3章のエピローグ。宿命、サダメ。
躾というのは大事なことだと思う。オイタする前にしっかりと躾けておけば、良い子に育つと思うんだ。調教じゃないかって人もいるけど誤解だ。この間のあれは躾だよ。
あのお仕置き劇から数日後。僕の周りの日常は……あまり変わらない。
ダンジョンにも行くし、戦利品を売ったりするし、それなりにお金も貯まって、それがアイリの食費で結構失う。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
最近あの首輪をはずしたからか。鍋子が夜な夜な発情をする。
本人は僕に迷惑をかけまいと、抑えているらしいのだが……。
「りょー…たぁ……」
我慢できそうにない時がある。そういうときはイケメンの匂いをかぐことで少しは落ち着くだろう……なんて思ったけど逆効果で、
「はっぁ、はぁああああああ!?」
「落ち着け鍋子! 鍋子、僕のパジャマを破くな! 狼か、夜は肉食なのか、鍋子ぉおおお!!?」
夜の営みを、夜のプロレスと揶揄する人もいるけど、僕の場合は本気でプロレス……というか格闘技だ。
イケメンの貞操というチャンピオンベルトをかけた戦い。負ければ僕は……既成事実を作られる!
上下関係のスキルがなかった場合、僕は鍋子に完敗するだろう。それくらい鍋子は強い。最初に出会った頃も強かったけど、ここ最近は経験も積んでいるので更に獰猛だ。
「りょーたぁああ……食べたい……あなたが……子供があ……!」
宿屋内で繰り広げられる、死闘。正直、ハンスとかよりもこっちのほうが厄介だ。
鍋子の目が赤く充血し、体毛は色魔モードを表すピンク色。抱きついたらさぞ気持ちいいだろう柔らかな体毛だが、誘惑には乗ってはいけない。僕はイチャイチャしたい。直結とかはその先で良い。今はまだ、チャンピオンベルトを渡す訳にはいかない!
「ヤれるものならヤってみろ……僕の貞操は渡さんぞ鍋子!」
「産ませろぉぉおおおおおお!!」
口調が乱暴に、表情がとろけきって、目が逝っている。
「うなれ炎、バーニングぅ、なっくる!!」
「いきゃああああ!? 燃える! 燃えるぅ!!」
炎魔法をのせた拳で撃退。怯んだ隙に氷結魔法でクールダウンさせる。
……というのが今までの、鍋子を鎮める方法だった……。
が、最近は少し違う。
「うふへへへ……そ、そんにゃ……そんにゃことまれぇ……」
最近仲間になった、スフレちゃんが得意とするのは魔法。
それも妨害や幻覚などのデバフ(悪い効果)系統魔法が得意だ。
スフレちゃんが鍋子にやったのは、淫夢操作。平たく言えば、夢のなかで性欲を発散させるのだという。
「どんな夢を見てるのでしょうね? 嫌ですわ、年中発情期の色魔はこれだから」
きっとイケメンである僕の夢だろうど……。
「ありがとうスフレちゃん。コレでぐっすり眠れる」
「お待ち下さいませ、リョータ様」
あの躾の日以来、僕らのパーティに名を連ねたスフレちゃん。上下関係を魔法的にも精神的にも付けられた彼女は、まさに従順な犬そのものだった。
最初の頃は隙を見て反逆を企てるかもしれないと思っていたけど、そんなことは全く無く。戦闘においても手助けしてくれる。
今までが肉体によるゴリ押しだった僕らのパーティに、サポート魔法の使い手は正直ありがたくて涙がでるほどだ。……何故僕がサポート魔法を覚えないかって? 僕は主人公で、イケメンだぞ? サポート魔法は後方支援のお仕事だ。イケメンは最前線に立ってこそ。
「なんだい?」
「あの……この首輪なんですけども……」
特に魔法のかかっていない普通の首輪だ。そういえばあの日からつけたままだった。
「あ、外したかった? それなら今すぐ」
「違いますの! そうじゃなくて……つけていても……よろしいですか?」
……え? いや、別にいいけど? と言うと、パッと顔を笑みで満たし、犬耳がパタパタと開閉し、尻尾が左右に振れる。
「で、では、お散歩しましょう! ね、お散歩ですわ!」
何か期待の眼差しを受ける僕。鍋子は淫夢中。アイリは酒の飲み過ぎで爆睡中。……お散歩か。
