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森林逃走劇


ある日森の中とあるけれど、どういった経緯で森に行くことになったのかスっごく気になる気がする。



「淫獣が野生に帰った? 良いではありませんか、自然の摂理ですわ」


まだシャワー室から出てこないスフレちゃんに注意を促しに行ったけど、当然のような突き放し発言にすがすがしさを覚えた。


「魔術で操られたか、何らかの興奮状態なのかは知らないけど、出会ったら要注意だよ」


それだけ忠告して僕はロッジを出て、スキルスクロールを取り出した。

最初期の有り余るポイントも、いまではその 1/3 にまで減っている。鍋子を探すのに有用なスキルはあるのだが、それはプライバシーの覗き見に等しいスキル『子分の心配』で、上下関係などで強いた下の部分に該当する者の位置情報を割り出すというものだ。今、どこにいるのか。何をしているのかがおぼろげにだが分かってしまう。


結構な能力だけども、行動が逐一わかるんだ。例えば、『台所で○○を料理している』などの情報も筒抜け。


もっと具体的に言おう。カップルAがいたとして。

『Aは公園で散歩している』『Aは池の真ん中でキスをしている』『Aは自宅で○○している』なんていう、そういう情報もわかってしまう。

人間も魔物も、隠し事なしに良い関係は築けない。触れられたくない領域にずかずか入り込んでくる奴なんか、信用されないものだ。



「ソナー的な魔法があれば……」


探せばあるものだ。レベルを上げるごとに半径が広がる、『円形位置』というアクティブスキル。レベル1だと半径1km、探しているものと地形以外の情報は出てこない。


「習得して……使う」


ソナー展開。魔力の薄い波動が円形状に1km程度広がる。

森や窪みなどの地形情報と、ウサギのマークが見つけられた。鍋子だ。



「距離は400m。北。……今も移動中か!」


ソナーの持続効果は2分。レベル1の技能なんかだいたい体験版みたいなものだ。レベルが最大になれば、1日は持つ上に距離も大幅に増える。



走ること5分。目星をつけた地点は真っ暗な森で、木々が邪魔でずいぶん時間がかかってしまった。けど、幸い獣の類はいないようだ。再度ソナーを展開すると……。


「え、400m……南!? ロッジだと!? なんつう速さ!!」


だが助かった。ロッジならばスフレちゃんがいる。魔法で捕まえてくれるだろう。観念しろよ鍋子! どうしてこんな暴走をしたのか聞き出してやるからな!



「きゃあああああ!」



絹を裂くような理想的悲鳴を上げたは……スフレちゃんの声だこれ!?

ぐう、ゲートで戻ることはできるけど、あれは1時間のタイムロスが生まれるから却下だ! 暗い森の中を灯りをつけてとんぼ返りする。


「大丈夫か、スフレちゃん!」


風呂場でタオルを巻き、アヒル座りをしてわなわなと震えているスフレちゃん。風呂場には魔法を使った痕跡の、焦げ目や破壊痕があった。


「どうしたの! 鍋子が来たのかい!?」

「来ましたわ……わ、わたくしの……ぱんつをぉ」


震えるスフレちゃんの手には、ぼろぼろのパンツがあった。


「思い切り嗅ぎやがったんですのよあの淫獣があああああ!!」

「なんだそりゃああああ!?」


そんな、変態じみた奇行を働くだと!? あの鍋子が!? ありえない!


「やっぱり誰かに操られているんだきっと!」

「いいえ! そういう魔力は感じませんでしたわ! あれはまさに野生の、性的興奮を前面に押し出した野獣! 許すまじ、死して罪を償わせてやる! このパンツお気に入りでしたのに!」


怒り心頭のスフレちゃんは、さっさと着替えると夜目を生かして森の中に消えた。僕と行動を共にする選択肢はないようだ。完全に頭に血が上っていて、冷静な判断力がなくなっている。



「ソナー……うん、スフレちゃんもさすが魔物だけあって軽快だ」


まっすぐ、鍋子のいる地点に向かっているスフレちゃん。僕はソナーとライトを展開に加えて、夜目もなくしての移動だから、5分もかかった。

けどスフレちゃんも鍋子も、魔物だから速い。特に鍋子の場合、森の中で生活していただけのことはあって、森の中の移動速度が半端ない。


「追いつけるかな僕も!」


スフレちゃんに何とか追いついたとき、鍋子がスフレちゃんの服を引き裂いていた。激昂したスフレちゃんは、普段は使わない殺傷能力の高い魔法で応戦するも、鍋子は易々とこれらを躱して見せた。


「死ね淫獣! 強○魔! この服弁償しろぉおおおおお!」

「……」


鍋子の表情がうかがえない。押し黙っているのも相まって、すごく不気味だ。



「『バーンクレイク』!『エメラルド・100・ナイフ』!『死ねよ矢ぁああ』!」


円形魔法陣の中央から打ちあがる炎が森の一部を焼いた。新緑色の氷でできたナイフが100本、鍋子に追尾飛行する。止めなのか、濃縮された魔力の槍が鍋子に襲い掛かる。


怒涛の魔法にも鍋子は慌てず、木登り後、鼻を利かせて枝から枝へとジャンプして逃走する。

逃すまいとスフレちゃんも後を追いかけ、エメラルド色の氷のナイフを統括し、執拗な攻めを見せた。

さすが犬だけあって走力は目を見張るものがある。僕も追いかけるのがやっとだ。追いつける気がしないし、少しでも気を抜けば視界の外に行ってしまうだろう。


「スフレちゃん、幻覚魔法は!?」

「死になさいこの淫獣があああ!」


あ、ダメだ。声が届かない。

そのまま駆け抜けた先には……温泉が!


既に暗い夜の中でも、月に照らされた湯気が白くまぶしい。


「邪魔」


鍋子が森の中に再び逃げ込み、追走するスフレちゃんに槍を投げつけた。思わぬ反撃に対応しきるため、スフレちゃんは本来準備時間が必要な障壁魔法を作り出して緊急ガードする。ガードしなければ、腹部に風穴があいていたかもしれない。


「ぐ、……ぇっ」


無茶な魔法の使い方をすると、反動が来る。魔法に慣れていたスフレちゃんですら、吐き気を覚えてうずくまってしまった。


「ご主人様、追って……あのバカ、必ず仕返ししてやりますから……」


ソナーを使い、鍋子を追う僕。逃がさないぞ鍋子!


次回予告:暴走する鍋子の相手を務めることになった人間代表榊涼太! 今こそ必殺の一撃を叩きこめ! というかイケメン要素今回どうなんだろうか! 次回『影』冒険は進歩する!

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