巻の九十六 弥生救出(転) 救出と再びの絶望
巻の九十六 弥生救出(転) 救出と再びの絶望
「次はこの石をあそこに積んで」
「…くっ、いつまでこのようなことをさせるのだ」
雨降に向かって毒づく汐見。
「仕方ないでしょう、昼間は人目に付くから、夜しか仕掛けを作れないんだから」
汐見は直也の指示と言うことで雨降に従って、弥生救出のための下準備をする毎日であった。
しかし人目を避けて、更にその仕掛けも目立たぬよう、ということで、時間ばかり掛かり、なかなか完成しない。
汐見はそれに苛立っていた。更に言えば汐見は直也の指示であるから渋々雨降の言うことを聞いているが、本来ならば敵とも言える雨降の下に付くなどと言うことは到底承伏できない汐見なのである。
「あたしはまだ怪我が治りきっていないのさね。力仕事は頼むよ」
雨降はそんなことを言って、力のいる作業は全て汐見がこなしていた。
「あとどのくらいかかるのだ?」
汐見の問いに雨降は、
「大丈夫、直也さん達が戻る予定の十五日には絶対間に合うから」
「そう願いたいものだな」
そんなやりとりももう何度目か。繰り返しているうちにやがて夜明けとなる。
「今夜はここまでだね」
雨降がそう告げて作業は終わり。二人は麻布の家へと戻る。
汐見としては雨降がここ麻布に来ることも気に入らないのであるが、それを言っても始まらないので臍をかむ思いで我慢していた。
「さあてと、それじゃあ朝ご飯食べようかね。任せたよ」
「……」
雨降は炊事まで汐見任せであった。
「直也様…早く帰ってきて下さい…」
汐見の切なげな呟きは誰にも聞こえなかった。
* * *
「大丈夫か、未那」
「…うん」
今、直也達は越ヶ谷宿に辿り着いたところだ。いつか、心中未遂の二人に出会った橋を渡り、あの時と同じ宿に落ち着いた。
縮地を多用してきた未那の疲労が甚だしく、まだ日は高かったが、宿を取ることにしたのだ。
今日は二月の十三日、江戸へはあと六里とちょっと。なんとか十五日には間に合う見込みが付き、直也もほっとしている。
なのでゆったりと湯につかり、弥生に会える日を思っていた。
「直也さん、お背中流しましょうか」
「だめよ!直也様は弥生姉様のものなんだから!」
「わかってるわよぉ。ちょっと言ってみたかったの」
外で紅緒と蓮香が騒いでいる。そんな喧噪も今の直也には心を和ませてくれる。少し前までは弥生がいない、それだけで世界が闇に閉ざされたようだったのだが。直也はやはり自分は弥生がいてくれないと駄目だな、と内心苦笑していた。
* * *
「ああ、いい湯だ」
雨降が気持ちよさそうに呟く。
「けほっ、けほっ」
風呂焚きをしているのは汐見。顔が煤だらけだ。
「ちょうどいい湯加減だよ。もう焚かなくていいよ」
弥生がいた頃は、弥生が術で湯を沸かしていたからこんな煙い思いはしなかった…と汐見は内心愚痴をこぼしていた。
雨降にも出来るはずなのだが、力を節約するという口実で、全ての雑用は汐見がさせられている。
次は背中を流せと言われるだろうか、それなら言われる前に進んでやった方が気分的にましか、と考えた汐見は、
「背中流そうか?」
と言いながら風呂場をのぞき込んだ。ちょうど雨降はぬか袋で身体を擦っているところであった。
「せ、背中を流せなんて言ってないだろ!」
慌てる雨降。
「あんた、それ…」
「…いいから向こう行ってな!」
汐見を追い払う雨降、だが汐見は見てしまった。雨降の身体中に走る傷痕を…。
「…本当に、まだ傷が治っていなかったんだ」
ほんの少しだけ、雨降を見直した汐見であった。
「駄目駄目、石を置くのはそこじゃない! ああもう、不器用だね!」
「…直也様ぁ…」
