魔法少女の襲来 プロローグ
豚の村。
そこには家畜種に属する豚が大量に肥育され、
諸国の腹を満たすべく存在している。
国家的庇護のもと、警備も厳重で税金も安い。
買い付けに来る者もいるほど賑わう村に、
黒い三角帽子を付けた少女が立ち寄った。
「おや、可愛いお嬢ちゃん。
何のようかな? お使いかな?」
「まぁ。失礼しちゃう。この間の豚……1042を買い付けに来たのよ?」
「え……あ、はい、ただいま!」
入り口の警備をしていた豚が、村長の側近を引き連れてくる。
「申し訳ございません! 1042は逃げてしまいまして」
「逃げた? まあ。強いのですね」
自分の買うはずだったものがない。
普通なら怒るべき場面で、少女は感嘆の声を漏らす。
「何分、力が強すぎて、制御できなかったのです。
あれに勝る美味しさの豚を代わりにご用意いたしますのでここはどうか……」
「くすくす。構いませんわ。
予約していたお金だけ返してくださいな」
手付金と謝罪を受け取って、少女はゆうゆうと帰っていく。
その顔には笑顔があった。
「やりますわねあの単細胞さん♪
豚にされて泣きべそかいているかと思ったのに、
思いの外元気ですのね」
腰にあった短めの杖を出すと、少女は先端を空に向けて、
何事かつぶやいた。
「……あら。埋め込んでいた探知機は……地下6階?
どこかの馬鹿のせいで難攻不落になったダンジョンの?
……へえ、じゃあ変身魔法も当然解けていますわね。
どこのどなたの仕業なのかしら?」
可愛らしい笑みから、徐々に不気味な笑みになり、
緩む口から犬歯が見える。
「その人、どんな顔で泣くのかしらぁ?」
たのしみだわーと踊るように坂を下って、
少女は豚だった……アイリのもとに向かっていった。




