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善良なイケメンの僕は美少女とイチャイチャしたいがために転生しました。  作者: 死んだふり
ハンティング・スティール
21/64

足音



種の割れたマジックほど白けたものはない。

光り差す闇の道ほど恐怖のない場所もまたなし。


うーん。こういうポエムとかをいつか出版してみたいね。

表紙は僕の顔ドアップでさ。





「ありがとよイケメンの兄ちゃん。

 アンタが言及しなかったら、俺まで死んでいたところだったぜ」


複雑な面持ちのロコウさんが僕に感謝してきた。

まあ、イケメンは何時の世にも憚るっていうからね。


「気にしないでください。

 あと、ロコウさん。

 明日、僕たちはあのダンジョンを攻略しに行くのですが……行きますか?」


ピタリと足を止めて、ロコウさんは押し黙った。

仲間と散り散りになり、今も帰って来た者がいない。

当然の反応だと思う。


「いや、……行く」


逡巡した結果、決意をしたみたいである。


「俺も連れて行ってくれ、イケメンの兄ちゃん!

 いや、リョーさん!」

 「連れては行くけどその呼び方は即座にやめてください」





翌日。

いや、昨日は作戦会議とかしたかったんだけど、

対抗策以外に有力な情報がなかったから仕方がなく、大人しく寝た。


要するにやるべきことは、

『魔塵の盾』を破壊。その後ダンジョンの主を倒すこと。


ダブルベッドに今日は僕と鍋子が、

床に敷いた布団にはアイリが眠ることになった。

鍋子からの発情組み付きがなかったのは喜ばしいことだった。



「さぁて、さっさとぶっ潰してお宝持って帰ろうぜ」

「早く行こうリョータ。この槍で打っ倒しちゃうんだから」

 「……なんか、血気盛んだな鍋子」


馬車の定期便が来るまでの間、

アイリは肉をかじっていて、鍋子は槍を丹念に磨いている。

ロコウさんも、愛用のソードブレイカーを研いでいた。

僕はそんな風景を眺めていたんだけども……。


本当におかしい。ここ最近、昨日もそうだけど、

槍をいきなり突きつける行為に躊躇がなかった。

鍋子は、僕が最初にあった時もそうだったけども、

最近は本当に戦いを楽しんでいる。


何か変なものでも食べたのかな?

……あ。心あたりがあるな。



僕は大急ぎで、鑑定スキルをレベルマックスにした。

その上で、鍋子に渡したアイテムをおさらいした。

見るだけでその価値、効果が瞬間的にわかる便利スキルだが、

滅茶苦茶高額ポイントだ。もうポイントが最初の半分を切っている。



妖精の靴:大地から離脱する力を大幅に向上。疲労吸収(弱)

黒ビキニ:体全体に物理結界(弱)


