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巻の六十五   盛岡騒動(前)

巻の六十五   盛岡騒動(前)


 直也と弥生は千草と共に脇街道を歩いていた。とりあえず盛岡を目指している。

 盛岡は南部氏の城下町で石高は十万石。当時の水稲北限地域であったため、冷害が多く、飢饉も頻発していた。

 とはいうものの、南部鉄器、砂金、紫紺、良馬などが産物であり、蝦夷地との交易拠点もあったといわれる。

 だが遠野からその盛岡までは千草の足には遠すぎたようだ。

「直也様、もう歩けませんわ…」

 千草が泣き声を上げる。旅慣れた直也と弥生には何でもない距離が、千草には無理があったようだ。

 二人だけなら一日に十五里(約60キロ)は歩けるが、千草と一緒の今、昨日は六里(約24キロ)しか歩けなかった。

 それでも千草には負担だったとみえ、今日は五里(約20キロ)ほど歩いたところで音を上げてしまったというわけである。

 盛岡まではまだ五里はあり、いくら日の長い季節とはいえ、このままでは野宿の可能性もある。前夜はたまたま見つけた百姓家に泊めてもらったのだが、今日も泊まるところがうまく見つかるとは限らない。

「仕方ないな、ほら、負ぶさりなよ」

 直也はそういって千草に背を差し出した。寸の間ためらった千草だったが、素直にその言葉に従い、直也の背にしがみつく。

 それを見た弥生は、沼田で背負ってもらった直也の背の温もりを思い出していた。

「…直也様、重くありません?」

 頬をうっすらと染めて千草が訪ねる。それに答えて直也は、

「大丈夫大丈夫。千草さんは重くなんかないよ」

 確かに千草は小柄で重くはないであろうが、それでも背負って歩き続けるのは辛い。流石の直也も、北国とはいえ夏の日に照らされて大量の汗をかき、ばててしまった。

 仕方なく木陰で休む一行。

「直也様、わたくしのために申し訳ありません」

 千草が頭を下げる。だが直也は、

「気にしなくていいよ、千草さん。ちょっと休めば大丈夫だから」

 弥生はそんな直也に無理をするなと言いたかったのだが黙っていた。

 直也が進んでやっていること、それにいちいち口出ししていては直也のためにならないと思ったからだ。

 とはいうものの、このまま直也に千草を背負わせて盛岡までたどり着くのは無理であろう。

 どうするべきか、考えていた弥生であったが、救いは意外な形でやってきた。

「どうなさったのですか?」

 馬を引いた商人と馬方が通りかかり、声をかけてくれたのである。わけを話すと、

「そうですか、私も盛岡に帰るところです。よかったらお乗りなさいまし」

 親切にもそう言ってくれた。だが、馬にも大量の荷が乗せてある。それを指摘したところ、

「何、全部乾物ですから、見た目ほど重くありません」

 そう言って馬方に命じて荷をずらし、千草を乗せる場所を空けてくれた。

 直也が手伝って千草を馬に乗せ、一行は歩き始めた。

「俺は上田直也、…馬に乗っているのが従妹の千草で、こっちは許嫁の弥生です」

 咄嗟に千草を従妹と紹介する。弥生は相変わらず許嫁呼ばわりされ渋い顔だ。

「これは申し遅れました。私は盛岡で乾物問屋を営んでおります武蔵屋政右衛門むさしやせいえもんと申します」

「武蔵屋さん、江戸の方ですか?」

 直也がそう訪ねると、

「はは、訛りがないのでおわかりになりますか。出身は川越ですので」

 そう答えた武蔵屋は歳は四十を過ぎた頃、中肉中背で商人らしい柔和な顔つきをしている。