「じゃあ行こうか」
「あの、でしたらコレを……」
手をつなごうとしたら、スフレちゃんが一本のロープを出した。
赤い、素材不明の伸縮する紐。
「わた、くしの……首輪に付けて下さいませ」
まるで恋する乙女のように、僕に求める彼女の瞳は熱烈な期待を秘めていた。
夜の集落は既に静かで、街灯がいくつかの光を作るだけ。喧騒も帰ってしまい、僕とスフレちゃんを見るものは、見廻りくらいしかいないだろう。
「あの、スフレちゃん? これでいいの? お散歩」
「はい! 天にも昇る気持ちですわ! お散歩って夢じゃないですか! 乙女の!」
てっきり僕は、並んで手を繋いでのお散歩という、好感度上昇待ったなしのイベントかと思っていた。
が、そうではなく……ホンモノのお散歩。犬との散歩に近い。
スフレちゃんは2足歩行で、僕の前を歩いている。首輪から伸びた赤い紐を手綱として、後方を歩く僕に委ねていた。
「わたくし、リョータ様……いえ、ご主人様の犬に……なっているのですわよね? ね?」
「そ、そうだね」
「ご主人様の犬! 何しましょうかご主人様、誰もいない今なら、どんな命令でも! マーキング? 恥ずかしいポーズ!? 羞恥でも痛みでも甘んじて、受けてみせますわよ!?」
「それ以上はR-15の範疇を超えるからダメ!?」
「わたくし、感謝していますの……今まで、いじめることが爽快なものだと思っていましたの……でも違った。毎度毎度、なにか物足りなかった。でもそれがなんだかわからなかったんですの。誰かを支配下においても、全く、満たされない……だから次の支配下を探していくだけの不毛な日々……。それを、満たしてくれたのが、ご主人様」
くるっと振り向いたスフレちゃんは、いきなり土下座した。
「誰かに、奉仕、従事、することの幸せ! これぞ犬族の本懐なんだって! 気付かせてくださった! お父様もその部下も、最近は従事しないから血気盛んで困っていた所に、まさかこんな救いの道が開けるだなんて!」
土下座をやめるよう促すけど、ダメ。スフレちゃんはむしろ、そのままより深く、おでこを地面にこすりつけた。
「踏んで下さいご主人様!」
「やめてスフレちゃん!?」
「蹴って下さい!」
「ヤメロッテ!」
「なんなら詰って!」
「僕は鬼畜じゃない!」
「傷めつけて滅茶苦茶にして下さいませ!」
「犬族というか君がドMなだけだろ絶対!」
「ここ数日淫獣にかまけて全然私に構って下さらない悲しさを鎮めて下さいご主人様あああああ!」
「君は鍋子と違って特殊性癖な淫獣だなおい!?」
ぐっと顔を上げたスフレちゃんは、目をうるませている。本気で、傷めつけて欲しいのか……。
「……鬼畜なイケメンも需要はあるものだな」
ひょいと、軽い体重のスフレちゃんを持ち上げる。軽いといっても何十キロ。上下関係があるから、軽々持ち上がる。
「悪い子に目覚めさせたんだ。お仕置きして矯正しなきゃね」
小脇に抱えておしりを、強めに叩いた。
「ヒャン!?」
「悪い子にお仕置きといえばこれだね。よく母さんからやられたもんだよ」
2度、3度、打ち付けるだけじゃあ足りないだろうと思い、何度も叩いた。口汚く詰るのは僕の趣味じゃないし、腹とかを殴るのはこの間以上にキレた時だけだ。鞭だって本来は趣味じゃない。
……けども、人間っていうのはどうしても「体で覚える」必要がある。体罰をなくした結果どうなったか……今の学校教育の現場を見れば、よく分かる。
「あ、あぁあん……♪」
喜悦の混じった声。真夜中の尻叩きは終わり、帰るように促した。
満足した顔のスフレちゃんは、僕の指示通り寝床に向かった。
どうしよう。こんな変態になってしまったのは僕の責任だ……。
今後のことを考えて、僕は頭をいためたのだった。
次回予告:次回はようやく新章突入! というわけで、お買い物だったり取材を受けたり色々待ってる! 変態淑女を仲間に加えて、いざゆかん、イチャイチャへの道! 次回、【お金の使い方】お楽しみに!




