェに向かった。


2部屋か……どういう風に割り振ろうかなと、僕は思った。


3LDK水洗で庭付きの一戸建て! もしくは豪邸! 移動できる家とか何それ凄い。次回『サモンハウス間取り戦争』お楽しみに!

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