 馬方は寡黙な男で、黙々と馬を引いていた。一方千草は馬の上から見る景色が新鮮だと見え、さかんに嬌声を上げていた。

「そうですか、全国を回ってらっしゃる、それではいろいろなものを見てこられたのでしょうなあ」

 政右衛門せいえもんは直也と話をしながら歩いていく。直也も政右衛門の人柄が気に入ったようで、いろいろと南部のことを尋ねている。

 そうして盛岡も近づいてきたと思われる頃、いきなり行く手に七、八人の男たちが立ち塞がった。手には得物を持っており、襲う気が見て取れる。

「おう、ここを通るなら通行税を置いていってもらおうか」

 そう言った男は浪人風で、訛りがないところを見ると流れ者だろう。

 政右衛門は及び腰であるが、直也は一歩前に出てそれに答えようとした。その時、

「何を言ってるんです、ここは公の道、あなたたちに税を払ういわれはありませんわ」

 そう叫んだのは馬上の千草であった。

「お?…へへへ、めんこい姉ちゃんでねえか。おらたつが可愛がってやんべ、こっちさこ」

 そう言って賊の一人が千草を引きずりおろそうとした。それを押しとどめて、

「いい加減にしろ。痛い目に遭わないうちにさっさと消えるんだな」

 直也が立ちはだかる。男たちはせせら笑って、

「武蔵屋、用心棒を雇ったのか?…こんな若造に何が出来る。おい若造、いくら貰ったか知らんが、怪我しないうちに引っ込んだ方が身のためだぞ」

 そう言って刀の柄に手をかけた。直也は平然とそれを聞き流し、

「武蔵屋さんと知っての待ち伏せか。誰に頼まれた?」

 そう言ったので男たちは少なからず慌てる。

「う、うるせえ!…おまえら、やっちまえ!」

 慌てた浪人は手下に声をかける。手下どもも手にした匕首あいくちや刀を抜いた。それを見た直也は、

「無駄なことはよせ」

 そう言って大刀を抜き、下段に構える。一見隙だらけのその構えに、浪人は完全に直也を舐めてかかった。

 直也めがけて白刃がひらめく。それを紙一重でかわし、直也は下から切り上げた。

 金属音がし、浪人の刀が折れ飛ぶ。龍神直伝の「太刀薙ぎ」である。直也もすっかりその技を身に付けたようだ。

「こ、こいつ…」

 さらに直也は男たちの間に踏み込み、驚いて立ちすくんだ隙に次々に刀を折り飛ばしていった。

「げ…」

「引け!」

 直也が尋常ならぬ使い手であると悟った浪人は手下共々逃げ去っていった。

 笑って直也は刀を納める。道に散らばった折れた刀は危ないので端に寄せておく。妙に律儀な直也であった。

「上田様、ありがとうございました…」

 政右衛門が礼を言う。

「いえ、これくらいのこと。連れを助けて貰ったお礼にもなりゃしません」

 直也は笑ってそれを受け流すが政右衛門は、

「このままでは私の気が済みません。どうか今宵は我が家へお泊まりください。いえ、今夜だけでなく、盛岡に滞在中は何日でもお泊まりください」

 そう言ってくれた。もう日は暮れかかり、直也と弥生は目でうなずき合うと、その申し出をありがたく受けることにしたのだった。

「しかし上田様、お強くてらっしゃいますね」

 政右衛門が感心したように言う。

「いえ、まだまだですよ。あいつらが弱すぎただけです」

 そう謙遜する直也に、

「いえ、剣の達人というのは平凡に見えるものです。心身の力の偏りを人に見せないのが達人です。その平凡が非凡に変わったとき、相手は真の姿を知るのです。先ほどの浪人者は、上田様の真の姿を見て恐怖したではありませんか」

