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善良なイケメンの僕は美少女とイチャイチャしたいがために転生しました。  作者: 死んだふり
ハンティング・スティール
19/64

主は闇に隠れている。



集落から少し離れた場所にあるダンジョン。


その最下層に挑んだ者は数多かったが、

その殆どが帰ってこなかったという。


僕らが余裕で地下5階と4階を行き来していると、

アイリが挙手した。



「旦那。そろそろダンジョン最下層行こうぜ?」


鍛冶屋で作り上げた、

純度100%の鉄の塊で出来た金棒。

重量は80kgで、アイリはこれを軽々と扱う。


さっきなんて片手で敵を撲殺しまくっていた。

両手で握れば地面に煙が上がるほど熱く重い衝撃波になる。

特にエンチャント(魔法付与)がない一品だが、

アイリの膂力が既に化け物じみているため、

そこらのエンチャント装備に引けをとらない。


ちなみにこの装備、僕と鍋子は持つことが出来なかった。


「これで頭かち割られちゃって……死んじゃう……食べられる……」


と、恐怖に慄く鍋子。

先日の食事の一件がまだトラウマらしい。



「最下層か……僕は良いけど、鍋子はどうだい?」


「私は賛成かなぁ?」



鍋子は上機嫌に敵を倒しては、

なんだか……体毛がピンク色になっている。

鍋子にはサドの素質でもあった?

いやいやそれはないな。

最近、戦うことに抵抗もないどころか、

悦びを覚えてさえいるみたいで。

僕に襲いかかることもなくなり、


「ダンジョン行こうリョータ!」


と、僕を急かしている。



いつの間にバトルマニアになったのだろうか……。




「じゃあ、満場一致だ。

 目の前に階段もあるし、ちゃっちゃと潜ろう」



初めて行く地下6階。

そこが最下層。


何があるのか知らないけど、

恐れていては先に進めない。


「……静かだな」



周囲は闇色。灯りを作っても、

先ほどより視界が狭い。

獣の唸り声もない。完全な静寂だ。



「郷に入っては郷に従え……鍋子、アイリ。

 静かに進むぞ。僕から離れないように」


そう言うと僕のマントを摘むのが鍋子で、

金棒を弄びながらついてくるのがアイリである。


鍋子は兎耳を立てて周囲を警戒しているが、

拾えるはずの音が聞こえないためビクビクしている。



そうとも。知らないものに対する恐怖っていうのはそういうものだ。

暗くて視界が取れない場所は灯りなくして進めない。

何が潜んでいるかわからないからだ。



「ぴぃッ!?」


鍋子が悲鳴を上げて僕の胴にしがみついた。

鍾乳石の露が落ちたらしい。


「鍋子ちゃんかわいいな―……食っちまいたくなるくらい」

「ぴぃいい!?」

 「驚かすなアイリ」

「すまねえな旦那。鍋子ちゃんは驚かすと反応が可愛くてさあ」


「こ、怖くなんか、な、ないんだから!

 はやく出てきてよ~」



敵の出現を心待ちにしている鍋子。

……しかし、本当に視界が狭いな。

10mがやっとだ。



 「うぉあああああ!!!」


その、10mで見えた物体は、

大声でこっちに走ってきた。



「ウヲ!? 旦那、敵だ! 殺す!」

「ぴぃいいいいいいいい!? しねぇえええ!!」

「待て待て落ち着け!!」


血の気の多い2人を止める僕。

イケメンで止めることが出来ればなおGoodだったが、

贅沢は言ってられない。



「助けてく……あれ、い、イケメンの兄ちゃん!?」


「……あ、ロコウさんか」



3度目の登場だからキャラ紹介をしなきゃな。

緑色のウロコが目立つ、トカゲ人間ことロコウさん。

(正確には【人間型のトカゲ】だけど、言うのが面倒くさい)


トカゲの方が強く、人間っぽくない顔立ちをしている。

武器は両手に握る2振りのソードブレイカー。

鎧は革製で、ここに出る魔物であれば致命傷は貰わないはずの装備だ。


気さくで優しい性格ゆえ、僕に色々ダンジョンについて教えてくれた恩人でもある。



「た、助かった! あんたらがいれば……いい、いやだめだ!