雨降を見直したのを早くも後悔している汐見であった。
* * *
二月の十五日、直也達は江戸に帰り着いていた。今いる場所は谷中である。
「間に合ったか」
直也はほっとしている。
「ここが江戸ですか…」
茜は初めて見る江戸、何もかも珍しいようで、あちらこちらをきょろきょろと見回している。
「賑やかね、ちょっと北京を思い出すわ。町も人も違うのにね」
そう言ったのは蓮香。二人とも日本髪の町娘姿に化けている。
「そうか、蓮香は清国から来たんだったな」
直也が言うと、
「ええ、でも生まれたのは明朝の頃だけどね」
そんなやりとりの最中、紅緒は、
「直也様、あたいは先行して直也様のお帰りを皆に伝えてきます」
「うん、そうか、頼むよ」
そう直也が言うと、紅緒は人が見ていない陰に行くと一瞬で猫の姿になり、塀から屋根、屋根から屋根へと飛び移っていき、あっという間にその姿は見えなくなった。
「さすが猫又ね」
感心したように呟く蓮香。そして直也に、
「ここからあとどのくらいかかるの?」
直也はちょっと考えて、
「そうだな、ゆっくり歩いて半日ってところか。日のあるうちに麻布に着けるだろう」
蓮香は悪戯っぽく笑うと、
「そうは言っても気はせいているくせに、早く行きましょ」
そう言って直也の背をぽんと押した。苦笑して直也も歩き出す。さすがに人目のある昼日中、未那の縮地を使うわけにも行かない。黙々と歩いて行く。
谷中から上野、上野から秋葉ヶ原。そして昌平坂を上ってお茶の水。また少し下って水戸屋敷を右手に見、市ヶ谷、四谷御門。紀伊の国坂を下って赤坂御門前で右に折れ、しばらく行くと梅窓院が見えてくる。
ここまで休み無しで歩き続けてきた直也、さすがに疲れて、門前の茶店で一休みすることにした。
「ふう、あと少しで麻布だ」
お茶をすすりながら直也が呟く。ふと目を上げると、梅の花はもうあらかた散り、替わって桜のつぼみが膨らんでいた。
「あっ、直也様、こっちですー」
紅緒の声がした。そちらを向けば、汐見が一緒に来ている。
「お帰りなさいませ、直也様」
「ただいま、汐見。苦労かけたな、すまない」
そう言う直也に汐見は手を振って、
「とんでもないことです。私などより直也様の方がずっと御苦労なさったことでしょう」
そして蓮香、茜に向き直り、
「紅緒から伺いました。茜さん、蓮香さん、ですね。私は汐見、よろしくお願いします」
そう言うと直也達の荷物を手に取った。蓮香は感心したように、
「直也さんにはまだこんなお身内がいたのね」
茜はと言うと、荷物を持って貰って恐縮していた。
「あっ、そ、そんな、あたしの荷物なんて持っていただかなくてもっ」
汐見はにっこり笑い、
「私が直也様のお役に立てられるのは力くらいだから」
そう言って直也達の先頭に立って歩き出した。
小径を進み、浅い谷沿いに行く。小さな流れに沿った道を行き、回り込むと麻布である。
巫女装束に身を包んだ雨降が出迎えた。
「おかえり、直也さん。どうやら間に合ったようだね」
「ああ、ただいま、雨降」
簡単に挨拶を済ませた直也は懐から狐の宝珠を取り出し、
「これでいいか?」
雨降はそれを受け取り、白い輝きを眺めると満足そうに、
「うん、これなら十分だね。それに頼りになりそうな助っ人も一緒みたいだし」
そして一行は家に入り、旅装を解く。そして直也は、
「さっそくだが、やり方を説明してくれ」
と雨降に言った。雨降はにやりと笑って、
「もう待てないかい?…大丈夫だよ、全部こっちでやるから。あんた方は夜まで少しでも休んでおきな」
十五日の日が沈み、夜となった。空には雲が少しあるものの、満月が懸かり、地上を白く照らしている。