「はは、武蔵屋さんはおだて上手ですね、おだてても何も出ませんよ」

 そう言って笑う直也であった。


 日暮れ前に一行は盛岡に着いた。武蔵屋は街道沿いにあり、こぢんまりした店ではあるが活気に溢れている。

 帰り着くなり政右衛門は直也一行を店の者全部を集めて紹介した。

「およね、佐吉、竹どん、ちょっとおいで」

 店の者と言っても、政右衛門の女房およね、番頭の佐吉、小僧の竹どんの三人だけであるが。

「…そういうわけで、上田様はわしの大事なお客様だ、皆粗相のないように」

 皆一斉にお辞儀する。かえって恐縮してしまう直也であった。

 直也達は奥に通された。しつらえは簡素だが清潔な部屋だ。そこへ政右衛門がよねを連れて挨拶にやってきた。

「上田様、あらためまして御礼申し上げます。…これは女房のよねです」

 よねは歳の頃三十そこそこ、色白ですっきりした姿の美人である。

 だが冷たい感じはなく、人当たりは良いし、働き者のようだ。

「よねと申します、主人が危ないところを助けていただきましたそうで、私からも御礼申し上げます。どうぞ何日でもお泊まりください」

 そう言って深々と頭を下げた。

「よね、こちらは上田様の従妹の千草様、こちらが許嫁の弥生様だ」

 もう一度頭を下げるおよね。それを制して、

「いえ、こちらも千草が歩けなくなったところ、馬に乗せて頂けて助かったのですから、相身互いですよ」

 そう言う直也に政右衛門は、

「どうかごゆっくりなさってください、お風呂も沸かしてあります」

 そう言っておよねと共に下がっていった。変わって小僧がお茶を持ってやってくる。風呂も沸いているというのでまず直也が入りに行った。

 

 残った弥生と千草。

「弥生様、直也様とご婚約なさったのですね、おめでとうございます」

 そう言う千草に弥生は慌てて、

「い、いや、そうではない。あれは方便でな、直也と儂の関係を勘ぐられたくないことと、以前儂を嫁に貰いたいなどと言うたわけたことを言われたことがあったのでな、その対策なんじゃ」

 千草はきょとんとした顔で、

「でも直也様は本気みたいでしたよ?」

「直也めは思い違いをしているだけじゃ。儂は人間ではない、直也の妻になぞなれぬ」

「そんなことはありませんでしょう?弥生様ほどの霊狐でしたら人の姿で居続けることなぞ何ほどのことでもないでしょうし、直也様だって弥生様が狐であることはご承知のはず、何も問題はないではありませんか」

