支配から逃れる記念日を多分、卒業とか言うんだろう。
果報は寝て待てなんて言葉があるけど、待っている間にできることだってあるよ。ニキビ対策だとか。
どういうわけかわからないけども、僕らに降伏勧告を出してきたスフレちゃん。今がチャンスだと僕は知った。
考えられる理由はいくつかあると前回言ったが、その中の「できなくなった説」を僕は推す。色々と説明がつくからだ。今までのことで分かる。
思えばダンジョンというものは、階層移動やら何やらギミック満載の場所なのに、ここは擬似とはいえダンジョンの大幅劣化版。出てくる魔物は統一感もなければ強さもない。僕だけを傷めつけて、鍋子やアイリだけを排除するのが目的なら、もっと強い魔物を出せば済む話なのだ。
しないというより出来ないのだろう。切り札的なこのモンスターハウスだって、殺傷能力は正直無いに等しい上にパンチが弱い。
以前のハンティング・スティーラーの時同様、何らかの魔術的アイテムで……多分、自分の魔力を使用して作っているのだと思う。だから、魔力の枯渇によるダンジョン消滅からの報復を恐れて、手仕舞いにして逃げ出したいのだろう。
……と、ここまで考えてみたものの、それだと1つ気になることがある。
「ゲート」
聞こえないような小声で発動させてみた。……なるほど。発動しない。ダンジョン内であろうが問答無用で開くこの魔法が発動しない。
このダンジョン内に魔法禁止の結界でもあるのかと思ったけど、それなら僕の炎魔法だって発動しなかったはずだ。
つまりゲートが使えないのは、スフレちゃんによるものではなく、それ以上の存在による働きかけがあるのだろう。あのガマ蛙が手を回したのだろうか? まあ、この仮説が本当ならば……。
「勝ったぞ皆。2階に行こう」
スクロールで1つだけスキルを選択し、取得。スフレちゃんのいる2階に上がり、障壁越しにまだ余裕の顔をしている彼女に笑いかけた。鍋子も、アイリも。僕が勝利宣言した時から、信頼してくれる。
「あらあら、どうなさいましたの? 雁首揃えて?」
「いやなに。攻略法をようやく見つけたものでね」
わかるぞ。手に取るように。今、内心青ざめているのだろう? 頼みのゲートも使えず、その手に持っているアイテムに魔力を吸われているんだろう?
「くっ!」
一瞬だけ余裕が崩れた瞬間、壁から魔物が生まれるが……書く必要が無いくらい怒りのスマイルな鍋子とアイリが蹴散らした。
「楽しかったぜスフレちゃん。けど、おイタが過ぎたね」
右手をスフレちゃんに向ける。目の前の障壁を突破する攻撃魔法は存在しない。……が、攻撃性のない魔法ならばどうかな?
「【マジックドレイン】」
手を向けた対象から魔力を奪う魔法。魔力を必要とせず、魔力を回復する数少ない手段である。
どうやら魔力枯渇が弱点であることがバレたのだと、スフレちゃんは焦って魔法を展開した。が、自分の障壁に弾かれるというミステイクを犯す。
「慌てているねえ……良いんだよスフレちゃん。楽になってしまえ。僕の顔をこんなにした罪は、生半可なものじゃあ済まない。くだらない茶番劇でよくも数話引っ張ってくれたな……僕のイケメンを楽しみにしている人が悲しんでいたし、僕も悲しんだものだ」
魔力がジリジリとなくなるスフレちゃんが僕にマジックドレインを仕掛けた。魔力障壁はそれ自体が魔力で出来ている。……つまり、僕とスフレちゃんの両側から仕掛けられた障壁は、魔力を大きく吸われ……もろくなっていくのだ。
鍋子が槍を穿ち、ひびが入った。
「楽しかった……水性スライム」
「水性スライム」
血管の浮き出た笑顔の鍋子に、血管の浮き出た笑顔のアイリが続ける。
壁のひびが蜘蛛の巣のように広がる。
「ひでえ臭で、殺意が増し増しになったぜ」
「恥ずかしかった、水着ぽろりも」
「腹筋くすぐり地獄も」
「「今となってはいい思い出です」」
盛大な音を立てて障壁が砕ける。魔力のない障壁なんてこんなものだ。
「きゃぅうううううん!!?」
完全破壊されてしまった障壁。魔物の乱発も効果なし。僕に魔力を吸われていき、ダンジョンが歪んでいく。
悲鳴をあげるスフレちゃんは、自分にかけた変身魔法も解けたのか、尻尾が現れた。長い、ふさふさの尻尾。近所に住んでいた大型犬の尻尾に酷似していた。
「犬歯だったから犬だとは思っていたけど、犬要素がそこだけか。へえ、良いね。……いじめがいがあるよ」
「こ、来ないで下さい! ゲート、ゲート開いて!」
笑みを浮かべる僕、鍋子、アイリ。アイリが回り込んで両腕を掴んだ。鍋子が喉元に槍を向けた。僕がにじり寄ると、青ざめた顔に涙を浮かべて命乞いをした。
水晶球を落としたのでそれを壁に投げつけると、粉々に砕けて空間が歪み……魔力の一切ない空き家になった。
「ご、ごめんなさい! 助けてください! い、命、命だけは私とってないんです! ですから助けてください! お願いします! お願いします!」
これではどちらが悪かわからないって? やだなあ、善良な僕に逆らった方が悪なんだよ。善と悪は反比例していて、僕が善なら、それに仇なすは悪だ。必然だよ。
「その様子じゃあもう魔力1つ使えないみたいだね。つまり無抵抗ってわけだ」
「旦那ぁ……もう良いかい? 腹でも顔でもいいから、【思い切り】ぶん殴らせてくれよ」
「その前に鍋の準備だよねリョータ。犬鍋って美味しいのかな?」
「きゃうぅ!?」
皆の笑顔が壮絶にキマっているのが恐ろしいのだろう。抑えつけていなければ土下座でもして許しを請うのだろうけど……許さないけど。
「まあ待てアイリ。鍋子も。……スフレちゃん。もしも助けたら、君は僕に【絶対に逆らわないかな】?」
「【さ、】【逆らいませんから!】ですから助け……あ」
上下関係のスキルが発動してしまったことに、スフレちゃんは一層青ざめた。ガクガクと震えて、僕を見るスフレちゃんの顔は正直……良い。
なんだろう。自分はサドでも鬼畜でも無いはずなんだけど、絶対的に悪いから良心の呵責なしに攻めることが出来る。
絶望的状況に、今にも気を失いそうな彼女の顔を見て、勝利を確信し、笑うしかなかった。
「上下関係を結んだ以上、僕から君を殺すことは出来ない。……でも、ヒールやら攻撃力には倍率補正がつくんだ……って、説明するまでもないよね? そうやって来たんだろう、今まで」
ポンポンと頭を叩いてあげる。にっこり笑ってあげる。
ほんとうに怖いのだろう。力なくスフレちゃんは笑った。
「死なない程度に傷めつけていいぞアイリ。鍋子。どうせヒールで治るしねえ」
「ガッテンだ……!」
「熱湯沸かしてくるね―♪」
「ひっ、いやああああ!!?」
※只今、R-15でもお見せできない制裁中です。ご覧の方は次の話に進んで下さい※
次回【おしおきタイム】おしりペンペンとか生ぬるいことはいいません!




