襲撃事件の顛末
襲撃事件は完封勝ちに終わり、3人はダンジョンから脱出した。スフレはスッキリとした表情で。アイリは腹減りを抑えながら。鍋子は若干浮かない顔をしている。
「どうしましたの?」
「ねえ、本当にアレでよかったのかな? 全員最下層に落としちゃって」
「優しいを通り越してお人好しだぞ鍋子ちゃん」
やれやれと鍋子に歩み寄り、スフレは鍋子の鼻先に指を立てた。
「ふぁぐ!?」
「良いですこと淫獣お人好し。優しいだけで割り切れる者もいれば、それ以外の感情で割り切る者だっている。むしろ世間一般では、優しさで物事の優劣は付かないものですわ」
「それに関しては同意だな」
「あら? 豚にも考えは有りますのね?」
「考えはねえけど矜持はあるんだよねえ。あとそういう一言余計だぞ犬ころ」
ダンジョンの定期便が来たが、乗らずに歩いて帰ることになった。
「ダンジョンを容易にクリアできる人は、憧れ、羨望の眼差しが向けられますわ。でも、それ以上に嫉妬と殺意も向けられるんですの」
金棒を弄びながら、並んで歩くスフレと鍋子の後ろから見守るアイリ。表情はいつもどおりだ。
「あの20人は、明らかに後者。徒党を組んでも精々3階がやっとの弱小集団ですわ。きっと5階に行こうものなら、何人かの犠牲を払うことになります」
「だからって、私達を殺そうとするものなの? だって報酬とかは変わらないじゃない。皆ランダムに稼げるのに、そんなことしなくたって」
これだから淫獣はと、スフレが口を出しそうだなと思ったアイリ。先に口を開いた。
「妬みは理不尽なものだぜ鍋子ちゃん。アタイも経験あるからさあ。強くなるために鍛えに鍛えて、英雄再来とまで謳われる奴等をかたっぱしからぶっ飛ばして行ったら、『俺が倒す』って目を毎日感じたもんだ」
「まあ野蛮。これだから豚は粗野ですわね」
「理不尽じゃね!? まるでアタイが悪いみたいじゃないかよぉ!」
「ま。こういう野蛮な奴だっている世の中ですから。優しいだけじゃあ無く、時には厳しく当たるのも大事なのですわ。第一、貴女また地下6階に行って助けようとか思っているみたいですけど、助けてどうなりますの? また殺しにかかるのがオチですわ」
考えをスフレに見透かされる鍋子が、押し黙って槍を強く握った。
「いや……それでも私、優しいとかそういうのじゃなくてさ……出来れば殺すとかじゃない仕返しとかしたいと思って……」
自分が涼太にされたこと、生かしてもらったことを思い出し、鍋子は視線を下に下に向ける。
「重度ですわね。ご主人様だって、同じ目にあったら同じことで数倍にして返すと思いますが」
「ダメなんだよねえ犬ころ。鍋子ちゃん、旦那に相当熱入ってるからさ」
「じゃあ、帰ったらご主人様に聞いてみましょう。助けるか見捨てるか。助けるのであれば全力で助けますわよ」
妥協案に鍋子はパッと顔を明るくし、スフレに抱きついた。
「ありがとうスーちゃん!」
「あ、コラやめ、性臭が移りますわ!?」
金になる物の精算をして、買い物をして宿屋に帰って来た3人。既に帰宅していた涼太に出会った。彼は金貨の入った大きめの袋を持っている。量から考えて、100万blほど。
「お、すっげえ稼いだな旦那! 何してきたんだ?」
「おかえり3人とも。なあに、人助けさ。イケメンレスキューってやつだ」
喜々として金を得た顛末を話そうとした涼太だが、鍋子が割り込む。
「お願いリョータ! 助けて欲しい人達がいるの!」
「え? 誰? 可愛い子かな? むさ苦しいのだったらヤダけど」
自分たちがダンジョンに行き、そこで襲われたこと。撃退して最下層に追い落としたこと。それらを鍋子は話した。
