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ギャップ萌え? 僕はイケメンだから、ギャップよりも正々堂々勝負をするよ!



地下4階。


そうなってくると出てくる魔物も強くなるし、

罠も致命傷になる。

上手く立ちまわることが出来ずに、

命を落とす冒険者は多い。



「たしかに……これは……辛いよ」


今までなら鍋子の一撃で倒せていた敵も、

防御をしたり援護防御をしたり、

相手の装備が棍棒からメイス、ボロ絹から皮の鎧と、

確かに強くなっている。知能も上がっている。



「戦い方は~工夫次第~」



そんな中、前線で防御に徹し、

鍋子へのダメージを全て請け負っているのが109である。


鉄の盾と鉄の靴、おまけに地下3階のフロアボスの宝箱にあった、

トゲの鎧を装備し、見た目で重量級だとわかる。



「……ううむ」


しかし僕はその光景を見て、

なんとも違和感を覚えていた。


……太っていて、重量級らしい体躯。

それはわかる。



しかし……豚は力が強いものなのか?

イノシシのような肉弾と違って、

こっちは脂肪分の塊だ。


……本当に豚なのか? そう思い始めている。



「まあ、そんなことは後で分かる。

 【フレアランス】!」


炎を鋭い円錐にして、敵に投げつける技。

ホーミング性能はないけど、威力は抜群だ。

突き刺さったそこから炎上し、

敵を霧に還す。

防御しようがこれは防げない。


「鍋子。ここを切り抜けていきつつ宝箱を探索。

 フロアボスが来ても無視で構わない。

 無事に帰るぞ」


「わかったわ!」


「1042。君は鍋子のサポート。

 僕は後方援護をする」


「了解で~す」



……やはりおかしい。

考えてみれば、軽めの装備の時から今の移動速度が、

全く変わらない。


普通はもっと豚足……いや鈍足になろうものだけど……。



「……試してみるか」



久しぶりのスキルスクロール。

その中から僕が選んだのは……。



「1042。こっちを向け」


「ええ?」



【神眼】。低レベルの变化魔法を看破するスキルだ。


僕が109に向けた目と、109が僕に向けた目が、

視線が重なった瞬間に効果が発動する。


化けているなら、正体を明かすはずだ。




僕はその正体に大体の当たりをつけていたが。



「あ、あらあら~……?」


案の定。109の体が発光して行き、

光が辺りに広がった。


「……どうして分かったんですか~?」


「イケメンの勘を舐めてもらっちゃ困る。

 それだけの重量級装備を持ちながら悠然と戦う豚。

 ……漫画とかで腐るほど見た、ファンタジーの王道。

 君の正体は豚は豚でも」



やがて光が収まると……そこには1人の……女性がいた。



「オークだろう?」



肩に届かない長さの金髪。肌は小麦色。装備は布の服上下だけで、

鉄の鎧と鉄の靴、鉄の盾は地面に落ちた。


先程まで脂肪とデベソのあった部分はすっきりと消滅していて、

バキバキに割れた腹筋が現れる。

服の上からでも分かる豊かな胸が、鍋子にはないものを補ってる。

腕っ節もすさまじい。贅肉などどこにもない、

筋繊維だけで出来ているんじゃないかと思うほどの隆々とした筋肉。


顔立ちは若干大人びて見えるが、

目鼻立ちがすっきりとしていて赤い瞳が僕を見つめている。



背は僕よりも高い。

顎を上にむけてようやく見つめられるほどでかい。



「イケメンの勘……ねえ。

 ふふ、ふははははは! あー助かったよイケメン。

 いや、リョータの旦那!

 危うくほんとに死ぬとこだったわ―」


「しゃべり方も変わるのか……。

 何であんな風に」


「おっと。その質問は後にしてくれ」



オークの赤い瞳が、鍋子の前に立ちふさがる敵をとらえた。

防具は鉄の盾のみ装着し、


「おらぁああああ!!」


盾で敵を思い切り殴る付ける、バッシュを行なった。

盾で防いでいた敵は、あまりの膂力にふっ飛ばされ、

後方にいた仲間も巻き込んで吹っ飛んでいく。


「……え、ど、どど、どなた―!!?」


鍋子が驚きおののいていると、

オークはぎろりと鍋子を見る。

そして、にっと笑顔を見せた。


「おお、小ウサギちゃん。

 旦那の相棒だろう。食いはしないさ、安心しな」


再び立ち上がろうとする敵は、

徒党(10匹程度)を組んでメイスと盾を構えてにじり寄る。


「病み上がりだが、さっきまでよりも調子がいいんだ。

 鬱憤ばらしに付き合ってもらうぜ!」



鉄の鎧を拾い上げると、装備……ではなく。


「おんどりゃああああ!」


敵にぶん投げた!


 『ギュアああ!?』


壁と重厚な鎧にプレスされ、ピクピクと痙攣した敵は、

そのまま息絶えて霧になる。


「何つー戦い方……」

「なんて豪快な戦い方なの……」



「はっはっは! いいぜいいぜ!

 アタイの力に、ひれ伏せ雑魚どもぉおおおお!!」


今度は鉄の靴を……これは履くのか……。

それで蹴りを入れたり、拳で……木製とはいえ、

敵の盾を素手で粉々に砕く。


瞬く間に混乱の坩堝に落ちた敵は為す術もなく、

ただただ倒されていった。

残ったのは僕ら3人と、

……オークの高笑いだけ。


「あっはっはっはっは!

 あー、さいっこうだわアタイの体は!」


肩を回して腕を回し、

ジャンプ、首をひねる、足を伸ばす。

……いや、オークなのか本当に?

