桃源郷にどぼーんしてきますと誰かが言った。翌日そいつは「我慢したけど性的に我慢できなかったと」警察に供述したとかなんとか
まるで何か、惨劇とかが起こりそうな立地条件だなあと僕は思った。
あらかじめ教えられていた宿は、てっきり旅館のようなものだと思っていたんだけどそうではなかったん。その宿はいくつものロッジを保有していて、更に温泉の1区画を独占しているというものだった。
まあ、要するに僕が宿だと思っていた建物は、単なる受付的な場所だったのだ。送迎用の馬車もあるとのことだったけど、折角だし散策していくことにした。地図を片手に、綺麗な自然を見ながらの徒歩。なかなかいいと思う。まあ、自然なんてこの世界では見慣れたものだけど、結界などの防犯機能がしっかりしている場所のため、余計な気苦労もない。
他愛ない会話と変態のスフレちゃんをなだめながらの旅路の果てに、そのロッジ群はあった。木造で2階建て。面積は少ないけれど、一夜過ごすのであれば十分な広さだ。
「3-R(別の異世界言語だけどわかりやすく伝えてる)……あった、ここだ」
温泉まで4~5分歩けばたどり着ける場所に建っているロッジの周りは、木々や川などで彩られていた。静かな川の流れ、鳥の鳴き声。最も近いロッジまでは2分はかかる。まさにプチ陸の孤島。
「なんだろう……家を思い出してすっごく落ち着く―」
鍋子は気に入ったようで、鍵を開けて扉を開けた瞬間襲い掛かった木材の香りの虜になった。
「ああ、鼻の保養になりますわ。硫黄の香りはもう沢山です」
スフレちゃんは四つん這いで入場。何があったのかは察してほしい。
「うっしゃああ!! 入るぞ旦那! 温泉来たなら温泉行かなきゃだよ!」
いきなり脱ごうとするアイリを制止するというかさせる!
「それは同意だけど脱ぐのはあとにしてくれ!」
「あ、ご主人様、私は温泉は遠慮いたしますわ……あの臭いがどうしても受け付けなくて」
「読者サービス拒否するとか人気投票したら最下位になって出番激減するんじゃないかな?」
「謹んで行かせていただきますわ!」
温泉は……混浴だ。
僕は一緒にお風呂に入ったことがあるのは鍋子だけ。しかも途中で耐え切れずにリタイアした。
「落ち着け。僕はイケメン。イケメンは僕。イケメンはどんな時もイケメンであってそれ以上でもそれ以下でもない」
温泉は何か所かあり、貸し切り式で他の客は別の温泉にいる。先に鍋子たちに入ってもらい、少しして僕が脱衣所に入った。よくある漫画の展開だと、別々に入ってどうにか覗こうとしたりとかするラブコメとかがあるけども、僕は違う。最初から堂々と、混浴なんだから問題なく突入する。これはイケメンとは関係ないけどね。
しかし、脱衣にも個性があるのか。一応籠が幾つか置いてあるんだけど、スフレちゃんのは全部畳んであって、鍋子のも同じ場所に入れてある。……籠には入っているけどもぐちゃぐちゃなのがアイリだ。ちなみに金棒は床に置いてある。
僕が全裸にタオルだけという格好で、温泉の脱衣所から出てみれば……駆け抜ける静かな風が、裸体にやさしくまとわりついてきた。
夕焼け色の空、押し寄せるような自然いっぱいの風景と、それらを煙に巻くような温泉の湯気。香りも良い。脱衣所から数秒先にある温泉は、簡素な掘り込み式だけどそれがいい。
「いらっしゃいませご主人様」
いきなり、タオル1枚を体にきつく巻いただけのスフレちゃんが現れた。
背丈は鍋子とだいたい一緒だというのに、なぜ体のラインはこうも差があるのか……。尻尾がタオルを押し上げているから、振り向かれたらお尻が丸見えだ。昨今の漫画とかではその程度で発禁にはならないけど、僕の意識が持っていかれるので見ないことにする。
しっかし本当、可愛いんだよなあ。元いた世界で知り合っていたのなら、絶対に付き合いたくなるほど可愛い。顔立ちは平均基準値を余裕で越えているし、体つきも背丈とのギャップがある。なのに変態属性を持っているのが残念でならない。温泉なのに首輪もつけているし。
「硫黄のにおいは気になりますけど、なんとかなるものですわ。どうですかこの体つき、ムラムラしません? 後で夜のお散歩にでも行きませんこと?」
しなを入れて僕を誘惑する表情も完ぺきなスフレちゃん。もうこの時点ですでにムラムラしているのは、イケメンである僕には絶対に言えないことだ。
「おう、旦那来たのか! 良いぜ、体洗ってやるよ!」
大型のタオルが必死に隠さなければ、全裸で僕の前に立っていたであろうアイリが湯を滴らせて歩いてくる。何てことだ……暴力的なまでの体つきだ。背がでかいのは知っているし、胸もでかいのは知っていたことだけど、いつもは鎧とか下着で……抑え込んでいたのかというくらいでかい。二の腕もたくましいし、腹筋も割れていて足も長くごつい。褐色の肌が、白い湯気とのコントラストでより一層際立つ。性格と言動で女の子らしさを全く感じないアイリのくせに、水も滴るいい女状態なのがむかつく。それに思い切り顔を赤くしている僕もむかつく。
「い、いやいい、女の子を洗ってあげるのがイケメンの義務であって」
「あ、リョータきたんだ!」
最後は鍋子。やっぱり人間よりの魔物2人に対し、鍋子はあくまでも魔物寄りだ。しかも体つきも……格差がありすぎる。まあ、この方が自然体で接することができるから落ち着くんだけどね。
「お前だけだよ鍋子、安心できるのは」
「なんでだろう。嬉しいはずなのに、馬鹿にされてる気がする」
僕はアイリの誘いを振り切って、温泉に入る。かけ湯を忘れずに。
ほっとする時間のはずなのに、しきりに僕の横に来るスフレちゃんと鍋子。
で、僕の目の前に座ってその様を、酒を飲みながら眺めているアイリ。
全然落ち着けない。
「お酒飲んで大丈夫なのアイちゃん?」
「酒は百薬の長だからだいじょうぶさ。ところで鍋子ちゃんでも飲めそうなお酒あったから、後で渡すよ」
「ねえねえご主人様ぁ。今夜はどんなプレイしましょうか!? 解放感あふれるここならば、羞恥的なプレイもできますわよ!」
タオル越しに伝わる柔らかい感触が、冷静沈着な僕の脳みそをグズグズにしていく……。
「リョータ、後で体洗ってあげるよ! 全身綺麗になるねー!」
改めてここは
楽園だと思ったけど、楽園ならば僕はなぜ今出たがっているのだろうか? それは気恥ずかしさと女の子のオーラにあてられてのことだろうと思う。でも、アイリに拘束され、全員に体を洗われる。股だけは洗わせなかったし触らせもしなかったけど、鍋子とスフレが狙っていた視線……あれはまさしく野獣のようで、食われてしまうかもしれないという恐怖を覚えたことだけは伝えておく。
ああ、漫画とかでおなじみのソープまがいなことはしてないからね、念のため。




