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一夜明けて



温泉と言えばもっと色々、卓球や射的という定番があると思ったのだけど、そういえばここ異世界で卓球とかなかったと気付かされる。




壮絶な一夜が明けて。僕は神様の停止した時間の中にいた。


「あの~、非常に言いにくいのですが……イチャイチャして……いましたっけ?」


そうだ、一時的に記憶を失っていたけど、この温泉旅行はいわば奉納。神様に僕たちのイチャイチャっぷりを見せるための儀式だったはずだ。それが鍋子の暴走とか、鍋子の暴走とか、……鍋子の暴走で台無しになったんだけっけ。


「困りましたねー。流石に私も時間を止めることはできても、戻したり進めるのは出来ませんからねー」




「していましたよ。イチャイチャならばね」


自信に満ちた僕の言葉に神様は興味を惹かれる。


「世界は広い……殺し合いならぬ、殺し愛っていう表現がある。愛しすぎて殺意を、むき出しにするというね」

「いやいや、苦しい言い訳ですよそれ」


ダメだった! 僕の、いい感じの話にまとめようとした作戦はおじゃんになった!


「ですがまあ、キス、しましたしねえ。過程はどうあれ、互いに愛情をもって行ったやり取りですから、今回は良しとしましょうかね」



キスかあ……とうとうしちゃったんだなあ僕は。

ひどい記憶の上塗りのためとはいえ、スフレちゃんにしてしまったのだ。責任をとる必要があるね。


「本来、イチャイチャというのはハーレム状態ですと成立しないんですよ。中々一人に絞れませんからねえ。ですから、今回絞ってくれたことが、私は本当に神として喜ばしい限りなんです」


絞る?


「何を言ってるんだ? 別にスフレちゃんだけにしたわけじゃあないよ?」


「ええ?」


「イケメンはね神様。黙っていても女の子が、寄ってくるというのが常識なんだ。その子たち全員に幸せになってもらうのは、イケメンとして当然の責任だと思うんだよ」


僕の理論に神様が首をかしげて、最近はそういうものなのだろうかと独り言を言っている。


「大奥でもそうだった。権威的にイケメンの人は、とんでもない人数侍らせていた。源氏物語もそう。昔から女性を侍らせているのは、実力などをもっている奴だけ。僕には、数多のスキルとイケメンがある。異性を引き付ける魅力にあふれている」


「ははあ、つまり貴方は、まだまだ足りないというのですね?」


「そういうことです」



折角イケメンとして女の子にモテるようになったんだ。どこまでモテるのか、試したくなるのが人としての欲望だと僕は思う。大丈夫、捨てたりはしないさ。惚れた女の子ならば全員幸せにしてみせる。それもイケメンの務め。



「珍しい。ハーレムを持つ者はえてして薄情な方が多いのですが、貴方は全員に情を抱いている。その言葉がどれほどの真実なのか、今しばらく観察させていただきましょうかね」




口元の笑顔しか伺えない格好の神様は、そのまま消えていき、僕は時間の進んだ世界に戻った。


ベッドの上にいる。まだ日が昇っていない。二度寝するには最高のシチュエーションだが……。



「夜這いなんかさせねえぞ」

「どきなさい、叉焼にしてやりますわよ!? 私はご主人様の寵愛を受けた、つまりこれは夜襲ではなく暗黙の合意による健全な夜這いなんですのよ?!」



外でギャーギャーと喧嘩する声が聞こえる。スフレちゃんがアイリに対して、むちゃくちゃな理論をぶつけている。



「キス一つくらいでアホみたいに強気だなあ。犬ころ、旦那のキスとかはたぶんスキンシップの一環だぞ?」


いや、結構好きじゃないとキスなんてしないんだけど。


「キスはすべての始まりなんですのよ?! 愛情表現においても、ですから、ご主人様の体に振れる前準備だったはずです!」


窓から覗くと目が血走っているスフレちゃんが見えた。アイリが必死で止めてくれらしいから、ここは黙っていよう。



「それよりもコイツだ」


温泉デートプランを台無しにしてくれた鍋子は、今や猿轡にロープの付与と、拘束されて芋虫のようにベッドの上に転がっている。可哀想だと思ってはいけない。信賞必罰はこの世の常。スフレちゃんの時だって容赦はしなかった。



少し経ってからボロボロになって帰ってきたスフレちゃんとアイリを交えて、3人で会議した。


「淫獣は殺処分でよろしいのではなくて?」



笑顔で殺意をむき出しにするってなかなかできることじゃあない。



「待て待て。いいじゃねえか。結果的に旦那にキスしてもらったんだろう?」


「そのために下着を嗅がれたり、キスを奪われたり、挙句吐きそうになったり! この淫獣はご主人様のお気に入りだからと言っても、これは限度がありますわ! というか、前日お酒を飲ませた貴女も責任あるんですのよ?!」


「それはまあ悪かったよ。でも、折角の温泉だし、羽目外そうかなーって思ったって良いじゃないか」


「その結果私だけ全面的に被害にあっているのですけどね!」


興奮収まらないスフレちゃんをなだめる為に僕が出来るたった一つの冴えたやり方。

それは、ハグだ。イケメンのハグには、諸説あるけどもリラックス効果があると聞く。僕のささやき声も加われば、確実に落ちるだろう。


「落ち着いてスフレちゃん」


「ごまかそうたって駄目ですわご主人様!」



ぐぅ! 何故今日は僕の策がことごとく外れるんだ!


「わたくしの気が晴れなければなりませんの、被害者は私なんですから! というわけでこういう罰はどうでしょう?」



提案されたのは、『一日スフレに完全服従』というものだった。


「言っとくけど殺害とかそういうのは許さないからね?」


「そんなもの一瞬で面白みがないですわ。うふふ、久しぶりに滾りますわあ」


悪い顔をしているな。次回、鍋子。ご愁傷さまだなこりゃ。


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