パッと見、人間にしか見えない。



「ありがとなーリョータの旦那!

 アンタはアタイの命の恩人さぁ!

 恩にきるし、感謝もする!」


大きな手で握手をせがまれ応じる。

握力が高くて骨がバキバキに折れたが、


「おっとと、すまねえな」


すぐに分かったのか、回復魔法で骨を治癒してくれた。


「……どういう、ことなのかなリョータ??」


先程までおっとりデブだったはずの重量級タンクは、

豪快な超獣タンクになった。

戦いに専念していた鍋子からしてみれば、混乱するのも頷ける。

若干震えているので、

よしよしと抱き寄せてやった。


「僕の見立てだとそれは……呪いだろう?」


「呪い?」


「正解! おー、さっすが旦那。話がわかるね」



どっかりと腰をおろして、オークは自分語りを始める。



「アタイぁ、生まれた頃から強かった。

 オークの中でもとびっきりな。

 何故って、人間体に生まれたからな。

 扱える武器も、頭の良さも、

 【他のオークより】は上だった。

 大会でだって負け知らずだ。連続優勝もしたよ。

 倍近い歳の差ある歴戦の勇者にも勝ったことがある!

 すげーだろう?」


それが本当ならば、素直に凄い。

だけど聞きたいのはそこじゃない。


「呪いの話は?」


「おう、そうだな。

 んでよー、ある時近所のダンジョンの奥で、

 トラップに引っかかっちまって……。

 そこを魔法使いに助けてもらったんだが、

 こいつがまた鬼畜でよぉ。

 何故かアタイをあんな肉塊にして上げやがった。

 不格好な装備で戻ってみればどうだい。

 誰もアタイだとわからねえ。

 武器も何もかも取り上げられて、

 【お前はニセモノ】だ。なんて言われてよ~。

 悔しかったわ―。

 だからそこにいる奴等ボコしてやって、呪いを解くためにダンジョンに行ったら、

 今度は【いい肉仕入れたぞ】とか言って冒険者に捕獲される始末。

 豚肉の村に連れて行かれて、番号つけられて、

 屠殺寸前。いやー、あいつらマジムカついたからぶっ飛ばして出てきたんだわ」


……なんだこの、

悲壮感漂う自分語りなのに、

己の武勇伝のように聞こえるのは。

僕の耳がおかしいのか?



「で、このままじゃあいずれ殺されると思って、

 なんとか冒険者の仲間になろうと思ったってわけ。

 でもさー、世間様ってやつぁ厳しくてねー。

 誰もアタイの味方にならねえ。

 【うまそう】だなんて言われる始末だ。

 ……だから、旦那には本当に、感謝してるんだ」



オークは深々と土下座をした。


「感謝か。ほほー、感謝ね」


【上下関係】を結ぶか否か考えたが……。



「なあ旦那。アタイを舎弟にしてくれよ!

 今まで一匹狼オークだけどでさ!

 旦那と冒険するなら楽しそうだ!

 なあ頼むよ、このとおりだ!」


「……え?」



なんと自ら志願してきた。

話が速くて助かるが……良いのか? 本当に?


「今から上下関係結ぶが……意味分かるか?」


「あ? 関係を結ぶ? ……ああなるほどな。

 要するに、体のふれあいってやつか―!」



僕の視界は、オークが布の服を豪快に脱ぐ寸前で真っ暗になった。

鍋子の耳が器用にも僕の目を塞いでいる。

助かった。ナイスだ鍋子。



「だ、ダメ! リョータと体をくっつけるのは、

 その、えっと、ダメ―!」


「あれ、違うのか? なあ旦那―。

 関係を結ぶってこういうことだろ―?

 違うのか―? 違うのー?」



ああなるほど。

頭は弱いのかこいつめ……。

オークを比較対象にしていたし。



「違う。僕の質問に応えるだけでいい。

 それで成立する契約だ」


「ほほー。わかった!」



服を着たのか、鍋子による僕への視界封鎖が解ける。

鍋子は自分の胸に手をおいて、さすさすと撫でていた。

……気持ちがわからんでもない。



「【僕の舎弟に、本当になるかい?】」


「【ああ、いいぜ!】」



上下関係を結ぶために必要なのは、この口約束だ。

ただし、相手が心の底からなることを誓わなければ意味が無い。


鍋子の時は「死ぬくらいならなってやる」という心情だったから成功したのだ。




「よろしくな旦那! ……おっと、名前、

 まだ名乗っていなかったな!」


オークは、僕の手を握った。



「アタイは、カンデ―・アイッシュ・マギリス・モラクニア・アーシュ・クロイ・ルレール・ビリジア・アノバッサ。

 よろしくな!」



「長えよ!? 何だその長さは! 鍋子も真面目に言わんで良いから!」

「か、かんでーあいりっしゅまぎゅ!? ……舌かんじゃっら……」


「あっははは! うちの国では名前を名乗る時、

 今まで倒した相手の名前をつける風習があるんだよ!

 好きに呼んでくれ!」


「じゃあ……アイリッシュで」

「アイちゃん……って呼んでいいかな?」


鍋子がアイちゃんと呼んだ。

僕はそれに合わせた。


しかしアイリッシュ……この、

筋骨隆々な漢女が、アイリッシュ……。

僕ならギャップで気絶しそうだ。




オーク娘、アイリッシュが仲間になりました!


次回予告:筋肉もりもり、マッチョマンのオーク推参! 本気でこのまま豚子のままでいこうとしたら、「シェイプアップ」を私の第六感が告げた。

エンゲル係数上昇中! 鍋子、ヒロインの座は……心配ないな! 次回『超ド級マッスルのアイリッシュちゃんとうじょう☆』お楽しみに!

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