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星の挽歌  作者: 石井鶫子
【日々録、帝暦一〇〇年以前 3】
37/48

イダルガーン大公、書簡および日々録(1)

写影:共和暦25年2月24日

訳:ミカ・エリン

【帝暦なし 日付9月7日 宛名 イダルガーン殿】


 お前がこれを読んでいるとすれば俺が先に逝くのだろう。残念だが仕方がない。

 ことは終わっているからあとは安心してお前も後を追ってきたら良いが、もう少しゆっくりしていろ。俺があいつにお前の愚痴をたっぷり吹き込んでからのこのこやってきて、いつものようにたしなめられたらいい。


 あいつはまだ循環へゆかず、俺たちが来るのを待っているはずだ。

 離れていても言葉を交わさなくてもあいつの考えていることは昔からよく分かったし、今も分かる気がする。


 我々の生とは何であったのだろうと最近はよく考えている。お前は俺を王を決めるべき宿命の星だと言い、俺を必ず助け裏切らないと言った。

 だからあいつとのことを許せなかった。あいつのことを裏切るということは俺を裏切るということと同じだからだ。今も怒っているかというなら怒っている。


 けれどお前がいなくてはあいつはずっと早く生涯を終えていただろうし、実際にアウルーであいつを間一髪で救ってくれたことには本当に感謝している。 

 あの方を一息に射殺してくれたこと、刎首を一度は止めてくれたことも。


 我々は彼らの為の星だとお前は言った。俺はその意味は今でもよく分からない。運命や宿命は背負って生まれてくるものではなく、自らの手で積み上げていくものだと俺は信じているしその通りに生きてきたつもりだ。

 どうしても運命だと呼ばなければならないことがあるとすれば、俺もお前もあの方より先にあいつを知ったことかもしれないな。


 あいつは特別だった。それを今も思い出す度に、あいつのことを庇うために巨大な嘘を書かせようとしている自分にも苦笑になる。

 俺はあいつの全てを褒めてやりたいと思う。批難されたり欠点だといわれたりすることも、全て褒めてやりたい。

 自分を下げても人に優しく、自分の苦痛や苦役を必死で飲み込んで最期まで俺もお前も責めなかった。そうしても良かったことは、あいつ本人がよく知っていただろうに。


 そして我々はあいつの苦しみに目を瞑り耳を塞いで自分たちの将来を取った。その罪をきっと俺は歴史という長大な物語に還元する。

 俺の考えをお前が完全に理解しているとは思っていないが、星の話に関する限り俺も同じだからお互い様かもしれない。


 お前は特に説明が下手だ。その舌は災いの元でもあるが、説明を端折られるとどうにもならない。

 分からないから適当にかいつまんでよいと思っているなら間違いだ。お前はもう少し言って良いことと悪いことの区別をするべきで、それと説明を簡略することは全く違うことである。分かっているか?


 ガーンよ、お前を遺していくことをあれほどあいつは怖がっていた。俺も今、同じことを感じている。お前は本来誰かの傍にいてその下で鋭く研ぎ澄まされた剣や全てを射貫く弓であるべきで、決して自身が最後の階段をあがるべきではない。


 だから俺の死後は決して引退から戻ってはならない。俺が庇わなければお前は本当に殺されるところだったのだぞ。それをもう少々重大に受け止めるべきだ。背後の糸の集束巻を誰が持っていたのか、ということも。

 俺がいなくなった後を思うに、あいつがお前を最期まで案じていたように俺も不安である。他に何一つやり残したことはないが、お前に我慢を教えることだけは出来なかった。


 あ、それと対局は1の8だ。それで逆転で俺の勝ちだ。負けたのだからいうことを聞いておけ。


【署名 ケイ・ルーシェン】

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