ガールズトーク(肉体派)
地下5階。
全6階層まであるこのダンジョンにおいて、まさに最下層への片道キップ。辿りつけたとしても、並みの冒険者であれば生きて出られるかどうか怪しいほどの難易度を誇る。盾を持つ雑魚、果敢に奇襲をしてくる魔物、魔法を使う者こそいないが、バリエーションは豊かだ。
「ところでご主人様と、お風呂に入ったというのは……本当ですか淫獣」
幻惑魔法でありもしない敵軍を見せつけられた魔物たちは、隊列も崩されて大慌てになっている。中には魔物に敵だと認識させる魔法もかけ、スフレは手を汚すこと無く魔物たちを無効化、同士討ちをさせていた。
「だから、その淫獣って……私は誰にでも淫らになるなんてそんなのないんだから!」
混乱の坩堝にある敵に止めをさすのは鍋子の仕事だ。迅速に急所を狙い撃って仕留めている。
「旦那限定で淫獣になるんだよなー。わかるわかる」
スフレの変身魔法で、凶暴な狂戦士の映像を貼り付けられているアイリ。金棒を振れば魔物が恐れおののく。盾を構えられても、盾ごと体を粉砕されて霧になっていく。
これまではスフレなしでも4階までは余裕だった鍋子とアイリだったが、5階を疲れなく攻略出来たのはこれが初めてであった。なお、フロアモンスターは即効で撃破された。
「出てくるお宝もやっぱり鉄関連ばっかだな―。もう鉄はいらねーってのに」
「あら、鉄ばかりでも喜ぶんじゃないですの? 武器の材料になりますし」
金棒を指さされ、アイリは若干不満そうな顔をした。
「軽いんだよね―。もう少しずっしりとしていて、それでいて見た目はそうでもないような武器が良い。」
「材質の問題だね。鉄よりも思い金属ってあるのかな?」
「はああ、淫獣は視野も教養も狭いのですね……交尾と繁殖の事以外ないのかしら?」
流石に殺す勢いでスフレに突撃しようとした鍋子を、アイリは腕尽くで止めた。
ダンジョンでの狩りが一通り終わり、自分たちで設定したノルマを達成したことを確認してから、3人(匹でも可)は地上に帰還した。
「はあ、ダンジョンって泥臭い感じで嫌いですわ」
「文句ばっかだな。お前はお嬢様か何かかよ?」
帰りの馬車に揺られながら、着ている服の確認をしているスフレに、アイリは呆れ顔で言う。
「あら、お嬢様……ってほどではなくても、気品は誰だって持てますわよ。折角ですから豚さんもやってみればいいじゃありませんの」
「アタイがぁあ? ……旦那に対して言ってみるか?」
「旦那ではなく、旦那様でしょう?」
スフレのアドバイス。
「いやいやいや、それだとアタイが旦那の旦那様……って、え、あれ?」
アイリは混乱した。
「ずるいアイちゃん! 私もリョータの旦那様になりたい!」
鍋子は狂った台詞を唱えた。
「言ってること滅茶苦茶ですわよおふたりとも……」
スフレのやる気が5下がった!
