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秋の夜長に短編夜話  作者: 三文士
1/4

鱗が鳴る

ある朝鱗が生えてきた。



突然のことだった。



いつものように起きて何気なくぼおっとした挙句、身体中のいたるところをポリポリとかいていた。



頭に背中にお腹のあたり。



そうして最後に左腕をかいた時、ふといつもと違う触感がある事に気がついた。



ガリッ



としたのである。



あれえ?こんな所にかさぶたあったっけ?



そんな事を考えたあと、その箇所にふと目をやった。



そうして驚いたのである。



鱗が、生えていた。



だいたい3センチくらいの幅で。



何枚かの鱗がビシッと生えていた。



詳しい事はよく解らないが多分、魚の鱗だろうと思った。



どうやらちゃんと私の身体から生えてきているものらしく、剥がそうとすると痛みが走る。



しかも結構痛い。



思ったよりしっかり生えているのだ。



参ったな、と思った。



会社の人に聞かれたらなんて説明しよう。



ただでさえ煩わしいヒトが多い職場なのに。



ヘアスタイルをちょっと変えただけで



「なに?フられた?新しい男できた?」



としつこく聞いてくる輩だらけなのに。



大げさに包帯かなにか巻いていった日には、きっと質問攻めにあう。



鱗が生えてるなんて解った日には。



考えるだに恐ろしい。



ま、しかしいくらなんでも鱗が生えたからって会社は休めない。



他に異常は無いわけだし。



幸い、夏も終わって随分と涼しくなってきた。



長袖を着ていけば流石に大丈夫だろう。



そう思って最初は特に何もせず放っておいた。



しかしいつだって、私という人間の考えは甘い。



三日ほど経って、少し大きくなっている事に気がついた。



大きくなっているというか、鱗の部分が増えている。



3センチ幅から5センチ幅くらいに。



これはさしもの私もヤバいと思った。



5センチともなると気になって仕方ない。



触ってみると、ゴツゴツとしていて硬い。



とりあえず週末に差し掛かっていたのでその日は会社に普段通り行って、月曜日に母の病院に付き添うからという嘘をつき休みをもらった。



急だったので理由に関わらず少し嫌な顔をされた。



とにかく気持ちの良い状態ではなかった。



服の生地に擦れると妙にソワソワして落ち着かなかった。



どうしてなんだろうと考えた時



「あ、そうか。魚は服なんて着ないもんな。」



と、一人で納得してしまった。



私はきっと、かなりの楽天家なんだろう。



そんな私でもかなり閉口したことがある。



夜、寝ていると突然に鳴るのだ。



ピシッ



ピシッ



ピシッ



という音が鳴るのだ。



最初は何の音かまるで解らなかった。



しかしよくよく耳を澄ませてみればどうやらそれは私の鱗から鳴っている音らしいのだ。



恐る恐るTシャツの袖を捲ってみると、思わず「うへえ」と声に出していた。



鱗が全て毛羽立っていてそれらがゆっくり前後に動いてぶつかり、その時に音が鳴っているのだ。



ピシッ



ピシッ



ピシッ



という音。



これには流石に参ってしまった。



鱗が毛羽立って鳴る。



想像しない方が良い。



月曜の朝一番で皮膚科に行って診てもらった。



先生は結構珍しがっていたが



「とりあえず検査するので皮膚細胞をとらせてもらいます。」



ということで鱗を一枚剥がされた。



メチャクチャ痛くて、久しぶりに泣いた。



痛みは暫く収まらなかったので、塗り薬の他に痛み止めももらった。



「一週間くらいしたら結果でますから」



ということだった。



しかし、あれからずっと鱗は成長していっている。



今では8センチくらいの幅になった。



部屋で寝転びながら



「検査の結果が出る頃には、私はきっと魚になっているんだ。」



とか考えていた。



そうなると心配だったのは一体私は、どのタイミングで肺呼吸からエラ呼吸に変わるのだろうということだった。



笑い事ではない。



生死に関わることなのだ。



そんな風に自問自答していたところ、スマホが鳴って我に返った。



母からの電話だった。



「あんた、最近全然連絡してこないけど大丈夫なの?」



母は暢気だなと思った。



私は生死の境目にいるというのに。



だが母を心配させてはいけないと思い、私は母にやんわり今まで育ててくれてありがとう的なお礼をいった。



「なにあんた急に気持ち悪いわね。そんな事よりちゃんと届いたの?和歌山のおじさんからいただいた魚。」



そうだった。



こんな事があったから連絡するのが遅くなってしまった。



一人暮らしを始めた私に何かと不足がちだろうと、和歌山に住む母の兄である叔父が鮮魚を送ってくれたのだ。



もうすでに2週間ほど経っていたが叔父に連絡するのを忘れていた。



「おじさんねえ、自分からは聞けないって言うからアタシが電話してんのよ。まったく。届いてたならちゃんと連絡してあげなさいよね。」



もちろん全部美味しくいただいたのだが。



そこでふと、気になる事があったので母に聞いてみた。



「ねえお母さん。青魚を食べすぎると、体に鱗生えたりしないよね?」



正直母の事だからゲラゲラと笑い飛ばされるのを覚悟で切り出したのだが。



「もしかしてアンタ、鱗が生えてきてんのかい?」



思いの外だった。



そこから今までの経緯を説明していたが母はただ「うんうんと」頷いて聞いているだけだった。



そうして全て話し終えた後に母はこう言った。



「そしたらお前、今からスーパーに行ってさんま、買っといで。」



「はい?」



耳を疑ったが確かにそう言った。



「さんまだよ。もうどこのスーパーにでもあるだろ。格別新鮮でなくったって良いんだから。早く買っておいで。」



「買っておいでったって、どうするのそれで?」



私の疑問はごく自然である。



しかし母は、呆れた口調で言う。



「バカだねこの子は。食べるに決まってんでしょ。」



とにかく母の言う通りにさんまを買ってきて焼いて食べた。



季節だからか、脂がのって美味しかった。



とりあえず食べ終えたので母に再度連絡したところ



「あそ、じゃあ明日も食べなさい。しばらくさんまを食べなさい。」



と言われた。



なんだか解らなかったがどちらかと言えば好物だったので5日ほど食べ続けた。



すると不思議なことがおきた。


6日目の朝、いつもの癖でぽりぽりと全身をかいているとついうっかりというか、左腕の鱗が生えてるあたりをかいてしまった。



すると



ポロッ



という音が聞こえそうなくらいに自然に鱗が一枚、剥がれ落ちていた。



「うへええ」



とまたまた声に出してしまうくらい驚いたが、続けてかいてみると続々と剥がれ落ちるではないか。



ついつい面白くなって思い切りガリガリやってみた。



気持ちが良いくらいに鱗は剥がれていきそしてついには一枚も残らなかった。



私はすぐさま母に電話してこの吉報を伝えた。



しかし朝ということで母はエラく不機嫌で、危うく電話を切られそうになった。



私はどうしても疑問が晴れず、なぜさんまを食えと言ったのか母にしつこく尋ねた。



母は寝ぼけながらようやく最後にこんな事を言った。



「なんでってアンタ、さんまは鱗が剥がれ易いからでしょ。」



なるほど。



変に納得してしまった。



それ以来、青魚はあまり食べていない。



しかし、さんまだけは別である。





初っ端から少々気味の悪い話でした。ちなみに作者は魚がとても嫌いで生はもちろん熱を入れた物も食べれません。特に青魚が嫌いです。

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