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星の挽歌  作者: 石井鶫子
【日々録、帝暦一〇〇年以前 1】
7/48

帝暦21年 1月5日

写影本文・対訳部分

下方へ注釈付。


写影:共和暦25年2月24日

訳:ミカ・エリン

【帝暦24年 1月5日】


 帝都。終日晴れ。来客無し。書簡なし。(*1)老爺への書。春意旧乾坤。


 二弟、帰宅す。三年半ぶりである。

「大哥、ご息災で何よりです」

 これに兄と呼ばれるのも久しぶりのことである。あまりに久方ぶりなのでつい顔を見てしまう。見ねば忘れてしまいますかと二弟は笑っておるが、彼の周辺に(かげ)りを見てしまい、多少動揺。──死、彼は来年の正月を迎えられぬ。


 見えてしまうものを今更仕方がないが、それにしても早い。これはまだ私を支えて欲しいと思っていたが残念である。

「忘れられない程度に戻って来ねばそうなる」そう言うと二弟は「帰りたいとは常々思っておるのですが」と笑う。これは少年時代から素直で直線的であった。


 新年は親族の顔合わせで大抵の者が屋敷に集まるが、今年いかなる事情であれ、これが戻ったことは結果的に喜ばしい。これの死を親族の誰も()てやることが出来ぬ。子供達も(なが)の別れとなる。存分にしてやろうと思う。妻の差配に安堵。


(*2)湘は残念でしたな、大哥。戻ってくることも出来ず、面目ない」

 それは既に終わったことである。疱疹で寝付いた時には既に星の光薄く、落ちると分かっていたから心支度(こころじたく)をする時間ならばあった。明姫は泣き(ぐる)っていたが、母親とはそういうものか。何故救ってくれぬのかと言われても困惑以外の感情を持たない。


(*3)の軌道は変えることは出来ぬ。変えてやれるものならば、とうにそうしておるわ」

 助けてやりたいと願ったところで無意味。先の陛下でさえ無駄であった。それにあの末期を見てしまった後で子に同じ苦しみを与えようなどと思う親がどこにいるのか。むごいこととしか思えぬ。


「それに淑人が多少感じるようだ。だから本を読むようには言った」

「大哥がそう結論したのであれば異存はない。明日にでも三弟に報告してやらねばな」二弟は頷いている。


 後嗣の問題は多少星に感応のあった芳湘の死後は誰も触れてこぬが、いずれ、決めなければならぬ。星をせねば家中に対して言い訳が難しい。思案。

*1 笙老爺

 笙は当時の漢氏の四名家の一つ。古語ではシャンと発音すると思われる。老爺は当主を指す呼称。


*2 芳湘

 史書に記録無し。手記主の嫡男かそれに近い男子と思われる。


*3 星

 運命論を意味するようだが詳細不明。

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