謙虚に生きるだと? 僕みたいなイケメンは欲張ってハーレム作るのが義務だと思う。
『硬い盾』:防御力3。どう見ても木製。燃えそう。
『強めのナイフ』:攻撃力2。ただのナイフが少しだけ鋭利になった。
『スリッパ』:裸足よりかはマシ。かっこよさマイナス補正。
『爪とぎ』:ただのヤスリ。
『ホーリーのランス』:伝説のボケ老人ホーリーが「これは爪楊枝じゃないぞ、槍じゃ」と言い張った爪楊枝。
『乾いた雑巾』:即捨てた。
『干からびたりんご』:ネズミに食わせたら即死した。
『タンポポの髪飾り』:鍋子に付けてみた。顔を真赤にした。
等など。
見つけた宝物はこんな風にくだらないものばかりだ。
なるほど。何で冒険者が下層に行きたくなるのかが分かった。
いわゆるソシャゲのガチャみたいなものなんだなと思う。
僕達がとっているこの狩場は、いわばゲーム内通貨でのガチャ。
ゴールドとかに近い。
一方で、レアアイテムが欲しいのであれば、
課金……つまりはリスクを負ってでも、
下層に宝を求めるしか無い。
ソシャゲで言う結晶とかみたいに。
さっきから出てくる魔物も、ネズミや蟻ばかりの大量投入型ばかりで、
質より量のせいで鍋子に瞬殺されている。
んで、何も落とさずに霧になって消えるばかりだ。
ドロップアイテムの見込めない敵など、どうしろと言うんだ……。
「鍋子。鑑定結果だ。金額の付くまともな品をかき集めても、
300blにしかならない」
「むしろ300blもあるの?! ガラクタばっかりじゃない」
安全圏で小遣い稼ぎならこの程度か。
それでももう少し位欲しいところだが……。
「地下深く潜ればもっと狙えるな。
……食い殺されないようにしなきゃだが」
恐ろしさはあるものの、このままではジリ貧だ。
現在地下2階。下りの階段は目の前にある。
「行くぞ鍋子。僕も戦闘に参加すれば完璧だ。
イケメンがいるパーティの士気は急上昇。
つまり勝てる」
「無茶苦茶な理由ね……。
(士気は上がっているけどさあ……)」
地下3階。そこに待ち受けていたのは、
……やっぱりネズミだった。
「あと罠とかもある……。
けどネズミ取り用の罠だから……」
なんなんだこのダンジョンは。
いくら何でもショボいぞ。
だからボッタクリ価格なのか?
「もっと下に行くぞ」
「わかったわ」
気分爽快無双気分。
今の鍋子はすごく生き生きしている。
並み居る物量に息1つ荒げず、
槍、蹴り、投擲で大量のネズミを退治していく。
僕もそろそろかっこ良く魔法を使って倒したいが、
その出番はない。
いい加減、鍋子以外に使ったことがない火炎魔法と氷結魔法を使いたい。
『ぎしゃあああああ……』
「……聞こえたか、鍋子?」
「ええ。この先にいる。
でも、さっきまでそんな気配なかったのに?」
これまでのネズミとは違う。
なんだろうか……怖いものであることには違いないだろうが、
下り階段も見当たらない以上、
まだ行っていない場所に行くしか無い。
急ぎ駆けつけた先は、大きな部屋だった。
高さは5m。
広さはバスケットコート2つ分、
通っていた学校の体育館程度の規模。
その中心に魔法陣が紫色に煌めいていて、
中心には体長3m程度の……。
「またネズミかよ!!!?」
「またネズミぃいい!?」
黒黒とした体毛。
どこか禍々しいオーラのようなものをまとったその姿はまさに、
ネズミだった。まあとにかくデカイ。
で、小さなネズミも従えていて、
これらがまず襲ってくる。
「むぅん!」
決まった。帯状の炎がネズミをなぎ払う。
……そしていつもどおり霧が生まれ、
それは大きな化物ネズミに吸い込まれていき、
ほんのすこしだけ大きくなった。
「吸収した!?」
ネズミが雄叫びを上げる。
そのまま僕ら目掛けて突進した!
