晴天
ここに塩が大量にないのが残念だ。
ぶちかければ死ぬと思うのだけども。
……まあ、そういう田舎臭いやり方じゃあ無く、
イケメンであればイケメンらしい、
スマートな方法で倒したほうが良いか。
「リョータ……どうするの?
突っ込んで良いの?」
「旦那。個人的にはアタイの金棒で、
あいつをベチャベチャに潰したいんだが」
「あ、あいつが……俺達の仲間を……うぐぐ、
や、やって……やる、勝てる気しねえけど、やってやるぞ!」
謙虚な鍋子。一応意見を述べるアイリ。
完全に、やられ役Aの台詞を言うロコウさん。
統制がないバラバラなパーティだけど、
僕がいれば万事解決。
何故ならイケメンだからね。
「ロコウさん落ち着いて。僕と一緒に行動して下さい。
アイリ、相手の出方を見たい。鍋子、帰ったらサラダ山盛りだ」
「了解だぜリョーさん!」
「おっけー旦那」
「何で私だけ夕食の話なのリョータ?!」
「そして僕は……反応を見る!」
火炎の槍『フレアランス』!
円錐形の炎が飛び、ハンティングスティーラーの腹部分に当たる。
……ハンティングスティーラーって名前は長いな。
略称でハンスにしよう。
『ォオオオオ!』
一瞬、闇が晴れた。
ハンスの全容も、音も見えるし聞こえる。
しかしまた、闇がハンスを包み込んだ。
「うぉっしゃあああ!」
アイリがダッシュで駆けつけ、
横っ腹に追撃を与えた。
……が、ぶよぶよの体全体に衝撃が拡散し、
有効打にならない。
「ちぃ、刃物が良かったみたいだな。
金棒の方が個人的に好きなのになあ」
「あぶねえ、リョーさん!」
僕が何度その呼び名を訂正してもロコウさんは直してくれない……え、
「うげぇぁ!」
気付けば僕はロコウさんにタックルされていた。そして地面に転ぶ。
ロコウさんはさっきまで僕のいた場所にいて、
上からではなく真横からの落石にぶつかり、二度三度地面をはねた後、
ぐったりと力なく倒れた。
「後ろ、リョータ!」
「くっ!」
そうだった、相手は蛇とかミミズ……ファンタジーで言うワーム。
尻尾部分のことも気にしなければならなかった!
さっきの落石は、尻尾の攻撃で吹っ飛んだ岩だろう。
「ロコウさん!」
駆けつけてロコウさんに回復の光を当てた。
幸い致命傷ではなかったようで、すぐさま立った。
「へへ、どうにか役に立てたな!
油断すんなよリョーさん」
「……ありがとうございます!」
目の前だけではなく背後にも……しかも相手は地面に潜ってしまった。
砂塵をあげて、その砂塵も闇の中に溶け込んでしまう。
「どうする旦那? 次出てきても、この武器じゃあ効かない」
「問題ないよ。アイリ、ひたすら動いてくれ。相手は目がない。
振動音で僕らの居場所を感知している。
打撃で地面を打ちまくってくれ」
「私はどうしよう?」
「鍋子はこれだ」
魔法で鍋子の持つ槍の穂先に、点火して定着させる。
「フレアエンチャントだ。
とにかく、深々と刺してくれ。
引きぬくことも忘れずに」
今のところ、刃物と言えば僕の持っているナイフと、
ロコウさんのソードブレイカー、そして鍋子の槍だ。
叩き斬ることが無理でも、じわじわダメージを与えれば死ぬだろう。
「じゃあ行くぜ旦那!」
アイリはもぐらたたきの容量で、
地面を金棒で殴り続けた。
殴ってすぐにその場からジャンプで離れて、
別の場所を叩き、またジャンプする。
……あの重量の金棒を持ってジャンプとは狂気じみているけどね。
『ォオオオオオ!!』
だけど釣れる。
出た瞬間鍋子がすっ飛んで深々と差し込む。
炎が裂傷を燃やして、修復できない傷を増やしていく。
僕がフレアランスで燃やしていく。
岩や土砂を撒き散らしていくも、視覚外から飛んで来るので、
避けるのが非常に難しい……と思っていたけど。
「おりゃあああ!」
岩はアイリが金棒で破砕していく。
土砂はまあ、泥だらけになることをガマンすれば文句はなかった。
「さて、僕も活躍するかな」
フレアランスだけだと思っちゃいけない。
僕にはこのナイフがある。
鑑定スキルをマックスにしたから、
効果が判明した。
帯魔の短刀。
切れ味は並だけど、
魔力を注ぎ込んでやることで、威力を上げることが出来る一品だ。
魔力がないやつには宝の持ち腐れどころか、
無い魔力を無理やり引きずり出そうとするため、
精神に異常をきたす呪いの品へと早変わりする。
僕は幸い魔力があるので、
火炎の魔力を注ぎ込んだ。
すると、刃渡り10cmのナイフの周りに、
立ち上る炎が揺らめいた。
「リョーさん、それは!?」
「リョータ、それで斬るつもり?」
ロコウさんと鍋子が驚きを隠せない様子で僕を見た。
ゆれる炎の熱気が伝わってくる。
これぞまさに、ファンタジーってやつだね!
