可愛いだけじゃあない。カッコいいだけじゃあない。命をかけて貫くべきものが、ファションだ!
不細工に金を渡し、
再び集落に戻って検問を通る。
その宿屋の中でもセキュリティ、
豪華さでトップクラスの部屋をとり(一泊一部屋2500bl)
ダブルベッドの上で僕は考えていた。
側で鍋子がベッドの軽やかさに浮かれている。
双剣。
大剣。
大鎌。
悩む。
非常に……悩む……。
僕は今、ある意味人生の転機に居合わせていると言っても過言ではない。
例を挙げるなら、どの大学に行くか決める瞬間。
合コンで誰を持ち帰るか決める瞬間。
最初の選択で『剣』『盾』『杖』のどれを選ぶかを決める瞬間。
その後の人生を大きく左右する選択肢だ。
慎重に悩まねばならない。
「どうしたのリョータ? さっきから精神統一して」
心配そうに僕に話しかける鍋子。
アグラかく僕のひざ上に座ったり、
血走った僕の目をしきりに見つめたり、
顔の前に手をかざしてみたりとアクションを仕掛けるのがもー可愛いけど、
そんなことが霞むくらい今悩んでいる。
「鍋子。僕は今、真剣に悩んでいるんだ。
参考なまでに聞きたいことがある」
「な、何かな!?」
「……鍋子は槍を使っているが、
それは何かこだわりがあっての選択かな?」
「こだわりってほどじゃないなあ……。
ナイフか槍かどっちか欲しかったから。
たまたま安くて手に入った方を選んだだけだよ?」
なるほど。貧乏だと選択肢が減る。
鍋子には今夜、サラダをご馳走しよう。
(本当に草食みたいで、それ以外は受け付けないようだ。
僕がケチみたいな印象受けないよう説明しておく)
「鍋子。僕の顔を、……そして」
パジャマを肌蹴て、
腹筋の浮かぶパーフェクトボディをさらけ出す。
「この体を見たうえで【答えろ】!
僕に似合う武器はなんだい!?」
「【その前に防具を買おうよ】」
……もっともであるが、
確かに数日間着っぱなしのパジャマ。
そろそろまともな服がほしいところだったが……。
しかし、命令を出してもこの答えでは、
期待は出来そうにないな……いや、待て。
それは早計だろう。
鍋子には僕がどれだけ、
装備について熱い思いがあるのかを知らないから。
だから防具優先なのだろう。
仕方ないやつめ。
「鍋子。……鍋子?」
「……フェっ!? な、何かな!?」
どうやら僕に連呼されて照れてしまったらしい。
ふふふ。これだからイケメンは罪だ。
勝手に魅了してしまう……。
「良いか鍋子。名は体を表す。
それと同じように、装備は、特に武器は、
その人物の趣味趣向が現れる!
オシャレが、試されるんだ!」
そう。服装!
渋谷にいる奴。
田舎町にいる奴。
アキバにいる奴。
巣鴨。新宿。御茶ノ水。大阪。北海道に至るまで!
ご当地に合わせたカラーのファッションが、
この世には存在する!
僕はこの世界に合わせたファッションをした上で、
誰よりもかっこ良くなりたいんだ!
……だが、この世界の流行がわからない!
時代はスピード?
それともパワー?
イケメンが主に装備するファッション……それがわからないんだ!
例えるならば、
秋葉原に行くようなファッションのやつが、
渋谷に直行して町を練り歩くのと同じ……。
本人は意に介さないが、周囲が「oh!?」「hahaha!」と、
色々反応示すような場違い感。
異世界に来た時点で場違いのこと言及するのもアレだけど、
僕は一刻も早くこの世界に馴染む必要がある。
郷に行っては郷に従え……。
いつの、どこの世界でもそれは変わらない。
「鍋子。鍋子! おい、うっとりしていないで僕の話を聞きなさい!
鍋子カムバーック!」
がっくんがっくん体を揺するが、
駄目だ。色々幸せそうな顔をしている。
「急所突き(弱)」
ストンと入った急所。
回復はないが、気付けには最適な威力だ。
「え、あれ、な、何リョータ!?」
「鍋子。今から僕が言う装備、
変かどうかを答えてくれないか?」
「わ、わかった」
まず大鎌。
「大鎌だ。死神が持っている、大きな首刈り鎌」
「さ、サイス!? ううん、持っている人は見たことあるけど、
皆怖い服装しているし……何より怪しさ満点だよ?
それにどこにしまうのそれ?」
なるほど。確かにアレを持ったまま旅するのは、
外見的ハンデがでかすぎるな。
じゃあ大剣。
「大剣はどうだ? 皆を守る力強さを持った武器だ」
「ビッグソード……ものによるけど、
30kgとか普通にあるよ? ずっと持つの?」
却下だな!
ゲームでは普通に装備している奴もいるが、
これは現実だから無理だ!
「双剣は!?」
「ツヴァイソード?」
ええいさっきからオシャレに変換して!
ナイス鍋子! サラダを特盛りにしてやろう!
「両利きならいいけど……」
「無理か……」
僕は右利きだ。
完全に持て余す。
カッコイイはずなのに……。
「それよりも普通が良いと思うよ?
だってリョータ、何付けても似合いそうだし……」
「ありがとう鍋子。
スッキリしたよ」
なるほど。かっこつけた装備じゃなくて良いんだ……。
ありのままの僕に、
添える程度の装備で構わないんだ。
何を深々と考えていたんだろう僕は。
実用的にカッコイイのは……。
「やっぱり剣と盾だな!」
そうだ!
大体にして伝説の装備は、
剣と鎧と盾と、相場が決まっていた。
剣を主力にすれば外れはなかったんだ!
なあんだ簡単だった!
「ありがとう鍋子……僕は道を踏み外さずに済んだよ」
「お、お礼言われちゃった……」
「その御礼として……」
僕はおもむろに立ち上がると、
風呂場に行って湯を張り始めた。
「鍋子の体を洗ってやろう。
存分にね」
「……ぴぃ!?」
自分の体を抱きしめる鍋子は、耳を真っ直ぐに立てた。
体毛は赤くなってるが、ピンク混じりだ。
恥ずかしさで真っ赤になっている。
「僕に抱きついた時……正直に言おう。
獣 臭 か っ た ぞ 」
「嫌ああああああ!?」
「たまたま洗ってなかっただけだと思ったけど、
そうだとしてもあの臭いは不味い。
折角体毛綺麗なんだから、もっと可愛く清潔に、ね」
「……だって水辺しかなかったもん……お風呂なんて概念なかったもん……」
嘘偽りのない言葉は時として人を傷つけると言う。
確かにそうだ。
だけど、言いたいことは言っておかなきゃ、
遠慮しあう関係なんか嫌だろう。
「まあ任せなさい。
僕のテクニックで存分に洗ってやろう」
次回予告:タップゲーで腱鞘炎寸前の作者が書く気を起こすべく、次回は緊急風呂イベント! R-15にしたその価値をとくと味わっていただきたい! ところで鍋子は、そんな体臭で大丈夫か? 次回イケメン湯煙殺人事件『銭湯と戦闘って変換ミス多い』お楽しみに!




