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星の挽歌  作者: 石井鶫子
【日々録、帝暦一〇〇年以前 2】
31/48

イダルガーン大公、日々録、帝暦百年以前(4)

写影:共和暦25年2月24日

訳:ミカ・エリン


【帝暦40年 10月10日】


ミシュアル。晴れ。書簡全て淑人へ回すよう、再度言う。来客無し。


 陛下がラウール公を伴い帝都へご帰還になるため、御出立の見送りに出る。新年にはザクリアで大祓礼があるが、それは構わぬとの言葉を頂戴する。母の墓参もあるゆえ二年に一度は来よう、伯父(はくふ)もいつまでも息災でと仰る。まだうっすら覚えておられる漢語で、発音が若干胡語寄りではあるがお気遣いは素直に嬉しく思う。

 淑人も共にザクリアへ戻っていった。あれの姿形はよく(*1)弟に似てきたと思う。(*2)も懐かしそうにしている。そういえば泉は元々ミシュアルの馬家の女媽(女中)であってミシュアル解放戦の頃合いには馬梁桓の元にいたらしい。

 泉には淑人で良いのかと聞かれているが、淑人以外に星に感応する者がおらぬ。殆どは私から流しているとはいえ、受け取る側にも器は要る。今後帝都とミシュアルで遠く離れるため少々面倒ではあるが、とにかく星観をせねば伊の家門に関わる。致し方ない。

*1 三弟

 イ・ハイフォン侯爵。帝暦四年春に刺客に狙われた始祖帝を助け、自身は死亡した。元々はミシュアル公時代の始祖帝の秘書であったらしいが、その頃の功績については不明。


*2 泉

 ランチェン(梁泉)。イ・ハイフォンの愛妾であったが死後、一族の長老であったイダルガーン公の妻となる。公の二人目の正妻であった明碕の死後に三人目の正妻となる。イ・シューレンの母でもある。

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