擬人の俺があたしがイケない恋で! ~ 芦尾一郎の残念な妄想
よく晴れた冬のある土曜日であった。芦尾一郎は幼い息子と手をつなぎ東京都内のとある駅前を歩いていた。何のことはない、電車大好きな息子が電車に乗りたいと言ったので連れてきただけの話だ。まあよくある休日の風景だ。
芦尾は割に子供は嫌いではなかった。目に入れても痛くない、というほど可愛がっているわけでもないが世間一般の父親として見れば平均を少し超える程度には面倒は見ていると自負はしている。休日に子供をほったらかしにしてゴルフに出かけるなどもせず、平日はほとんど家にまっすぐ帰る。
強いて言えば彼が趣味としてやっている某ネット小説投稿サイト内の友人の大半が10代から20代前半であり人によっては「あれ?」と思う向きもあろうが、その程度だ。最初難色を示していた妻も風俗やキャバクラにはまるよりは遥かに健全と考えたのか、今では黙認だ。
さて、そんな芦尾と息子の平穏な土曜日の風景は誰が見ても仲の良い親子であったろう。しかし息子を抱っこしながら歩く芦尾の頭はいささか残念と言わざるを得ない考え--いや、妄想に支配されていた。
"そうだな、やはり連想しやすいものがいいな"
何を?
BL--つまり、ボーイズラブ。男同士の恋愛。それも大概の場合、いわゆる性体験の描写に焦点が当たるそれだ。だが芦尾はノーマルであり普通のBLには全く興味が無い。彼が考えているのはもっと面白い笑えるBLだった。
"電車 x 線路、シャーペン x 芯の二つを擬人化にしよう。ケーキ x トッピングはBLよりはGL、ガールズラブの方が雰囲気出るよな"
なんということだろうか。恐ろしいことに彼は人同士ではなく物による性描写を試みていた。擬人化。物を人のように動かし喋らせることを指すが事もあろうにそれをBLやGLに応用しようというのだから始末に終えない。
「パパ、おやつ」
「ん、そうだな。じゃあドーナツ食べよう」
息子の言葉をきっかけに一軒のチェーン系ドーナツ店Mに入る芦尾。自分達の分だけでなくお土産用のドーナツも買うあたり抜け目がない。しかしこの時彼の頭の中では既にあってはならない光景が繰り広げられていたのであった。
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1 シャーペン x 芯
HB「よう、お前が俺の今日の相手? ふーん、なかなかいいペン先してんじゃん。楽しませてくれよな」
シャーペン「誰だ、君は? 僕は2B以外を受け入れたくない。君みたいな今まで見たこともない芯願い下げだ!」
HB「そうお堅いこと言うなよ? ご主人様、筆圧弱いから2B使ってきたけどようやく人並みになったからさ、一番ポピュラーな俺をお前の相手に選んだわけだ。あんなフニャフニャの2Bなんかより楽しませてやるよ」
シャーペン「や、やめてっ! そんな目一杯押し込まないで...ああっ!」
HB「おやおや、書き味抜群じゃないか。ほんとは俺が欲しかったんだろ? 無理すんなって。ほら、こんなに滑らかな書き心地だ。認めちまいなよ、俺の方がいい芯だってさ」
シャーペン「ごめん、2B......君を裏切った僕を許してくれ」
2 電車 x 線路
東北鉄道線路(以下線路)「いつもの君を走らせて俺はどこまでも伸びてゆくんだ、この大地を......って思ってたんだが。悪いけど、あんた誰?」
?「ふう、僕を知らないなんて困りものだね。君のいつもの相手の在来線の普通車両よりはよっぽど速く走れて人気もあるのに」
線路「知らない相手に名乗るくらいしたらどうだと言ってるんだ」
?「血の気が多いな、冷たい鋼のレールのくせに。僕はコマチ、秋田新幹線のコマチさ」
線路「な、なにっ! なぜだ、何故新幹線が普通の在来線のレールを走れる!?」
コマチ「ふっ、僕はね。普通の新幹線とは違うのさ。従来のレールを活用するためにノゾミのような新幹線よりも幅が狭く作られているんだ。だからほら、こうやって君の上を走ることもできる!」
線路「う、うわあっ! や、やめてくれ! 俺のレールは在来線のためだけに捧げられて伸びているのに、こんなっ......」
コマチ「そんなこと言っても体は正直だね? ほら、こんなに僕の振動に応えている。認めたらどうだい、のろのろ在来線より僕の方が何倍もいいって」
線路「そ、そんなこと......あっ!」
コマチ「ほら、無理は良くないよ。所詮一般車両と僕達新幹線は格が違うんだ。君が感じるのも無理は無いさ。ああほら行きそうだよ、このまま秋田まで!」
シーン3
ケーキのスポンジ x トッピング
スポンジ「ふう、くる日もくる日もあたしに乗せられるのは生クリームと苺ばかり。最初は気持ちよかったけど飽きてきちゃった......」
チョコレート「ふふ、ため息なんかついてどうしたんだい。私の可愛いスポンジケーキ」
スポンジ「あっ、チョコレートお姉様! じ、実は最近生クリームと苺の相手ばかりでその......体が気持ちよくなくって」
チョコレート「なるほど。しかし今はクリスマスシーズンだ。一番人気のシンプルな生クリームと苺のショートケーキタイプのクリスマスケーキに君がなるのは無理ないことだよ」
スポンジ「そうですよね。これくらい、我慢しないと」
チョコレート「ため息か。ふう、仕方ないな、クリスマスが終わったら私が君の相手になれるようパティシエに頼んであげるよ。君とは初めてということになるけど......いいよね」
スポンジ「え、いいんですかお姉様! ああ、お姉様の芳醇なカカオの香り、とろとろと流れる体を想像するだけであたし頭がどうにかなりそう......」
チョコレート「おいおいどうにかなりそうなのは君の砂糖と小麦粉の配合だろ。とにかくクリスマスが終わるまで待っていてくれ。必ず君を迎えにいくから」
スポンジ「ありがとう、お姉様!」
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「パパー、ドーナツおいしいねー」
「食べ過ぎたらお昼食べられなくなるからな、一個だけだぞ」
「うん!」
周囲の人間は誰も知らない。息子に優しく語りかける芦尾一郎の脳内に残念極まりない破廉恥な妄想がストックされていることを。
おしまい