 とにかく何も聞かずここを出るぜ! ヤバイ、聞いていた以上に!」


僕の両肩を掴んで揺するロコウさん。

退却か……まあ、敵の姿もわからないし、

何か知ってそうなんだよなあロコウさん。

こういう時は素直に従っておくのがゲームでは定石だったし……。



「わかりました。

 出たらここの主のこと……教えて下さいね」


来た道を戻る僕らとロコウさん。

よく見ればその腕からは、

緑色の血が溢れている。


「……主にやられたんですか?」

「あ。ああ。……そうだといえばそうだな……」



なんだかハッキリしない口ぶりのロコウさんを引っ張り、

僕らはダンジョンを脱出する。

で、地下5階に上がった時、ふと疑問に思った。


「そういえば……何で僕らは合流出来たんです?」


今まで、他の冒険者と一度だって、

ダンジョンで遭遇したことはない。

その理由を話してくれた。


「ダンジョンの主っていうのは、

 ダンジョンに一匹だけ。

 だから、目標複数でもいいここまでと違って、

 最下層だけは固定。

 あの薄暗い鍾乳洞だけなんだよ」


つまり、全員で潜れば済む話なのか。

100人同時パーティも行けるはず。


「ロコウさん、他の皆は?」


「散り散りになって逃げてきた。

 多分大丈夫だと思う……心配だが、

 戻る力は俺には……ない」



……無理だな。

僕は何となくだけど、あの最下層の恐ろしさを知っていた。


「ロコウさん。あそこ、何らかの遮断魔法がかかっている。

 空間全体に。……ロコウさん、大声で叫んでいきなり現れたけど、

 僕らの灯りも、僕らの音も聞こえなかったでしょう?」


闇に叫んでも声が帰ってこない。

そんな経験がある人は、

多分僕の意見に同意してくれるはずだ。


最下層は互いの空間に影響する魔法の一切を、

極小範囲に狭めてしまう。

加えて空気の振動も、闇が遮断する。


そんな仕組みなんだと思う。

でなければ、聴力において僕の数十倍鋭い鍋子が、

あんな近距離まで気付かないわけがない。



「空間の間取りもわからない。

 そんな場所でいきなり敵から襲撃されれば……」


ゾッとする。

主が強くても弱くても、

視界のなさを武器にされたらひとたまりもない。

対策を練らなければならない。


どんなに強い一撃でも、

空振ればダメージなど与えられないからだ。



「鍋子、アイリ。帰るぞ。ロコウさんも、一緒に来てくれ。

 ……あと」


新品の包帯で傷を修繕した。応急手当だが、ないよりかはマシだ。



……なんにしても、ロコウさんを死なせる訳にはいかない。

知り合いであるのが大前提だが、



『助かった! あんたらがいれば百人力……い、いや駄目だ』



たしか、ロコウさんはそんなことを言っていた。

つまり僕らが対抗できない相手ではない事がわかる。

そして【僕らが対抗できない相手ではないことを知っている】。


主の正体。その対策を知っているはずなのに、

僕らに頼らず帰還を促す理由……。


ロコウさんは確か徒党を組んだ冒険者だ。

そして深くには潜らないことを言っていた。

……なのに何故今ここにいるのか?



聞きたいことが山積みで、

道中の雑魚は全部鍋子とアイリに任せていた。


その猛烈な強さで、雑魚は一撃で吹っ飛んでいく。

2人の強さを目の当たりにしたロコウさんは、


「俺……冒険者むいてねえのかな?」


などと言い出す始末だ。

安心してください。

あいつらが異常に強いだけですから。


次回予告:暗い暗い闇の中。暗い暗い世界の中で。誰かが死んだら誰かが死んで。

誰かが怖がれば誰かが叫ぶ。でも悲鳴も音も掻き消える。全ては暗い闇の中。

……誰かが歌うその歌に、涼太は不協和音を奏で始めた。

次回『静止した闇の中』お楽しみに。

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