イケメンと兎と豚。珍妙奇天烈なパーティー結成。
「人間は中身」と言う人がいる。
僕はそれに対して「NO」と言うだろう。
何故なら、美しい人は美しくなるために、
あらゆる手を尽くす。根が真面目な努力家なのだ。
そうでない者は美しくなる努力をしないから、
見た目を気にしない素行が目立つ。
一般的に人間の本性はわからないけれど、
おおよそ、どんな人間かはそれでわかる。
……ところが、外見を隠す方法に長けたファンタジー世界であれば、
これは一概に当てはまらない。
強そうな奴は傍から見ても強そうだし、
実は虚勢を張った弱い奴かも知れない。
弱そうな奴は実は強いかもしれない。
美しい奴は魔法でそう見せかけているだけなのか、否か。
醜い奴は王子のキスで美しくなるか、否か。
……まあ、何がいいたいかって?
「あ~ん、またころんじゃいました~」
この太ましすぎて今にも屠殺されそうな豚トロ娘が、
さっきからドジやらかしまくっていることだ。
この世界では家畜種という、食物連鎖最下層に属する豚。
名前は『109』……じゃないか。
なんだろうか、とにかく番号だった。
「おいどうした? 何に躓いた?」
「なんでも~……なんにもないのに~」
ダンジョンの中はこの間と違い、
洞窟だ。鍾乳洞のような、冷えていて静かな空間。
壁というものはなく、薄暗い空間を手探りで歩いている。
「ハイヤーッ!」
絶好調なのは鍋子だ。
ネズミなんかとは違う、
鈍足ながら二足歩行のゴブリンみたいな奴相手に、
槍一本で応戦している。しかも圧勝だ。
先日手に入れた妖精の靴が、
跳ねる力に拍車をかけていて、
移動速度、攻撃速度が上がっている。
しかもあの靴、鍋子曰く。
「なんだか体の疲れが全然溜まらない!」のだそうだ。
疲労を吸収する作用でもあるのかな?
また、ネタかとも思っていた黒ビキニのおかげで、
ゴブリンの投石に当っても傷一つ付かない。
魔法の結界は全身を守ってくれるようだ。
水たまりを蹴って水飛沫と、
突き当てて霧になる雑魚とで、
そこだけ見ればここが異世界だとわかる。
……だから僕が手を下す必要がまたしてもない。
くそぉ、このままではこの小説のタイトルが、
『とある異世界のイケメンに惚れた可愛い最弱バニーガールの私がこんなに強いわけがない』
になってしまう。
そのイライラも相まって、
さっきからコケたり、荷物をぶちまけたり、
疲れたと言って休もうとしたりするこの豚娘に、
すっげえイライラする。
「おい、109」
「1401ですぅ」
でっぷりと肥えた豚娘は、
汗をかいていた。
着ている服も汗で濡れている。
「知ってますか~?
1000番代は特上肉なんです~。
100番代は上。
10番は下なんです。
基本的に特上は純粋な豚だけで、
私みたいに人間型で1000番代は珍しいんですぅ」
良かった。人間型ばかりだったら本格的に飯がまずくなるかもだった。
「その特上肉扱いされるのを誇ってどうするよ」
「はっ! そうでした~。
お役に立って~、パーティーに入らなきゃですね~」
……しっかし、あのデベソはどうにもならんのか?
何だか見ていて気分が悪い。
そもそもピアスをする奴の気が知れない。
風穴開けるんだろうそれ。
まじ怖い。
「リョータ! ここの敵あらかた倒したよ!」
おおう……さすが鍋子だ。
「良いぞ鍋子、その調子で行くぞー」
くそぉ、今に見てろよ。
鍋子が大ピンチになったらイケメンメイクと口上で颯爽と倒して、
イケメンっぷりをしらしめるからな!
「さて、……【フロアボス】のお出ましか」
先日倒した巨大ネズミや鬼。
それは、【ダンジョンの主】と呼ばれるたぐいのようだ。
ダンジョンが発する魔力が発散されず(客が来ない)、
停滞した結果があのネズミ。
ダンジョンの生み出せる最強の魔物が、鬼。
てっきり、霧が集まって出来たのかと思っていたが、
淀みすぎたダンジョンはあんな規格外が出るらしい。
で、【フロアボス】はそれとは違い、
各階層の雑魚を一定数倒すと出現する。
強さは主ほどではないものの、
十分強い。また、フロアボスは階層移動で消滅する。
勿論その場合、宝はない。
ダンジョンに潜る前に、
名無しのウロコさんに聞いたことだ。
『あんた、小さいとはいえ主倒したのか。
やるねえ。ちなみにここのダンジョンは6階まであるぞ。
そこに主がいるみたいだ』
『なんでわかるんです?』
『強いパーティーが挑んで、
全滅寸前で帰ってきたんだ。
帰ってきたやつ以外は当然……わかるな?』
ダンジョンは業の深い奴を歓迎する。
人間を誘い出す。
そして捕食するのだという。
それでもダンジョンに潜るのには理由があるようで、
放置すると魔力が停滞し、
生成された魔物が地上にあふれだすのだそうだ。
そういうのを取り締まる組織もあるみたいだが、
定期的に人が入るダンジョンには関係ないらしい。
「とあーっ!」
まあ、フロアボス程度。
鍋子の敵ではないがな。
いやマジで、苦戦しろよ鍋子。
戦闘描写がないんじゃあ小説の醍醐味ががが……。
「宝箱出たよ!」
「中身は……」
金塊2000bl×4つ。
鉄製の巨大な丸盾。
鉄の靴。
「……えらく重量級装備が出たな」
参った。ゲームならどんなに重くても袋いっぱいに持てるのだが、
現実はそうもいかない。重い物は重い。
特に金塊。これが問題だ。
金塊と言ってもサイズは小さい。
しかし数が重なれば重い。
機動力の鍋子が持つと、持ち前の無双ができなくなる。
……それも一興かと思ったが、
僕は仲間を窮地に陥れる外道にはなりたくないので却下。
「わぁ~。鉄の盾~。かたそー」
「109。
持つか? 持てるのか?」
「だから1000番台……って、まあいいです~。
いよいっしょ」
見た感じ、分厚く重そうな盾だが、
なんと……軽々腕に装着した。
しかも鉄の靴も履いた。
機動力は落ちない。
「なるほど……肉壁というのはそういうことか」
今は鍋子が無双しているから気付かなかったが、
この重量装備が出来るのであれば、
戦闘面では活躍が期待できそうだ。
……ドジることがなければな。
次回予告:いい加減疲れてきたぞ次回予告! 涼太「関係ない。書け」でも書かざるを得ない! 新ヒロインの名前は暫定なのでまともな名前を試行錯誤中! ファッション力ないのにこのアダ名はきつい! 次回『落とし穴』本邦初、ピンチになるのか!