「大ありじゃ、直也にはちゃんとした人間の嫁を見つけてやらねばならぬ」

「誰がそう決めたのです?」

「誰が…?…誰って…儂がそう決めたのじゃ」

 千草は笑いながら、

「弥生様が一人でお決めになったのなら、弥生様自身が撤回なさればいいだけのこと。なにゆえ直也様を拒み続けるのです?」

 弥生は苦々しく顔をゆがめて、

「実はそのことで山ン本殿に相談したかったのじゃ」

「祖父にですの?」

「ああ。…それで遠野で探したのじゃがな、遊行に出てしまわれた後じゃった」

「そうでしたか。でも、祖父も同じことを言うと思いますよ?」

 千草は少し考えた後で、

「弥生様が拒んでらっしゃるのはまだ他にも理由がございますのでしょう?」

 と尋ねた。弥生は寸の間ためらった後、

「…そうじゃ。お幾つかは存ぜぬが千草殿も人ならぬ身、思うところをお話いたそう」

「承ります」

 昼間、足が痛くて歩けないと言った千草とは別人のような雰囲気である。さすがは妖怪達の元締め、山ン本五郎左衛門の孫娘といったところか。

「…それでは」

 ゆっくりと弥生は語り出した。


「…儂はかつて、大勢の男をたぶらかした。

 大納言師道だいなごんもろみち卿、関白忠通かんぱくただみち卿、あろう事か、高徳の隆秀りゅうしゅう阿闍梨あじゃりまで。

 名も伝わらないような下級貴族の男どもは数知れず、そして鳥羽上皇...儂は穢れておる」

 しかし千草は首を振って、

「それは前世のことでございましょう。弥生様は文字通り生まれ変わり、今や霊狐となられたではありませんか。それはとりもなおさず罪が消えたと言うこと」

 だが弥生は、

「儂が霊狐になれたのは、かつての同僚、千枝丸ちえまるの宝珠を受け入れたからじゃ。そうでなければ霊狐になぞなれるものか」

「弥生様…」

 千草は、弥生の自虐が根の深いものであることを今更ながら知った。

「直也は純粋じゃ。それは儂が良く知っておる。そんな直也じゃからこそ、幸せになって貰いたい。人の、良くできた娘を娶せてやりたいのじゃ」

「……」

 千草はため息をつくと、

「弥生様、例えばわたくしが直也様に嫁ぎたいと申しましたらどうなさいます?」

 弥生は即座に、

「お断りいたす。千草殿がよい女子であることは存じ上げておる。じゃがやはり…人の女子が直也にはふさわしい」

 千草は笑って、

「嫁ぎたいというのは冗談ですからご心配なく。それよりも、弥生様、あなたはやっぱり直也様がお好きなのですよ」

「何じゃと…?」

「わたくしから言えることは、弥生様はいまだにマーラの影に取り憑かれています。その影を振り切るには、マーラを討ち果たすことです」

「マーラを?…儂が…マーラの影に?…」

「マーラを完全に消滅させることで、きっと弥生様の心も晴れることでしょう」

 弥生はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと、

「…それでも儂は直也に愛される資格があるとは思わぬが、やってみる。マーラを滅ぼしてみよう」

「そうです。弥生様ならお出来になるはずです」


 そんな話をしていると、直也が風呂から上がってきた。

「ああ、いいお湯だった。弥生、千草さん、旅の埃を落とさせて貰うといいよ」

「うむ、そうさせてもらうか」

 それまでの話の内容を微塵も感じさせないような態度で弥生が答える。千草も立ち上がり、二人は風呂を使いに出て行った。

 

 その後、夕食が運ばれてきた。給仕にはおよねが付いてくれる。そのかたわら、いろいろな話を聞かせてくれた。

 みちのくの昔話、南部藩のこと、店で扱っている乾物...とりとめないようであるが、千草は興味深く聞いている。

 直也もいろいろと得るものがあった。

 食後、お茶を飲みながら直也はおよねに尋ねた。

「おかみさんも江戸かその近くのご出身ですか?」

 およねはほんの一瞬顔を強ばらせたように見えたが、すぐに笑って、

「ええ、わたくしは浅草の出身です。…訛りがないのでおわかりになったのですね?」

「そうです。…正直、南部の訛りはわかりづらくて」

「ほほ、慣れれば大丈夫ですわ。上田様も江戸方面ですか?」

「まあそうです」

 まさか隠れ里、とは言えないので言葉を濁す直也。そこへ小僧がやってきた。

「おかみさん、旦那様がお呼びです」

 それで話はそこまでとなり、およねは膳の片づけを小僧に頼むと、帳場の方へと足早に出て行った。

 疲れていた直也は、敷いてくれてあった布団に横になる。千草も同様に床についた。弥生は行灯の火を細くすると、

「少し見回ってくる」

 そう言って窓から外へと出て行った。

 直也と二人になった千草は、

「直也様、お休みになりまして?」

 そう直也に尋ねる。

「いや、まだだけど」

「少しお話をさせていただいてもよろしゅうございますか?」

 そう尋ねてきた。直也はかまわないよ、と答える。

「それでは。……わたくしに好いた殿方がいるとします」

「え、千草さんに?」

 驚いて声を上げた直也に向かって千草は、

「たとえ話ですわ。最後までお聞きくださいまし」

 それで直也は話の腰を折ったのを詫び、続きを促した。

「わたくしはもう数百年生きており、その間に幾人もの殿方を好きになりました」

「……」

「その時その時で、わたくしは心底お慕いし、真心を捧げたつもりでおります。でも人とわたくしとは寿命が違います。わたくしは老いなくとも人は老いまする、いつかは別れがやってきます。それでも殿方を好きになることは止められません」

