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早速ひらめいた必殺技:温泉バスター。それはイケメンにはふさわしくない技なので今日限り封印したい。


風呂。この世界にもあるかどうか不安だったけど、

どうやらあるようだ。


近くの河川から水を引いて、

浄水施設でろ過し、

各家庭に配分するというのが日本式の水道だった。


水道整備が行き届いているようで、

この世界の宿屋にも……この宿屋だけかもしれないけど、

ともかく見知った風呂があった。


2人入れば満員という狭い脱衣所もあり、

僕は少しだけ安心した。


だってイケメンだとしても、

くさい匂い撒き散らす輩は論外だからね。


一時期、汚ギャルとか流行った時期があるって聞いたことがあるけど、

あれは論外だ。イケメンとか美少女の前に、

まず人間として清潔さがほしい。



「鍋子。何してる。とっとと風呂に入りなー」


「入れないわよ! だって恥ずかしいじゃない!」


「今までも裸だったろ?」


「体毛が服代わりだから裸じゃないわよ! 良いじゃないの!

 だいたいお風呂なんて裕福な家庭しか好まないのよ?!

 野生の臭いって別段気にされないのよ!?」



必死で抗う鍋子は、脱衣所から風呂場に来ない。

既に湯気が立つほど、浴槽に湯が張られている。



「はあ……埒が明かないな。

 いいからさっさと来なよ」


わざわざ湯船から出て僕はイケメンとイケてる体を読者に披露しよう。

サービスシーンだ……とくと見るが良い、

この割れた腹筋。贅肉が殆ど無い引き締まった体躯。

整った眉毛。切れ長の瞳。シミひとつない白い肌。


当然、何もつけていない。タオルもな!

この体を隠すことは出来ないね。


生唾ごっくんものだろう!

こんなサービスめったにないぞ!?


鍋子にも存分に見せてやった。



「きゃああああ!? み、みえてるぅううう!??」


僕の体を見て目を背けたな……。

ふふふ、美しいのは、もといイケメンなのは、

やはり大罪だな。


7つの大罪に入れても良いんじゃないかな。

8つになるがね。【美形】という大罪を。



「さっさと入る」


僕の力で鍋子はあっさり引きづられた。

やはり瞬発力はあるものの、

力比べは僕に分があるようだ。


「い~や~だ~!」


心底嫌そうな顔をしているな……。

仕方がない。リップ・サービスも付けてやるか。



「鍋子。僕は君の綺麗な体と清潔を守りたいだけなんだ……」


「そんなふうに言っても懐柔する気満々なのはお見通しなんだから―!」



けっ。バレたか。

だがそんなのは既に、


「いいからとっとと入れおらぁあああああああ!」


湯船にぶん投げて水(湯)柱が上がる。

続いて僕も入り、湯船から脱出しようとした鍋子を羽交い締めした。


「あ、あっつ! 熱い! 火炙りほどじゃないけど熱い!」


「観念しろ鍋子。これから隅々まで洗ってや……る……」



湯の色が……段々と……汚染されていく……。



「鍋子ぉ……いったい、どれだけの期間……風呂に……」


「……う、うぅ、う」



また泣くかこの鍋子は。

いい加減強い姿を見せてくれよもう!


「泣くな鍋子。湯はまた張ればいい。

 ここで清潔になればいい」


「いやぁああだもう出るぅううう!

 出るったら出るぅううううう!

 汚いの見られたああああもうやだあぁあああ!」



急所突き……は、流石に芸がないし、

根本的な解決にもならない。


ここはイケメンで押し切る。

何でもかんでもスキル頼みじゃお手軽すぎて意味が無い。



「落ち着け鍋子」


湯船から抱き上げて、

向き直らせると、涙と湯でぐちゃぐちゃになった鍋子の顔があった。

毛が滅茶苦茶濡れているから、顔が酷い有様になっている。

間違っても萌アニメに出してはいけない顔だ。


「良いか、よく聞け。

 君の世界でどうかなんてことは知らない。

 でも、僕の生まれ育った世界では、

 風呂にはいることは常識なんだ。

 そして僕は鍋子に、本当に清潔になってほし―――」



鍋子が蹴りを 顔面に 入れた。




鍋子は離れるために暴れる。


僕は……。



「やだやだやだだめもう出るからやめてよリョータ!!」


「……いいかげんにしろよ鍋子」



逆鱗に触れられた僕の顔はどう写っているのだろうか?

