君が元気になるためなら僕はなんだってするよ(ドヤア……)
兎の攻撃! 僕は華麗に避けた!
僕はせせら笑っている!
兎の吶喊! 僕はイケメンを輝かせて避けた!
僕はせせら笑っている!
「な、何故、何故当たらないの!?」
兎に案内をさせて、僕は集落に向かっていた。
そこには種族関係なく、
様々な魔物たちがいるそうだ。
……で、前回僕にやられて涙まで流し、
命乞いもしたこの兎は、
隙あらば僕を殺害しようと攻撃してくる。
まあ、憎らしい奴に殺意を抱くのは同情するけど、
それが僕に向けられているのが心外だ。
幼女が宝だとか、アイドルが宝とか、
「宝物はアナタよマイドーター」とか、
そういう物に並び立つのがイケメンだ。
イケメンは宝だ。正義だ。悪であった試しはない。
金がなくても女の子が寄ってくる(僕に経験はない)し、
気絶させることも出来る強者だっている。
そんなイケメンに属する僕を殺そうという態度が気に食わない。
「さぁて、内心ではイケメンの僕が惜しくて殺せないとか……かな?」
「アナタがイケメンかどうかなんて知らないわよそんなの」
どうやらこの世界では日本語が通じるようだとスキル表を見たら、
【言語習得】とある。既に習得済みだった。
なるほど。僕が何語を喋っても良いみたいだ。
「イケメンかわからない?」
「アナタ、別種族の顔見て、アレはイケメンとか分かるの?」
例えば僕が猿を見たとして、
イケメンか否か……わかるわけがない。
なるほど、そうか。
可哀想に。この兎には僕のイケメンがわからないみたいだ。
「甘いな。イケメンは別に顔だけじゃあない。
行動にも現れるの・だ」
「の」と「だ」の間で槍の攻撃が僕の心臓部分に当たるが、
パジャマを全く貫かないどころか、刺さってすらいない。
ダメージ0。
「ば、馬鹿な……そんな」
「あ~あ、油断しちゃったか。
仕方ない。ネタばらしだ兎」
僕は兎にスクロールの画面を見せた。
習得する技能の一覧が表示されている。
「見ろ、この【上下関係】を」
「……何も書いてないじゃないの」
「あ?」
僕にはきっちり見えるのに、
兎には見えないようだ。
文字が解読不明なら「なんて書いてあるの」と聞くだろうし、
本当に何も見えないらしい。
「なら口頭で説明するか。
前回というかついさっきか、
僕は君に聞いたよね?
『逆らわないか』って。
君は『逆らいません』と『涙声』で言った」
涙声というのは重要な要素だ。
「ま、まさか……」
「そう。君の思い描いているとおりだ」
【支配】【精神操作】というスキルもあったが、
これらは習得すること自体負けな気がしたので、
完全下位互換の【上下関係】を習得していたのだ。
【支配】はその名の通り、任意の相手を下僕にする能力。
特定のステータスによって、下僕の数を増やせるのだそうだ。
問答無用で、全然イケメンぽくない。
【精神操作】は相手の精神を操る、催眠術に近い能力。
操れる人数は多いものの、スキル保持者が命令しなければ使えない。
いずれも強力なスキルだ。
しかし、僕はこのイケメンでヒロインを惹きつける必要がある。
【上下関係】には拘束性がほぼ皆無だが、
契約を結んだ相手との間に永続的な呪いがかかる仕組みになっている。
上からの行動の一切が、下には何倍にもなって振りかかる。
逆に下からの攻撃には強烈なデバフがかかり、
上に対してのダメージが超減算されるのだ。
いわば、一度完全屈服した相手には、
絶対に逆らえないという、舎弟製造スキルである。
「……というわけだ。つまり兎、
今の君は僕の忠実な舎弟で、
道案内なわけだ。あんだーすたん?」
「そんな、馬鹿なあああああああ!」
突き、払い、吶喊、武術の乱打。
おお、やはり僕との戦いでは本気を出していなかったわけだ。
打撃型近接攻撃のオンパレードで、
兎らしくキックまで繰り出している。
もしも僕がこの、兎の本気モードが相手であったなら、
少しは苦戦したかもしれないな。
「兎は、所詮……兎だ!!」
全部の攻撃がヒットした。
しかしそのいずれも威力に乏しい。
一撃の重い攻撃であれば、
減衰率を利用してなお痛かったかもしれないが、
こうも軽いなら蚊に刺されたのと同じくらいだ。
「諦めろ兎。
所詮僕には勝てないんだよ。
既に上下関係が出来た以上はね」
「……う……」
次の瞬間。槍が地面に落ちた。
「うわあああああああんん!!!」
膝から崩れ落ちて、青ざめた顔に涙を浮かべて、
盛大に泣き始めた。
ううむ。流石に泣き声には飽きたな……。
いじめ過ぎたかもしれないという反省もある。
「泣くな兎。人生まだまだ良いことあるさ。
僕のようにね」
「うるざいにんげん゛め!
こんなんじゃ私は笑いものだ……、
誰も彼も笑う、兎の中でも笑いものだああああ!!」
「落ち着け兎。
この呪いを解く方法はある。
僕を殺すことだ」
「出来れば今そうしているよお!!
出来ないから泣いてるんじゃないかばかあああ!!」
ダメだこれは。
泣きっぱなしでどうにもならない。
僕のイケメンも通用しない以上仕方がない。
「兎。こっち向け」
「何だ馬鹿、こっちは―――」
【急所突き】。
鳩尾に一撃して、兎を気絶させた。
レベル1だから全然当たらないはずだが、
上下関係によって的中率も数倍増しているため、
運良く一撃で決まる。
「安心しろ。すぐに元気になる」
しかもこの急所突き、
残念なことに戦闘向きではない。
気絶中は追い打ち出来ないし、
少ししたら全快で復活する。
ツボの急所を貫くというスキルなのだ。
誰が考えたんだと思うが、
まあ回復スキルとしては優秀かもしれない。
「ったく、世話かけさせるなよぉ」
兎をおんぶして(槍も持って)、
道なりに進んでいく。
そろそろ本気でお腹が空いてきた。
兎には後でその辺聞いとかなきゃな。
次回予告:秘孔を突かれて気絶した兎を引き連れての度は順調だった。しかし、兎が目覚めた時、僕は気付いたのだ。「名前つけていなかったな」「私の名前はフリージア・メイトルッサだ」「いや、呼びにくいから……鍋子」「そんな名前は嫌だ!」次回、「名前」。イケメンの本名が見れるぞ!