「ほうほう。……いやいや、鍋子。そういうのは自業自得さ。助けたって何の得にもならないし、第一掟なんだろう? 人殺しをしたっていう罪悪感とかそういうのはいらないから大丈夫さ。僕も極力殺人はしたくないけど、殺される場面なら心を鬼にしなきゃいけないと思うよ」
「でも……」
求めていた答えがもらえず、鍋子は落胆した。話が終わったことを確認して、涼太が自分のことを話す。
「いやはや。料理スキルもあるし食材も見繕って、路上で販売してみたんだけどさ。繁盛はするんだけど来る客層に男が多いから止めて、そのあとギルドのガマ蛙と出会ってね。そこで教えてくれたんだ」
涼太は鍋子の肩をたたき、ベッドに腰掛けている自分の膝を叩いた。有無を言わずに鍋子が涼太の膝に乗る。表情はやや持ち直していた。
「何……この慣れた感じ……! ご主人様、スフレにも、スフレにも!」
涼太は「これだからイケメンは凄いな。引力ってやつが」とぼやきながら、スフレを床に招いた。一瞬で意図を汲み取り、スフレは服従のポーズを取って涼太の前に跪いた。
「イケメンの僕が率いるパーティを、妬む輩が存在すること。それをどうにか洗脳魔法使ってでも教育しなおしたいこと。で、僕がいないことで君たちが狙われやすいことも教えてくれたよ」
鍋子の頭をなで、スフレの頭を軽く踏む。サディストの気はないと豪語する涼太だが、求められることには全力で応える気概があった。
鍋子は穏やかな表情。
スフレは恍惚の表情に放送禁止級の蕩け顔をしている。
「なあるほど。つまり、アタイたちはまんまと餌だったってわけか」
「わ、私達を利用したのリョータ?!」
「美少女を3人危機に晒していく、なんという鬼畜……さすがご主人様ですわ!」
「餌? 相手は数で、君たちは質で優っている。不細工が数百人集まっても女性の関心を得られないのとは違い、イケメンはたった一人でもその存在感を遺憾なく発揮する。質より量というのは、質を問わない場合だ。でも、この場合質に勝る数はない。……まあ何が言いたいのかって言えば、君たちが負けることなんか微塵も考えてなかったって話さ」
アイリはにやりと笑い、当然だと、褐色の大きな胸を張った。
「で、君たちは同時に、殺せないってのもわかっていた。制裁はダンジョンに委ねようってことも知っていたさ。でも、2階、3階とかの、浅い所で襲撃するとは思えない。すぐに逃げられるのがオチだからね。だから4、5階で。恐らくは5階で襲撃を図ると思ったんだ。……殺したくはないし、目に見える場所で死なれるのも心苦しいと思えば、君たちが取る行動は下層に突き落とすくらいだ。……推理は当たったよ。既に僕はゲートで最下層にいたからね」
3人が驚き、それを見て涼太が満足気に続ける。
「ランダムな1~5階層にはゲートが出来なかったけど、最下層は固定だから行けたよ。結果的に、僕は瀕死の彼らを拘束して、ゲートを使ってガマ蛙の所に返送したのさ。報酬は気前良かったよ。……とと」
撫でていた鍋子がいきなり振り返って抱きついたことに涼太は驚いた。
「ありがとうリョータ!」
「ええ? ……ああ、確かにそうか。鍋子の望みは叶ったわけだね」
次に涼太の足をスフレは喜々として舐め始めた。そちらについて涼太はノーコメントだった。
「ははは! どうだアイリ、イケメンというものは、どこで何をしても、好感度が上がる……。全く、生まれついての宿命に加えて、たゆまぬ努力があって今に至るんだ。凄いだろう?」
「あっはっは! 旦那のいた世界のイケメンっていうのがどうかわかんねえけどさ。でも」
喜ぶ鍋子を見て、アイリは笑顔になった。
「やっぱアンタは、イケメンなんだなーってのは思うよ」
NG1:スフレ「足ではなく、その、もっと上の三叉路の中心を舐めましょうかご主人様!!」 涼太「それは発禁処分になるから足だけにしておきなさい」