少なくとも、鍋子が押し黙るくらいには怖いようだ。



「いいかい。イケメンはね、突き詰めれば顔なんだよ。

 それが、それだけが全てなんだ。

 だから老化を防ぎもするし、

 頑張って美容に気を使ったりもする。

 有名人が顔を大事にしている。

 それはね。人気が落ちないためなんだ。

 分かるか鍋子。イケメンは……顔なんだ」



ガタガタと震え上がる鍋子を湯船に入れる。

僕と向かいあわせだ。

今度は逆らわない。



「その顔を……今、蹴ったね?

 どんな理由であれ、蹴ったね? ん?」


「……ご、ごめ……ごめ……」


「じゃあ引き続き……風呂タイムだ。

 幸いダメージはない。次は気をつけてね?」



いつもどおりの笑顔がイケメンの僕に戻る。

傷が残るような蹴りだったら、

こんなもんじゃあ済まない。



「は、はひ……」


「とはいえ湯船が汚れちゃったか―……。

 まあ、ならばシャワーだね」



湯船の栓を外して流しきってから再び貯め始める。

逃げる素振りは……見せないな。

よっぽど怖い顔していたんだろうな。

……不味い。せっかくの風呂を、

怖い記憶と合致させるのは不味い。



「鍋子。そんなに怯えない。

 ひるまない。ビビりすぎだろ」


「だって……」


「誰だって凶暴になる。

 知らないうちに逆鱗に触れることもある。

 そんなの、いちいち気にするな」



シャワーの形状は……うん、見知ったものだ。

湯の出し方も変わらない。



「たまたま蹴った先が僕の顔だっただけのことだ。

 運が悪かったな。

 だが気にしていてもしょうがない」



風呂場の椅子を差し出し、鍋子を座らせた。

おずおずとしながらも、腰掛ける。


「な、何をするの?」


「風呂場でやることは基本的に1つだ。

 体を清潔にする。

 ……よく考えたら、かけ湯なしに入れた僕も浅はかだった。

 謝罪はするよ。それ以上はしないけど」



鍋子は耳を折りたたみ、水(湯)音を聞いてビクビクしている。



「風呂というものはね……僕のいた世界でも、

 万人が入っているわけじゃあない。

 清潔さを保つだけなら、シャワーでも問題ないからね」


湯をゆっくりとかけてやる。

だんだん、汚れが少なくなり、なくなる頃には、


鍋子もだいぶリラックスしていた。




……しかし、やはり小さい体だ。

年齢は聞いていないけど、僕より多分年下だろう。

体毛が全部へにゃりと濡れて、素肌が全く見えない。


裸だが、そうではない。


いっそ顔部分だけでも剃るか……と思ったけど、

それは別にいいかと思いとどまった。



……さて、僕は正直女の子の体に触ったことが皆無だ。

あのクソ呪いのせいでな!


だからドキドキものだ。

兎の女の子。つまりは、バニーガール。


その裸に今、対面しているわけだ。

目が充血するのは仕方ないことだと思う。



「じゃあ、洗うぞー」


手元にスポンジ用意。

ボディーソープ……みたいのがあるな。

文字は意味不明だが、意図することは不思議と分かる。

見慣れた容器に書かれた文字は確かに、

からだ用の石鹸だ。


「ブラシとかのほうが本当は良いんだけど、

 何でそういうの置いてないかな―?」


背中をこすってこすって……ううむ、

やっぱり毛が邪魔だ。


「……ねえリョータ?」


「なんだー?」


「リョータって、どんな世界で生きていたの?」



ぴたりと手を止めた。

……あれ、話したことなかったかな?