「意趣返しだ。皆、僕に付いてきて!
アイリ、とびきりデカイ釣りを頼む!
釣ったらこっちにダッシュしろ!」
「何かやるつもりだな旦那!」
アイリの手中でぐるぐると弄ばれ、金棒が回転力帯びる。
凶悪な一撃を縦に変化させて、地面を穿つ。
再び現れたであろうハンスを背に逃げて、
少しして振り返る。
「奴は散々、視界のない僕らを一方的にやってきた。
因果応報という言葉、この場で冥土の土産に教えてやる」
ナイフを構え、ありったけの魔力を込めた。
先程まで僕達のいた場所目掛けて、
「焔月斬!!」
三日月を描くように斜めに振り下ろされるナイフ。
帯びていた炎が、斬撃の軌道に残り、ナイフから炎が消えた。
横から見れば三日月の形をして、残火は立ち上っている。
刹那、三日月の炎は闇に真っ直ぐ、走り抜けた。
闇に消え、数秒後、地面が震える。
まるで何か大きなものが落ちたような衝撃が、
地下6階に響き渡った。
「魔塵の盾は、魔力を帯びていても、
耐魔性じゃあない。炎は消えない、つまり……」
先程までいた場所。戻ればそこには、
断面から煙を浮かべ、胴を真っ二つに切断されて、
地面をのたうち回るハンスの姿。
生命活動は風前の灯で、
後一撃で勝負が決まる。
「ロコウさん。トドメは譲ります」
「え、ええ? 良いのかい?」
「命の恩人ですよ。イケメンは恩を忘れない」
ソードブレイカーを構え、
ロコウさんは震えながらもにじり寄った。
既に痙攣状態のハンティングスティーラーに、
「うぁああああああ!」
ロコウさんが一撃を加えた。
決して、ダメージは高く無いだろう。
でも、それがトドメの一撃に変わりはない。
……闇が晴れる。
元々ダンジョンにあった、浅い闇。
視界は良好だ。
持ち主で発動していたハンティングスティーラーがいなくなり、
魔塵の盾もまた、効果を失ったのだろう。
霧散したハンティングスティーラーの額部分から、
丸い物質が転がる。
銀色のそれを、僕は拾い上げた。
……すさまじい効果だ。
単純で簡単なはずのダンジョンの難易度が、
跳ね上がっていた。
イケメンの僕、悔しいけど有能すぎる鍋子とアイリなしには、
誰もが犠牲を伴う勝利しか出来そうになかったほどに。
「売ればすごい値段だけど……。ロコウさん。
これ、どうする?」
「破壊してくれリョーさん。
俺ぁ、それを許せない。
どんなに素晴らしいアイテムだとしても……俺の仲間を、
奪ったアイテムだ」
「だそうだ」
僕の意図をアイリは察した。
宙に放たれた元凶が、
アイリの一撃で地面に叩きこまれ、砕かれる。
込められた闇と魔力が一陣の風になり、
あとには銀の残骸だけが残った。
「……やったんだな、俺……仇、とったんだよな?」
「そうだよロコウさん。
……そして、お待ちかねもある」
目の前には、
豪華な装飾の宝箱。
詰まっているアイテムをどうしようか悩んでいると、
ロコウさんは手を差し出した。
「リョーさん、全ッ部あんたらのものだ。
俺はさっき恩返しをしてもらった。
これ以上はいらねえ」
「へえ。殊勝な心がけだねロコウさん」
宝箱の中には、特大の金塊。
売れば数百万blはくだらないだろう。
そして弓。
赤く塗装されたその弓は、
只ならぬ魔力を秘めていた。
名前は『鬼殺しの完弓』。
鬼殺しシリーズの弓版。
放った矢にランダムに属性を付与する代物らしい。
……弓を使えるとしたら……。
「鍋子。とりあえず持っておいてくれ」
「え、良いの!? ありがとう!」
矢を使える奴は今のところいない。
売れば一財産だけど、
これだけ強力な品なら売らずに持っておきたい。
しかもこれだけじゃなくて後一品。
パワーメイル。
重厚感ある黒塗りの丸い鎧。
持とうとすれば腰が浮くほどの重量に、
僕は心底参った。
これは……アイリしか装備できそうにないな。
「ラッキー! すっげぇこれ、力みなぎってきたぜ!」
名前の通り、装備した者の力を増幅する装備。
さっきの弓よりも価値は大きく下がるが、
あの力が更に強くなったと考えると、
脅威である。僕の出番的に。
「じゃあ、帰ろう。
いつまでも辛気臭い場所にいたって始まらない」
ゲートを開き、
僕は全員を導いた後に、
薄暗いダンジョンをあとにした。
ハンティングスティーラー討伐、完了!
次回予告:数百万blの価値を手にしているにも関わらず売れない! 都市に行かねば換金不可! 皆お金をもっていないから! 何たる理不尽! 次回『金と理不尽』イケメンの前途は多難である。




