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2015年/短編まとめ

友達いない同好会

作者: 文崎 美生

作間サクマさんって友達いないの?」


「はぁ?」


本から顔を上げて目の前にある顔を見た。

整った顔が憎たらしい。

正直この手のタイプは苦手だし嫌いだ。

顔が良ければ大抵のことは何とでもなると思っているから。


現在お昼休み後半。

基本的にお昼は人気の少ない場所で過ごす私は、相も変わらず人の少ない図書室にいた。

図書委員なんて名前ばかりで、当番性の仕事もまともに回っていない状況に、何だこれ、と溜息が漏れるくらいだ。


図書委員も今日は何故か司書さんもいない図書室は、利用者も少なくて静か。

今日も今日とて、いるのは私と、目の前の整った顔の持ち主だけ。


「だって基本的に一人でしょ?」


あぁ、そうだね。

読み掛けの本に視線を落とす。

物語の中では主人公が幼馴染みの女の子相手に、恋心を自覚する場面が描かれていた。

物語の醍醐味とも言える青春臭いシーン。


某少年漫画の三本の柱に『努力』『友情』『勝利』が並んでいたのを思い出す。

私にはその三つとも存在しない。

特に『友情』の部分なんて、今まさに目の前の彼が指摘しているものだ。


「友達じゃなくて、幼馴染みならいますけど」


暗に友達がいない、と言ったようなものだ。

そもそも友達の定義が分からないのに、どうして赤の他人のことを友達と枠組みで括れるのか。

そのことの方がよっぽど疑問だ。


キィッ、と座っていた椅子を回す。

座っているけれど、床に足のつかない高い椅子はちょっと座りにくくて、でもカウンター業務をするにはピッタリの高さ。

図書委員でもない私が、ここにいるのは少しどころじゃなく、凄く、変。


「違うクラスだよね」


「でも、幼馴染みだから」


大事な大好きな幼馴染み。

家族同然の幼馴染み達は、揃いも揃ってクラスがバラバラになってしまった。

そのことに関しては残念だけれど、部活もあるし別に今生の別れじゃない。


だけど、幼馴染みは幼馴染みであって友達とはまた違う関係だ。

私を含めて四人でいることが多いけれど、まぁ、確かに四人揃って友達と言える人間は少ないか、ほぼ皆無と言ってもいいだろう。


だが、と私は本のページを捲ってから顔を上げる。

そこには相変わらず端正な顔。

顔がいいからって、何を言っても許されると思うなよ、と心の中で毒吐く。

だが、目の前の男もまた、誰かと親密につるんでいる様子を見たことがなかった。


「作間さんに、興味あるんだよね」


にこやかに真意の読み取れない言葉を吐き出す。

こういうタイプは話をしていて疲れる。

いや、正確にはこの手のタイプと腹の探り合いをするのが疲れるのだ。

腹の探り合いじゃなければ、もっと気軽に楽に淡々と話が進むことだろう。


読み掛けの本は相変わらず青春臭いシーンで止まっている。

男女が人気のない図書室に二人。

如何にも、な青春臭いところだが、私達の雰囲気はそんなに甘さがない。

むしろ苦味の方が強いだろう。


「……たまたま同じ学校に通っていて同じ学年で同じクラスってだけで私の何がそんなにも貴方の興味関心好奇心を揺さぶっているんですかね」


たっぷり三秒の間を空けてから、一息に言い切る。

彼の目に映る私は酷く冷め切った顔をしていて、ピクリとも表情筋が動かない。

そんな私を見て彼は、驚いたようにゆっくりとその双眼を見開く。

それから直ぐに口元には緩やかな笑み。


感情を見せない目で私を覗き込む。

緩やかな笑みを浮かべるその口から溢れる言葉は、適切に選び抜かれ切り取られたもの。

そして顔がいいから大抵の人間は、そのことに気付かないで絆されているのだろう。

実に不愉快極まりない。


「ねぇ、作間さん」


目と目がかち合う。

イケメンっていうのは目の保養になるけれど、目の保養以外で何かあるかと言われればない。

むしろなくていい。


「ねぇ」


「何」


「好きって言ったら怒る?」


パタンッ、と音を立てて本を閉じる。

厚めの表紙を撫でながら目の前の顔をジッと見つめた。

相手も私をジッと見つめている。


「先から言ってますけど私達ってただのクラスメイトで話したことも数えられる程なのでそんな冗談を言い合える仲じゃないですよね」


またしても一息で言えば彼は声を出して笑う。

普通ならここで、司書さんなり図書委員なり利用者なりが、視線をよこしたり注意をするところだろう。

利用者が二人しかいないせいで、完全に私達だけの空間になっている。


目を細めて肩を揺らしながら笑う姿に、肺に溜まった空気をゆっくりと吐き出していく。

ゆるゆると肩の力が抜けていくのを感じた。

カチコチと予鈴までのカウントダウンを始める掛け時計に、静かに視線を投げて椅子から下りる。


「作間さんのこと、もっと観察してていい?」


「だから友達いないんじゃないですか?」


「え、作間さんが言う?」


「貴方も人のこと言えないでしょ」


こういう時、幼馴染みが同じクラスじゃなかったことが悔やまれる。

友達いない組に彼と括られるのはゴメンだ。

友達は確かにいないけれど。


予鈴が鳴る。

彼があぁ、なんて呟きながら掛け時計を見た。

腹の底をお互いに図るような会話がやっと終わって、さっさと教室に帰ろうと考えがシフトチェンジする。


「貴方、だから友達いないんじゃないですか?」


「ははっ、言えてる」


でも作間さんもでしょ、なんて声に私は声を出さずに笑ってみせた。

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