演技はまだまだ続く。演技無くても僕は自然体のイケメン。何も問題ない
まさか女の子に制裁を加える日が来ようとは。
でも仕方がない。こんな顔で過ごした一週間。
僕の恨みは最高潮なのだから。
ガマ蛙の言うとおり、僕は一週間を演技に費やした。
フードを目深に被って顔を隠そうとしたり、
挙動不審になってみたり。
そして、ダンジョンの中では荒れた行動で敵を倒していく。
「リョータ、最近どうしたの?」
「旦那が普段言っているイケメンとか言うのとは程遠いな―」
徹底するため、鍋子とアイリにも演技に付き合ってもらった。
僕が狂気的に突撃したり泥臭い戦いを演じるのを、
それぞれが冷ややかに見るように言ったのだ。
……夜毎それを気にして鍋子が僕の耳元に
「ごめんねリョータ」というのを聞くと、
僕は申し訳無さとスフレちゃんへの怒りとで悶々とするのである。
そして1週間後。これからダンジョンに行く準備をしている時に、
僕の泊まっている宿屋に手紙が来た。
届けられた手紙を開封すると、『集落南、空き家地下空間』とだけ記されている。
やはり人の目は誤魔化せない。
というかどうしてここまで特定出来たのだろうか?
「リョータ、続きが書いてる」
すかされた裏面に、びっしりと文字が書き込んであった。
『・変身能力は現在使えない模様。
(多数のギルド員が何気なく彼女を誘い食事に行くも、
誰一人魔法をかけられない。また、彼女から1人だけ連れ出すこともなし)
・潜伏先特定方法は2つ。1つはギルドの隠密依頼専門員による目視。
2つ目は集落の魔術師による結界変質。これにより、魔法を使った位置が特定可能。
午前と午後にそれぞれ1回、空き家から魔法使用の形跡あり。
魔法使いスフレはここに潜伏していることが判明。
・恐らく何らかの魔術でアナタの行動を監視しているので、
この手紙を読了後も演技自体は続けて欲しい。
・本日ダンジョン行きの定期馬車2回目で、ギルド所属のロコウに、
アナタを呑みに誘う手筈を整えました。アナタはそれに従って下さい。
・飲み物はアルコールを徹底的に排除し、
その後集落南までロコウが案内します。
・なお、ロコウはこの件について知らないため、
アナタも知らないふりをして下さい。
・健闘を祈ります』
……随分と念の入った作戦だ。
というかロコウさんも狩りだすのか。
だけどこの方法ならば確かに、
普段行かない場所に自然と行ける。
「だ、大丈夫なのかなリョータ?」
「めんどくせーな―。今日はダンジョンにはいかないってことかい旦那?」
急いで手紙を燃やし、
僕は演技を続ける。
「『イタズラだ』。こんな脅しで僕を止められると思っているのかこいつら」
「そうだね!」
「だ、ダンジョン行くアタイらを脅すとはど、どういう了見だ」
演技力と咄嗟の判断力は鍋子のほうが一枚上手だ。
スフレちゃんの監視が、
『視認』だけなのか『盗聴』も含むのかわからない以上、
この手紙について喋ることも出来ない。
手順は既に頭に入っている。
だから手紙を読まれないように全員雁首揃えて読んだし、
証拠隠滅のために燃やした。
この手紙は『ダンジョンで快勝する僕らに対する誰かからの警告文』という、
設定をすることで、スフレちゃんの興味を解消する。
「定期便は今から行くと……2便目か」
「少し遅れちゃったしね」
「あの店の肉が旨いのがいけない」
ありがとう二人共。
こんな演技に付き合ってもらうのも今日で最後だ。
「お、リョーさん! 久しぶりだな!」
定期便近くには既に何人も冒険者達がいる。
その中にロコウさんがいて、僕らを待ち構えていた。
「ロコウさん。どうしたんですか?」
「それがよー、妙に美味しい依頼があってさ。
『体験談を聞いてこい』って依頼でよ」
体験談?
「リョーさんたち、この間ハンティング・スティーラー倒したろ?
それを倒すに至る経緯を知りたいって、関係あった俺にだけ、
依頼が来たっていうことさ。
酒飲みながら付き合ってくれるかい?
経費はタダ。しかも依頼料もがっぽりっていう美味しい依頼なんだぜ!」
なるほど。確かに事情を1ミリも悟られない、上手い理由だ。
「……でも僕らは食費がただになるだけだろう?
稼ぎに釣り合うかな?」
「そう言わないで頼むよ―! 俺とリョーさんの仲じゃないか!
なっ、なっ!」
よしバッチリだ。コレで行く口実ができた。
「わかったよ。今日はお休みにするか」
「えー旦那―、行かねーの―?」
「食費は出してくれるって」
「……じゃあ、ドカ食いするわアタイ(じゅるり)」
そして集落内の食事処。
取材なので僕とロコウさんと鍋子が同席し、
アイリはカウンター席で散々食べている。
……でも経費大丈夫かコレ?
いつもの倍速で食べているのだが……。
「じゃあ色々質問していくぜリョーさん!」
メモ帳を取り出してロコウさんは僕らに色々と聞いてきた。
兎が立ち向かう理由。
ハンティング・スティーラーの恐ろしさ。
魔塵の盾破壊。などなど。
「そういえばロコウさん、あのリーダーさんはその後どうしたんですか?」
「あー、責任感じてな。故郷に帰るとか言ってギルドも脱退したよ」
そっか。
「悪気はないと言っても、俺の仲間たちは骨も残らず死んだし。
自業自得ってやつよ。まあ気にすんな。ギルドではよくある話なんだからな」
その後も質疑応答を繰り返して、
ロコウさんは満足した。
「バッチリだ! ありがとうな、今日は付き合ってもらって!
あ、あとリョーさん! ここだけの話なんだが……空き家って興味あるかい?」
「空き家? 僕が欲しいのはサモンハウスだけど」
「俺のギルドで優良物件があるってことを、
リョーさんに伝えて欲しいって言われてんだよ。
なんでも、集落の安泰に繋がるからってさ」
「僕に永住しろってことかい? 悪いけど永住する気はないよ」
「まあ見るだけ! 見てくれたらきっと気に入るからさ!
な! ホンの少し歩いた先だからさあ!」
さて、渋々付き合う演技もそろそろ無理がある。
と思っていると横にいた鍋子が手を上げた。
「それって寝室とかあって広いの?」
「そりゃもう! 結構なでかさだぜ!」
「……家庭を持っても広いかな?」
「大丈夫、問題ねえ」
「行こうリョータ!!」
おおう。いつにも増して演技が光って……。
いやこれ、演技じゃないな。赤い目が爛々と光っている。
本気だ……本気で家庭をもつ絵面まで想定している。
女の子をここまで本気にさせるとは、
やはり、イケメンは辛い。
「じゃあ、見るだけなら」
「やっったあ!」
おい鍋子。演技も忘れるなよ。本当に。
次回予告:ついに責任をとって結婚する鍋子と涼太! 2人は毎晩あれこれして、子沢山の家庭を築き上げる! 殺戮の波動を持つ6匹の子兎がキラーラビットに覚醒し、ダンジョンを制覇していく! そして子兎との禁断の恋にまでハッテンする涼太。我が子に手を出すことは鬼畜の所業だぞ! 次回『兎の性欲は強い』ついにRー18のとびら開けていく!?
※エイプリルフールだぞ! エイプリルフールだからね!!




