美少女という概念を考える事になる前の僕は子供だったんだと思う。
取らぬ狸の皮算用と言う言葉は、
今の言葉に直すとどういうものになるんだろう?
狸なんて都会にはいなかったし。
それに今の状況に、その言葉は当てはまらない。
僕らは既に狸を取っているのだから。
「残念ですがお客様。
物々交換では……」
「ですよねー」
集落にある簡易サモンハウスの売り場にいた受付の人。
結構可愛い(ワニの人型)けど、気の利いたイケメン台詞を言う余裕が、
今の僕にはない。
折角手に入れた巨大金塊。
数百万blという大金だ。
あのダンジョンの宝にしてはやたら豪華な代物だと思ったけど、
その理由はロコウさんが教えてくれた。
『あのダンジョンの最下層を攻略した奴はいなかったんだ。
ダンジョン管理協会って組織の話だと、
淀んだ魔力が集積し続けて、お宝の質も高まってたんだろう』
しかも人間が何人も死んでいる。
魔力は満ち溢れていたから、出たお宝も豪華だったのだという。
「……とはいえ、小分けできない重い金塊を……どうすればいい」
こんなものを持ち歩いて旅に出れば、
当然野盗に狙われ続けるだろう。
気分よく眠れないのは肌に悪い。
イケメンの顔に不摂生は大敵なんだよ。
そしてもう一つ困っているのが……。
「どこにいるのリョー様あああ!」
「いらっしゃって―!」
歓楽街的な場所からの美女(自称)が僕を狙う。
一財産持っている情報は知れ渡っている。
当然だ、今まで難攻不落だったダンジョンを制覇したのだから、
その知名度も急浮上している。
そこまでは悪くなかったのだけど……。
香水とかケバケバしい化粧とかした連中が襲いかかるわ、
大して美少女でもない女の子たちから告白され続けるわ、
その現場を見た奴との決闘を受けられるハメになるわ、
金塊1つで大騒ぎだ。
……え? 告白は良いじゃないかって?
嬉しい? 羨ましい?
タイトルに有るだろう、
僕は『美少女と』イチャイチャしたいんだよ。
並みの女の子じゃあ満足できない。
イケメンだからよりどりみどりなんだよ、
元の世界でも本来そうなるはずだったんだ。
リアルでイケメンだし、本来はね。
男じゃなくてね!!!
「どうした旦那? 良いじゃんか売れなくてもさ。
もう2日も練り歩いているんだぜ?」
とっとと売ればいいって思うだろう?
でもねえ、違うんだよ。
売りたくても売れないんだよ。
買い手がいないんだ。
いつも金塊を取り扱う道具屋に持って行ったら、
見合うお金がないって却下されたし。
どこいってもそんな対応されるしで、
流石に昨日は下品に酒類を飲んだ。
はっは! 日本の法律はここでは不適当だから良いんだけどね、
なんだろうこの、やっちゃいけないことやっている爽快感!
「リョータ、どうするこれ? アイさんに持たせてばっかじゃ可哀想だよ」
先日の激戦などどこ吹く風な2人は、考えこむ僕の跡をついてくる。
鍋子もアイリも、美少女の類だ。
決してイロモノではない。
(ただし戦いを見ると可愛さの欠片もない。むしろ怖いのだけどね)
「なっちゃん可愛いねー。大丈夫大丈夫。アタイはこの程度、
この鎧もあるから平気っての!」
気遣う鍋子の頭をガシガシ撫でるアイリ。
ボサボサになった髪(体毛)を整えて、鍋子は体を震わせた。
外見的に鎧が加わったことで、
アイリは更にごつい見た目になった。
鍋子にも、ビキニではなく普通の可愛い服とかを用意したい。
「とりあえず、大きな街に行かなければ……。
買い手がいないんじゃあ話にならない」
手っ取り早いのは僕のゲートを使っての移動だ。
だけどこれを使うためには、その場所に行ったことがあるのが条件。
僕はこの集落以外の密集地帯を知らないし、
何処に行けばどんな街があるのかすらわからない。
「こっから一番近い町でも、歩いて行けば二週間かかるな。
なあ旦那。それならいっそ、待つのもどうだろうか?」
「待つ?」
「そうさ。買い手が今いないんだろう?
だったらそれを買えるくらいの奴が来るまで、
待てばいい」
アイリの意見は至極もっとも。
行商人がいるって話は以前鍋子から聞いたことがある。
……でもいつ、確実に来るのかがわからないのに、
悠長に待っているなんてことは出来ない。
「じゃあ、私の家に置いておく?」
鍋子が提案するが、それも却下だ。
いちいちゲートを使うのは効率的じゃない。
「まあ、お腹すいたからさ。アタイは食べに行くけど」
鍋子を連れて行くアイリ。
僕は逡巡し続けている。
財産でこんなに悩むのは老いてからだと思っていたけど、
結構早く来るものだ。
あんまりこういうことで悩みまくっていると、
白髪とか出てきてイケメンが……いや、
白髪がかった男もイケメン?
「リョータ様。リョータ様ですよね?」
考え込んでいた僕の耳に届く、
鈴の音のように可愛く心地良い声。
バッと目の前を見れば、
完全に人間と見間違うほどの、しかも美少女がいた。
茶色の髪、赤く花弁の多くついた花の髪飾り。
小柄な背は、恐らく鍋子と同じくらい。
しかし胸は鍋子以上。体つきは華奢で、……顔立ちは幼い。
大きな目と、にっこり笑みを浮かべる、桃色の唇。
……今まで感じたことのないときめき。
これは、この世界にきて初めて味わう衝撃。
まるでこれからデートにでも行くんじゃないかと思うほど、
緊張感のない可愛らしい服装には、
冒険者のような道具が何一つない。
慌てるな。ここは異世界。
こんな服装をした美少女がいるのか?
いやでも、この眼の前の少女はどう説明つければいい?
「ダンジョンを制覇された、リョータ様……ですわよね?」
おずおず話しかける女の子は、
今すぐ抱きしめたくなる衝動と、
守ってあげたいという庇護欲を誘う。
イケメンでなければ危うく暴走していたかもしれない。
僕が、イケメンで、なければ。
「そ、そうだ。榊涼太。
僕の名前だ」
「まぁ」
なんっってあざとい。
漫画とか映画でしか見たことないような、
はっきりと驚き、それで笑うしぐさ。
「勇ましい名前ですのね」
「そ、そうだろう?!」
くそぉ! 全然、普段と違う!
こんな童貞丸出しの反応、イケメンの僕がするべき応対じゃあない!
余裕を持ってリードしなければならない!
というか是非ともこの子と話がしたい!
金塊? 冒険? 討伐?
知った事か!!
タイトルにもあるだろう!(本日2度目)
僕はこの世界に、美少女とイチャイチャするために来たんだよ!!
今まさにその念願が叶うんだ、
ものにしなければならない!!!!
絶対、絶対にい!!
「わたくし、その武勇伝……お聞かせ願いたいのですが」
「喜んで!」
はつらつとした鍋子とは違う。
豪快でナイスバディのアイリとも違う。
異質な、美少女を前に僕は完全に自分を見失っていた。
イケメンがただの雄になりかけていた。
……その隙を、僕はしばらく後悔することになるとも知らずに。
次回予告:今回は前回と違い、イケメンと諸々がひどい目にあうお話!! 果たしてこの美少女の正体はなんだろうか! え、スフレだろって? そんな、ことは、ない、よ?(動揺) さて次回『なんと醜いこの面構え』お楽しみに!