その日3人は涼太と顔を合わせるも、彼は用事があると言って部屋からそそくさと出てしまった。
「あ、伝え忘れていた」
が、すぐに戻って忠告を残す。
「油断大敵だぞ」
そして出て行った。
「……何のことかな?」
「さあ……。旦那はたまにわからねえからな」
「ミステリアスで鬼畜とか最高です」
スフレはとにかく、ダンジョンで付いた汚れを取るべく風呂場に行った。アイリと鍋子も続く。
「な、なんですの? 淫獣はともかく、豚さんまで来たら狭いのではなくて?」
「まあまあ。裸の付き合いっていうのは大事なんだぜ」
「お風呂に……慣れるために一緒に入りたいと思って」
スフレが女の子らしい服を脱ぎ、清潔な下着をかごに入れて浴室へ入った。
鍋子は水着を取ってかごに放り投げると、震えながらも浴室へ入った。
アイリは豪快に肌着を脱ぎ捨ててかごに投げ入れると、鏡の前でポージングをして首を傾げた。
「なんだろう、昨日よりも痩せてる気が……ああ、久しぶりの快便だったからなあ。いいことだな!」
浴室は2人だと広く、3人だと狭い。
ちなみに別の部屋の浴室はこれよりも狭いし汚い。
「はいるぜー!」
「待ちなさい、かけ湯! かけ湯しなさい! ほら淫獣も!」
「か、かけ湯ってなに? 湯船に頭から逆さにつっこむんじゃないの?」
かけ湯し、スフレは鍋子の体をジロジロと見て、鼻で笑った。
「な、何よ?」
「いいえぇ? 淫獣なのに、体は幼獣なんですのねえ。ほら、ご主人様を誘惑するには、せめてわたくしくらいのバストがなければ……と」
ニヤニヤと優越感にまみれた顔を向けるスフレに鍋子は憤るが……事実なので強く言えない。
「ほほう。乳比べってか。アタイのはどうよ? 犬ころに比べればデカイだろう?」
「体もデカイんじゃあ意味ないですわ。小さな体に大きな胸! これが殿方の理想形なのだと思いますけど?」
「そうかー? アタイはガッチリした良いからだだと思うんだけどねー」
自分の手を皿に、胸を上下に持ち上げるアイリ。
負けじとスフレが同じことをして対抗している。
「次元が……違う……!」
鍋子は手を皿に、胸を……。
だが、皿に乗るのは……空気だけ……。
「あら、縦にすればいいじゃないですの。淫獣皿カップ」
「……ぶっはあははあ!! さ、皿……! 皿……! 淫獣皿カップってお前……天才かワンコロ!」
「酷いよぉおおおアイちゃああああん!!!」
シャワーで放水攻撃! アイリの顔に当たった!
「起伏のない貧相な体で性欲だけはいっちょまえ……なんてサキュバスですの? 今度巨乳になる薬でも作りましょうか? 頭パーになるかもですが」
「余計なお世話だよ!! 良いよ、こんな胸でも、リョータは触ってくれ……あ」
スフレとアイリが目を輝かせた。
「へえ……触ってもらったのか」
「それは、初耳ですわね。とう」
アイリとスフレが鍋子を捕まえて湯船に入る。
鍋子の目の前にスフレ。
抱きかかえるように鍋子を拘束するのはアイリだ。
スフレの体は鍋子同様小さいが、胸のサイズでは勝負にならない。
そしてアイリの巨体の、谷間を鍋子は枕にしている。
「胸が……私を……責めるの……」
「うふふふ。混乱しないで答えなさい淫獣皿カップ」
「ぶふぉっ! ぅ、っくく。鍋子ちゃん、今の話、詳しく」
ほらほらと、スフレは鍋子の耳を掴んで弄る。
アイリは鍋子の脇腹をくすぐる。
「アヒィや!? みっみ、耳! やめて、それに、そ、あふひゃひゃひゃや!!!」
バシャバシャと湯船がゆれる。飛沫が上がり、スフレはいじめっこ魂に火が付いた。
「揉んでもらったのですね? なるほど、豊胸の手段は揉むこと。実行したのですね!」
「こんな風にかい?」
脇腹をくすぐるアイリ。鍋子は盛大に笑った。
「ちがう! もっと、はっきりぃっひゃひゃひゃ!!」
「引っ張って差し上げますわ」
「痛い痛い!! やめ、ひゃはははは! 痛い、それ以上は伸びち、いっひゃはははあは!!」
「おらおら、ここがいいのか鍋子ちゃん~」
5分間ほど弄ばれた後、鍋子は開放された。笑い過ぎでぐったりしている彼女を、スフレは洗ってやる。
浴室内の椅子に腰掛けたアイリは、鍋子を抱えていて、それをスフレが洗っているという構図だ。
「全く。世話のやける淫獣ですわ」
「まあまあ。楽しかったし」
ため息を付くスフレは、なにか満ち足りた顔をしていた。
「なっひょく……いかにゃい……」
鍋子は呻くようにつぶやいた。