直也達は今、本所回向院の門前にいた。
「それじゃあ紅緒、頼む」
まず紅緒が塀を跳び越え、中から門を開けた。まず直也、続いて未那、汐見、雨降、茜、蓮香が境内に足を踏み入れる。
一月前の禍々しい気配は微塵もない。
「さて、さっそく始めるよ」
巫女姿の雨降はどこから取り出したのか、八足(八本脚の台)を置き、そこに御幣や榊や酒や塩等を並べていく。
一通り並べ終わると、雨降は直也以外の五人に指図し、五角形を描くよう所定の場所に立たせた。それぞれの手には榊を持たせている。
「これでよし、それじゃあ始めるよ。…直也さん、最後に言っておくけど、異界への門を開けるのは大変なことなんだ。長い時間開けておくことは出来ない。せいぜいゆっくり百数えるくらいの間だけだから、門が開いたらすぐに中に入って、出来るだけ早く弥生を捜し出して連れ出す事ね。さもないとあんたも異界に閉じ込められたままになるよ。そうなったら今度こそ助けることは出来ないからね」
「…わかった」
真剣な顔で直也は肯いた。それを見た雨降は懐から宝珠を取り出し、八足上の三方に置き、呪を唱え始めた。
「浄・法・界・乾・坤・閉・塞・震・離・屯・蒙・臨・観...」
そして御幣を一振り。
「乾元いに亨り、貞うに利あり、坤元いに亨る。
君子往くところ有り。安の貞いには吉。初六、童のごとく観る。
小人は咎なく、君子は吝。小狐ほとんど済らんとして其の尾を濡らす」
立ち上がって北斗の形に歩を踏む。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行」
ぱあん、と両手を高らかに打ち鳴らし、
「喪馬逐うなかれ。自ら復らん。之に益うもの莫し。或いは之を撃つ。
中行に独り復る、吉。遠からずして復る。悔にいたることなく、元いに吉。往くところ有るに利あり」
そして胸の前で印を組み、目を閉じて念ずることしばし。宝珠が白く輝き始めた。もう一つ月が出たかのようである。
「はあああああっ!」
そして一際高い声で雨降が叫ぶと、紅緒、未那、汐見、茜、蓮香ら五人の中心に黒い点が現れた。点は次第に大きさを増し、やがては一抱えもあるような黒い球となった。異界への扉である。それを見た直也は迷うことなく飛び込んだ。
「直也様…! ご無事で!」
五人は胸中に直也の無事を祈った。
雨降は目を閉じ印を組み、異界への「門」を開き続ける事に集中していた。その額からは脂汗が流れ、こめかみには血管が浮き出ている。
身体は小刻みに震え、その術が並大抵のものではない事がわかる。異界へ消えた直也はまだ戻らない。
宝珠の輝きは白から黄に変わっていた。その黄も徐々に赤みがかかってくる。込められた妖力が減っているのだ。
それに連れて異界への『門』も少しずつ小さくなっているようだ。
「直也様、はやく…!」
待つ者達は気が気ではない。弥生が見つからないのか、それとも何か予期しない事が起きたのか。
待つことしかできない身がもどかしい。五人はそれぞれに直也の身を案じていた。
雨降も限界に近いようで、顔色が紙のようになっている。宝珠も今では鈍い赤に輝くだけで、その光も刻一刻と暗くなっていく。
「まだなのか…はやく…な…お…や…」
「しっかり!」
くずおれかかる雨降を紅緒が支えた。そして駆け寄った茜、蓮香は妖力を雨降に注ぎ込む。『門』が小さくなるのが遅くなった。
更に二人が妖力を注ぎ込むと、『門』は少し大きくなる。持ち直したようだ。だが、茜、蓮香の力もそう続くものではない。
二人の顔に脂汗が浮かび、噛みしめた唇からは赤いものが一筋二筋流れ落ちている。
「直也様、早く…早く…!」
汐見が叫ぶ。
未那は意を決したように、止める間もあらばこそ、身を翻して異界への門の中へと飛び込んでいった。