「さっき、『僕の生まれ育った世界』とか。

 勝負に負けた時も、『異世界から』とか言ってたし」


1-4話でのことか。

よく覚えているな。


「ねえ、教えてよリョータ。

 そことここって、どう違うの?」


ワシワシと体をもみ洗いする。

くすぐったそうにしている鍋子に、

僕は語り出す。



「そこはね。基本的に人間は人間。

 動物は動物なんだ。

 で、日本という国があってね。そこで生まれたんだ」


一旦シャワーで体を洗い流してから、

再度マッサージしながら洗う。


マッサージ技術は地味ながらイケメン要素のはずと思い、

中学生の頃に色々覚えた。

足ツボの位置くらいなら正確に覚えている。


「繁殖力も効率が悪いし、

 他の動物に比べて多少デカイだけで、

 それ以上の動物には素手だとやられるような弱い……。

 弱い種族の闊歩する世界さ」


足ツボをやろうとしたが、

それだと真正面に向き合うことになる。

人間のような体の鍋子の、裸での前向きは……不味い。


「いろんな道具があった。

 炎を出したり水を出したり、冷凍したり、

 遠くと話することも、広大な電子の海を行くことだって出来た」


「なんだか……魔法みたいな世界なんだね」


魔法みたいか。

確かに、魔法だな。


今度は頭を洗ってやるべく頭皮マッサージをする。


「あひゅぅぁ……」


魂の抜けるほど心地よいのか、

もっともっとと鍋子がせがんだ。


「まあでも、彼女とかは出来なかった。

 呪いのせいでね。その呪いは、どうやら激レアのスキルらしくて、

 その交換したポイント分で僕は今、好き放題やっている」


「わひゃひをたをひたの、ほの、

 うひゃん。ほのーまほーが使えたっん!?

 のも、ぜ、全部その巻物のお、……おかげ?」


心地いいのはわかるが喘ぐな。

気分が段々ムラムラしてくるから!


体毛もこれまっピンクじゃねーか!



「そうとも言えるな」



別に隠すほどのことでもないし、

異世界から来たって吹聴されても、

だからなんだって話だ。


異邦人結構じゃないか。



「さて、頭を洗うかねー」


「あー……あー……」



入浴の悦楽を堪能してくれたようで何よりだ。



「ほいさー」


「ばぁー」



一気にお湯をぶちかけてやり、

鍋子は全身を震わせて水気を飛ばした。


耳がピンと立っている。



「さて、次は湯船に」


「ま、待ってリョータ」



僕の右手を握ると、鍋子は自らの腹に誘った。

先程まで使っていたスポンジがそこにあるあたり、

用意が良い。



「まだその、お、お腹洗ってない」

「御免。それは勘弁してくれ、

 僕の理性が持たないと思うんだ」


いやもう冗談抜きで。

しかし鍋子は食い下がり、

僕の右手を逃すまいと両手で握りしめて、

それをグリグリと、

円を描くように洗い始めた。


「自分で洗えるだろ」



「リョータに洗って欲しい……ダメかな?」




イケメンとは、どんな状況でもイケメンで行くこと。



「いいや任された」



僕に選択の余地などない。

消え入りそうな声の鍋子の体毛は、

未だピンク……なんかさっきよりも濃いピンクだ。

なんだろう……危険な予感がする。



「あっ!? りょ、りょー……りょー…ひゃう!」


僕の想像があたっているのなら、

円周の軌道がやや、大きい。

両手で握っている僕の右手が、スポンジを通して感触が伝わる。

これでは腹ではなくその上の方……。

いわゆる、女の子の……の!?




「とぉおおおおお!!!」



いけない! このままではいけないと感じた僕は、

鍋子を風呂に投げ入れた。

本日2度目だ。



「僕だって、僕だって、

 男の子なんだからなああああああ!」


最早我慢の限界だった。

鍋子の顔を見ながらやるべきだった。

普段かわいいが、

今の濡れた毛が張り付いた顔であればなんでもなかった。


ところが僕は背後から洗っていた。

顔を見なかった。

普段の可愛い顔を思いながらあんな声を聞いた日には……。


敗走するしか……なかったのだ。


こうして、鍋子との初風呂は達成された。

後で鍋子に聞いた所、

「また一緒に入りたい」と言っていた。


OK。次は理性スキルでも(あれば)取っておこうか。


次回予告:早速装備を整えて近隣のダンジョンに赴く涼太と鍋子。

 「どうか仲間に入れて下さい」の札を持ったヒッチハイクダンジョンのシスター。

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