「おわぁ!?」
情けない声だが非常時だから仕方がない。
横っ飛びで回避する僕。
鍋子もすんなり回避した。
『ぎしゃあああああああああああ!!』
強そうな雄叫びだ。
如何にもボスだ。いい風格をしている。
「しかし所詮、ネズミはネズミだ!」
氷結魔法でネズミの片足を固定。
気を取られている間に察した鍋子が突撃して、
槍で攻撃をする。
大きく口を開けた瞬間に、
「灼熱球!」
技を叫ぶ必要など無いのだが、
こういうのは雰囲気だ。
可視化した火炎の珠が化物ネズミの腹に投入される。
化物ネズミは苦悶に打ち震えて無茶苦茶に暴れまわるが、
予測不可能な攻撃でも標的にされない以上、
脅威ではない。
「散火!」
焼きつくした珠が炸裂してネズミの体内に散る。
各々炎上して、ネズミは活動を止めた。
「さすがイケメン。さすが絵になるイケメン……。
僕の大活躍の前に、ネズミなど……ふ、ふっふっふ、
ふはあははあははははあははあ!!!」
カッコイイ男子像の中には中二病もあった。
負けじと黒歴史ノート(シュレッダー処分済み)に記載しまくった、
技の数々。それが実現し、決まる愉悦が僕の口角をつりあげた。
「あ、なんか宝箱出てきた!」
「何ぃ!?」
大きい宝箱と、小さい宝箱だ。
装飾にもこだわりを感じる、豪華な宝箱だ。
これまでの「とりあえず宝箱だよー」感がどこにもない。
「……まてよ……そうか……そうだったのか……ネズミとは……」
「ど、どうしたのリョータ?」
「鍋子。僕の知っている昔話にな。
『舌切雀』というものがある。
最終的に大きいものと小さいものの、
どちらかのおみやげをくれるというものだ。
……謙虚な人は大金を。
そうでないひとは百鬼夜行を引き当てた」
「それ恩返しする気無いよね?!」
「しかしながらここはダンジョン。
謙虚でいるよりも欲張って強いやつを引き当てる。
そうすれば、更に大きな宝に巡り会える。
……そんな気がする」
「じゃあ、大きい方を開けるの?」
「そういうことになるな。
さあ、ご開帳!」
出てきたのは、鬼。
いや、比喩抜きで鬼のような……鬼。
強そうだ。筋肉モリモリだし……。
『おでさば、おま゛えら、みいなころし』
「やってやらぁああああ!!」
「うぉおおおおおおおお!!」
それは、激しい戦闘だった。
鍋子の技。僕のスキル。
鬼の暴力にネズミの増援。
フレアランスの瞬間発火にも耐え抜き、
鍋子の必殺技『心臓ドッキュン突き』も耐えた。
心臓が鬼の額にあると判明し、
総攻撃を加えて倒した頃には、
僕たちは満身創痍だった。
1話丸々使えそうな物語だった。
『みごどぉ……おお、みごでぁえ……ぐふっ』
鬼は消滅し、新たな宝箱が現れた。
翡翠色の宝箱だ……。綺麗で美しい。
今度は1個だけだ。
「開けるよ?」
「頼む」
開けた瞬間……そこにはこぶし大の金塊10に、
首輪1個、羽のついた靴、1本のナイフがあった。
まさしく宝物だ。
「金塊は……1個2500bl。
あいつに支払うだけの金はあるな」
「やった……やったねリョータ!」
飛びついて僕の顔に腹を押し付けてくる鍋子。
顔は見えないが、声からして喜びを抑えきれていない。
「ああ、これで帰れるぞ」
まあ、靴は……僕が履くには小さいな。
ナイフは……鍋子の手に収まりそうだ。
いずれも鑑定技能レベルが低いため、
鑑定できない。
「首輪か……ちょうど欲しかったところだから、脱出したらつけてみよう」
宝を回収し、僕らはゲートを使って外に出た。
(入ることは出来ないが、脱出には使える)
リザルト
妖精の靴
???の首輪
???のナイフ
金塊:25000bl相当
次回予告:パジャマ生活から脱出したリョータ。彼らは新たな装備を整え、近場のダンジョンを求めて行く。そこには、新たなる出会いがあった。最近流行りのポンコツヒーラー……ではない、しかしヒーラー。そして新感覚ヒロイン!乞うご期待! 次回ぶらりイケメン下車の旅『九州名物ラーメン』。この予告に、正解率は……。