「未那!」
残った者達は、一刻も早く未那が直也と弥生を連れて戻ってくるのを祈るばかりであった。
* * *
異界へと飛び込んだ直也は体勢を崩しかけたもののなんとか持ち直し、辺りを見渡した。
何もない灰色の世界。前に弥生と来た場所とそっくりである。違うのはーーー弥生がいないこと。
「弥生ー!!」
大声で呼んでみる。だが、谺すら返っては来ない。振り向けば、『門』が、まるで黒い満月のように宙に懸かっている。
時間はあまりない、が、近くに弥生が見つからない以上、探しに行かなくてはなるまい。直也はためらうことなく走り出した。 『門』を中心に、円を描くようにして走り回る直也、その円が次第に大きくなっていく。だが弥生は見つからない。
「くそっ! なんとかしないと!」
直也は走りながら必死に考えを巡らせる。直也自身の力だけで駄目なら、他の力を借りればいい。
直也の持っている物。大小刀。翠龍。天狗の秘薬。狼の眉毛。ミナモ。眉毛を取り出した直也は目の前にかざしてみる。
が、灰色の世界を見通すことは出来なかった。
翠龍を抜き、振り下ろしてみる。が、やはり灰色の世界に変化はない。
最後に直也はミナモを取り出してみる。伏見で授けられた悪しき術をはね返すというその小さな鏡は取り出すや否や、まばゆいばかりに光を放った。
「これは…?」
まるで満月を手にしているかのように明るい光を放つミナモ。直也は辺りを照らしてみて、一つのことに気がが付いた。
ある方向を照らすときはまぶしい程に明るく、その反対側を向けるとほとんど光を放たない。
「もしかして光の方に弥生がいるのか?」
一縷の望みをかけて直也はミナモの光が指し示す方角へと走る。もう時間がない、直也は全力で走った。
息が切れ、苦しい。が、直也はかまわず走り続けた。その直也の目の前、ミナモの光の中に浮かび上がる一つの影。
「弥生!!」
横たわる弥生の姿がそこにあった。駆け寄り、抱き起こす直也。気を失っているのか、弥生の身体はぐったりしている。
体も冷たい。が、今介抱している余裕はない。直也は弥生を抱きかかえると、来た方角へと踵を返した。
「弥生、弥生」
走りながら弥生の名を呼ぶ直也、だが弥生は反応しない。何があったのか、気はせくが何も出来ない。
出来ることは一刻も早く現世へ戻ること。だが全力で走り続けた後、弥生を抱えて更に走り続けている直也の脚は、最早先刻の勢いを無くしていた。
「くそっ!…急ぐんだ、さもないと…!」
気ばかり焦っても脚は鉛のように重くなり、息は上がり、心の臓は限界を訴えている。
それでも直也は気力を振り絞って走り続けた。
行く手に『門』が見える。まだ小指の爪ほどの大きさにしか見えないが、それでも出口に近づいている。
直也は悲鳴を上げる己の肉体に更に鞭をくれた。唇は紫色になり、目が霞んでくる。
「あと少し…」
頭の隅にそんな思いがよぎった瞬間、脚がもつれ、直也はつんのめってしまう。が、弥生を抱く腕は決して放さない。
おかげで両肘を強打してしまった。
「ぜえ、ぜえ…」
荒い息を吐いた直也は、『門』を見て絶望に駆られた。『門』が小さくなっていく。時が経ちすぎたのだ。
「く…っ…! やっと弥生を見つけ出したというのに…!」
必死で起き上がり、弥生を抱えて、よたよたと歩き出す直也、その目の前で『門』が閉じようとしている。
「くそ…っ!…動け…!…俺の脚…!…今弥生を助け出さないでどうするんだ…!」
諦めず、必死に『門』へと歩み寄る直也。その前に、未那が現れた。
「父さま!」
「未那か!?」
「迎えに来た」
未那は弥生を抱えた直也の後ろに回り、腰に抱きつくと「縮地」を使った。