 千草はそこで一息ついて、

「直也様、殿方はこんなわたくしをどう思われるでしょうか?…好いた殿方には隠し事はしたくありません。でも、本当のことを話したら嫌われるのではないかと心配なのです。一人の殿方に操を立てきれないわたくし、直也様だったら軽蔑されますか?」

「…………」

 直也はしばらく考えていたが、

「他の男はどう思うかなんて、正直わからない。だから俺の個人的な意見だけど」

 そう前置きして、

「誰かを好きになるっていうことは、顔とか、体とか、そんな一部分を好きになるんじゃない。

 全部…そう、過去もすべてひっくるめたそのひとを好きになるんだ、俺はそう思う。どんな過去があるかは問題じゃない。

 その過去があったからこそ今のそのひとがあるんだ。大事なのは今だ。…と思う。

 俺が千草さんを好きになったとしたら千草さんの過去にはこだわらない…こんなので参考になるだろうか?」

 途中から少しむきになったことを照れるように、最後は小声になる直也。そんな直也に千草は、

「ありがとうございます。…直也様はお強い方ですね。直也様に愛されるお方がうらやましいです」

 そう言って、布団の上に起きあがり、

「益体もない例え話に、真剣にお答えいただきましてありがとうございました」

 そう言って頭を下げる千草であった。

 

 一方、弥生はというと、実のところ千草との話の後、どうにも落ち着かず、頭を冷やそうと外に出たのである。

 瓦一枚動かすことなく屋根から屋根へと飛び移り、盛岡の町をあてどなく巡っていく。

 ふと、その動きが止まった。昼間、政右衛門をおそった浪人の臭いがしたのだ。そこは大きな町屋。商人の家のようだ。

「何やら悪だくみの気配がするのう…オン…」

 弥生は隠形おんぎょうの法で姿を消すと、中庭に降り立った。かさりとも音を立てないのは流石と言えよう。

 そのまま声のする方へそっと近づく。話の内容が聞こえてきた。

「…だから、政右衛門のやつは用心棒を雇ったんですよ。若造だが恐ろしい腕の奴で」

「ふむ。…ならば手を変える必要があるか。わかった、おまえにはもう用はない。これを持ってどこかへ行け」

 ちゃりん、と音がしたのは、小判を何枚か投げ与えた音だろう。

「これだけですかい?せめてあと五両…」

「馬鹿を言うな、失敗したくせに。さっさと消えろ!」

 ふすまが開いて、昼間の浪人が出てきた。憤懣やるかたないといった顔をしている。もちろんすぐそばにいる弥生には気が付いていない。

「畜生目、おぼえてろ…」

 そんなつぶやきを漏らし、浪人は夜の闇に消えた。弥生は後を追おうかと思ったが、こちらの方が気になるのでそのままにしておく。

 部屋の中にもう一人別の人間の気配があったからだ。

「丸屋、失敗したようじゃの」

 奥の襖が開いて、侍が姿を現した。

「これはお奉行様、お聞きになられましたか、申し訳ございません」

「よい。こちらにはまだ手があるからのう。…しかし用心棒とはな。武蔵屋め、よくもそんな金があったものだ」

「しかしお奉行様もお好きですな。あんな小商人こあきんどの女房にご執心とは」

「ふふ、そう言うな。江戸詰だったときにわしが見初めて女にしてやったのだ。まさかこの盛岡でまた会えるとは思ってもいなかったがな」

「それでは次の手はどういたしましょう?」

「そうよな、耳を貸せ」

「………」

 弥生の耳はそんな小声まで聞き取った。

「…奉行ともあろう者がなんたる不埒な…ここはひとつ懲らしめて…いや、それでは政右衛門殿が…ここは出方を見るとするか」

 そうひとりごちてそっとその場を離れ、武蔵屋に戻ったのだった。

 弥生と千草のガールズトーク(笑

 少しずつ直也と弥生の意識が近づいてはいるようです。

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