……そうだ。あと一つ、首輪つけさせていた。

そのアイテム名は……。




バトルマニアの首輪:戦意高揚、欲望を戦意に変換。




バトルマニアの首輪か……なんだろう。

ものすごく嫌な名前のアイテムだな。

鍋子にはあまり似合わない。


性欲関連は全部これに吸われていたってことか。



「鍋子。これ外すぞ」


ガチャリと外れた首輪。

そして桃色に変色する体毛。


「リョータ……か、帰ったら私、

 私ね、今まで何も出来なかったし、ね」



ガチャリと首輪をつけた。


なるほど。性欲が沸かなかったのはこれのお陰か。

後で外してやろうと思うけど、

今は我慢してくれ。こんな日が高い時期から発情されたらたまらない。




その後、馬車に揺られて目的のダンジョンへ。

目的の地下6階までは何事も無く進めた。


「俺、来た意味……なんだろうなリョーさん」

「だからその呼び方やめてよロコウさん」


まあ、ピカピカに磨いたソードブレイカーが、

何も斬らずにここまで来てしまったのだから……。

嘆きたい気持ちもわからないでもない。



「さて、問題の場所だよ」


真っ暗。灯りの魔法を使っても、

ロコウさん自前のカンテラに火を灯しても、

周囲10m程度までしか照らせない。



種が割れた以上は簡単と冒頭で言ったけど、

この闇のどこかにある銀塊を探せっていうのは骨が折れそうだ。



「ロコウさん。手分けしないで離れないように」

 「わ、わかったぜ」



足を進めていけば、数多く設置された底の見えない落とし穴や、

横から飛び出る槍の罠がある。

全部、視界良好であればなんてことなく避けられるものばかりだけど、

視界がない状態で無茶苦茶に逃げてしまえば、

当然全部の罠が致命打になる。


陣形は僕を中心に、前衛をアイリが。その後ろにロコウさん、

後方を鍋子が警戒している。


「旦那。全く見えねえ……」

「リョータ、何も聞こえない」


そんなことはわかっている。


「……待てよ? アイリ、地面を思い切り殴ってくれないか?」

「ええ? どういうこったい旦那? まあやるけどさ」


闇は振動なんかを吸収とか言ってたな。

……つまり、空間には伝わらないけど。


「てぇや!!」


轟音と地鳴り。鍋子は構えていたのにコケた。


「す、すげえ威力だなオーク娘?!」


踏みとどまったロコウさんは、抉られた地面を眺めて感嘆の声をあげる。



「……ロコウさん。カンテラ、貸してくれますか?」

「え? いいけど、何に使うんだい?」


「リョータ、さっきから何がしたいの?」


「いやなに。地面の振動が、どうなるのかを知っておきたくてね」



カンテラを置いて、少し離れる。

カンテラが闇に消えて20mそこらまで離れた時、

アイリの一撃をリクエストした。


そして戻ってみると、カンテラがコケている。

火も当然消えていた。



「地面の振動は伝わるみたいだ。

 闇は染みこんだりしないし、地面にまで影響はないってことが、

 証明されたね」


それが分かったらどうなるのかわからない3人。



「つまり、巨大な主がいたとしても、

 突然先手を打たれることはないってことさ」


10mという距離があるが、

先日のロコウさんのように突然現れたりしたら厄介だ。

奇襲が凄まじければ精神的にも良くない。


でも、大群で走ってくれば振動でわかるし、

巨大な主であればなおさらわかる。



「とりあえず、歩こう。

 マッピングは任せてくれ」



僕は一度歩いた場所であれば、

そのフロアを把握できるスキルも持っている。


虱潰しに探せば、きっと見つかるだろう。










そう、思っていた。


「おかしい……どういうことなんだ……?」


2時間ほど経って、

マップは全部埋め尽くした。

虱潰しに、探したはずだ。


それなのに、魔塵の盾が見つからない。

罠以外、雑魚も出てこない。主もまた然りだ。



「旦那……腹減ってきた……」

「リョータ、一旦外に出ない?」


「駄目だ鍋子。マッピングはそのフロアにいるとき限り。

 外に出たらまたやり直しだ」



考え込んでいる僕の視界に入ったのは、

訝しげな顔のロコウさんだ。


「どうしました?」


「あ、いや……気になったことがあったんでさ」

「なんでも良いから言ってみなトカゲの旦那」


アイリの言葉に後押しされて、ロコウさんは言う。


「仲間がよぉ、見えないんだ」


「そりゃあ……やられたか、逃げたかでしょうね」


「違うんだ。仲間がやられたって覚悟もあったんだよ。

 ……でも、妙じゃねえか旦那。

 つい昨日のことなんだぜ?

 死んでいるなら、死体だったり骨だったり、

 血痕も、何か残っているもんだろう?」



……確かに。『綺麗すぎる』。


罠も雑魚もいないけど、

ここには人間の気配がまるでない。

死体もない。

誰かに掃除されたくらい綺麗だ。



「だからよお、その、銀の玉だって、

 誰かが食っちまったんじゃねえか?」


「……誰かが食べた?」



それが主で、この地下6階でウロウロしていて、

飲み込んでいる魔塵の盾を、有効に使っているのだとしたら……。



「……ねえトカゲさん私達、ここの攻略だけ考えていたんだけど、

 重要なこと聞き忘れている……トカゲさん、

 昨日の傷はどうしてついたの?」


「ああ、あれは罠に引っかかったんだよ。

 暗闇で逃げ惑っていて」



「『逃げる』。……理由は何?」




……ギルドにいた情けないリーダーも言っていたな。

皆を助けようとしたって。


考えてみれば、この程度のダンジョンに苦戦するパーティーじゃあなかったという話だ。

主が単純なやつなら、わざわざ大仰なアイテムだって使う必要はなかっただろう。



「逃げたのは、灯りを灯した奴等とはぐれて……」


「ロコウさん。何ではぐれた?」


「だ、だってよぉ、今みたいな陣形を組んでいたのに、

 気がついたら灯りの奴がいなくなって、消えちまって」





「アイリぃ! 地面を殴打!!!」

 「あいよぉお!」


ガツンと一発見舞った。振動がビリビリとする。

単純なことだったんだ。


くそぉ、もっと聞いておけばよかった!

失念していた!



「な、どうしたんだよ旦那?!」

「ロコウさん、そういうことは早く言ってくれ。

 今わかった。カラクリの種が」



何処を探しても見つからない銀の玉。

綺麗すぎるダンジョン。

数多くの落とし穴。

消失する灯り係。


今みたいな陣形で、

灯りを持った者をピンポイントで狙うのであれば、

10mの視界では正面突破は厳しい。


しかし地面の振動は足で伝わる。

もしも、地面の中から奇襲を仕掛けられる奴がいたとしたら……。



「全員後ろにジャンプで回避!」



大きくジャンプして下がる。

10mの圏内にあった地面から、

土が吹き出した。


……正確に言うと、

土と共に、手足のないうつぼのような、

奇妙な形状の魔物が現れた。


おそらくはミミズ。

しかも体長10mはくだらない大型。

紫色の体色がぬらぬらと粘液で光っている。



「こいつだよ……こいつがこのダンジョンの主だ。

 厄介なやつだ」



振動を調べていなかったら、

恐らく奇襲を受けていただろう。

多分、アイリの振動検知で警戒し、2時間は何もしてこなかったんだと思う。

今の一撃で、バレるの覚悟で突撃したんだろう。


マジックの種を理解した僕らを、

生かして帰す訳にはいかないから。



「主って、名前とか無いんだろう?

 僕が付けてやるよ」


全員、身構えた。主はこちらに顔らしき先端を向ける。

びっしりと詰まった極小の歯が波打っていて、

土であろうが抉り砕いてしまうだろう凶悪な面構えだ。



「人の命や物を奪ったり、獲物を捕食するから……。

 そうだね」


ようやく相まみえた主を、

僕はこう名付けた。



「ハンティング・スティーラーとでも、呼ばせてもらおうか」


次回予告:ついに遭遇した主、ハンティング・スティーラー。視界を奪われ奇襲が炸裂し、涼太たちは苦戦を強いられる。その時、彼らが下した答えとは? 次回『かまいたちの刃』お楽しみに。

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