一瞬で直也、弥生、未那は『門』を通って現世へと飛び出していた。そしてその背後で『門』は静かに消滅した。
「直也様!」
「直也さん!」
紅緒、汐見、茜、蓮香が安堵の表情をうかべて直也達を出迎えた。
そして雨降は直也の腕の中の弥生を見、
「やったわね、直也さん」
そう言うと、ゆっくりと倒れ、気を失った。
「…ああ、ありがとう、雨降、そしてみんな…」
それだけ言うと直也もがくりと膝を付く。あわてて駆け寄った汐見が弥生を受け取り、紅緒が直也を支えた。
雨降は疲労の極にあったのだろう、静かに横たえておく。弥生は汐見に頼むことにした。
直也は紅緒から水を汲んできて貰い、それをがぶ飲みする。柄杓に五杯、立て続けに飲み干した直也は深く息を吐き、
「…助ける事が出来たんだな…」
としみじみ呟いた。
そんな直也を茜、蓮香は羨ましげに見つめ、未那はそっと背中にもたれかかり、紅緒は何も言わずその掌で直也の手を包んだ。
そんな中。
「や、弥生様!?」
汐見が悲鳴を上げた。
「どうした、汐見!?」
直也が尋ねると、
「…弥生様が…息を…息をしていないんです」
「何だって!?」
駆け寄る直也。汐見はそっと弥生を直也に渡す。直也は弥生を抱きかかえ、
「弥生、弥生!」
呼んでみるが、弥生はぴくりとも動かない。顔に手をかざしてみると、汐見の言うとおり、息をしていないではないか。
「嘘だろ…?…弥生…」
更に弥生を揺さぶると、あろう事か、弥生の来ていた着物がゆっくりと崩れていき、塵になっていく。
それを見た茜が、自分の着ていた着物を脱いで弥生に掛けた。 その時、帯に挟まれていた鈴が落ちて微かな音を立てる。
直也はそれを拾い上げ、
「いったいこれは…どうしたっていうんだ」
「もしかしたら…」
それまで黙って考えていた蓮香が口を開いた。
「異界とこの世で時の流れが違っていたんじゃあないかしら?…こっちでは…一箇月?…だったのにむこうでは何十年も経っていた…仙界と人界、天界と人界なんかでは良くあることよ」
確かに、隠れ里とこの世でも、隠れ里の方が時の流れが遅い。
「離れた世界ほど時の流れが違うもの。天界の一日は下界の一年にあたるらしいわ。まして普段では決して交わらない異界、どのくらい差がある事やら」
着ている物が塵になってしまうほどの時間とはどのくらいであろう。五十年? 百年?…とにかくそれだけの長い間、水も食べ物も無い世界にいた弥生。これではいくら弥生でも…
諦めきれない直也は、弥生の胸に耳を当ててみる。だが、弥生の心の臓の音は聞こえなかった。頬をそっと撫でてみる。
冷たい。いつか、弥生を背負ったときに感じた温もりはもう感じられなかった。
「や…よ…い…」
大粒の涙をこぼす直也、だがいつまでもそうしているわけにも行かない。
「直也様、弥生様を…家へお連れしましょう」
汐見がそう直也に声を掛けると直也は顔を上げ、小さく頷き、弥生を抱いて立ち上がった。
雨降はまだ気を失っていたので汐見が背負う。
そうして未那が縮地を使い、麻布の家まで移動したのであった。
「未那、大丈夫?」
未那の疲労を心配する紅緒。だが未那は顔色を悪くしながらも気丈に、
「だいじょうぶ」
と答えた後、静かに倒れ込み、気を失った。紅緒はそんな未那をそっと抱き上げ、
「ご苦労様」
そう言って家の中へ連れて行くのであった。汐見も雨降を布団に休ませる。
茜、蓮香も限界近くまで妖力を使ったので倒れる寸前であった。紅緒と汐見はそんな彼女達にも布団を敷いてやり、休ませた。
20150209 修正
(誤)縮地を多用してきた未那の披露が甚だしく
(正)縮地を多用してきた未那の疲労が甚だしく




